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異世界行って、騎士団長やります!   作者: 神崎冬花
千草王女編
38/64

31話 任務達成

 私は争いの無い国で生まれてきた人間らしく、これまでの人生は平穏な暮らしを享受出来ていた。

 そんな私の平和な暮らしの中で、心底驚愕した出来事は一回だけ。

 私が中学二年生の夏休みに入るかどうかという時。

 弟が事故に遭い、一ヶ月近く入院してしまったのだ。

 その弟はいわゆるヤンチャッ子で、小さい頃はよく物を壊して困った記憶がある。

 そんな弟は赤信号が青になるより速く渡ってしまい、急ブレーキを踏んだワゴン車に激突してしまったのだ。

 不幸中の幸いは骨折とまではいかず、右足の骨に少しヒビが入った程度だった。

 授業中の私に、副担任に弟が入院したと報告され、私は学校を早退し急いで病院に向かった。

 ベッドでつまらなそうにしていた弟は、私を視界に移すと照れるように笑ったのだ。

 「へへっ、ごめん姉ちゃん。しくじっちまった」なんて言った弟に。私はどうしようもない程の苛立ちを感じ、その柔らかい左頬を打った。

 弟は呆然とし、次いで私を睨み付け何か言おうとするよりも速く、私は弟の体を抱きしめた。

 「馬鹿……。ホントに心配したんだよ……?」と、私に泣きながら言われた弟はクシャッと顔を歪め、ごめん、と何度も繰り返しながら大粒の涙を流していた。

 

 それから弟は少しはおとなしくなってくれ、以前にも増して私に懐いてくれた。

 まあ、何が言いたいのかというと、これが私の人生でもっとも驚愕したことだ。

 だが、その記録を打ち破ろうとしてくる出来事が起こった。

 

『儂の妻となれ』


 童子丸が放ったこの言葉に、私が返した言葉は……。





「ちょっとトイレ貸してくんない?」




 △▼△▼△▼




「ふう……」


 トイレというより厠と言える個室の壁に寄りかかった。

 童子丸に「出し切っていなかったのか?」なんて問われたが、勿論済ませるのが目的じゃない。

 私は大きく息を吸い込み両手で顔を抑え、


「あああああああああああああぁあぁぁあ‼ 何⁉ 何言ってんのあいつ⁉ つ、妻とか……妻とか……! うああああああああああ‼」


 胸中に秘めていた想いを吐き出した。

 唐突な求婚。

 相手は魔物。私を死に体にしてくれた相手。失禁シーンを見られた。

 今の所私と童子丸の間柄はマイナス要素しかないはず。

 それなのにどういう……。

 それに童子丸のことだ。どうせ妻なんていっぱいいるのだろう。

 側室、ということだろうか。

 

「わ、私が犠牲()になれば、アウロラは救われる……。アウロラは救われる……。……よし」


 私は覚悟を決め、童子丸の待つ部屋に戻る。

 

「ん。戻ったか」

「う、うん。そ、それでさっきのつ、妻になれってことですが……」

「ああ、それな。別に無理強いはせんぞ。嫌なら断ればよい」

「え? いいの?」

「ああ。本当に引き受けてもらえるなんて思ってないからな。受け入れてくれれば僥倖、その程度じゃ」

「あ……」


(焦ったあああぁ!)


 私は心の中で盛大に息を吐いた。

 つまり私は童子丸の妻になる必要も無く、アウロラも救われるというハッピーエンド。

 

「な、なんで私を妻にしようと思ったの?」

「ん? あぁ。お主に言うてもわからんだろうが、千年近く前。この森にある少女が来たことがあるのじゃが、お主はその少女と瓜二つなんじゃ。黒い髪も、黒い目も、だ。お主程ではないが、その女は強かったぞぉ。生まれ落ちてまだ百年も経っていなかったが、儂の右腕を切り落としたんじゃからな。結局は儂が勝ったんじゃが、その後にある男が来てな。その男はもっと強かった。手傷を負っていたとは言え、儂に一瞬勝ったんじゃからな。だから最初お主を見たときあの女と男の曾孫辺りかと思うたんでな。懐かしくて手元に置いておきたかったんじゃ」

「は、はーん……」


 それ絶対赤の他人だわ。

 ていうか私より弱かったのに童子丸の右腕を切り落としたって……。その人の腕がよっぽど優れていたのか、童子丸が九百年でもの凄く強くなったのか、どっちなんだろうか。

 多分後者だと思うが……。


「そこでお主に聞きたいことがあるんじゃが、いいか?」

「あ、どうぞどうぞ」

「その少女の名はチヨ、と言うのだが、覚えはないか?」

「うーん……。まったく身に覚えが無い……。ごめんね」

「いや、気にするな。千年も昔のことだ。名前が受け継がれてる訳も無し、か」


 そう言って童子丸は茶を啜った。

 チヨ、チヨ……。漢字表記すると千世。それか千夜かな。

 私と血族なわけがないと思うが、もしかしたら私と同じく転移者?


