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追放された毒吸い聖女は、猛毒を食べて美しくなる。~呪われ辺境伯様の毒が、一番のご馳走でした~  作者: 秋乃 よなが


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第四話 騎士の古傷は、熟した果実の味でした


 辺境伯城の一階にある医務室。そこでは今までの魔物討伐で瘴気を浴びた騎士たちが、数名寝込んでいた。


「ちっ、また傷が化膿してやがる」


 一人の騎士が盛大に舌打ちをする。死の森の魔物による傷は瘴気によって腐敗が進み、治療もしにくい。小さな傷だとしても侮れないのだ。


「前線に戻るまでこんなに時間がかかっちまったら勘が鈍っちまう」

「このままじゃ、退団もありえるかもな……」

「弱気になるんじゃない、お前たち! お前たちはまだまだ騎士団に必要な人材だ!」


 つい弱気になる騎士たちをオーゼルが励ます。「傷を代わってやれれば」と悔しがっているところへ、リーネがエルダを連れてひょっこりと顔を出した。


「おいしそうな匂いがすると思って来てみたら、医務室でしたか」


 怪我人の瘴気の匂いにつられてやってきたリーネ。オーゼルは「もしかしたら」と小さな希望を抱いた。


「瘴気をまとった傷は治りが遅いのだが……もしやリーネ嬢、治せたりするのだろうか?」

「毒は毒ですからね。いけると思います!」

「だ、団長? このご令嬢は……?」

「まあいいから彼女に任せておけ」


 戸惑う騎士の腕には包帯が巻かれている。その上から淡く瘴気が滲んでいた。


「では失礼します」


 リーネは傷口から溢れるどろりとした瘴気を指でなぞる。そしてその指をぺろりと舐めた。


「な、舐めた!?」

「んー、熟した果実のような味がします!」

「しかも味わってる!?」


 瘴気をなめられた騎士は顔を青くする。そして助けを求めるようにオーゼルを見上げた。


「だ、団長。この方、瘴気を……」

「大丈夫だ。彼女は毒吸いの聖女だからな。――リーネ嬢、他の騎士もお願いできるだろうか?」

「もちろんです! いただきます!」


 リーネは他の騎士のところへ向かい、傷口から溢れる瘴気をまた指ですくって舐める。いつまでも前線に戻れないことに暗い顔をしていた騎士たちの顔に、笑顔が戻った。


「瘴気が消えた……! これなら傷が治せるぞ……!」

「すごい! ありがとう! お嬢さん!」

「みなさん、元気が出たみたいでよかったです」


 わいわいと盛り上がる騎士たちを見てリーネも笑う。


「じゃあ次は腹ごしらえをしましょう! ちょうど領主様が良い食材を持ち帰ってくれたんです! ちょっと待っててくださいね」


 「エルダ、行きましょう!」とリーネが次に向かう場所は炊事場である。そこには、カインが見回りで仕留めたウサギ型の魔物が横たわっていた。


「炊事場に死の森の魔物が置いてあるなんて、奇妙な光景ですねえ」


 エルダがほほほと笑う。普通の者なら恐怖で逃げ出す光景なのだが、そこは辺境の侍女長。肝が据わっている。


「では早速、毒をいただいちゃいましょう!」


 リーネは魔物の手を当てて、ゆっくりと息を吸い込む。瘴気で淀んでいた魔物がみるみる白くなっていく。紫色の毛皮で角が生えた禍々しい姿から、真っ白でふわふわな、まるでおとぎ話に出てくるような可愛いウサギがそこにいた。


「うん、おいしそうなお肉ですね! みなさん病み上がりなので、やわらかい煮込み料理にしてしまいましょう!」


 エルダも加わって、二人で手際よく調理を進めていく。ついでに採取をお願いしていた毒草を解毒すれば、涼やかな香りのする良質なハーブに変わった。


 じゅわっと皮目に焼き色をつけてから、野菜と一緒に新鮮な牛の乳で煮込んでいく。


「な、なんだこの良い匂いは……」


 寝込んでいたはずの騎士たちが、料理の匂いにつられてふらふらと起き上がってきた。


「もうすぐできますからね。食堂で待っててください」


 隣の使用人用の食堂で、騎士たちは大人しく待つ。しばらくすると目の前に、白いスープの中に色とりどりの野菜が顔を出した、ウサギ肉のシチューが置かれた。


 ごくりと、騎士たちの喉が鳴る。「どうぞ召し上がれ」とリーネが言い終わる前に、騎士たちは一斉にスプーンを手に取ってシチューを口に運んだ。


「う、うまい! この肉、瘴気が抜けるどころか、聖なる力が満ちてくるようだ!」

「心なしか傷の痛みがなくなった気がするぞ!」

「リーネ様! ありがとうございます! 一生ついていきます!」

女神様(シェフ)! おかわり!」


 誰よりも早くシチューを平らげ、おかわりを求めてきたのはオーゼルだった。


「みなさん、おいしそうに食べてくれてうれしいです。やっぱり死の森の魔物はおいしいんですねえ」

「「「ぶふぉっ!」」」


 死の森の魔物と聞いて、オーゼル以外の騎士たちが咳き込んだ。


「し、死の森の魔物?」

「お、俺たち、死ぬのか……?」

「いやでも、こんなうまいもんを食べて死ねるなら本望か……?」


あれほど「うまいうまい」と言いながらシチューをかきこんでいたスプーンの動きが止まる。それを見たオーゼルは大笑いした。


「心配するな! リーネ嬢が毒を抜いて、ただの動物の肉になっている。食べたところで死にはせん!」

「そ、そういうことなら!」


 再び食べ進める騎士たち。その顔色はほどよく赤みを帯び、さきほどまで寝込んでいたとは思えないほど明るい顔をしていた。


「――何やら騒がしいと思ったら……」


 わいわいと賑やかな食堂に現れたカインは、その場の光景を見て唖然としていた。


「リーネの栄養のために持って帰ってきたつもりが、なにやら大事になっているな……」

「あら、坊ちゃん。坊ちゃんも一緒にシチューはいかがですか?」

「……あとで食べる」


 リーネの作る魔物料理はおいしい。それを知っているからこそ、カインは食べ損ねるような真似はしない。


「みなさん、もっと瘴気を浴びて帰ってきてもいいんですからね」

「えっ、毒を浴びて帰って来いってことか……?」

「いやでも、リーネ様のおいしい料理が食べられるなら……」


 すっかり胃袋を掴まれた騎士たちは、リーネの言葉に混乱する。言われていることがおかしいということを、誰も指摘しない。


「……俺以外の毒でもうまいのか……」

「おや、嫉妬ですか、坊ちゃん」

「ち、ちがっ」

「リーネ様が来てから、お城が明るくなりましたねえ。うれしいことです」


 騎士たちと楽しそうに話すリーネを見て、エルダはにこにこと微笑む。嫉妬心を否定するタイミングを失ったカインは、ばつが悪そうに頬を掻いているのだった。


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