43話 戦の影響
ちょい下ネタが入ります。
目が覚めた。
訂正する。腹部に何か強烈な痛みを感じて目が覚めた。
喉の奥から「グッ!」とうめき声が発生してしまった。
恐る恐る片瞼を開けてみると、私の腹部に跨がって座る天使……アウロラがいた。
「キノ! 起きた⁉」
「…………どっちかというと起こされた――」
両手を使ってアウロラを太股の位置に移動させ、ノソッと上体を上げる。
視線を辺りに巡らせてみると、二年前からあまり使われなくなった私の自室。
ならこのベッドは私のか。
て言うか、何故私は自分の部屋で眠っていたんだ? 何だか記憶が曖昧だ。
「え、と……。私何してたんだっけ……?」
「忘れたの? キノ、戦いに行ってたんだよ?」
「戦い……? ……あー、思い出した」
そうだ。私は荒野に向かって、それから魔王と戦って、それから……。なんで私生きてるんだ?
あの技を喰らってからの記憶が無い。誰かが助けてくれた、のか?
私はアウロラの頬を撫でたり引っ張ったりして、今何を言うべきか思い出した。
「――ただいま。アウロラ」
「おはぅえりひゃひゃい、ヒノ」
何の抵抗もせずされるがままになっているアウロラを見ていると、何だか可笑しくなって笑ってしまう。
アウロラもフフッと笑って、私の頬を引っ張ってきた。
フニフニプ二プ二ムニムニムニムニムニムニ……。
二人で寝そべって互いの頬を弄り合う。
ヤバいな。この子のほっぺ柔らかすぎて癖になる。後十七分は触っていられる。人を駄目にするほっぺだ。
だが、悲しいかな。私には戦後報告を聞かなければいけないのだ。
思う存分頬を弄ってからベッドから起き上がる。
「んー……。アウロラ、ちょっと団長の所行ってくるから待ってて」
「わかった。あそこにある本読んで待ってて良い?」
「ん? あぁ別にいい……」
アウロラが本棚を指し示し、私は思わず許可を出そうとした。
そこで私は思い出したのだ。
あそこにはアレがある、と!
アレ、と言うのは俗に言う薄い本というやつだ。
漫画じゃなくて小説だから物理的には薄くは無いのだが。
……何でそんな物が置いてあるのかと思うだろう。
だが考えてみて欲しい。
私は今十八歳。
二年間もこの娯楽が無い世界で暮らしていて、何の障害も無く暮らせると思うか?
答えはNO、だ!
言ってはなんだがこちとら色々溜まる時期。
元の世界のような会ってすぐ関係を持つ様なフシダラな世界でもなければ、そんな大それた事が出来る人種でも無い。
特に去年、十七歳の頃はヤバかった。
三大欲求で一番強いのって性欲なんだなぁって思い知ったわ。
まあ、包み隠さず、益体も無く言ってしまえば。
こちとら処女なんだよ! そういうことしても別にいいだろ‼
こういうことだ。
だいぶ話が逸れたが、私は今窮地に立っている。
何とかしなけれ、アウロラがマーガレットとマリアの二の舞になってしまう。
脂汗がブワッと溢れ、私は咄嗟に言い訳を口にした。
「――そこの本を読んだら悪魔が解放されてしまうよ」
「ええ⁉」
「そこの本は祖父の代から受け継がれてきた我が一族秘伝の魔術の書……。我が一族の血を持たない者が開けてしまうと世界に災厄と不幸が撒き散らしてしまう。その名もパンドラの本、なんだよ!」
「そ、そんな凄い本が……。わ、わかった。ジッとしてるわ」
「ごめんねアウロラ。なるべく速く戻ってくるからね」
私はアウロラの頭を撫でて、近衛騎士屯所に走った。
あ、アッブネエエエエ!
