37話 兄妹の戦い
「――ッ! 来るぞ‼」
ユーリは迫り来る海洋駆動騎士の軍勢を見据え、声を張り上げた。
海洋駆動騎士やリヴァイアサン等は、予定していた場所とは違う所に飛ばされた事にも気づかず、理性無き獣たちは唯々愚直にユーリ達の元に進軍してきている。
大地を這うようにして動いているリヴァイアサンとは違い、海洋駆動騎士達は空を駆けている。
ワニの様な見た目をしている魔獣に、鎧の様な鱗を持った人型の魔物が騎乗しており、かなりの速さで接近してきている。
ユーリは団長のアレンの立てた作戦を頭の中で反復させる。
『ハンス……殿の情報によると、敵の海洋駆動騎士はおそらく、空を駆る魔物らしい。空を飛んでいるとなると、守衛騎士団に出来ることは無い。だから、お前の出番だ。ユーリ』
ユーリは戦場の高揚感故に無意識に抜刀していた剣を鞘に仕舞い、腰を低くし構える。
ユーリを中心に風が巻き起こり、その都度発生した風が鞘の中に入り込んでくる。
限界まで精神を研ぎ澄ませ、ユーリは閉じていた瞼を見開き、剣を渦の様に勢いよく引き抜いた。
「“廻剣――嵐塔――”‼」
剣を振り切った後、戦場に幾つもの竜巻が出現した。
一つ一つの大きさはさしたる物では無いが、それでも空を飛ぶ駆動騎士達を巻き込むには十分だった。
鱗が擦れるような悲鳴を上げる駆動騎士達は、次々と墜落してきた。
今の一撃で、約八十体は撃墜出来たであろう。その中で仕留められた数が三十体ほど。
落ちてきた駆動騎士の騎乗魔獣は、悉くが絶命しており、本体の駆動騎士達と地上でも戦える様になった。
高度五十メートル程から落ちた駆動騎士達は、ユーリの攻撃と落下による衝撃で動けずにいる。
その隙を逃さずに、騎士達は突撃を開始する。
「ギギィアアアアアァァアアアァ‼」
首を斬られた駆動騎士は溜まらず苦痛の声を上げる。
だが、簡単には殺せず、駆動騎士は全員起き上がってしまった。
「くっ……。復帰が速いな」
魔力を激しく消耗し、動けずにいるユーリは駆動騎士の強さに舌を巻いていた。
当初の作戦では、先程の技で海洋駆動騎士の半分を落とすのでは無く殺す気だったのだ。
もしも死ななかった時に地上で戦闘という。今の状況はそのもしもだったのだ。
相手の半分も巻き込めず、落とした敵もまだ何体か健在。
ユーリは自分の力の無さを嘆くと同時に、真上に剣を突き出す。
ジュボッ、という音と共に、心臓部分を貫かれた駆動騎士が地面に横たわった。
魔力を消費し、動けなくなったユーリは、空を駆ける駆動騎士にはさぞや恰好の的だろう。
だが、
「ふぅ……。例え動き回れなくても、剣さえ振れれば充分だ。私を殺したければ、せめてその十倍の数で攻めてこい」
ユーリは膝立ちの状態から立ち上がり、空から此方の様子を窺っている駆動騎士五体に剣を向ける。
ユーリは勇者の素質がある。
それだけで、この不利な状況下でも活路があった。
勇者の種を得たユーリの実力は、今や二年前のキノをも凌いでいる。
ユーリがニヤリと挑発する様に嗤って見せると、駆動騎士達は喉の奥から不満気な声を上げ、常備している槍を構えながら突進してくる。
ユーリは笑みを引っ込め、最も近い槍の先端に、自分の剣の横腹を当て、剣ごと槍を横に流した。
心臓を貫こうとしていた駆動騎士は、捌かれるとは思っていなかったのか、咄嗟のことに突進の勢いを緩められずに槍を地面に突き刺してしまう。
それを見逃さず、ユーリは攻撃を受け流したときに移動した剣を、ちょうど直線上にあった駆動騎士の首に振った。
堅い鱗が弾け飛び、皮膚と筋肉に同胞の血で生暖かくなった鉄が侵入する。ガッ、と骨に当たった鉄は、一瞬勢いが弱まったが、すぐに骨を真一文字に切り裂いた。
駆動騎士は自分が何をされたのか、完璧に理解しながら、冷たい手に掴まれた心を保つ事すらできず息絶えた。
「――っ、おおあああああぁああああ‼」
間髪入れること無く突進してくる駆動騎士の攻撃を、全て受け流しと同時に相手を切り裂く。
気づけばユーリの足下には、新たに五体の死体が転がっていた。
油断すること無く、騎乗魔獣も仕留め、素早く真上を見上げる。
そこには先程よりも一際巨大な駆動騎士が三体。
槍も一本ではなく、両手に凶悪でありながら美しい色をした長槍が二本。
(なるほど。隊長クラスとでも言うべきか。これらを相手に動けないのは少し厳しいか……?)
