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だいきぼ★ウチュウ  作者: こなるちゃん
第一部 世界がバグった日
18/60

脱げ言うな

「……は?」


うちと()むうの目が、ほぼ同時にマイルズへ刺さった。


マイルズはいつもの整いきった声のまま、何でもない手順みたいに続ける。


「お衣装をお作りするには、お身体全体の流れを使います。肩、背中、腕。何かお召しのままでは扱いづらうございます。必要でしたら、下着はそのままで結構です」


「…………え?」


聞き返したんやない。


頭ん中で何かがひっくり返って、そのまま床へ落ちた。しかも着地だけ派手に失敗した音がした。


「……今、何て?」


「寝間着を――」


「ふざけてんのかお前ぇぇぇ!!」


気づいたら、うちは両手でマイルズの毛玉胴を掴んどった。


「お離しください、苦しゅうございます」


「苦しゅうございますやあらへんわ!! 何でそんな事務連絡みたいな顔で“脱げ”が出てくんねん!! 変態毛玉かお前は!!」


「変態ではなく、必要手順でございます」


「必要やったら何でも通る思うなや!!」


ほんま何やねん。


こっちはさっきまで、

「うわ、ついに魔法や! やっと魔法や!」

ってなっとったんやぞ。


それが何や。

いざ来た思たら、

「ほなまず半裸になってください」

やて。


誰が喜ぶねん、こんな導入。


「お離しください、(かみ)いお嬢様。服が乱れます」


「知るか!! こっちの心のほうが先に乱れとるわ!!」


その時や。


「……それで進めるの」


気むうが小さく言うた。


うちもマイルズも、そっちを見る。


「はい。先へ進めます」


それだけで、気むうはもう寝間着の裾へ指をかけとった。


……くそ。

そういう時だけ、黙って先いくなや。


「……わかったわ」


うちはようやく毛玉を放す。


「やる。やるけどな、ちょっとでもこっち見たら、お前の毛ぇ一粒ずつ分けて別の生き物にしたるからな」


「承知いたしました。以後は流れのみで把握いたします」


そう言うと、マイルズは毛玉胴をくるりと反転させた。ふわふわの背中がこっちへ向く。しっぽだけが、位置を探るみたいに静かに揺れた。


「あと、これ、ちゃんと屈辱やからな。手順です、で流すな」


「承知いたしました」


「二回言うな、腹立つ」


くるっと背を向けて、寝間着を頭から引っこ抜く。布が足元へするりと落ちた。


下着だけになった途端、肩から先へ空気がべたっと寄ってくる。別に大して出てへんのに、急に丸腰や。嫌や。めちゃくちゃ嫌や。


横では、気むうがもう静かに寝間着を畳んで脇へ寄せとる。


何やその静けさ。

こっちは脱ぐだけで心拍数が非常ベルやぞ。


背を向けたままのマイルズが、淡々と告げる。


「では、始めます」


その声で、意識を無理やり引き戻される。


「肩口から肘、肘から手首、手首から指先まで。切れ目なく輪としてお感じください。押さず、追わず、散らさず」


「はいはい。輪やろ。今のうち、輪どころか人の形保つので精一杯やけど、やったるわ」


「どうぞ」


よし。

もうええ。

ここまで来たら意地や。


服つくる。

魔法やる。

下着のまま終わるとか、それだけは死んでも嫌や。


肩の外側で、何かがぬるっと触れた。


風やない。

熱でもない。

せやのに、肌のすぐ外だけ密度が違う。薄い何かが肩口へ寄ってきて、腕の外を這う。手首でほどけて、指先まで行った思たら、また戻る。


「……おる」


指先の時とは比べもんにならへん。広い。

広いし、落ち着かん。肩におるくせに肩だけのもんちゃう。よう動く。じっとせえへん。触った感じだけ残して、形だけ逃げる。性格悪い。


「ちょ、待って待って……っ、来とる来とる来とる、何か来とる!!」


焦ったら散る。

わかっとる。

わかっとるけど、来とるもんは来とるやろが。


そう思うた瞬間、ぶわっと何かが肩から胸へ絡みついた。


「何やこれ……!?」


白っぽいもんが肩から胸元へざばっと掛かって、途中で編むん諦めた網みたいなんがだらんと垂れた。着るためやのうて、捕まえるためだけに生まれてきた顔しとる。


背中越しに、マイルズの声だけが飛んでくる。


「保持が粗うございます」


「何やねん、もう……」


引き剥がして床へ放る。


ぱさっと落ちたそいつは、最後まで服のふりすらせえへんかった。


最悪や。

せやけど――


「……いや、出たやん」


横が目に入る。


気むうのほうでは、白い流れが騒がへんかった。最初から落ちる場所だけ知っとるみたいに、肩の線へ沿うて、すっと薄う広がっていく。


ふわ、と白が止まる。


まだ粗い。

まだ薄い。

でも、布やった。


胸元を覆う前身頃(まえみごろ)みたいなんが一枚、あいつの上で静かに形になっとる。


「……は?」


背を向けたままのマイルズのしっぽが、ぱち、と一回だけ床を打つ。


「良好です。もう布へ入っていらっしゃる」


「何であっちはもう布なん……!」


「落ち着いて拾っておいでですから。神いお嬢様も、どうぞお静かに」


「うぅ……」


ちっ、と息を鳴らして、もう一回肩へ意識を戻す。


網やない。

布や。

最初から布でいく。


肩のまわりをうろついとる薄い流れを、腕の線へ沿わせる。逃がさん程度に寄せる。手首まで行ったら輪のまま返す。追わん。引っ張らん。固めすぎへん。


寄る。

散る。

寄る。


今度は、散り方がちょっと鈍い。


「……残れや」


ぽん、と肩口で軽い音がした。


今度は、細い布の束やった。


縄やない。

せやけど、服でもない。

裂いた端切れを、肩から胸へ無理やり引っかけたみたいな仕上がりや。


「いや、ちょ……何これ……」


「先ほどよりは安定しております」


「……うっさい」


でも、さっきの網よりはずっとマシや。

腹立つことに、ちゃんと前へ出とる。


床へ落ちた端切れを見て、うちは鼻で笑う。


「……布や」


横では、気むうの白がもう少しだけ厚みを持っとった。さっきの前身頃へ、今度は肩口のぶんが寄って、袖になりきる手前で静かに留まる。


まだ途中や。

せやのに、もう勝手に“着るもん”の顔しとる。


「……はっや」


悔しい。


その悔しさごと、うちはもう一回流れを拾う。


次は束やなくて面や。

肩から胸へ、胸から腹へ。細かいことはあとや。まず、着れる形だけ持ってこい。


ぽん。


「……おっ」


出た。


……けど、今度は胴の前だけやった。


前掛けみたいなんが一枚だけ、胸から腹へぶら下がっとる。横も背中も寒々しいままや。守る気ぃ、ゼロ。


「いや、でもこれ……ひどない?」


「一応、前進ではございます」


前進やて。

どこがや。


うちはそれをひっぺがして、息を吸う。


一枚で全部やろうとしてアホ見たんや。

上と下を分ける。


肩の外を回る流れは上だけに使う。腰から下のぶんは別で引く。無理に繋げへん。留まる場所だけ先に決める。


ぽん、ぽん、と軽い音が続いた。


上半身に、くすんだ(だいだい)

下には、ほんまに短い黒の短パン。


「おおっ」


上下ある。

着れとる。

やっと人の格好や。


……せやけど。

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