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異世界行って、騎士団長やります!   作者: 神崎冬花
国交樹立編
63/64

番外編 高嶺の花のあの子

 本人は自覚できていないことだが、入学当初は彼女の可憐さは学年でもかなり有名だった。

 不純物が一切混じっていない、肩まで伸びた濡羽色の髪。

 少々痩せぎすだが、シミ一つ無い健康的な色をした柔肌。

 小さくも細長い指と、形の良い爪を有した手。

 ぱっちりとした目には、夜空に星をちりばめたかのような瞳。

 中学生になったばかりの少年少女達が、彼女に目を奪われるのはある意味当然と言えた。


 入学式、校長の長ったらしい話を背筋よく、無表情で耳を傾けている少女。

 周りの同学年、新一年生達は、まるで話を聞いていないようだった。

 それどころか、壇上の校長すら見ていない。

 彼ら彼女らは皆、行儀よく校長を真っ直ぐに見つめている少女に視線を吸い寄せられていた。

 ガン見、とまではいかないが、少女の前の席、隣の席に座る生徒達は時たまチラチラと少女に視線を寄越していた。

 全員が全員、美しい芸術品を見るかのように頬を紅潮させながら。


 それらの視線を一身に浴びながらも、少女は尚も表情を変えない。

 気づいていないのか、それとも気づいていて放置しているのか。

 どっちにしても、彼女は微動だにせず、未だ続く校長の話を傾聴していた。

 それこそ、動くことのない彫刻のように。

 それを見て、少女を観察していた少年少女達は揃ってほぅっと感嘆の息を吐いた。


 

 ちなみに、当の少女の心境はと言うと――


(――え? なに? 何で皆私の事見てるの? え、怖っ。怖いなになになに。私なんか変? めっちゃ寝癖だったりする? え、え? 何この状況。ヒィッ、なんか皆溜め息吐いた! え、もしかして私がめっちゃ不細工だから⁉ やめて! これ以上私を見ないでーーーー‼)


 澄ました顔をしながら、内心テンパりまくっていた。

 

 少々遅れたが、ここで少女の名前を明かそう。


 木村 乃愛。真新しい女子制服を現在進行形で冷や汗で濡らしている少女の名である。



 ……蛇足だが、これが原因で中学校在学中、彼女はコミュ障であった。悲しきことである。



 △▼△▼△▼



 入学式が終わった後、新入生達は揃って体育館から自分のクラスに移り、若い女性の担任の話を聞いていた。

 その間も、クラスメイトは皆一様に乃愛を見ていた。

 女教師はそれを咎めることはしない。

 何故なら、彼女自身乃愛をチラチラと横目で見ているからだ。


 名前順で二列目の一番前に座っているため、乃愛はそんなクラスメイト達の視線に気づかない。

 だが、目の前の教壇にいる担任から見られていることには気づいている。

 ここでもまた乃愛は狼狽していた。

 何故こんなに先生と目が合うのだろうかと。

 彼女は陰キャである。

 目が合う度視線を逸らし、背中を伝う汗の量を増やしていった。


 だが、彼女の地獄はこれだけじゃ終わらない。

 恒例の自己紹介タイムである。

 出席番号順のため、乃愛は七番目であった。

 それでもただの自己紹介なら慌てることはない。

 当たり障りのないことを言えば、地味な奴だと思われる事が出来ると画策していた。

 

 が、この時の彼女は少々調子に乗っていた。

 調子に乗っていた、というよりは自分がまだ陰キャであるという自覚が足りなかったのだ。

 故に、少しくらいボケて笑いを取ってみようかな? 等というあまりにも無謀なことを考えていたのだ。


 『私家事が得意なので、お金くれるなら養ってあげますよ~』という何一つ面白くない紹介文を考えていた。

 何を思ったのか、挙げ句の果てには乃愛はこれをウケると確信していた。

 自分の特技を紹介するのと同時に、軽いジョークを織り交ぜた高等テクニックだ……と信じて疑わなかった。

 どちらかというと、“こうとうてくにっく”と全部ひらがなレベルの幼稚な策なのだが。


 そして、乃愛は絶望した。

 自分の一つ前、六人目の丸刈り男子のネタが大ウケしたのだ。

 よりにもよって自分の前。これが三番目とかだったらまだよかった。

 だが、だが! 自分の前!

 これで自分もボケよう物なら、上がりに上がったハードルを跳び越えるどころか、くぐり抜けることしか出来ない。

 絶対にスベる。ここでようやく乃愛は自分の浅はかな考えを呪った。

 馬鹿なんじゃないだろうか? と自虐していた。事実馬鹿である。地頭は良いのに。


 さっきまで考えていたジョークはなし。では代わりに何を言えば?

