番外編 鍛冶屋の看板娘
お久しぶりです。更新遅れてしまい申し訳ありません。しかも番外編という。
言い訳すれば長くなるので、おとなしくゲームで無課金童貞やめてきます()
「働きたくないでござる!」
私は居候をしているガゼルの一室で叫んだ。
冒険者を始めて二週間くらいたっただろうか。
まー、動くのが面倒くさい。
動き回ったら筋肉痛がヤバいし、野宿するときは仲間に気を遣うし、一回冒険したら剣を研がなきゃいけないし、同僚の酔っ払いにはナンパされるし、汗で匂いヤバいし。
まあ、今まで休むこと無く働いてたし、たまにはサボっても良いだろう。
と、言うわけで。今日は朝から晩までゴロゴロしよう。
ヒャッホウ! 今日は天国――
「おーいキノー。ちょっと来てくれー」
「だぁあーい!」
ガゼルに呼ばれ、私は思考と返事が混じった声を出してしまった。
二階にある寝室から、ガゼルがいるであろう工房に足を運ぶ。
ガゼルはいつもの作業服では無く、どこかに出かけるのか、タンクトップにジーンズに似た服を着ていた。
「おうキノ。すまん、今からちょっと旧友のとこに行くから店を開けるわ」
「んい。行ってら行ってら」
「で、だ。今日実は何人か修繕した武器を取りに来る奴がいてな。そいつらが来たら渡して欲しいんだわ」
「そんだけ? そんくらいならオケよ」
「おう、助かる。そこにエプロンあるから、客が来たらそれ着て対応してくれや」
ガゼルの差したテーブルに、エプロンが綺麗にたたまれていて、胸部にはこの店のロゴが刺繍されている。
「じゃ、行ってくるわ」
そう言って、ガゼルは繁華街の方へと向かっていった。
△▼△▼△▼
「おーい、誰かいないのかー?」
ガゼルが店を開けてから一時間半くらい経った頃。
店の方から声が聞こえてきた。
「はーいただいま!」
私は寝室の椅子にかけてあったエプロンを纏い、髪を結い上げながら階下に声を上げる。
急いで階段を駆け下り、店に入ると、そこにはそばかすが目立つ、私と同い年か少し年上くらいの男の子がいた。
少年は、私を視界に入れると、驚きに満ちたような表情になる。
この前出てきたのがガゼルだったから、驚いたのだろう。
大男の店主ではなく、こんなひ弱そうな女が出てきたら誰でも驚くだろう。
「いらっしゃいませ。何がお望みでしょうか?」
「……あ、ああ。俺の剣、修繕した武器は直ってるのか?」
「はい、お待ちしていました。今持ってきますね」
武器が立てかけられている店から、工房に早足で向かう。
金床の上に、刀身が布で隠されている直剣を両手で持ち上げ、再び店の中に入る。
「お待たせしました。これでいいですか?」
私は布をめくり、少年に直ったばかりの刀身を見せる。
その剣は、シミや指紋が一つも無く、鏡の様に私の顔を映していた。
ガゼルの仕事ぶりに、思わず「ほぅ……」と息を吐いてしまった。
彼は、恐らくこの町で一番の腕を持つ鍛冶氏だろう。
この少年も、きっとガゼルの仕事ぶりに目を引かれていることだろう。
そう思い、少年の顔を見ると、少年は剣を見ておらず、私の顔を見ていた。
それも、頬を染めて。
「?」
何故だろう。
何故剣じゃなく、私なんかの顔を見ているのだ?
不思議に思ったが、そこで私はピンときた。
(そうか。私がいつまでも剣を返さないから、こうして私を見てるんだ。私が剣に見とれてたせいで、声を掛けるのを躊躇ったんだなきっと。うんうん。その気持ち、わかるよ。私も学生時代は苦労したもんね。これこそがコミュ症の性という物だよね)
ならば、速く剣を返さなければ。
私は剣を少年に差し出した。
「どうぞ。お手にとってお確かめください」
「――あ、ああ」
少年は尚も頬を赤く染めたまま、剣を受け取り数回素振りを行った。
それから剣を何回か強く握り、感触を確かめていた。
「――うん。大丈夫だ」
「そうですか。それじゃあ代金は――」
「き、君は、さ」
「? はい」
「あの店主の娘なのか?」
「いえ。居候をさせてもらってるだけで、普段は冒険者をやってます」
「そ、そうか、同業だったのか……。だから俺の剣も簡単に持ち上げられてたんだな」
「ええ、まあ。あはは、こんな力持ちの女の子は気持ち悪いですかね」
私は嘲るように苦笑する。
本当は『怪力』の御陰なのだが、そこまで馬鹿正直に答える必要はないだろう。
少年は慌てた様に手と首を横に振った。
「い、いや。そんなことはない! 俺はそうは思わないから!」
「あ、ありがとう、ございます……。そう言って頂けると、嬉しいです」
「お、おう……。その、俺の名前はジーク。敬語じゃなくてもいい。あんたの名前は?」
「え、えと、私はキノ。よろしく、ジーク」
そこから、気まずい静寂が訪れた。
何故こんな空気になっているのだろう。
なにか、なにかを言わなくては。
でも、何を話せば……?
私がウンウンと悩んでいると、ジークがおぼつかない様子で口を開いた。
「あ、あのさ。俺、まだ冒険者になったばかりなんだ。その、たまにでも良いから、一緒にパーティーを組んでくれないか? 俺、まだ知り合いの冒険者が少なくて……」
ジークは、とても不安そうな様子で、そう言った。
やはり、初対面の相手にこんなことを頼むのは可笑しいと自覚しているのか、ジークの視線は木造の床に落ちてしまっている。
そばかすの少年の頬は、未だに赤い。
「え、と……。わ、私でよければ、いつでも」
私はそこで、一つの可能性に思い至った。
あれ……? この人、まさか――
「――! そ、そうか! ありがとう! これからよろしくな、キノ!」
ジークは、赤かった頬を、更に林檎のように染め、太陽の様な笑みを浮かべた。
この反応。まさか、ホントに?
え、嘘でしょ?
「そ、それじゃ、俺もう行くから。ギルドで会ったらよろしくな!」
ジークはあの笑みを浮かべたまま、店を勢いよく出て行った。
これ以上顔を見られたくなかったのだろう。
かく言う私も、今見られたら不味かったかもしれない。
「――ぁ、あぅう…………」
暖炉で熱せられたかのように、頬が熱くなっていく。
思わず両手で熱くなった頬を押さえるも、自分の物とは思えないような弱々しい声は、いつまでたっても納まってくれなかった。
もしや、あの少年は。
私に、一目惚れしたのでは?
立っているのが煩わしくなり、駆け足で寝室に向かい、ベッドに身を投げ出す。
ベッドから大きく軋んだ音が鳴ったが、今は気にしていられない。
「あぁあああぁー、ううううううううっっっ…………!」
頭を枕で覆って、足をばたばたと感情の赴くままに暴れさせる。
恥ずかしいのか、嬉しいのか、怖いのか、解らない。
こういう時、どんな感情を表せば良いのか、解らない。
解らない。だから今私に出来ることは……。
「んああああああぁあああああ……‼」
火照った頬が冷めるまで悶絶することだけだった。
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