34話 選定の霊峰
ちょっと忙しくなってきたのでいつもより少なめです。
許してクレメンス。
この白い線の先は言ってみれば一種の結界だ。
外には全く魔力を漏らさずに、結界内には一般人には耐えきれない程の魔力が充満している。
人は魔力を使ったら、元に戻るまで自然回復を待つしかない。
その場合、魔力濃度が高い場所にいると魔力回復のスピードが上がる。
だがこの場所はあまりにも濃い。
人体に害を及ぼすほどに。
その結果が私とユーリの血涙等だ。
「な、なにこれ……。こんなの、とても頂上まで保たないよ……!」
常に魔力を消費し続けたらあるいは行けるかもしれないが、いつか集中力が切れたら絶体絶命だ。
私が思考を巡らせている間、マーガレットとマリアは何事かを話し合い、意を決した様に前に進んだ。
「ちょ、二人とも⁉」
「マーガレット、マリア! 戻ってこい!」
二人は私とユーリの制止も聞かず、歩みを止めない。
そして二人は白い線から先を越える。
二人も私やユーリの様に、魔力に体を侵される事は――
――なかった。
「え、なんで……?」
「やっぱり……。キノさん、お兄様! 魔力で体にバリアを張るんです!」
「体から熱気を放つ感覚で魔力を一定量、体を覆う形で放出し続ければ、自信の魔力が外界の魔力を阻んでくれるんです」
そういう二人に目を凝らしてみると、確かに魔力の様な物が二人の体を覆っている。
二人の体の境界線をなぞるようにして、所々にムラがある魔力。
その魔力は、二人の体の内から溢れる魔力も覆い隠しているのか、膨大な魔力を持つマーガレットですら微弱な物となっている。
私は二人が言うように、魔力を体全体から放出してみる。
だが、それだけではバリアとは言えない。
もっと均等に、そしてムラ無く魔力を放出しなければ。
そうして練習すること三分。
なんとか魔力のバリアと呼べる物が出来上がった。
マーガレットやマリアと比べると出来は悪いが、外界の魔力の影響はこれで受けないだろう。
それからユーリもなんとか魔力のバリアを作り出した。
魔法を使わない剣士なのによくこの短時間で出来たなと、素直に感心した。
「よし。無理しない範囲で行こう。体に影響が出始めたらすぐ報告すること。行くよ!」
「「「はい!」」」
△▼△▼△▼
「それにしても、よくあんなの思いついたね」
「あぁ。マリアの案なんですよ。結界に魔力を遮断する系統のやつがあるから、それを応用したらどうだ、て」
「どうですかキノさん。私も成長したんですよ!」
「うん。大金星だよマリア。お礼にナデリコナデリコしてあげよう」
「エヘヘ……!」
歩きながらマリアの頭を撫でる。
扱いが完全にアウロラのそれになってしまったが、嬉しそうだ。
私達が進む速さは間違いなく落ちている。
歩を進める度、魔力濃度が濃くなっていく。
踏み出す一歩が段々重くなっていき、比例するように口数も減っていく。
変わらない風景。消耗していく体力。
それに苛まれて、何か喋っていないと気が狂ってしまいそうだ。
気づけば日が傾き、月明かりが少しずつ存在感を増していく。
道中、何箇所か地割れのような窪みがあり、危険な所もあった。
これ以上進むのは危険――
そう判断した私は、三人にここで野営することを伝える。
「ですがキノさん。日をまたげば我々の残りの魔力量が減少する一方です。ここは多少無理をしてでも……」
「いや、それ以上に体力が限界だ。剣士の私とユーリはまだしも、マーガレットとマリアはもう限界だよ」
ほんの少しの魔力を放出しているだけなので、魔力は皆まだ余裕がある。
いくらゆっくり進んでいようと、後方支援担当の二人にこの岩山を登り続けるのは些か厳しかったようだ。
「あ、でも寝る時とかは流石に放出はやめれないよね。皆で徹夜する?」
「キノさん。その必要はないですよ」
学生時代。受験三日前くらいに初めて徹夜したことを思い出すも、マリアによって待ったがかかる。
マリアは私が疑問を放つよりも速く、答えを口にした。
「『聖臨断絶結界』」
マリアがそう呟くと、私達の周りを半径五メートル程の半円が覆った。
結界はまるで光りを受けて揺れ動くシャボン玉のように、結界の光りがユラユラと揺れている。
「これがさっき話していた魔力を遮断する結界です。この中ならバリアを解除しても問題ないですよ」
言うとおりに魔力のバリアを解くと、確かに外界の魔力の影響を受けない。
ようやく一息吐けた。
「あー……。水水……」
「非常食食べますか?」
「あー……私いらない。今食べたら吐きそう……」
「同じく」
「同じく」
「じゃあ私は食べますね」
ユーリはそう言って、某栄養携行食の様な菓子を取り出した。
この非常食は確かに栄養は取れるのだが、なにぶん味はしないし、口の中の水分を全部持って行かれるから今は食べたくない。
今回は本当に歩いただけで終わった。
途中魔物も出ることが無く、ただ登山しているだけだ。
これで終わるとは思えないが、これで終わってほしいとも思う。
「キノさん、テント立てましょうよ」
「あー……まだよくない?」
「さっきから返事適当すぎません?」
「あー……そうかも」
「ほらそれですよ」
「……じゃあ立てようか」
「はい」
マリアに言われ、重い腰を上げる。
『物質収納』からしまっていたテントを取り出す。
物質収納は最大十個、物を入れられるのだが、鞄に沢山入れれば一個としてカウントされることに気づいたので、実際はもっと色々入っている。
「便利なスキルですね、それ」
「でしょ? これと一緒に『衣装変換』ってスキルも覚えたら収納してた服が一瞬で着れるようになるらしいからいつか衣装変換も習得したい」
「普通スキルは覚えたくても覚えられないんですよ……」
マーガレットに呆れたような視線を送られたが、自分でも今の発言はどうかと思ったので気にしないでおこう。
※???※
――▇▇▇▇様。また外の様子を見てるんですか?
――うん。いつ見ても面白いからねえ。▇▇▇▇▇もどう?
――結構です。そんなことより速く仕事をしてください。
――はいはい。本当厳しいなぁ。出来上がってく様はいつ見ても*#〓∮£;:::::
跳ね起きる。
汗だくになった私の体は酷く冷えていた。
……違う。
……私の記憶じゃない。
……私は一体――
誰なんだ?
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