 彼のネタを超えるような物はそうそう思いつかない。いや、そもそも何故自分はボケようとしているのだ? 自分が解らなくなってきた。

 せっかく考えていた紹介文が粉々になってしまい、大いに焦っていた。

 なんなら腹痛もしてきた。トイレ行きたい。

 

 何も代用案が浮かばないまま、遂に乃愛の番になった。

 ぎこちない仕草で教壇の前に立ち、教室全体を俯瞰する。

 そこには、期待に目を輝かせたクラスメイト達の姿が。

 乃愛は何故皆こんなに期待しているのか解らなかった。

 坊主少年によって上がりまくったハードル。

 それを乗り越えるためには、あの方法を取るしかなかった。

 しばらく口を開けては閉じ手を繰り返し、ようやく声を出した。


「……木村乃愛、です。趣味はラノ……読書……。特技は……ありません。ヨロシクお願いします……」


 そう、結局地味な奴構文でその場を乗り切ったのである。

 

 この日、名実ともに乃愛は完全無欠のコミュ障陰キャとなった。哀れである。



 △▼△▼△▼



 ――とある女子生徒視点――



 小学生から中学生になって、もう一週間になるでしょうか。

 今までは好きな私服で通い、好きな上靴を履いていた小学校とは違い、決められた制服、決められた上履き、決められたジャージ、それ以外にも指定されている物がいっぱいあります。。

 それだけで、なぜだか自分はもう大人になったのだと決めつけられているような気がします。

 ちょっと前までは子供扱いされていたのに、今じゃもう親を含めて大人達からは「もう中学生なんだから」と言われています。


 どうしてでしょうか?

 あと少しで十三歳になるから?

 給食からお弁当になったから?

 小から中になったから?

 中学生で大人扱いされるなら、高校生、大学生はどう見られるんでしょうか?

 それが不思議で溜まりません。字面が変わるだけで、周りの対応が変わるなんて。


 おっとこんな話はどうでも良いですね。

 なんやかんや言っていますが、私はこの中学生活、結構充実しています。

 クラスの女子は皆優しくて話してて楽しいし、男子達もひょうきんな人が多くてよく笑ってしまうこともしばしば。

 担任の先生も若くてよく話を聞いてくれる良い人です。


 ただ、それらのなによりも、私は今あることにとても熱中しています。

 私の前の席に座る女の子。

 身長は、百四十くらいはあるでしょうか。

 クラスの女子の中では少し低いですが、そこは気になりません。

 なんと言っても、彼女はとても綺麗なんです。

 一言に綺麗と言ってしまえば簡単ですが、もう少し詳しく説明するならば、そうですね。


 鳥の濡れ羽色、と言う奴でしょうか?

 今時珍しい、不純な色が一つも混じっていない綺麗な黒髪です。

 流石にいきなりは触れないのですが、後ろから見てるだけでも、肩まで伸びた髪は柔らかそうだと解ります。

 それに、とても良い匂いがするんですよ。

 彼女が頭を動かす度に、甘いミルクみたいな匂いがするんですよ。

 とっても役得です。

 

 勿論髪だけじゃなくて、手とかも物凄く綺麗な形をしています。

 ネイルが映えそうな綺麗な爪。正直羨ましいです。

 それから偶にやる耳にかかった髪を下ろすときの仕草。

 あれがとってもお上品なんですよ。

 細長い小指で髪を下ろす仕草は、気品すら感じられます。

 

 そしてなにより、とっても美人なんですよ。

 少し痩せすぎかなとも思わなくもないですが、穏やかそうな目と小さくて整った形をしたお鼻。

 化粧は禁止なのに、グロスを塗っているのではと思ってしまいそうな程のふっくらとした唇。

 これで化粧でもしたら……いえ、多分彼女は化粧をしない方が綺麗なタイプですね。

 そんな人いるわけ無いと思っていましたが、現実に目の前にいます。

 芸能人顔負けですね、これは。


 クラスどころか学年、学校の中でも一番美人であろう彼女ですが、実は彼女には友達がいないみたいです。

 いえ、私以外誰も彼女に興味が無いと言うわけではないんですよ。

 むしろ大半の人は私と同じ気持ちを抱いていると思います。

 では何故彼女が一人なのかというと、なんと言うんでしょうね……。


 ……雰囲気、と言いますか。

 彼女は一人で完成されているんです。

 例えるなら、これ以上手の加えようがない美しい芸術品。

 それに余計な絵の具を加えることを忌避してしまう。

 そんな風に感じるんです。


 ……高嶺の花、というやつでしょうね。

 休み時間もただ静かに一人でブックカバーを付けた文庫を読む彼女に、余計な要素はいらない。

 私はそう思っています。

 ですから当然、私も未だ話しかけたことがありません。

 挨拶くらいは交わしますが、それだけです。

 私は彼女を見守る壁になりたい……。

 入学式からたった一週間しか経っていないのに、私はそんな結論に至ってしまいました。

 

