35話 勇者の苗
友人が小説を始めました。
私もアドバイスなどしたりしたので、是非見てあげてください。
作者名:世界の切れ端
題名:紅に咲く
「キノさん、顔色が悪いみたいですけど、大丈夫ですか?」
「あー、ちょっと寝付けなかったからかな」
早朝、五時。
私達は起床と同時に素早くテントをたたみ、軽めの朝食を取っていた。
正直言って気分は最悪だ。胸の辺りにモヤッとした物が燻っている様な気がして、口にしている非常食を吐き出してしまいそうだ。
水筒の水を口に含み、無理矢理飲み込む。
マーガレット達は私の体調を心配しているようだが、事実として万全とは言いがたいので無理に誤魔化す事はしない。
ここで私が迷惑を掛ける訳にはいかない。
いざとなったら一番小回りが利く私が、動けなかったら意味が無い。
ほのかに胃液の味がする喉に、温くなった水を再び投下。
軽く肩を回し、パンと手を叩く。
「よし。休憩終わり。午前中には登頂しちゃおうか」
「キノさん、体調は大丈夫なんですか?」
「正直良くは無いけど、行くしか無いっしょ」
「回復術士として、万全を期して欲しいんですが……」
「……心配してくれるのは嬉しいけど、私は大丈夫。ほら行くよ行くよ」
私は無理矢理マリアの制止を絶って、立ち上がる。
再び魔力のバリアを作る。
ここまでしたら三人は止める事はせず、それぞれバリアを張っていく。
心配してくれるのは素直に嬉しい。
だが、ここで甘えてしまえばナニか、よく解らないモノに侵されそうな気がして。
私は大丈夫なんだろうか。
そんな疑問が際限なく溢れ出てくる。
解らない。
今はそれしか言えない。
それもいつか解る日が来るだろう。
私は私。
それさえ覚えてれば良い。
△▼△▼△▼
歩いて何時間経っただろうか。
ただひたすら歩くというのは、とても苦だった。
なので私は――
「しぃあわぁせはぁ、あーるぅいーてこぉーなーい、だぁかぁらあーるぅいーていーくんだねぇ」
「それ何の歌ですか?」
「私の住んでたとこの歌」
日本の歌を口ずさみながら歩くことにした。
ぶっちゃけ選曲を間違えた気がしないでもないが、パッと浮かんだ曲がこれだったのだ。
後この一節しか知らない。
「あ、頂上が見えてきましたよ」
「ホントだぁ! 長かったー」
「マリア、まだ終わってないから気を抜かないでね?」
ユーリの言葉に喜びの言葉を上げるマリア。
それを窘めるマーガレットを横目に映しながら、頂上を見る。
確かに、今までと比べると目と鼻の先とさえ言える距離だ。
私達は山頂が見えてきたということもあり、自然に歩幅が大きくなる。
そして遂に開けた場所に着く。
そこにはシギル達の姿があった。
「うむ。想像してたよりずっと速かったな」
「てかすげえな。魔力でバリア張るって発想が出てこなくてめっちゃ時間掛かってた奴等ばっかだったのに、まさか一日で登ってこれるなんて……」
「バリア張る発想が出てきても、安定したバリアが張れるのに時間掛かった奴も多かったのにな」
「もうちょい苦しんで欲しかったね」
三人が口々に賞賛を送ってくれる。
カジマ? 知らない子ですね。
改めて山頂を見回してみる。
何も無い。
岩肌ばっかりで、文字通り岩山なのだが、明らかに人が手を付けた物があった。
遠目からでは判別しにくいが、人型の像の様に見える。
「さて、ではこれから称号の習得に移るぞ」
「なんでわざわざこんなクソみたいな所に呼んだのかって言うと、“あれ”が必要なんだわ」
ハルトマンが像に指を指す。
近づいてみると、その像は人間の女性であることが解った。
この女性の招待にいち早く気がついたのはマリアだ。
「これはまさか……クロノス様の……?」
「ああ。流石は僧侶だな。あれは唯一神クロノス様の女神像だ。あの像が称号を得るために必要となる」
そのクロノスの像は、まるで手に溜まった水を地面に注ぐような恰好をしている。
像を注意深く見ていると、マリアがシギルに促され像の前に跪いた。
