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追放された毒吸い聖女は、猛毒を食べて美しくなる。~呪われ辺境伯様の毒が、一番のご馳走でした~  作者: 秋乃 よなが


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第六話 一生分の食事保障は、甘すぎる愛の誓いでした


 毒見役の相次ぐ脱落、国王の体調悪化、枯れ果てた庭園。立て続けに良くないことばかりが起きる王宮で、マクシミリアンは苛々と足を踏み鳴らしていた。


「リーネの行方はまだ分からないのか!」


 家臣の言うことを聞くようで癪だったが、王宮の平穏のためにはそうも言っていられない。大臣たちの進言を受けて、マクシミリアンは密かにリーネの行方を探らせていた。


「死の森で死んでいたらどうしようか。いや、あの女のことだ。しぶとく生き残っているはず……」


 コンコンコン。そのとき、マクシミリアンの執務室の扉をノックする音が響いた。


「入れ」

「失礼いたします」


 入ってきたのは、マクシミリアンの側近だ。


「リーネ様の行方が分かりました」

「なに! 生きていたか!?」

「はい。アーセニック領で、辺境伯城に滞在しているようです」

「……ふん、運よく辺境伯に拾われたか」


 マクシミリアンは鼻で笑う。辺境伯領にいるのなら話は早い。


「辺境伯領といえば、死の森の瘴気でいつも薄暗いところだったな。王宮の掃除係として戻してやるといえば、リーネも泣いて喜ぶに違いない」

「ええ、そうでございますね」

「よし、お前がリーネを迎えに行け。必ず連れ戻して来い、いいな」


 側近は恭しく礼をして、部屋から出る。自分に感謝しながら王宮へ戻ってくるリーネの姿を想像して、マクシミリアンはほくそ笑んだ。


 王都を出発して一週間ほど。マクシミリアンの側近はようやく辺境伯領へと到着した。長い馬車の旅で腰が痛い。本当はゆっくり休みたいところだが、死の森が近い辺境伯領に長居したくはない。そんなことを考えながら、側近を乗せた馬車が城へ入ったときだった。


「――これが、あの辺境伯領なのか……?」


 側近は思わず呟いた。城には、以前の仄暗い面影がないことに驚く。騎士たちは活気に溢れ、城内には花の香りがただよっている。


(これはどういうことだ……?)


 すっかり様変わりした城内を見渡しながら、側近は謁見の間へと案内される。そうして遅れて現れたカインとリーネの姿を見て、彼は目をいっぱいに見開いた。


「……どなたですか? リーネ様、なのか……?」


 (栄養)を摂取し、宝石のように輝く瞳、色香をただよわせるようにほどよく赤みを帯びた滑らかな肌、そして神々しいオーラを放つ彼女を見て、側近は絶句した。


「王都からわざわざご苦労だったな。王太子殿下からの命令書を持ってきたとか」

「は、はい。読み上げさせていただきます」


 威厳ある領主・カインを前に、側近は声を震わせた。緊迫する空気の中、彼は命令書を読み上げる。


「『リーネ・ヘレボス。貴殿を聖女ルミナ・ヘレボスの浄化を助ける、王宮の掃除役に命じる』」


 その瞬間、謁見の間の温度が氷点下に感じられるほどの殺気が満ちた。カインの手から、彼の感情に呼応するように濃密な瘴気がゆるりと立ちのぼる。カインの傍らに控えていたオーゼルが剣の柄に手をかけ、騎士たちが側近を包囲した。


「今、我が領の聖女を掃除道具扱いしたか?」

「ひぃっ」


 カインの温度のない声に、側近は震え上がった。


「リーネは俺の婚約者候補であり、この辺境伯領の聖女だ。王宮の掃除役などという粗末な役職には適さない」

「で、ですが! これは王太子殿下のご命令でございますぞ!?」

「王の命令書でも持ってこい。王太子なぞでは話にならん。リーネは渡さない」


 側近は返す言葉を失った。カイン・アーセニックといえば、この国最大と言っても過言ではない軍事力を誇る領主だ。そんな人物を敵に回せるはずもなく。


「リ、リーネ様! 王宮ではリーネ様の力を必要としております! どうか王宮へお戻りください!」


 側近はリーネに直接訴える策に出た。それに対し、リーネは困ったように笑って言う。


「でも、王宮にはわたしに合う食材()がないでしょう? もう普通の食材()では物足りないんです。だから、帰りません」

「……は、はい? 食材?」

「王宮の毒はなんていうか……日にちの経ったパンみたいな味がするんです。今のわたしは、カイン様の極上の味わいや、死の森の魔物(ジビエ)を知ってしまいましたから」


 もはや自分たちは救う対象ではない。それどころか『魅力のない食卓』として捨てられたことに、側近は言葉を失った。


「もうここには用はないだろう。早々に立ち去るがいい」


 カインが目で合図をすると、騎士たちが側近の両脇を掴んで引きずっていく。側近はすっかり抗う気を失い、されるがまま、部屋の外へと出て行った。


「あのぅ、カイン様」

「なんだ?」

「わたし、カイン様の婚約者候補だったんですか?」

「ん、んんっ」


 リーネの指摘にカインは慌てたように咳払いをした。


「こ、こう言っておけば易々とお前に手出しできなくなるからであって他意はないというか……これを機に、本当に婚約者になってもらってもかまわないというか……」

「そうでしたか! これからも安心してカイン様を食べられるんですね! よかったあ!」


 手を叩いて喜ぶリーネ。カインはそれをジト目で見つめた。


「……そうだな。お前は食欲が一番だったな……」

「ん? なにか言いましたか?」

「……いいや。お前の食事()は一生分保障してやるから、どこにも行くなよ」

「はい!」


 カインの心、リーネ知らずである。


 そして王宮に戻った側近は、辺境伯領での出来事をマクシミリアンとルミナに報告していた。


「リーネ様は……我々の知る彼女ではりませんでした。あの方は、本物の、光り輝く聖女でした……」


 未だ愕然としている側近の言葉にマクシミリアンの苛々は頂点に達し、彼は机の上のものを荒々しく薙ぎ倒した。ルミネの顔もまた青い。


(リーネが、私より美しく、価値のある存在になったですって……?)


 ルミナの中では、嫉妬と恐怖の感情が入り混じっていた。リーネが戻ってこない今、王宮の毒事件に搾取し続けられる。彼女はそれに気づき、一人身体を震わせたのだった。


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