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異世界行って、騎士団長やります!   作者: 神崎冬花
国交樹立編
55/64

46話 宣戦布告

あと……あと二ポイント……

「暇だ……」


 私はベッドの上で呟いた。

 現在の時刻は午後十時。

 アウロラを寝かしつけたのは良いものの、私は特にやることも無く自室で寝転んでいた。

 普段ならアウロラと一緒に寝ているのだが、こういう目が冴えている日は非常に暇なのだ。

 一人で遊べる娯楽は無い。

 かといって眠るのもなにか違う。

 そんな中、私の脳裏に一つの娯楽が浮かび、本棚に視線を移した。

 

 ――久しぶりにするか。

 胸中で呟き、私は本棚から本を一冊取り出し、再びベッドに寝転ぶ。

 こんなことをするのは変だと思うだろうか。

 だが考えてみてほしい。

 人間の三大欲求はなんだ?

 食欲、睡眠欲、そして性欲だろう。

 お腹が空いたら食べ、眠くなったら寝る。

 そして性欲が溜まったら発散する。

 おかしいところが果たしてあるだろうか。

 いや、ない。

 何一つおかしくない。

 

「本良し。タオル良し」


 いざ出陣の時――!

 私はズボンに手を掛け――


「キノのん、起きてる⁉ 緊急事態だよ!」

「――――――――――ッッッッッッッ⁉ ――――――――――――――――――ッッッッッッッ‼」


 唐突に扉の外から声がし、私は思わず声にならない叫びを上げてしまった。

 なんか前にもこんなことあったぞ!

 マイは私の返事を待つこともせず、勢いよくドアを開けた。


「キノのん緊急事態……何してんの?」

「……………な、何もしてまひぇん……」


 マイは腹を隠して蹲る状態の私を見て、切羽詰まった表情から怪訝な顔になった。

 マイは本棚とベッドの上のタオルを見て何かに思い至ったような顔を浮かべた。

 流石腐女子同盟創設者。理解がお早い。


「……キノのん、何してんの? ――て言うかナニしようとしてたの?」

「…………な、なにもしてまひぇん……」


 さっきと全く同じ台詞を吐く私に、マイは勢いよく襲いかかってきた!

 

「嘘つき! キノのんの嘘つき! こんな時間帯にナニしようとしてんの!」

「な、なにもしようとしてないって! て言うかそのイントネーションで言うのやめて!」


 マイは私から腹に隠している本を奪い取ろうとしてくる。

 それを必死に防ぐ影響で、ベッドが大きく軋む。


「変態! キノのんのむっつりスケベ! 性欲持て余してるのは知ってるけど、こんな時にすることないでしょ! さっさとワタシにその本寄越してワタシにも使わせろー‼」

「だ、だって、だって……! しょうがないじゃん人間の三大欲求なんだよ⁉ てかマイちゃんは何でそんな堂々としてんのこのオープンスケベ――‼」


 ベッドの上でなんてくだらない悶着をしているのだろう。

 騒ぎを聞きつけたのか、開かれたままのドアの向こうからレイスの顔が現れた。


「お前等何遊んでんだ! さっさと第一応接室に集まれ!」


 レイスはそれだけ告げると、足早に応接室に駆けていった。

 それを聞き、マイはハッとなった様子でベッドから降りた。

 レイスもそうだったが、マイは全身武装で兜だけを外した出だちだった。


「そうだよ、こんなことしてる場合じゃなかった! キノのん、急いで鎧に着替えて応接室に来てね! ほんと非常事態だから!」


 マイは脱兎の如き速さでレイスの後を追った。

 私は訳もわからずに鎧を身に包み、応接室に向かった。

 二人からは非常事態という事だけしか伝えられていないが、なにか嫌な予感はする。

 そう、まるで。今までの生活が崩れてしまうような。


 そんな予感だ。





 △▼△▼△▼





 応接室には私を含めた近衛騎士全十名。各騎士団の団長。元帥のドイル。

 それにバルトラだった。

 バルトラが座るソファーの後ろに着き、私達と対面するソファーに座る男性を見る。

 その男から解るのはまず、この国の人間では無い事だ。

 アストレイト王国兵士の標準装備とは形状が違う。

 男は兵士というより軍人という言葉が似合いそうな服装だった。

 歴史の教科書や映画で見た、近代の軍服に非常に酷似している。

 軍服をよくよく観察してみれば、心臓部分に二対の剣と竜が施された紋章があった。

 あの紋章は、どこかで見たような。

 確かあれは、


 帝国の――


「それで、このような夜分に何のご用かな。帝国の使者殿」


 バルトラがゆっくりと口を開いた。

 口ではこう言っているが、バルトラの顔は既に相手が何を言うか解っているように見えた。

 男はバルトラの問いを吟味するように少し間を開けてから話し始めた。


「まずは、急な訪問に対して謝罪を。私が此度この地に参ったのは貴国。いえ、貴国のみならず全人類に対して報告したき義がございます」


 男は丁寧な口調で言葉を紡いだ。

 全人類、という単語を聞いて場の何人かが空気を飲んだように感じた。

 