《…………》


 ん? どしたナビ子さん?

 ナビ子さんが何か言った気がするが返事が返ってこない。

 気のせいか。

 

「はあぁー。あー、何かどっと疲れた……」

「うむ。これでお主の妹を救えるな」

「血は繋がってないけどね。……あの、こっちも聞きたいことがあるんだけど」

「ん、なんじゃ?」

「アウロラの病気って、ホントにただの薬草で治るの?」

「おいおい、千年草を何だと思っとるんじゃ。千年草は千錬草と呼ばれておるのを知っているな?」

「う、うん。千の病気を治したとか」

「そうじゃ。その性質はまさに人智を超えた産物。あれは唯一神クロノスが手ずから作り出したと言われておるほどじゃからな」

「く、クロノス?」

「……まさかお主知らんのか?」

「は、はい……」


 気まずい沈黙。

 童子丸は額を抑え、溜め息を吐いた。


「……お主、本当にこの世界の生まれか? 魔物ですら知ってる事を知らんとわ……。もし教徒かプリーストの前でそのようなことを言ったら殺されるぞ」

「そ、そんなに……?」

「お主記憶喪失か何かか? この世界に生まれ落ちた者なら脳裏に唯一神への信仰が少なからず刻まれているはずだが……。まあいい、このさい説明してやろう。この世界のシステムをな」


 それから童子丸はこの世界について淡々と語ってくれた。

 曰く。この世界、というより現存存在する全てのモノの中でもっとも先に誕生したのが唯一神クロノスを含め三人いるらしい。

 それを唯一神。もしくは三神と呼ばれているらしい。

 その三人の神は無から有を生み出し、世界を三等分に分けそれぞれ割り当てられた世界の統治、管理をしているのだとか。

 そしてこの星を含んだ世界の管理を任されているのが唯一神クロノス。時を操る女神なのだとか。

 唯一神クロノスはこの星のシステムを作り出した。

 人間と魔物が共存する世界。

 この星に魔力、魔法、スキル。そして魔王というシステムを与えた。

 そしてこの星では、唯一神クロノスが自然発生に任せたのでは無く、神自ら手がけた星として、この星に住まう者全てが唯一神クロノスを信仰しているらしい。

 それは無知な赤子さえも、脳裏に唯一神クロノスへの信仰心が刻まれており、文字通り全世界の人間が唯一神クロノスを信仰している。

 それなのに私はクロノスという名前を知らず信仰もしていない。これは異常なのだとか。

 いや、クロノスという名前事態は元の世界で何回か耳にしているが、信仰とまでは勿論行ってない。


「――と、言うわけじゃ。もう一度聞くぞ。お主、本当にこの星で生まれた者か?」

「も、勿論です」


 童子丸はこの事で私を物凄く訝しんでいる。

 まさか別の世界からの人間です、なんて間違っても言えない。

 これは墓場まで持って行くつもりだ。


「――むぅ。何故じゃ。心がまったく読めんぞ。お主本当に何者じゃ?」

「し、しがない元冒険者っす……」


 あっぶな、そう言えば童子丸人の心が読めるんだったわ。

 ナビ子さんへの評価がここに来て限界値を突破した。


「……まあよい。用件は終わりじゃ。お望み通り千年草を持って行くが良い」

「え、あ。ありがとう童子丸!」


 そう言って童子丸が指を鳴らすと目の前に薬草が一房出現した。

 その薬草は見た目は普通の草にしか見えないが、色が一段と濃い。

 私は千年草を『物質収納』に納め、立ち上がる。


「ホントにありがとう、童子丸。このお礼はいつか返すから」

「儂はお主が気に入っておる。困った事があれば申すよい。手を貸してやる。さて、元いた場所へと戻すぞ」


 そしてまた世界がブレた。

 ギュッと閉じた目を開ければ泉に戻っていた。

 振り返っても周りには誰も居らず、私一人。

 いつの間にか夜になっており、森の不気味さと蒼い月明かりが幻想的な雰囲気を作り出している。

 私は大きく息を吸い、『天使の翼』を使い上空に舞う。

 そのままゆったりとしたスピードで王国へと戻る。

 

 ――終わった。全部が。ホントにアウロラを救えるんだ……。


 私は無言で高度を上げ、雲の上まで到達する。

 雲の上には、満月とまでは行かないが丸い大きな月が私の視界を占める。

 月を見ながら、私は胸中に現れる言葉を大声で吐き出した。



「――――ッ! やっっっったああああああああああ‼ アウロラぁ! お姉ちゃんやってやったよー! 大好きー!」

   

 空をクルクルと回り、小さい子供の様にはしゃいでしまう。

 今ならこんなに喜んでも怒られないだろう。


(ご機嫌ですネ。ご主人)

「ミュウ! 私やったよ! 帰ったらモフモフさせてね!」

(もちろんデス!)


 首飾りのままのミュウと一緒に喜び合う。

 私は踊るように空を飛び続け、(アウロラ)が待つ部屋まで、喜びを隠すことをしなかった。





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