私は近くにいたゾイルに尋ねる。
「あの……。あんなんでホントにいいんですか?」
「ん? ああ問題ない。見てな」
ゾイルに言われた通りしばらく眺めていると、マリアの体が仄かに光った様な気がした。
マリアは立ち上がり、こっちに近づいてくる。
「キノさん! 終わりました!」
「え? そんなのわかんの?」
「はい! 天からのお告げが来ました!」
それから詳しくマリアの得た称号について話を聞く。
マリアが得た称号の名は『大聖母』。回復系の効果が二倍になる称号だそうだ。
それから悪魔に対して優位性を取れるのだとか何とか。
かなり強くないか、これ。
ていうかチートじゃないかこれ。
こんなん戦力のインフレ具合が……。
そう思ったが、童子丸の事を思い出したら何だかそうでもない様な気がしてきた。
それからマーガレット、ユーリが儀式を済ませる。
マーガレットが得たのは『炎神の助力』。
火炎系統の魔法の威力が向上するらしい。
魔力を注げば魔法は威力が向上するので、それほど強くないかと思ったが、魔法使いにとってはかなり重要な称号だった。
私みたいな剣を使う例外がいるが、限られた魔力で相手を倒さなければいけない魔法使いには、少ない魔力で高威力が放てるのはかなり嬉しかったようだ。
ユーリだが、これがかなり凄い。
『勇者の種』という称号だ。
勇者は女神クロノスが定めた魔王と同じようなシステム。
ある条件を満たせば、勇者に覚醒するそうだ。
だが、『種』は絶対に覚醒する訳ではないようで、もしかしたら覚醒せずに終わるかもしれないらしい。
この状態でもかなり強いようなので、戦力強化になったのは確実だ。
――て言うか三人共強くなりすぎだと思う。
ぶっちゃけ三人は強い。
いくら四人の中では私が一番強いとは言え、魔法の腕ではマーガレットとマリアには遠く及ばないし、剣術なんてユーリに完全に負けている。
私が三人に勝てるのは、幾つものスキルで身体能力の底上げをしているだけであって、正直私達の間に差は無い。
それが今、完全に無くなった。
ユーリに至っては、もう勝てるのかすら解らない。
(威厳、無くなってきたなぁ……)
心の中で嘲笑と苦笑を合わせた表情を浮かべる。
私も像の前に跪く。
――そうだ。何を勘違いしていたんだろう。
異世界に人間が渡っただけで強くなる?
馬鹿馬鹿しい。そんなのただの妄想が具現化しただけだ。
異世界に渡って強くなれても、元の世界で現実になじめていなかったら力の使い方なんて解るわけが無い。
ただ有り余る力を持て余しているだけだ。
私が三人に抜かれたくないのは、それこそ異世界に来て得た力を持っても超えられてしまうのが怖いからだ。
そうじゃないと、自分自身を否定されてしまいそうで。
――私は弱い。
表面的な意味じゃ無い。内面的な意味でだ。
そうじゃなきゃ、友人達に追い抜かれるのに、こんなに憂鬱になるわけが……。
――ノイズが走った――
――おうおう、久しぶりだなぁ■■■■‼ 今度こそ殺しに来たぜえ‼‼
――貴女と私の理想は相容れない。悪いがここで、取りこぼしながら逝ってくれ。
――■■■■様っ、■■■■様っっっ‼
《称号を獲得。個体名:キノは『勇者の苗』を入手しました》
あぁ。
吐きそうだ。
△▼△▼△▼
とまあ、こうして二年が過ぎた。
『勇者の苗』は『種』とは違い、放っておいても必ず覚醒するという称号だ。
その御陰で無くなった差に少し余裕が出来た。
ぶっちゃけ最後の方の記憶が殆ど無い。
気づいたら王宮に戻っていて、隣でアウロラが寝ていたのだ。
ただ、変な夢を見るのは解っている。
その夢は、毎回見てきたかの様に鮮明で、まるで、誰かの記憶のようだった。
いくら馬鹿でも、ここまで来れば解るさ。
私は、異世界転移者――
――ではなく。
前世の記憶が蘇りつつある“転生者”だ。
最終回間近……なんかじゃ全然ないです。後百話くらいお付き合いを。
ブックマーク、ポイントよろしくお願いします。