 ――帝国。

 正式名称、パルファノウス東連邦国。

 千五百年もの歴史を持つ大国家。

 元は小さな軍事国家だったが、周辺の国を取り込んで今や大陸の三分の一を支配する最大国家。

 人口は五億を超えており、国民の大半が戦う力を有しているのだとか。

 史実には、帝国が他国との交易、条約を結んだという記録は一切ない。

 つまり、飢饉や大災害などもあっただろうに、帝国は千五百年もの間、自国消費で全てを賄ってきたという事になる。

 敗北したという記録も勿論無し。その逆は星の様にある。

 それから、軍事国家であると同時に、半宗教国家でもあるようだ。

 これに関しては情報が少ないため定かではない。

 

 大図書庫から得た帝国の知識はこの程度だ。

 

 いや、まだ一つあった。

 聖戦。

 帝国が人類国家に対して侵攻してきた大きな戦い。

 その時も、帝国は各国に対して宣戦布告を……。


(まさか……まさか…………)


 私が思考していたときも男は言葉を紡いでいたようだ。

 私は再び男の言葉に耳を傾ける。


「――私どもの用件。もうお気づきでしょう。



 ――聖戦の再会。千年前の戦いを再現することを、ここに宣戦布告させていただきます」


 この場に居る者全員に緊張が奔った。

 全員脂汗を流し、張り詰めた空気が漂う。

 バルトラが何かを言う前に、男は再び口を開いた。


「勿論、今ここで降伏していただいても結構です。その場合は、貴国の王侯貴族は皆処刑されてしまいますが、よろしいでしょうか?」

『……………っ‼』


 ここで部屋の中は重厚な殺意が支配した。

 四団長は勿論、王を守る近衛にとってはその言葉は禁句だった。

 

 まあ、その言葉に最も憤慨したのは私だが。

 王侯貴族は処刑。

 つまりそれはアウロラは愚か、マーガレット、マリア、ユーリも殺されてしまうということ。

 私の知り合いに貴族が多い事が災いだった。

 あまりの怒りに無意識に奥歯を噛みしめた。

 今までの人生でここまで怒ったのは初めてかもしれない。


「――では、遠慮無く抵抗させてもらおう」

「そうですか。非常に残念です。では、開戦は一ヶ月後。せいぜい足掻いてください」


 男は全く感情が籠もってない声音で告げ、応接室から出て行った。

 ドアが閉じられてから、数秒。沈黙を破ったのはドイルだった。


「――さて、それではありがたく、一ヶ月間戦争の準備をしよう」

「だが、何故帝国は一ヶ月も待ってくれるのだ? 正々堂々の言葉も知らなそうだが」

「それだけの自信があるんだろうさ。一ヶ月も待たないで準備も整っていない国を制圧すれば、いずれ反乱が起こるだろう。だが、相手の万全を待ってそれを打ち倒せば、反抗する気力も沸かないだろう。まあ、帝国としては今始まっても問題はないだろうが」


 セレナの問いにドイルは淡々と答える。

 それから、心底つまらなそうな表情を作る。


「あの兵には情報伝達の魔法が掛かってあった。恐らく、死んだ瞬間に発動する魔法だ。兵を殺せば帝国は正当防衛とし、一日と待たずに襲ってくるだろう。準備を何もしていない我々に向かってな。さっきお前達が飛びかからないかヒヤヒヤしたぞ」

「ああ。確かにあれは死んだ瞬間に発動する魔法だったわねぇ。ハンス辺りが暴れ回らないかヒヤヒヤしたわよ」

「おいおい。流石にそれくらいオレでもわかるぜ。……多分」


 情報伝達の魔法……。

 つまりあの兵士は、ある意味捨て駒だったのだろう。

 ますます帝国が気に入らなくなってきた。

 

「――さて、彼我の戦力差を比べたいところだが、なにぶん此方は帝国の実力を知らない。だがあちらは――」

「先日の魔王襲撃によって実力を知られている、か」

「そうだ。帝国の実力が未知数な以上、他国の協力が欲しい。既に国交を結んでいる国は恐らく戦力を貸してくれるだろう。後は強力な後ろ盾が欲しい。例えば、エルフとドワーフ、だ」

