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異世界行って、騎士団長やります!   作者: 神崎冬花
人魔衝突編
46/64

38話 其れは決意の戦場

「怪我人をこっちに運んできてください!」


 戦線から幾分か離れた立地でテントを立てた回復術師団は、次々に運ばれてくる負傷した騎士達の傷を治すことに専念していた。

 マリアもその内の一人であり、回復系の称号を持っているマリアの元には多くの騎士が運び込まれていた。


「『治癒(ヒール)』!」


 黄緑色の光りに包まれた傷は、瞬く間に塞がっていった。

 痛みに声を漏らしていた騎士は、自分の傷が癒えたのを確認し、マリアに礼を言って再び戦場へと去って行った。

 マリアは小さく息を吐いた。

 負傷兵の数はますます増えてきている。

 今はまだ死傷者は出ていないが、それも時間の問題だろうと考え、杖を握る手の力が一瞬弱まった。


 マリアには最初、回復術士の才能は無かった。

 冒険者時代、自分の出番が殆ど無かった事を感じ、劣等感を抱いていたのだ。

 回復術士だからと自分に言い聞かせていても、そもそも魔法の効力が低いという事実に自信の無力さを嘆いていた。

 回復術師団に入った当初も、マーガレットの様に才能を発揮することも無かった。

 そんな中、団長のセレンが、


『貴女は大貴族らしく、とても質の高い魔力を持っているわ。でも、貴女は回復を機械的に行っている。それが貴女の最大の欠点なのよ。回復魔法は他の魔法とは違って、感情のあり方でも効果は作用されるわ。人を治す時は、他のことに気を取られたり、何も考えないで行っちゃダメ。患者のことだけを考えて、患者最優先、自分の周りにどんなことが起こっていても、治療に専念なさい。貴女は自分に個性が無いと思ってるのでしょうけど、そんなことはないわ。だってほら、貴女はちゃんと笑えるじゃない! それだけで良いの。それだけで、貴女は前を見て歩けるわ』


 患者最優先。他の事は考えず、治すことだけを考える。

 それを念頭に置いたマリアは、少しずつではあるが確かに成長していたのだ。

 自分には個性がない。

 それが悩みの種だったマリアは、まだ本当の自分を出し切っていないように思っていた。

 それでも、自分の力で誰かを癒やすことが出来るのなら――

 マリアは確かに成長した。だからこそ、こう言うのだ。


「怪我人はこちらへ! 大丈夫。絶対治してみせるから!」






 △▼△▼△▼






「――、ぉおおおおぉおおおおあああぁああぁあ‼」


 ズ、ジュブ。

 剣が相手の脇腹を大きく切り裂き、剣の所有者の横顔を真っ赤に染める。

 駆動騎士長の内の一体は体勢を立て直そうとするも、糸が切れた操り人形の様に事切れた。


「はっ、はっ、はっ」


 ユーリは激しく息を吸った。

 肺が酸素を求め、正常な息ができずにいた。

 三体いた駆動騎士長の内の二体は討伐し、残る一体にも手傷を与えていた。

 だが、ユーリは魔力が切れる前に体力が限界を迎えてしまったのだ。

 無論ユーリも只ではすんでいない。

 鎧は所々が凹んでおり、剣も幾つもの骨を断った影響で刃毀れが目立ってきている。

 持ってきていた三本の注射器の内二本はもう使用してしまい、残りは一本。

 ユーリは残りの一本を迷わず使う。

 それで一瞬気が楽になったが、遂に薬の副作用がユーリを襲った。

 

「づっ! くぅうぉおお……」


 脳や胃の中をグチャグチャにかき混ぜられる感覚。

 本来尽きていたはずの魔力を無理矢理回復させているのだから、休息を求めている体が無理な動きに耐えられるはずがなかった。

 左目の周りに血管が浮かび上がり、視界が左から朱く染まっていく。

 駆動騎士はそんなユーリを見て好機と思ったのか、ユーリの周りを高速で飛び回り始めた。

 疲労したユーリはその動きを捉えられず、残影が見えた場所に剣先を移動させてはまた残影が見えた場所に剣を構えるの繰り返しだった。

 

「くそ……。グオッ!」


 駆動騎士の槍がユーリの脇腹を掠めた。

 何とか貫通せずに済んだが、その衝撃に蹈鞴を踏んでしまう。


 尻餅を着かなかっただけ良しとしよう。

 そう考え再び剣を構えたユーリを襲ったのは、渦潮に巻き込まれたのではと錯覚するくらいの全方位からの攻撃だった。

 槍の穂先が鎧を掠め、身の毛も立つような音と破砕音を響かせる。

 ユーリは吹き飛ばされ、地面に体を着ける間もなく第二波が襲う。

 三回、四回、五回、六回、七回、八回、九回、十回。

 ユーリはもう方向感覚だけではなく、自分がどれくらい前に地面に足を着けていたかも忘れてしまった。

 

(あぁ……。痛いな。寒い。それに眠い。もう、自分が剣を握っているのかすら解らん)


