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だいきぼ★ウチュウ  作者: こなるちゃん
第一部 世界がバグった日
19/60

主人公の格好

「うーわ……いや、できとる。できとるけど……」


鏡の前で、うちは口をへの字に曲げる。


上はくすんだ(だいだい)

下は黒。


何かもう、“安全です”だけで生まれてきたみたいな顔しとる。


「あるわ、問題! 何かめっちゃ無難やもん! 未来の大魔法使いの一着がこれでええわけあるか! ふんっ」


そこで、うちは眉をひそめたまま後ろへ顎をしゃくる。


「……もうええ。見てええわ」


一拍おいて、マイルズが静かに振り返る。金の輪のついたしっぽが一度だけ揺れて、それからようやく、いつもの正面の声が戻った。


「機能が先に立ったのかと」


「うっさいわ、毛玉」


せやけど、それでええわけないやろ。


これ、勝った服ちゃう。

とりあえず死なんための顔しとるだけや。


うちは鏡の前へ寄る。


石壁。

金。

薔薇(ばら)

変な仕組みだらけの城。

扉はアホほど厳重。

毛玉は浮いとる。

魔法はある。


ここまで来て、うちだけ

“地味でも安心”

みたいな顔で終わるん、普通に負けやろ。


「主人公には、ちゃんと主人公の格好があるやろが!!」


肩の流れを、もう一回拾う。


さっきまで逃げてた感触が、今度は妙に素直やった。


「……へへ。もうコツ見えた。次、見とけよ」


今度は最初から、守るためやのうて、見せるための線で引く。


赤が肩口へ噛む。

黒が手首と太腿(ふともも)のところで締まる。

茶色が腰から斜めに落ちて、足元で重う止まる。その境目を、金具のついたベルトがひとつ腰で噛んだ。


さっきまで別々やった線が、途中で一回だけぴたりと噛み合った。


「……おっ」


長すぎん袖は肘の下で止まる。

黒は肌の見えるとこだけ締めて、だらしなさを消す。

茶は腰のベルトひとつで締まり、脚へ落ちるだけで、全体の線が急に立つ。


赤、黒、茶。ワインみたいな髪の赤とも、妙に喧嘩せえへん。


もう“着れたらええ服”やない。

ちゃんと雰囲気がある。

ちゃんと格好ええ。


しかも――


うちが決めた服や。


鏡の奥で、目ぇの紫まで妙に冴えて見えた。


「……これや」


口元が勝手にゆるむ。


「ようやく話通じたやん、魔法」


マイルズが一礼する。


「先ほどのものより、よほど(かみ)いお嬢様らしゅうございます」


「最初からこれ寄こせや」


そこで、ふと横を見る。


()むうのほうは、もう別の静けさに入っとった。


白があいつの身体へ、最初からそこへ戻る予定やったみたいに落ちとる。上からやわらかい茶色が肩へ静かに掛かって、首元だけ小さく留まる。腰には灰がかった細身のベルトがひとつ。余計な主張はないのに、全部そこへ収まる場所だけ知っとるみたいに見えた。


しかも、いつの間にか細い(ふち)の眼鏡まで乗っとる。


「……何で眼鏡まで出来とんねん」


気むうがこっちを見る。


「何」


「いや……」


詰まる。


……何か、あいつすぎた。

似合っとる、とかやない。

最初からこうやったもんを、今思い出しただけみたいな顔しとる。


「……何でお前だけ、もう仕上がっとんねん」


気むうは小さくうなずいた。


「……ん」


それだけやった。


でも、充分やった。


「……まあ、お前がええならええけど」


うちは自分の赤を見る。

それから、あいつの白を見る。


全然ちゃう。

せやのに、並べたら喧嘩してへん。


「ていうか、普通にめっちゃキマっとるやん」


思わず笑う。


「並んだら急に、もう何か始める側やん」


気むうが眉をひそめる。


「神いが言うと、急に胡散臭い」


「ひどっ」


マイルズのしっぽが、ぱち、ぱち、と二回だけ鳴る。


「初回としては充分でございます。もう次へ進めます」


「よっしゃ」


うちはその場で拳を握る。


「行こ行こ、次ぃ〜。もうそろそろ、ちゃんとおもろいやつ教えてくれるんやろ?」


「いけません」


即答やった。


「えっ」


「次は護身用の術式(じゅつしき)でございます」


「護身でも、おもろくはできるやろ!!」


「ええわけがございません」


「護身でドカンやったら、だいたい解決するやん!」


マイルズの声が、さっきより半拍だけ乾く。


「神いお嬢様。それは護身ではなく、かなり危険でございます」


「えぇ〜、でも護身には入るやろ〜!」


「違います」


ぴしゃりと切られた。


うちは不満のまま口を尖らせる。

せやけど、鏡の中の自分を見ると、口角だけまた勝手に上がった。


魔法、出た。

服もできた。

しかも、もう“とりあえずの服”やない。


「……まあええわ」


うちは鏡から目を離さんまま、にやっとする。


「今日はその、護身とかいう地味なんで我慢したるわ」


「助かります」


「でも最終目標は爆発やからな」


「その目標だけは、すでに危険域でございます」


「知るか。いつかやるわ」


マイルズの毛玉胴が、ほんの少しだけ沈んだ。


「……その確信だけは、たいへんお強いようで」


鏡の中の赤は、護身なんかで終わる顔してへんかった。

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