44話 終戦祝い
そろそろ新作書こうかなと思ってるけど二作同時連載とか失踪する予感しかしないし、新作が個人的にイセキシより面白いから速く書きたいという悪循環に悩まされてます。
後今回ネタがてんこ盛りです。
唯々文字を書き続ける時間に幸福を感じる人間は果たしてどれくらいいるだろうか。
私は少なくとも幸福は感じない。
授業のノートだって、黒板に書かれていても自分が解っていればわざわざ書き写す事はしなかった。
そのことに何の魅力も感じなかったからだ。
受験勉強だって解っているところは問題集を使う事などしないし、精々参考書を読み返すくらいだった。
まあ結論から言えば、面倒くさい事は極力したくないのが私という人間だ。
そんな私は今人生二度目の徹夜を刊行している。
あぁいや、徹夜二日目だから三度目だ。
例の魔王と童子丸の攻撃手段や生態、恐ろしさを事細かく書くというのは存外時間が掛かる物だった。
目の下に薄ら隈を作りながら、羊皮紙を余すこと無く文字で埋め尽くす。
机に散乱した紙を割り振った番号順に並び直し、誤りが無いか確認していく。
一枚を何周も見返し、可笑しなところが無い事を確認して紙を裏返しにし、机の上に置く。
無表情で淡々とその作業を繰り返し、最後の一枚を積み上げた紙の上に置いた。
もう一度紙の束を手に取り、パラパラ漫画のようにして最初の一枚から最後の一枚を特に意味も無く周回する。
今度こそ間違いが無いことを確信し、ついつい机の上に乱雑に紙の束を放り投げてしまった。
綺麗に集められていた紙は何枚か飛び出たが、床に落ちることは無かった。
肩を上に伸ばし、右、左の順に肩を解していく。
クゥウーッと、歯の間から息が漏れる。
「………終わったーぁああぁあああ」
半ばうめき声になった声は部屋に反響し、消えていった。
私はノールックでベッドにダイブする。
高級品質のベッドは私を優しく受け止め、包み込む様に沈んでいった。
寝れる。今なら十秒で寝られる。
眠気の天使が私の体を天に連れて行く前に誰もいない部屋でポツリと呟いた。
「オヤスミ……」
私の意識は暗黒に包まれ……。
「キノー。起きてるー?」
……る直前にアウロラの声に引きずり落とされた。
実際には私はベッドの上だが、私を攫いに来た天使達が次々に爆撃されていくのが見えた。
さらばだ。また会おう。
「キーノー。おーきーてー」
ユサユサと私の体を毛布ごと揺らすアウロラ。
いつもなら起きるところだが、今回の私は手強い。
爆死したはずの天使が死者蘇生で墓地から蘇ってきた。
やあ、さっきぶりだね。
「ラ〇カル……お姉ちゃん疲れたよ――」
「ラス〇ルってなに?」
私はかの有名な名言を言って……。
あれ、ラスカ〇は違うな。
〇スカルはレッサーパンダの方だ。あれ名前ど忘れしたぞ。
ぴ、ぴ、ピン〇ー? いや、ピ〇グーは違う、これはペンギンだ。
あ、そうだフランダー〇だ。あれ、これ犬の名前だっけ。違う気がするぞ。
もはや何を考えているのか自分でも解らず、毛布を頭から被る。
「オヤスミ」
「あ! キノ起きなきゃ駄目だよ! ハンスさんが呼んでたよ!」
「――――」
アウロラが何を言ってるかよく聞こえない。
私の意識が落ちる寸前、本棚の方角からゴソゴソと音が聞こえた。
……本棚? …………本棚⁉
「これがパンドラの本なのかな。えぇと、『真冬の朝の初夢』?」
「それだけはダメエエエエエエエエ‼‼」
ガバッと跳ね起き、アウロラから本を引ったくる。
あ、アッブナ! ガチのBL本引き当てちゃったよこの子!