 多分他の人も同じような感想、とくに女子生徒の殆どは全員同じ事を思っているでしょうが、なにぶん男子がですね……。

 いえ、気持ちはわかります。

 女の私から見ても垂涎ものなのですから、男子達からしたらきっと本当に魅力的なのでしょう。

 ただ、彼女は彼氏どころか、友達を欲しているようには見えません。

 きっと一人がいいのでしょう。

 事実、周りの喧騒を気にもかけないで、今も読書に夢中になっています。

 

 うんうん。今日も木村さんは綺麗ですね。

 私は今日も、後ろの席から彼女を見ています。





 なお、当の少女の内心はこうである。


(友達欲しい……。本読むの寂しい……。後ろの人とか、たまに挨拶するし、友達になれるかな……? あれ、名前なんだっけ。やばい、後ろの人なのに名前覚えてないとか最低すぎる。出直そ……)


 結構限界が近いようである。



 △▼△▼△▼



「ね、ねえ、木村さんっ! そ、それって最近アニメ化したラノベだよね? す、好きなの?」


 入学してから二ヶ月。最初の席替えで一番後ろの席になり、今日も今日とて読書にいそしんでいた乃愛のところに、クラスメイトの男子が話しかけてきた。

 今日はいつも付けているブックカバーを忘れてしまい、表紙はそのままなのだ。

 だからだろうか、今まで一度も話したことが無い男子生徒に話しかけられてしまった。

 彼はクラスのオタクグループの中の一人で、黒縁眼鏡をかけていた。

 どうやら同類だと思ったのか、彼はなけなしの勇気を振り絞り、乃愛に話しかけたようだ。

 

 乃愛とお近づきになりたい男子女子から、話しかけに行った事への称賛と、今まで空気を読んで誰も話しかけに行かなかったのに空気を読まずに話しかけに行った彼への失望と、仮に上手くいったら絞めるといった敵意の視線が彼に集中していた。

 そんな空気を彼も感じ取っているのか、顔中に冷や汗を浮かべている。

 それだけではなく、乃愛のような美少女に話しかけてしまった事への、ある種の後悔。

 アイドルに話しかけられる寸前のような緊張感。

 それらが一斉に彼の心をガリガリと削っていく。

 それでも、彼は後には引けなかった。

 