ユーリは状況を整理し、懐から一本の注射器を取り出した。
中には蒼い液体。
ユーリはそれを自分の後ろ首に突き刺し、中身を体内に入れる。
その注射器の中身は液体化した魔力。
外界の空気に触れれば、たちまち蒸発してしまうような物だが、回復術師団が作り出したこの兵器は、魔力が無くなり動けなくなった状況では、とてつもない真価を発揮した。
無理矢理回復させた魔力の量は微量だが、それでも体は自由に動かせるほどに回復していた。
「っつ、すうぅ――よし。来るなら来い、化け物共が!」
ユーリは剣を握り治し、迫り来る駆動騎士に向かって剣を振り上げた。
△▼△▼△▼
「“廻剣――嵐塔――”‼」
「……お兄様、すごい……」
守衛騎士団より後ろに位置している魔法兵団の中で、マーガレットは小さく呟いた。
ユーリの姿は見えないが、目の前で起こっている世界の終わりのような光景を見て、自らの兄の実力を再確認する。
竜巻が消え去った後、空中にはまだ何体もの駆動騎士が残っていた。
(予定してたより数が多い……。でも、やらなきゃ!)
マーガレットは新調した杖を握りしめ、詠唱を開始する。
唱えるのは第四階位の火炎魔法、『爆炎大魔砲』。
直線上の敵を一切の痕跡も残さずに消滅させる強力な切り札。
だが、
「っ! こ、こっちにも来たぞー‼」
同僚の叫び声に思わず上を見上げる。
そこには守衛騎士団を無視して、魔法兵団に迫ってくる駆動騎士が四十体程。
今唱えている魔法では間に合わない。
そう判断したマーガレットは『爆炎大魔砲』の詠唱を止め、代わりに第二階位の魔法の詠唱を唱える。
素早く詠唱を終えたマーガレットは杖を向け、
「『火炎魔壁』‼」
地面に描かれた魔方陣から、炎の壁が出現した。
かなりの速度で突撃してきていた駆動騎士は炎の壁に触れ、炎上してしまった。
六体程巻き込めたようだが、被害を受けなかった駆動騎士三十四体は、炎の壁が無い場所に移動し、再び突進を開始する。
が、そのころには既に、他の魔法兵達が第四階位の詠唱を終えていたのだ。
『『爆炎大魔砲』‼』
放たれる無数の熱線。
駆動騎士の大半は、この攻撃で消し炭となってしまった。
攻めてきていた駆動騎士を全て仕留め、再び上空に目を向ける。
上空にいた百十体程が、警戒するように空中を彷徨っている。
魔法兵は後ろで詠唱を終えていた後続の魔法兵と素早く位置を変え、後ろで再び詠唱を始める。
やっていることはオーク戦と同じだ。
この繰り返しは、単純ながら強力だった。
地上の軍隊ならば、なんの被害も出さずに勝利できるであろう無敵の陣形。
だが、相手は空を飛んでいる。
再び放たれた熱線砲を受ける駆動騎士は何体かいたが、それでもまだ大半が残っていた。
幾度も繰り返すが、空中にいる駆動騎士は一向に全滅する気配はない。
無論。駆動騎士達もただ攻撃に晒されている訳では無かった。
「うわぁあ‼」
詠唱をしていた魔法兵の腕に、投擲された槍が刺さっていた。
見上げれば、何体もの駆動騎士が槍を此方に構えていた。
そして駆動騎士達は躊躇いなく、自分の愛槍を投げつけた。
そこかしこに被害が出始め、死傷者は出ずとも戦線を離脱している。
槍を投げ尽くした駆動騎士達は、槍を回収しに来ること無く、魔力弾を撃ってきた。
更に増える重傷者。
戦況は不利。
だが、マーガレットには秘策があった。
マーガレットは戦況を打破すべく、列を抜け出した。
くっそ微妙な所で終わってすいません……。
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