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だいきぼ★ウチュウ  作者: こなるちゃん
第一部 世界がバグった日
11/40

薔薇、選ぶんやて

正面の、入口なんか出口なんかようわからん扉の向こうへ出る。石の廊下。高い天井。まだ続く城の内側。


「……まだ歩くんかい」


脚より先に、気持ちのほうがへたり込みたがっとった。


通されたんは、前にも通ったあの廊下やった。


せやけど今日は、あの変な数字もおとなしい。十四が四十一になったり戻ったりもせえへんし、札そのものがぬるっと入れ替わる感じもない。ちゃんと普通や。……ちょっとだけ損した気分になる。ああいう妙な数字、嫌いやなかったんやけど。城のくせに、変なとこだけ妙に個性あったし。


歩きながら、ぼんやり思う。


これ、また厨房戻るんか。


薔薇薔薇うるさいくらいやし、もしかしてあの辺に置いてたりせえへんのやろか。鍋の裏とか。誰もそんなとこ疑わへんやろ。賢いっちゃ賢い。


……まあ、この城やしな。

炊飯器の裏でも、もう驚かへんけど。


そこで、ふっと引っかかった。


あの呪文や。

空気ごと真っ赤になった、あれ。


……あれ、ハッタリちゃうやん。

普通に、魔法やん。


その瞬間、胸のへんがちょっと軽うなった。


うわ。

あるんや。

ほんまにあるんや、魔法。


ほな、うちもワンチャンそっち側いけるんちゃうん。異世界版メグミン枠、まだ空いとるやろ。


あとで絶対、マイルズに聞いたる。

魔法、どうやったら使えんのか。


……まあ、その前に殺されへんかったらやけどな。


そうして着いた先を見て、さっきまでの自分をちょっと殴りたなった。


薔薇(ばら)は絶対、目立たんとこにある。


誰が言うたんや、そんなん。


うちや。


いや、無理やろ。


門。


クソでかい。

しかも金属の薔薇が九つ、これでもかってくらい貼りついとる。隠す気ゼロや。むしろ「はいこちらです」って顔しとる。逆に怖いわ。


途中の見取り図なんか、もっと終わっとった。


城のど真ん中に、“薔薇の間(ばらのま)”ってでっかい印。しかも妙に豪華。花まで散っとる。


おい。

盗ってくださいって書いとるようなもんやろ、それ。


部屋あんだけあるくせに、いちばん大事そうなもんだけ真正面から中央に置くなや。セキュリティ厳重なくせに、根っこのほうがちょっとアホやねん、この城。


そんなこと考えとる間に、前を行くマイルズが門の前で止まった。


尻尾の先で、いちばん下の薔薇にちょん、と触れる。


次の瞬間、門全体が低う唸った。


「……は?」


ごごごご、と重たい音がして、門の中からまた別の扉がずるずる出てくる。

一枚や二枚ちゃう。ぞろぞろや。扉の中に扉、そのまた中に扉。嫌な予感しかしいひん。


最初は普通やった。


手で押す。

うん、まあわかる。


次、目ぇの走査。

それもまだわかる。


その次で、急に

「王の承認待ちです」


誰が今ここで許可すんねん。


さらに

「軍司令の承認待ちです」


増えた。

なんで増やした。


ほんで、ケツや。


「ちょ、待て待て待て」


マイルズ、ためらいもなく専用の台みたいなんに尻置きよった。

ピロリン、て鳴った。


もうあかん。


真面目なんかアホなんか、どっちかにしてくれや。


そのあとも、毛の検査だの、ようわからん照合だの、まだぞろぞろ続いた。部屋の半分ドアやし、壁の厚みもどう見ても二メートル級やし、これ扉守っとるんかダンジョン作っとるんか、はっきりしてほしい。


重要なんはわかる。


わかるけど、限度あるやろ。


うちは途中から、笑いすぎてほんまに喉閉まりそうやった。


ほんで横見たら、気むうまで口元押さえとった。


声は出してへん。

せやのに、肩が一回だけ揺れて、目ぇのとこがちょっとだけ細うなる。


あ、あかん。


そんなん見せられたら、こっちも余計あかんやろ。

ずるいわ。


そんなアホみたいな十分近い時間を越えて、ようやく最後の鍵が外れた。


幾重にも重なっとった扉が、ひとつずつ奥へ引っ込んでいく。

重たい音が順番に遠のいて、最後のでかい門が、ゆっくり左右へ割れた。


その向こうが、ようやく姿見せた。


でもな、その先にあった“薔薇の間”──拍子抜けするくらい、こぢんまりしとった。


いや、でかいで。

部屋そのものはようできとる。丸い。壁はぐるっと一枚の曲面で、音まで飲み込んだみたいに静かや。真ん中には、薔薇の木──いうより、もうあれは木やない。塔とか建物とか、そういう類やった。


