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異世界行って、騎士団長やります!   作者: 神崎冬花
人魔衝突編
53/64

45話 狂いゆく歯車

胸糞注意です。

 △▼△▼△▼



――ん~。ひっさしぶりに暴れてスッキリしたわ。


……かってなことして。乃愛に怒られるよ?


――今回はむしろ助けたと言っても過言じゃ無いから、むしろ褒められると思うけどなぁ。まあ、ちょっと相手を舐めすぎた感はあるけどね。私には関係ないけど、多分そこそこ面倒な事になるかなぁ。


……なにがあったの?


――まあ、なんかあったって言うか。やらかしたって言うか。端的に言うとしたら。




――あの魔王、まだ死んでないよ。





 △▼△▼△▼





『あいつは異質だ。種族としての垣根を越えた力、知性。全てが異質だ』

『あいつに近づいただけで同胞が凍死した。あいつには近寄るな』

『此方に寄るな。目を合わせるな。貴様は』





『『『異物だ』』』





 ――あぁ、そうね。だから私。『普通』に“嫉妬”したんだわ。



 魔王レヴィアタンは、元はリヴァイアサンだった。

 リヴァイアサンは発生も少なく、最上位に危険な魔物でもある。

 その中でも知性を持ち、他を寄せ付けない魔力を持つレヴィアタンは、雄を引きつける美貌を持ちながら何百年も孤独な生をおくった。

 今から二百年程前に人の姿になる術を身につけ、それと同時に“魔王”としての資格も有した。

 『嫉妬の心』は『嫉妬の魔王』となり、名実ともに最強の一角となったのだ。

 魔王になれば、最古の魔王から招集がかかる。

 それは新たな魔王の誕生を祝う神聖な儀式。

 世界に新たな魔王が生まれたと、周知させるためでもある。

 レヴィアタンは招待には応じたものの、当初は他の魔王を軽んじていた。

 最強の魔物の突然変異種の自分が魔王になれば、間違いなく自身が世界で一番強いという自負があった。

 そんな自信は、ある一人の男を目にしたことによって粉々に砕け散ってしまったのだが。 

 神と錯覚してしまう程の圧力。大鷲の様な翼。

 一目見てレヴィアタンは、今まで自分が抱いていた嫉妬の心が消え、満たされていくのを感じた。

 レヴィアタンの強さの根源であった嫉妬が半減してしまい、レヴィアタンは弱体化してしまったのだ。

 それでも、彼女は男に恩義を感じてすらいた。

 男に救われたことによって、彼女は影ながら男の目的の助けとなるように、今回の襲撃を決行したのだ。

 それも失敗したのだが。

 格下だと侮っていた相手が、一瞬で自分を軽く凌ぐ膂力を手に入れ、自分を追い込んだことが断じて許せなかった。

 霧散していた嫉妬は再び再燃し、魔王としての威厳を守るため、自身を神に仇を為す【神獣】として覚醒させた。

 その力は間違いなく最強なのだ。

 最強だったはずだ。

 それなのに、敵に傷の一つも付けられずに終わった。

 ただの人間に。

 勇者でもない少女に、だ。

 惨めだった。

 心底死にたくなった。

 

 


 それなのに。


「――なんでまだ生きてんのよ……」


 レヴィアタンの呟きは闇に反響して消えた。

 自身の声が木霊したと言うことは、自分は洞窟かどこかに居るのだろうと考える。

 全身に奔る激痛を無視し、仰向けの状態から起き上がる。

 黒いドレスは跡形も無くなり全裸ではあるが、レヴィアタンは羞恥を感じることも無く、自身の身の内から溢れ続ける憎しみを地団駄とともに発散させた。

 地面は大きく陥没し、天上からパラパラと石の破片が落ちてくる。

 失敗した。

 全戦力を投入しても及ばなかった。

 この失敗を他の魔王に知られたら失墜は免れないだろう。

 だがそんなことはどうでもいいのだ。

 今は溢れて止まないこの憎しみと力への嫉妬をどうにかしたくてしょうがなかった。

 

