40話 交差
今回めっちゃ短いです……。ごめんなさい。明日も書きます。
風を切る音が横切っていく。
空を飛ぶ鳥たちを追い抜き、私はただ一心に戦場へと向かっていた。
本来私は王国で待機していなければいけないのだが、私への命令権はバルトラではなくアウロラにある。
もし叱責されたとしても構わない。これが私の性分なのだ。
予定されていただだっ広い荒野。周りには草木一本も無い。そんな風景が五キロは続いている。
恐らく荒野の中心地で戦っているはずなのだが……。
そう思っていると、地上に一人の人影を見つけた。
遠目からは見えないが、こんなところにいるのだから王国の人だろう。
私はそう判断し、降下を始めた。
地面に足を着け、人影の正体を確認する。
それは、思わず溜め息が出てしまうような美貌を持つ女性だった。
露出が多い黒基調のドレス。シミ一つ無い肌。髪の一本一本が上質なシルクのようだった。
女性は目の前に私が降り立っても驚いた様子は無く、どこかを虚ろな目で見つめていた。
思わず見とれてしまっていたが、この女性の事を確認しなければ。恐らく初対面だが、こんな美人を見忘れるはずが無い。
「あ、あの……! 貴女はアストレイトの人間でしょうか? 出来たら戦況を確認させて欲しいのですが」
「…………」
「あの、大丈夫ですか……?」
「…………話と違う」
「え?」
赤色の唇から発せられた凜とした声は、ありありとした怒りが込められていた。
今まで無表情だった女性は、ここで初めて私を視界に入れたような表情を作る。
「聞いていた話と違いすぎるわ。何なのよあんた達。まさかあの男、この私を裏切ったって言うの?」
「――――え。まさか、まさか…………」
動悸が速くなる。
意味も無く呼吸が荒くなる。
まさか、今。目の前にいるのは……。
剣の柄に手を掛ける。
「――貴女が、魔王……?」
「ええ、そうよ。私の名前はレヴィアタン。“嫉妬”の魔王、レヴィアタンよ」
瞬間。全身の神経が逆なでされたような錯覚に陥った。
吹き出てくる汗が凍り付く様な冷たい覇気。
レヴィアタンは私の恰好を見て、つまらなさそうに鼻を鳴らした。
「貴女みたいなか弱い女の子も兵士なの? 息を吹けば飛んで行ってしまいそうなのに。……それに、貴女からは妙な気配を感じるわ。懐かしくも忌々しい、天使の気配。目障りね」
レヴィアタンは私向かってに五指を拡げた。
レヴィアタンの右手の平に集中される魔力。
頭の中で警笛が鳴り響く。
動かなければ死ぬ、と。
なのに体が金縛りを受けたかの如く重い。
一歩一歩に全神経を使わなければ歩けもしない。
私の視界に無数のリングが出現する。
それは私の頭、胸、腕、腹、足、全身を狙ってきている。
死ぬ、死ぬ、死ぬ、死ぬ、死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ。
「――ぁ、グウゥッ!」
私はしゃにむに天使の翼を発動させ、愚直に上へ回避した。
私が飛び上がると同時に無数の魔力弾が私のいた空を切り裂いていく。
その内の一発につま先が擦り、空中でのバランスが取れなくなり地面に落ちる。
視界がグラリと揺れる。
死への恐怖はこれで、何度目だ?
わからない。あまりの恐怖で思考が回らない。
「哀れね。あまりの恐怖で立つことすら出来ないのね。消えなさい。そんな殺意すら無い小娘を相手にする気は無いわ」
レヴィアタンは私への興味を失い、私の横を通り過ぎていった。
その目は完全に私を視界に入れていない。
私、何しにここに来たんだっけ。
こんな恐怖を抱くために来た?
…………違うだろ。
これで終わるなんて私じゃ無い。
もはや何が自分の本心なのかわからない。
心は完全に恐怖でやられてて。それでも心のどこかで戦えと訴えかけてくる。
私が止めなきゃ。
魔王に全員やられたのか。
それとも魔王が単独で動いているのか。
わからない。
わからないけど、私が今戦わないでどうする。
立て。
剣を握れ。
叫べ。
敵を殺せ。
あいつは、
――敵だよ。
「――ぅ、あぁあああぁあああああ‼」
「……っ」
レヴィアタンの首筋を狙った斬撃は、すんでのところで躱された。
私を忌々しげに睨むレヴィアタン。
「この私の慈悲を足蹴にして……。そんなに死にたいのかしら?」
「……死にたくないよ。心底死にたくないし、今だって逃げ出したい。でも――」
私は逆にレヴィアタンを睨み返す。
そう、戦うのだって怖い。
何故自分がこんなことをしなければならないのか。
際限なく自分自身が問いかけてくる。
それに答えられる言葉を私は持っていない。
だが、これが私だ。
私は物語の主人公なんかじゃない。
負けるし、死ぬ。
それでも、今この場から逃げる理由にはならない。
「――自分を裏切って、嘘でしか生きられなくなるよりずっと良い‼」
「良い覚悟ね。なら望み通り殺してあげるわ!」
私の剣と、どこからか現れたレヴィアタンの鎌が交差する。
この瞬間。
この戦場の最後の戦いが始まった。
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