 乃愛という絶世の美少女が我等がオタグルに入ってくれれば、きっと雰囲気が一変する。

 これにこじつけて、乃愛がクラスに馴染んでくれればという彼なりの思いやりもある。

 ……まあ、一番は少しでもお近づきになれれば良いなという下心なのだが。


 乃愛が読んでいたラノベから顔を上げると、一瞬二人の目が合った。

 テレビでも見ないような美少女と目が合っているというそれこそラノベのような状況に、彼はドギマギしてとっさに目を逸らした。蛇足だが、彼は勿論童貞である。


 クラス中が静まりかえり、乃愛の言葉を待つ。

 授業中以外まったく喋らなかった乃愛がようやく喋る。

 誰もが何を話すのかを期待し、耳を傾けた。


 三十人強のクラスメイトの視線を受け、乃愛は口を開いた。


「えぅ……。あ、え?」

「あ……。ッスゥーーーー……。……すいませんでした」


 彼の誤算は一つ。

 乃愛が彼と同じ、それ以上のコミュ障陰キャであると言うことである。

 そうして彼は失敗し、後に乃愛を狙っていた男子達からリンチにされた後、倉庫に下着姿で見つかったという。

「声めっちゃ可愛かった」とは、彼が後に言った言葉である。童貞である。



 △▼△▼△▼



 ――とある男子生徒視点――



 俺には好きな人がいる。

 ……まあ前述を見たら解ると思うが、彼女だ。

 出来ればお付き合いしたいが、ライバルが多すぎる先輩にも彼女が好きな人が多いらしい。

 そうだ、興味ないと思うが、俺が何故彼女に惚れたのかを話そう。

 他の連中みたいに一目惚れをしたわけじゃない。

 そう、それは二年生になる直前、家庭科の授業で行った調理実習の時である。


 作る物は焼きそばというそこそこ簡単な物だった。

 男女含めて四人班だったのだが、ここで問題が起きた。

 女子の一人が当日利き手である右腕を捻挫していたのだ。

 その女子はバレー部で、練習に熱中しすぎたのだという。

 女子が一人減るというのは大きな戦力減少だ。

 彼女は自分はそんなに料理が出来ないと笑っていたが、当時の俺は女子というのは料理が得意という固定観念があったため、かなりの痛手だと思えた。

 野郎二人に、例の女子が一人。


 ……正直、当時の俺は彼女の何処が良いのか良く解っていなかった。

 同じ班である俺の親友は、一目惚れをしたとのことで彼女と出席番号が近かったことを大層喜んでいた。ちなみに班の構成は出席番号を上から四人ずつで分けられた物だ。

 ちなみに俺の出席番号は五番。後ろの親友は、自己紹介の時にめちゃくちゃ印象に残りやすいネタを披露していたし、俺にも気軽に話しかけてくれた。


 おっと、こいつのことなんかどうでもいいな。

 まあ、確かに美人だとは思う。

 勉強も出来るみたいだし、体育は男女別だから解らないが、多分文武両道ってやつなんだろう。

 声も綺麗で、まさに非の打ち所がない、というやつだ。

 だが、このクラスで彼女と親しい奴は誰もいない。

 彼女自身がそれを望んでいない、というのもあるだろうが、何よりもクラスメイトの誰もが彼女に話しかけようとしない。

 別にいじめだとかそういうのではない。

 ただなんと言うべきか、荒れ果てた大地に一輪だけ咲いた美しい花、って感じだろうか。

 一輪しか咲いていないからこそ、その美しさが際立って見える。

 そこにもう一輪、二輪と咲くと、美しさが半減してしまうような。

 上手く答えられないが、そんな雰囲気を彼女は持っている。

 

 それでも、彼女に思いを寄せている男子は多いだろう。

 事実このクラスの殆どの男子は彼女に好意を抱いていた。

 当然、彼女と話したことがある者などいないので、全員一目惚れである。

 俺にはその一目惚れという奴がどうにも気に入らない。

 いや、決して一目惚れすることが悪いというわけではないのだが、何だか「俺が好きなのはお前の外見で、内面は見ていない」と言っているように聞こえるのだ。

 まあ、俺自身が外見は底まで気にしないタイプというのもあるかもしれないが。

 

 んで、話を戻そう。

 当然俺も親友も料理なんか出来ない。

 じゃあ彼女はと言うと、何だか料理が出来るタイプには見えなかった。

 先程は女子というのは料理が出来るものと言ったが、彼女の手は重い物を何一つ持ってこなかったかのように綺麗だったのだ。

 包丁なんか持ったことがないのでは、と思わせるには充分なほどにその手は華奢だった。

 これは、うちの班は苦戦するだろうなと半ば確信めいた物を抱いていたが。


 一言で言おう、完璧だった。

 彼女はハキハキとは喋らなかったが、俺と親友ににんじんの皮むきと食べやすい大きさに切るようにと指示した後、明らかに一人では受け持つには無理がある量の野菜類や豚肉の下ごしらえを始めた。

 彼女が料理できるのかという不安に駆られていた俺は、心配で皮をピーラーで剥いている間も何度も彼女の様子を盗み見た。

 が、彼女はキャベツ、タマネギ、豚肉を目を見張るほどの速度で切っていき、俺達が皮むきを終えた頃には大体の下ごしらえを終えていた。

 俺等が遅いのか、彼女が速すぎたのか。


 少し離れたところで見学していた女子もぽかんと口を開けていた。

 挙げ句の果てには、にんじんを切るのを手伝ってくれる始末。

 俺達は早々に自分たちは邪魔だと悟り、食後の片付けを全部やることと引き替えに、彼女に全部任せてしまった。

 何もしないというのは気が引けたが、明らかに彼女が気を遣ってくれていたほうが精神的ダメージが大きかった。

 そして、他の班よりも速く完成した焼きそばを前に、俺達役立たず三銃士は固まっていた。

 明らかに学生が作るクオリティーを超えている。

 様子を見に来た家庭科のおばちゃまも、物凄く褒めてくれた。

 お店で出せる出来映えだと。

 彼女が切った具材の大きさはどれも均一だし、焼き加減もバッチリだ。

 食欲を誘う香ばしい香りが調理室に広まり、自分たちの焼きそばも忘れて他の班の奴等も見物しにきたほどだ。

 