咄嗟に私の中に眠る厨二病を覚醒させ、何とか危機を乗り越えた。
パンドラの本というのもあながち間違ってはいない。
読んでしまえば(私に)災厄が襲い、(私の人生に)不幸が起こり、(私の威厳を破壊する)悪魔が降臨してしまうのだ。
間違ってはいない。
とりあえず全部終わったら隠す場所変えるか。
その後屯所に向かい、ハンスから状況を説明してもらった。
戦は私達の勝利で、戦が終わってからまだ一日しか経っていない。
怪我人多数死傷者無し。
死亡した兵はいないが、重傷者が多くいるようだ。
被害は守衛騎士団と魔法兵団が殆どで、重傷者の中にはユーリもいた。
今朝方目を覚ましたらしいが、まだ体が動かないらしく回復術師団により治療を受けているらしい。
前回も三点同時襲撃の時もそうだが、アストレイト王国は本当に軍事力が高い。
こんな大規模な戦闘だったのに死人が出ていないのは魔法がある異世界様々だ。
戦いが終わったと言うことは、
「誰が魔王を倒したんですか?」
「……あー、それなんだが。途中まで嬢ちゃんが戦ってただろ?」
「はい。あ、言いつけを破って戦場に出てすいませんでした……」
「あぁ、気にすんな。むしろあそこで嬢ちゃんが足止めしてくれてなかったら国が攻められてた所だったぜ。それでだ、な。魔王は……俺等団長が倒した」
「やっぱり団長達が倒してくれたんですね! と言うことは魔王の技から私を助けてくれたのも団長達ですよね。ありがとうございます!」
「お、おう。あー、でだ。これから三日後くらいに戦勝祝いで宴をやるらしいんだが、ここで嬢ちゃんに二つ仕事がある」
私に与えられた仕事は魔王、レヴィアタンの攻撃手段と強さを事細かく羊皮紙に記載するのと、二年前色々あって有耶無耶になっていた童子丸の事も書かなければならなくなった。
何故今になって童子丸の事を書かなければならないのかわからないが、確かに魔王級の魔物の情報は知っておきたいだろう。
でも討伐された魔王の情報なんているのか? と言うか団長達が倒したんだから団長が書けば良いのに。
そのことについてハンスと話すも、どうも魔王に関しては歯切れが悪い。
何か嘘を吐いている気がするが、ここは触れない方が良いだろう。
羊皮紙を三十枚ほど受け取り自室に戻る。
本当はマーガレット達の元に向かいたいのだが、皆も忙しくしているだろう。
皆と会って話すのは祝いの時で良い。
アウロラの相手もそこそこに、私はデスクワークに移る。
異世界の文字を書くのなんて数える程しかないため、いちいちナビ子さんに助けてもらいながら時間を掛けて一枚ずつ埋めていく。
恐らく文書に残る物になりそうだから丁寧に、解りやすく書かないといけないため書いてはやり直し、書いてはやり直すを繰り返してしまう。
インクで書いているため直すときはいちいち新しい紙に書かなければいけないから面倒くさい。
私はこういう作業をしたら凄い時間を掛けてしまうタイプなので、気がついたら夜になっていることなんてザラ……。
「え、夜⁉ アウロラは……寝てるか」
アウロラはベッドの上で丸まって静かに寝息を立てている。
傍らでミュウも一緒に寝ており、二人で暇を潰していたが飽きて寝てしまったのだろう。
一度集中すると周りが見えなくなるのは悪い癖だ。いつも直そうと心がけてはいるのだが、直りそうにない。
恐らくもう八時は越えているだろう。
アウロラは一度寝たら朝にならないと起きないのでご飯を用意する必要はないだろう。
起きてくれないアウロラの代わりにドレスを脱がせ寝間着に変える。
小テーブルに置いてあったコップを取り、生ぬるくなった水で喉を潤す。
アウロラには隠してたが、起きたときから頭痛がする。
脳が無理矢理入れ替わったかのように、脳がねじ切れるかのように痛い。
脳に痛覚は通ってないのに、頭が痛いというよりかは脳が痛い。
それに、さっきから断片的にどこかの情景が思い浮かぶ。
前髪を一房掴み、視界に入れる。
蝋燭の火にすかしながら、私はボソッと呟いた。
「また白髪か……」
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