この本は日本で流行った? 例のタイトルに凄い似通ってたから手に取ってみた本だ。
流石に同じ内容では無かったが、私を充分満足させてくれる作品だったのは認める。
今ので完全に目が覚めた。出来ればこんな形で目覚めたくなかったけど。
「キノ、ハンスさんが呼んでたよ」
「あ、ホント? ありがと。後本棚勝手に弄らないこと」
「ハーイ」
本当に反省しているのだろうかこの子。
私はひとまず物質収納に本を仕舞い、羊皮紙の束を持ってハンスの元に向かう。
意識していなかったが、今はもう夕方だった。
それに、街の外からの喧騒がいつもよりずっと騒がしい。
「……あ、戦勝祝いか」
思考が答えに辿り着くのと口に突いて出たのは同時だった。
そう言えばハンスは三日後に戦勝祝いをやると言っていて、それからもう三日経ったのか。
ハンスから聞かされたのはまあ何というかやっぱり宴をするから大宴会場に集まれということだ。
前回は兵士も街で宴をしていたが、今回はデカイ戦争だったので住民もお祭り気分にさせても良いだろうと言うことらしく、今回の戦いで活躍した者や階級の高い者には城内にある大宴会場を用いるらしい。
後の兵士は例の如く街で騒いでいる。
騒ぐのは兵士だけで王族貴族は「よくやったー」的なことを言ったら引っ込んでいった。
アウロラが心配だったが、家族水入らずの食事もたまには必要だろう。
そういうわけで私は遠慮無く盃を……。
「キノさん。前回の失敗を忘れたんですか?」
「そうですよ! キノさんはお酒に凄く弱いんですから!」
「ほら、グレープジュースならありますよ」
マーガレット達に止められた。
解せぬ。
解せぬがしかし、しょうがないか。
私はしょうが無くグレープジュースをチビチビと口に運んだ。
宴会場の最奥には四団長が座っている。
四人で何か楽しそうに話している。
何を話しているんだろうと思いながら見ていると、不意にその四人が顔の向きを変え一斉に私と目が合った。
驚いて思わず顔を背けてしまった。
不敬だったか。だが何故四人とも私の方を見たんだ? もしかして私の事について話していたんだろうか。
私はマーガレット達の話に耳を傾けながら、そんなことを考えていた。
△▼△▼△▼
「――ふぐっ」
頭がガクッと揺れた。
右の手のひらを確認してみると、何かを押しつけたかのように肌色が赤くなっている。
どうやら頬杖をしたまま寝てしまったようだ。
寝ぼけ眼を擦りながら、宴会場内を見回す。
朝、ではない。窓から見える空の色は変わらず黒いままだった。
それから皆一様に眠ってしまっている。宴会が始まったときより人数が減っていることから、何人かは寝落ちすることなく自室に戻ったようだ。それか会場の隣に設備されている仮眠室に行ったか。
マーガレット達もいない。その代わりに私の肩には毛布が掛けられていた。
自分も仮眠室に行こうとしたが、「ふがっ!」っと鼻を鳴らす音が聞こえ、音源の方に振り返ってみると、ハンスが私と同じように頬杖を突きながら胡座をかいて眠りについていた。
ハンスは薄いシャツに短パンという休日のお父さん的な服装で、毛布もかけないで寝るその姿は端から見たらとても寒そうだった。
私は皆を起こさないように足音を殺しながらハンスに近づき、ハンスの肩に毛布をかけた。
ハンスが起きないのを確認してから、前屈みの状態から背筋を戻したとき、ハンスの口から何かがこぼれ落ちた。
「……むぐ――。もう少し……。もう少し寝かせてくれよ……。千夜――」
その名前に何の覚えも無かった。
何の覚えも無かったし、“私”は気にもとめなかった。
それを、“私”が 許さなかった。
「――づ、うぅ……!」
唐突に頭に電流が走る。
何か、ナニか、思い出す。
“私”じゃない。“わたし”であって、“ワタシ”の記憶じゃない。
どれだ。
誰の“わタ4”の記憶だ?
電光が大きく瞬き、光の隙間からブラウン管テレビで流したような映像が映る。
今回は、違う。
今までの様な断片的な、画像だけ貼って音声を流したかのような今までとは違う。
私は、ワタシは……!
※???※
「お、お前どっから入ってきた?」
「――お腹空いた」
「……はあ?」
「お腹空いた。お腹減った。空腹。飢餓感。栄養摂取要望。ご飯くれたら嬉しいな?」
「……要するに飯寄越せってこったな? あー、ちょっと待て。とりあえずパンやるから」
「水分補給大事」
「水寄越せってことだな⁉ 解りづれえから普通に喋れや! あー、くそ。んで? お前名前は? 何で俺の家にいるんだ?」
「名前千夜。理由はワタシも知りたいな」
「……つまり解らねえってことか。あー、俺の名前はハンス。よろしく?」
「ハンス。あー、ハンス。あー、よろしく。あー、ふふ♪」
「俺の口癖馬鹿にしてんじゃねえ! おらパンだ。口開けろ」
「無味。でも感謝。ありがとう」
「どういたしまして? んで、お前これからどうすんだよ?」
「未知な場所。どうしていいか解らない。…………」
「な、なんだよ。まさか泊めてくれって言うつもりか?」
「肯定。居候。ヨロシク」
「俺まだ許諾してねえんだけど⁉ あー、まあでもそこいらに放り出して怪しい奴に捕まってもめんどくせえなあ。……しょうがねえな。特別に住まわせてやる。ただウチもあんま金ねえからお前にも働いてもらうし、いつか出てってもらうからな」
「許諾。感謝。家事お任せ」
「ふうん。お前家事ができんのか。てか、お前が着てるその服なんだ?」
「着物。そういうそっちも見たこと無い服」
「あぁ? これはただの…………………――――――――――――――」
△▼△▼△▼
「――――――――う、」
視界がぼやけている。
周りがよく見えない。
ワタシは……私はキノ。
キノだ。キノなんだ。キノか? キノのはずだ。
瞳の焦点が合い始め、ようやく状況を確認出来た。
外は朝になっており、小鳥の鳴き声が聞こえる。
私はハンスの隣に横たわって眠っていた。
ハンスが起きてしまう前に会場から立ち去る。
私によく似た女の子。
童子丸は、その少女と私を重ねていた。
なら、ハンスも?
そう思ったら、なんだかその少女のことだけが見られていて、私を見られていない様に思えた。
それは、悲しいな。
うん。寂しいな。
私じゃ、その女の子の代わりを務められないから。
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