 ユーリは心の中で、半分以上勝負を諦めていた。

 そして、冷たい風とは別の衝撃が左半身から感じる。


 痛くはない。いや、痛いのかもしれないな。

 恐らく地面に落とされた。

 ユーリに解るのはそれだけだった。

 自分が横たわっている場所が何故か湿っていることに疑問を感じる。

 それが自らの血だということに、ユーリは気づくことはなかった。

 駆動騎士はピクリとも動かなくなったユーリを見て、満足そうに睥睨した後、戦闘が続く場所へと振り返った。

 





『三人とも、死んじゃ駄目だよ』






「――――まったく。あの、人は。いつも無茶なことばかり言うな………」


 意識はある。体は動く。剣はある。

 それだけで充分だった。

 もはや自分が生に縋り付く亡霊なのか、人の形を成しているかは解らない。

 ただ、今自分に出来ることは、しっかりと認識していた。

 だから唱える。

 だから使う。

 目標は目の前。此方に気づく兆しは無し。

 体は限界。骨も何本か折れている。

 それでも、剣は折れていない。

 ユーリはゆっくりと口を開け、擦れた声を絞り出した。


「『我が声は風の恩寵。我が目は天の恩寵。死してなお我が剣は折れず。死してなお我が剣は応えず。それでも我が意志は消えず。それでも我が遺志は死なず。其れは導き。其れは断崖。碧き皇は星を見た。これは、碧き剣が為す王道』」


「“碧き皇は星を見る(ディ・エリオス・イレ)”‼」


 それはユーリが行き着いた現段階の極致。

 碧き光の様な風が剣から溢れ出し、二メートルを超える巨躯の駆動騎士を易々碧い光が飲み込んだ。

 その光は一条の光線となり雲を突き抜け、やがて星の様に煌めき散った。

 ユーリは結果がどうなったのか調べることもせず、その場に倒れ込んだ。

 決して放すことをしなかった剣を空に掲げ、ユーリは呟いた。


「私は、強くなった」





 △▼△▼△▼





「くそ。態勢を立て直せ! 駆動騎士を懐に入らせるな!」


 指揮官が命じるが、足の遅い魔法兵団にとってその命令は酷だった。

 詠唱に時間のかかる第四階位から、詠唱が少ない第一階位に切り替えはしたが、明らかに迎撃数が減ってきている。

 多少駆動騎士の攻撃の足止めになる程度で、討伐には至らない。

 その間にも魔法兵は着々と数を減らし、遂には千名を切ってしまった。

 もはや隊列は意味を成さず。残った魔法兵は各自逃げ惑うようにして魔法を放っていた。

 その中でも、辛うじて駆動騎士と拮抗しているのはマーガレットだった。

 第一階位と第二階位を使いこなし、少しずつではあるが、駆動騎士を討伐していた。

 だが、いくら魔力消費量の少ない階位だとは言え、連発していればいずれ魔力が尽きる。

 第一階位を五発当ててようやく一体倒せるかどうか。

 このペースでいけば、後二十発で魔力が無くなってしまう。

 マーガレットは焦りで視界がぐらついている様な感覚に襲われた。

 迫り来る槍。

 それは死を突き付けられている様に思えた。

 脳裏にちらつくのはキノの死ぬなと言う言葉。


(ごめんなさいキノさん……。私、貴女みたいに強くないんです――)


 マーガレットは死を覚悟して目を瞑った。







『マーガレットの魔法ってさ。暴走してるように見えるけど、何かその暴走した状態が魔法そのものみたいだよね』


『ええと、上手く説明出来ないんだけど。暴走してる割には火球の形がちゃんとしてるし、失敗した、と言うよりかは既存の威力を逸脱出来た魔法』






――マーガレットだけの魔法。私にはそう見えるなぁ。






 マーガレットは無詠唱で第一階位魔法を放った。

 目の前まで迫ってきていた駆動騎士はまともに火球を喰らい、そのまま地面に落ちてしまった。

 いつか。キノに言われた言葉。

 二年前の魔法の暴走は失敗では無く、自分だけの魔法だった。

 そう考えると、マーガレットは前まで抱いていた自己嫌悪が消えたように感じていた。

 

「あれは失敗じゃなかった。あれは、私だけに出来ること……」


 マーガレットは二年前の自分に戻った気持ちになり、詠唱を始めた。

 パーティーの足を引っ張って、三人に迷惑を掛けていたと考えると、今でも嫌悪感で一杯になる。

 だが、それも今日で終わる。

 引っ込み思案で、自分に自信が無かった少女は。

 

 今日、初めて。

 この魔法は自分だけの物だと。

 自信を持って、言えるようになった。


「『火炎魔球・極ファイアボール・オメガ』‼」


 爛々と光り輝く杖から放たれたのは、二年前の比では無い火炎球。

 残り三十体まで減っていた駆動騎士達は、迫り来る圧倒的な大きさと火力の火球を回避することも出来ずに、全て蒸発してしまった。

 このマーガレットの魔法で、戦場に残っていた駆動騎士は全てこの地から消え去った。

 歓声が巻き起こる戦場で、マーガレットは一人、空を見上げ小さく呟いた。


「キノさん。私。ちょっとだけ、自分が好きになれました」




某日。二十一時三十分「よーし。三人分書き切っちゃおう!」

一時間後   ユーリ「『死してなお我が剣は折れず』」

         私「ごめんユーリ……。私の剣(マーガレットの分の話)は折れちゃったよ……」






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