うちの身長、二十人ぶん積んでも届くか怪しい。茎はアホみたいに太いし、棘なんか下手したら短剣や。

「うわ……」

とはなった。なったけど。


……なんやろな。思てたんとちゃうかった。


あんだけ大仰な門くぐらせといて、中身が静かな丸部屋て。もっとこう、空気までうるさい“魔法”を想像しとったんよ、こっちは。

輪っかとか。空に浮いとる変な文字とか。誰も聞いてへんのに高笑いする魔女とか。呪文二十連発で部屋ごと吹っ飛ばす感じとか。

そういう、もうちょい遠慮のないやつや。


せやから最初は、ちょっと肩透かしやった。


でも、よう見た瞬間、それどころやのうなった。


薔薇やった。

ちっちゃい薔薇が、あの馬鹿でかい幹のあちこちに浮かぶみたいに咲いとる。赤、白、青、金、ようわからん淡い色まで、ぎっしりやのに、一輪ずつちゃんと目に入る。綺麗やのに、綺麗だけで済ませたらあかん気ぃする、妙な眺めやった。


しかも、あいつら──喋っとるみたいやってん。


声やない。

音でもない。


光や。


一輪が、ぴか。

少し離れて、別のが、ぴか。

今度は二つ、三つ、重なるみたいに、ぱ、ぱ、ぱっと明滅する。


適当に光っとるようには見えへん。

返しとる。続いとる。拾うて、また返す。

会話、いうたら変かもしれへんけど──あれはもう、ただの点滅やなかった。


ホタルとも違う。モールス信号とも違う。

わかりそうで、ようわからん何かが、部屋じゅうでひそひそ回っとるみたいやった。


横を見る。


気むうは、うちより半歩前で止まっとった。

何も言わへん。けど、さっきから一度も目ぇ逸らしてへん。うちが全部まとめて「うわ、すご」で済まそうとしたとこを、あいつだけ、枝のあいだを一つずつ辿っとる。


……いや、違う。

見とるんは薔薇全体やない。

もっと奥の、白っぽいどこかへ、視線だけ吸われとる気がした。


(かみ)い様、()むう様」


後ろから、やたら整った声がした。


「こちらが──“ロザル・マドレ”。

 十の薔薇が眠る、最奥でございます」


マイルズやった。

いつもの毛玉のくせに、こういう時だけ妙に響きがそれっぽい。何やねん。名前の時点で、もう偉そうや。


「本日は、お二方と薔薇の応答を確認いたします」


「応答?」


「はい。どの薔薇が応じるか。どのように応じるか。

 それが確認事項でございます」


……なるほどな。

見学やなくて、試験かい。


「十の薔薇って、昨日の“力の薔薇(ちからのばら)”やろ」


「はい」


「ほな、めっちゃ大事なやつやん」


「はい」


「……説明、今から長い?」


「必要最小限に留めます」


助かるわ。

今はまだ、感動より先に脚が死んどる。


「薔薇は選びます」


マイルズは、そこで一拍置いた。


「お二方が選ぶとは限りません」


部屋の静けさが、そこだけ少し重うなった。


「さて。お二方」


声が、また綺麗に整う。


「薔薇に触れてみてください。

 どの薔薇が応じるか。どのように応じるか。それを、ここで確認いたします」


「こちらから選定の指示はいたしません。

 触れていただければ充分です。あとは薔薇が決めます」


言うだけ言うて、マイルズは静かに下がった。

見守るいうより、観測位置につく、のほうが近い。何が起きても記録して処理します、みたいな顔しとる。ほんま嫌なプロや。


うちはもう一回、薔薇の群れを見上げた。


赤。

白。

青。

金。

まだ名前も知らん色が、枝のあちこちで小さく光っとる。


その中で、一輪だけ。


やけに赤いのが、最初からうちを待っとったみたいに、まっすぐこっちを見返してきた。


「……あれ?」


気ぃついたら、ちょっと見とった。


……ほんまに、ちょっとだけ。

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