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だいきぼ★ウチュウ  作者: こなるちゃん
第一部 世界がバグった日
17/60

エネルジアやん

「──えっ。服!?」


「いきなりそこ行くん!? まず着てからやろ!? うち今パジャマで神になる気ぃ満々やったのに!!」


部屋が一瞬だけ静まった。


マイルズはいつもの整いきった声で、

「左様でございます」

とだけ返した。


腹立つ。

会話の事故を、毎回それで処理できる思うなよ。


「……で、何したらええの」


「服をお作りください」


「それは聞いたわ! どうやって、っちゅう話や! 指こうやって振ったら、布がぼんって出るんか!?」


言いながら、うちは手ぇをぱらぱら振った。なんかそれっぽいやつ。昨日の赤いのとか今日の毛玉とか、こっちは見本が雑すぎて逆に困っとるねん。


……出えへん。


「マイルズぅぅぅ!! 一ミリも出ぇへんやんけ!!」


「順番が逆でございます」


「何の!?」


「感じる前に振っても、ただ振っているだけです」


「うわ、いきなり現実寄りやな」


()むうはベッドの端に座ったまま、袖口をつまんで、指先がちゃんと出る位置まで布を少しずらした。何となくやった仕草には見えへんかった。


マイルズはふわ、と少しだけ高さを上げた。偉そうやな、思たけど、前みたいな“裁く側”の圧はない。ただ、授業始める時の空気やった。


「では、先に基礎から。エネルジアを扱っていただきます」


「……エネル、何」


「エネルジアです。魔法が形になる前に、必ず一度そこを通る流れ――そう覚えてください」


「流れ」


「火であれ、布であれ、先にそれが寄り、留まり、そこから形になります。逆に申せば、それを拾えなければ、何も始まりません」


「……要するに、元手みたいなんが先におるってことか」


「大きくは外れておりません」


そこで、気むうが小さく言うた。


「……服を作る意味は」


来た。

声ちっさいくせに、そこだけ空気切れるん何やねん。


マイルズは一拍だけ止まったあと、すぐ答えた。


「結果が見えやすく、危険が少なく、失敗しても部屋が残るからです。加えて――お二人とも、切実でしょう」


「最後の理由だけで納得させに来るなや」


マイルズは声色ひとつ変えずに答えた。


「有効でございましたので」


うわ、認めよった。


でも、たしかに切実や。

この寝間着のまま城うろつけ言われたら普通に嫌やし。


「では、深く吸ってください。押し出そうとなさらず、まず探してください。皮膚のすぐ外――とくに指先のまわりに、薄くまとわりついているものを」


うちは半信半疑のまま息を吸った。


何もない。……いや、何もない思うた次の瞬間、指の先だけ、変な感じがした。風でもない。熱でもない。触れてへんのに、手と空気の境目だけ少し引っかかる。薄い膜みたいなんが、指の動きに半拍遅れてついてくる。


「……何かおる」


「それで結構です」


「その“結構”がだいぶ雑やねん」


「初手で名称まで求めておりませんので」


腹立つけど、たぶん正しい。


うちは指を閉じたり開いたりしてみた。すると、その“何か”も遅れて寄ったり散ったりする。気のせいか思うたけど、二回、三回やると、たしかにおる。皮膚の上やのうて、皮膚のすぐ外に。


「……何やこれ」


「順調でございます」


「ほんまかいな」


今度は少しだけ真面目に手ぇを前へ出す。さっきみたいに振り回すんやのうて、そのへんにおる薄いもんを、逃がさんように寄せる感じで。


寄る。

散る。

寄る。


「……待て、待て」


今のや。

今ちょっと、寄った。


もう一回、と思って、つい力んだ途端、ふっと消えた。


「あっ」


「押し込むと散ります」


「先に言えや!」


「今お伝えしました」


こいつ、ほんまに教師向いとるんか向いてへんのか、ようわからん。


マイルズはそのまま続けた。


「押せば散ります。寄せれば残ります。残ったものへ、最後に形を与えてください」


……押したら散る。寄せたら残る。


今度はわかった。

さっきのは、うちが急ぎすぎたんや。


もう一回。

今度はねじ伏せるんやなくて、指のあいだ通すみたいにやる。寄せて、止めて、布を思う。服は無理でも、せめて布。


ぽん、と軽い音がした。


出た。


うちは反射で前のめりになる。

空中に出たそれは、ふわっと揺れて――次の瞬間、床に落ちた。


「……糸?」


布やなかった。

ほつれた糸が何本か、まとまり損ねたみたいに落ちとる。しょぼい。しょぼいけど、さっきまでゼロやったもんが今は床におる。


「出た!!」


「出ましたね。感知、保持、初期成形(しょきせいけい)。最初の段階としては充分でございます」


「急に項目増えたな!?」


マイルズのしっぽが、ぱち、と一回だけ床を打った。拍手のつもりやろか。いや、その体でようやるわ。


「うわ、うち今、魔法した!?」


「基礎としては上々です」


「基礎でこれ!? 伸びしろの塊やん!!」


「前向きで何よりです」


横を見る。

気むうはもう、うちやのうて自分の指先を見とった。さっきから静かなままやのに、そこだけ妙に起きとる。


「ほら、気むうも」


「……やる」


小さく言うて、気むうは腕を出した。

うちみたいに気合いもポーズもない。ただ、そこにあるもんを起こさんように、そっと置くみたいに前へ。


そのまま、指先がほんの少しだけ動く。


静かやった。

せやのに、空気の寄り方がさっきのうちと違う。暴れへん。追い回してへんのに、逃げる前にその細い指のまわりへ収まっていく。袖の影から出た指先のまわりだけ、最初からその薄い膜の居場所が決まっとるみたいで――いや、待ってました、みたいで、見てるこっちのほうが落ち着かん。


ぽん。


落ちた。


今度は糸やない。太めの束が四、五本、粗いままやけど、ちゃんと面になりかけとる。布未満やのに、さっきのうちのよりずっと布寄りや。


「うわ」


声が出たんは、うちのほうやった。


マイルズのしっぽがまた、ぱち、ぱち、と鳴る。


「お見事です。お二方とも、初期出力としては上々です」


「いや待って。何であいつのほうがちょっと上手いねん」


(かみ)いが雑」


「今いちばん刺さる言葉それやぞ」


……ちぇっ。

でも、出来とるやんけ。


マイルズは二人の前まで来ると、寝間着の袖をしっぽの先でちょんと示した。


「では、本題に戻ります。糸や布片ではなく、着用可能な形まで持っていきます」


「よっしゃ来た」


「そのため、先に条件を整えます」


嫌な言い方や。


「何」


「今は指先の反応だけで済んでおりますが、衣服として成形するには、皮膚の近くで流れを崩さず回す必要がございます。布が一枚挟まるだけでも、感知も保持も鈍ります」


そこで一回、間が空いた。


うちは気むうと同時にマイルズを見た。

横で、気むうの指が寝間着の袖をきゅっとつまむ。


……おい。

その反応でだいたい読めてまうやろ。


マイルズは、いつもの顔で続けた。


「まずは寝間着をお脱ぎください」

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