「――そうよ。私は嫉妬の魔王、レヴィアタン。あんな雑種に負けるなんてあってはならないのよ。あんな下等種に、あんな、あんな……!」


 あまりの怒りに頭が上手く回らない。

 空間はレヴィアタンの魔力にあてられ歪み、地面の中の微生物は次々と死に絶えていった。

 失われていた魔力が急激に上昇し、遂にはピークを越えてしまった。

 今になって、敗北した今になってレヴィアタンは全盛期の力を取り戻したのだ。

 その魔力量は今までとは段違いであり、レヴィアタンを魔王たらしめた実力が戻った瞬間だった。

 

「……そうね。まずは城に戻ってもう一度態勢を整えるのよ。手駒の大部分は消えたけど、今の私なら兵の再召喚も手早く終えられる。……あの羽虫は私が必ず――!」

「殺す、か?」

「⁉」


 暗闇の向こうから低い声が発せられた。

 激昂していたせいで冷静さを乱していたとは言え、魔王であるレヴィアタンが人の接近に気づかないはずがない。

 それに、レヴィアタンにはこの声に聞き覚えがあった。


「……貴方、よくノコノコと私の前に出てこられたわね。この私に虚偽情報を教えるなんて、よっっっっぽどお高い自殺願望があるようね」

「裏切ってはいない。教えた情報は最初は本当だった。だが、奴等が思いの外接近に速く気づいてな。しょうがないからお前をきった。()()()()としてはどっちが滅んでも都合がよかったんでな。……まったく。わざわざ感覚を鈍らせる結界を使っていたのに、まさかバレるとはな」

「ふーん。それで? せめてもの懺悔に私に殺されにきたのかしら?」


 男はレヴィアタンの話を聞いてる様子では無い。

 男は顎に生えた髭をさすりながらポツリと呟いた。


「……しかし、魔物とはいえお前は美しいな。俺があちら側の人間でなければ犯した後に殺したんだが……。まったく、我が国の教義を初めて呪ったよ」


 男は身の毛もよだつような事を口走り、レヴィアタンの秘部と胸部をなで回すように眺め始めた。

 レヴィアタンはあまりの嫌悪感に初めて体を手で隠し、怒りを含んだ微笑を浮かべた。


「ここまでくると怒りを通り越して笑えてくるわね。人間如きが私と交尾した後に私を殺す? あまり笑わせないでくれるかしら。うっかり初撃で殺しちゃうわよ?」

「嗚呼、唯一神クロノスよ。何故、何故人間より魔物の方を美しくしたのでしょう。信仰深い私には魔物を性欲の捌け口にするなど到底出来ません。嗚呼、神よ、お許しください」


 男は尚もレヴィアタンの言葉を無視し続けた。

 最強である自分の言葉を無視したこと、人間風情に軽くあしらわれていること。

 そして、そんな下等な生物の戯言に腹を立てている自分自身に酷い怒りを覚えた。


「――そう。そんなに交尾がしたいのなら半殺しにした後“色欲”に貴方を預けることにするわ。あいつは男でも女でもお構いなく抱くし、酷い拷問趣味もあるのよ。きっと可愛がってくれるわよ?」

「そうか。なら、俺もせめてお前で折檻してやろう。俺も拷問趣味があるんだ。お前が痛みと恐怖で命乞いをし、失禁する姿を想像するだけで興奮が止まらんよ」

「排泄物愛玩者かしら? 悪いけど私は半精神体。あんたら人間が必要とする行為の大部分が不要なのよ。そして――」


 レヴィアタンは言葉を区切り、五指を男に差し向けた。


「――命乞いなんて言葉なんか知らないわ!」


 レヴィアタンの指から放たれる必殺が込められた魔力弾。

 躱すことは愚か生存は不可能。

 それなのに。


「邪魔だ」

「な、相殺した⁉ くっ! あんた、実力を隠してたのね」

「別に隠してたわけじゃ無い。お前が気づかなかっただけだ」

「へーそう。ならこれは――⁉」


 不意に背中から激痛が走った。

 慌てて振り返れば、男と同じ制服を着た兵士が射出した後のボウガンを持っていた。

 キノの一撃を受けてかすり傷しか受けず、更に本来の実力を取り戻したレヴィアタンに痛みを与えられる者などいないはずだ。

 ()()()()()()()()()()()()()()()