 ただ、いくら見た目がよくても味が重要だと、謎の虚栄心を張った俺は、生唾を呑み込み焼きそばを控えめに啜った。

 気づいたら俺は「美味っ⁉」と声に出していた。

 それは親友も同じだったようで、一心不乱に麺を啜っていた。

 それで当の彼女はと言うと、自身は食べずに利き手を怪我して食べられない女子を甲斐甲斐しく補助をしていた。

 そう、いわゆるあーんというやつだ。

 介護されている女子はなんとも幸せそうな顔で彼女が作った焼きそばを頬張っていた。

 皿の中の焼きそばがいつの間にか無くなっていた俺達に、彼女は向き直り恥ずかしそうにこう聞いてきた。


「美味しかったですか……?」


 と。

 俺と親友、それから怪我をした女子も揃って「美味しかったです!」と即答すると、彼女は心底嬉しそうな表情で「そっか……」と呟いた。

 多分、俺が彼女を好きになったのはその時だと思う。


 それから彼女は自分の分の焼きそばも俺達に勧めてきた。

 流石に悪いと思い最初は断っていたが、この後給食もあるし、自分はこんなに食べられないと苦笑しながら言ってきた。

 そこまで言われたら断るのも悪かったので、三人で分けて少し冷めた焼きそばを食べた。

 

 ちなみにだが、この件で親友の彼女への想いはもっと大きくなっただろうと思ったのだが、どうやら諦めるようだ。

 曰く、自分じゃ釣り合わない。身の程を知った、とのこと。

 俺としては恋敵が減ってくれるのは願ってもないことなので、悪いとは思いつつも内心ほっとしていた。


(あんな顔で笑うんだな……)


 あの時彼女が見せてくれた笑顔を、俺はずっと忘れないだろう。



 △▼△▼△▼



「――一目見ただけで、あなたに夢中になってしまいました。僕と付き合ってください!」

「えっと、ごめんなさい……?」


 ある日、乃愛が二年生になって間もない頃、彼女は体育館裏に呼び出されていた。

 上級生のサッカー部員からの告白を、乃愛は断った。即答で。逡巡の迷いもなく。

 実は乃愛が告白されるのは、今回が初めてなのだ。

 ……訂正する、二回目である。

 過去に下駄箱にラブレターという今時古典的なやりかたで送った者もいたのだが、内容が小難しかった、というより中二病的な恋文だったのだ。

 自分に酔っているとしか思えない文面で、乃愛はこれを解読できず、ラブレターとすら認識出来なかった。

 挙げ句の果てには、何かしらのイタズラだろうかという認識になってしまった。

 ちなみにこのラブレターを送ったのはいつかのオタク君である。

 案の定と言うべきか、彼が送ったというのを耳聡く知った男子連中にリンチにされた。

 

 そういう理由で、乃愛にとってはこれが初めての告白なのだった。

 その結果は即答という惨憺たる結果だったが。

 その後彼女はこれを何らかの罰ゲームだと判断したが、勿論そんなことはなく、本当に一目惚れである。

 しかも彼は相当にモテる。

 サッカー部のキャプテンであり、イケメン。

 性格も良いという女子にとってはこれ以上無い優良物件だったのだが、そんな彼でさえ一蹴された。

 このことにより、彼に思いを寄せていた女子が撃沈。

 ついでに自分の顔に自信がない男子達も撃沈。

 乃愛はしばらく女子多数から恨まれることとなり、ついでにこれ以降告白されることもなかったが、どうでもいいことである。


 


 こうして乃愛は物の見事に三年間無事に高嶺の花を努め、長いようで短かった三年間に幕を閉じた。



 △▼△▼△▼



 ここから先は蛇足であるが、ある真実について話そう。

 乃愛は自身が受けた高校の入試主席である。

 本来なら入学式に生徒代表としてステージに登壇し、挨拶を行うはずだったのだが、ご存じの通り絶妙なタイミングで異世界に転移してしまった。

 

 もし、仮に乃愛の異世界転移がもう少し後だったなら、乃愛は入試主席という肩書きで高校でようやく友達が出来るはずだったのだが、今となっては全てたらればである。


 つくづく運がないのは、彼女らしかった。

と言うわけで、最後の奴は本編では明かされない裏設定です。

ちなみにこれも裏設定ですが、キノが何故異世界であまりモテないのかというと、異世界人的な美的センスで言うと、キノの顔は上の下あたりです。それでも美人と捉えられますが。


地球ではご覧の通り上の上です。

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