「エルフは魔法大国。ドワーフは技術大国だからな。どちらも軍事国家としては強力だ。だが、此方の要望に応じてくれるか……」

「どっちみち、帝国と隣接しているのは我が国だけだ。我が国が突破されれば、あちらにも被害が及ぶだろうから、一考はしてくれるだろう」

「交渉に向かう人員はどうする?」

「舐められないためにも実力のあるやつ、それから権力者がいいだろう。各騎士団から一名引き抜こう」

「あら。それならこっちはマリアを推すわ」

「ではこちらからはユーリを出そう」

「ふむ……。少々頼りないが、こちらはマーガレットだ」

「じゃあオレは……嬢ちゃん。そんな期待の目を向けなくても、お前を選ぶつもりだったよ」


 そう言って、ハンスは苦笑した。

 おっと、そんな顔をしていたのか私は。

 話に着いていくのに必死だったが、マリア達の名前が出てから『行きたい!』という欲が全面に押し出されてしまったようだ。

 

「あら……。キノなら文句は無いわ。三人とも仲が良いみたいだし、私は賛成よ」

「そうだな。キノなら安心だ」

「……多少の不安は残るが、意義は無い」


 何故か団長方からの信頼が重い。

 

「が、頑張ります……」


 皆の視線を受け、語尾が尻すぼみになってしまった。

 久しぶりの人見知り発動。

 

「話は決まったようじゃな。キノ、主等に重要な役割を押しつけてしまってすまないな」

「い、いえそんなこと……」

「それから、こちらからも一人指名させてもらおう」

『?』

「アウロラも連れて行け」

『⁉』

「お、王よ! それは危険では……?」

「アウロラの病は治ったが、あやつはまだ城から出たことが無い。良い機会じゃ。未来の女王として国とのつきあい方を学びに言った方がいいじゃろう」


 バルトラの言葉に皆絶句しているようだ。

 かく言う私もその一人。

 アレンが慌てて反論しようとしたが、わりかし利に適っているため押し黙った。

 

「まったく、王のギャンブラー気質には困ったもんだぜ。キノ、王女様を守れるな?」

「は、はい! この命に代えても守ります!」


 ドイルは頭を抱えて唸っていたが、諦めて表情を改めた。


「――よし。キノ達はエルフとドワーフの国に半月以内で同盟を結んでこい。残りの者は戦略を練るぞ。では、解散!」

『了解!』


 そう言って、各々部屋を飛び出した。





 △▼△▼△▼





「――という訳なんだ。アウロラ、寝起きで悪いけど、準備してくれない?」

「――外国に行けるの?」

「うん。共同戦線を結びに行くためだから観光は出来ないけどね」

「行く! 私も行く!」

「オッケ。遠出中の着替えはもう準備してあるから、着替えて行くよ」

「うん!」


 次の日の朝。

 アウロラの説得に簡単に成功した私は、アウロラを着替えさせ、マーガレット達が待つ馬宿に向かった。

 マーガレット達は荷物を馬車に移している最中だったが、私を見て一瞬作業の手を止めた。

 

「キノさん、おはようございます!」

「うんおはよ三人とも。準備はもう出来てる?」

「十全に。後はこれを乗せるだけです。アウロラ様、お初にお目に掛かります。クロード家長男、ユリウスでございます。ユーリとでもお呼び頂ければ」

「ええ、よろしく。そっちの二人はマーガレットにマリアね。三人のことはキノからよく聞いてるわ。キノったら、人のことを話したら三人の名前ばっかり出てくるのよ」

「「「へ、へえー……」」」


 アウロラがクスクスと笑い、三人はチラチラとこちらを見てくる。

 やめて、アウロラ。恥ずかしい。お姉ちゃん恥ずかしいよ。


「話を聞いてたらわかるわ。キノはね、三人のことを話すときが一番楽しそうにしてるわ。三人のこと大好きなのね」

「「「へえー」」」

「……や、やめて…………。見ないで……………」

 

 あまりの羞恥に蹲って顔を覆ってしまった。

 何故私は度が始まる前にこんな辱めを受けなければならないのか。

 いや、三人が好きなのは否定しない。

 

「ほ、ほら! 速く行くよ! 一番近いエルフの国でも三日はかかるんだから、ほら乗った乗った!」

「「「「照れてる?」んですか?」」」

「うっさい!」


 四人を馬車の中に押し込む。

 馬車は最高品質で、座席はフカフカでまったくお尻が痛くならない。

 揺れも少ないのだとか。

 先頭の二頭の馬は魔法道具で強化されているので、普通なら一週間かかるエルフの国まで三日で到着できるのだ。

 

「さて、行こうか。目指せ鬼ヶ島!」

「「「「おー! ……鬼ヶ島って?」」」」


 若干締まらなかったが、ユーリが操る馬は物凄いスピードで街道を駆けていった。



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