 

「これは、毒針⁉ こ、この程度の武器で……⁉」

「どうだ? 痛いか? それはよかった。それは我が国で開発中の対魔物のための兵器なんだが。思っていたより大ダメージのようだな。これは技術班に良い報告ができそうだ」


 半精神体であるはずの自分が麻痺毒で動けない。

 それはもはや言葉で形容出来ないほど屈辱だった。

 

「いや、違う。精神体にただの毒が効くはずが無い。これは、これは――!」

「ほう? 中々勘がいいな。そう。この針はただ相手に毒を流し込むだけの道具じゃない。精神体っていうのは魔力で体を構築してる。だから攻撃は物理じゃ適わないし、魔法も通じはするが効果が薄い。それで技術班はこう考えた。『なら精神体を一時的に物質体にしてしまえばいい』ってな。当初はそこかしこから馬鹿にされてたさ。出来るはずが無い、と。俺も出来るはずがないと思っていた。だが奴等は完成させちまったんだ。相手の脳に自分の体は魔力ではなく肉で出来ていると、強制魔法で無理矢理刻ませるんだ。それを悪魔で試したらなんと成功したんだよ。御陰で技術班の地位は右肩上がり。技術班に投資される費用は今までの何倍にも膨れあがってな。……おっと、話しすぎたな。その魔法毒は四分しか持たないんだ。さて――」


 男はレヴィアタンの髪を掴み自分の視線にあうように持ち上げた。

 男の目は発情した獣のようで、飢えた肉食獣のようだった。

 それを見て、レヴィアタンの体は小刻みに震え始めた。


(私が……私が、恐怖している? ただの人間に?)


 それは断じて看過出来ない事態だった。

 レヴィアタンの心情を察したのか、男は嗜虐的な笑みを浮かべ、レヴィアタンの耳元に口を近づけ、呟いた。


「――人間が必要とする大部分が不要、だったか? なら物質体になった今はどうだろなぁ? 俺の気が済むまでいたぶらせてもらうぜ」






 △▼△▼△▼






「――――百三十六回目、と。おーおー、さっきまでの美貌が台無しじゃねえか。ゲロと小便まみれで、ようやく俺の好みな羞恥体になったじゃねえか」


 レヴィアタンは体のそこら中を殴打され、毒が切れてくる度に再び毒を投与され、一切の抵抗が出来なくなっていた。

 

「――――――――――――さっさと殺しなさい…………」

「おー? やっぱ命乞いはしないか。まあいい。充分楽しめた。それじゃあ、俺の進化の礎になってくれ」


 そう言って男はレヴィアタンの体を食いちぎり始めた。

 体中から血が飛びで、意識も千切れていく。

 レヴィアタンは死に始める思考の中で、ただ願った。

 神を憎む魔王が、初めて運命に願った。





(どうか、どうか。この世界に地獄を。憎しみを、血を、恐怖を、殺人を。終わりゆく世界に喝采を。狂いゆく世界に絶望を。この世界に、狂乱を――)





「ふぅ。ゲロと小便まみれで糞不味かったな。まあいい。これで俺はまた強くなった。陛下に報告に行くか」


 そこにはナニも無かった。

 血の一滴すら貪り尽くされ、ナニも存在していなかったかのようだ。

 男は転移で自分の国に部下を率い去って行った。







 レヴィアタンの望みは、叶ったといえる。

 叶った、というよりかは叶うである。

 それも、より絶望が蔓延する方向で。







 狂い始めていた歯車は、今、完全に。





 時計から弾け飛んだ。


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