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異世界行って、騎士団長やります!   作者: 神崎冬花
千草王女編
36/64

29話 出発前夜

「また私の勝ち。キノこのゲーム弱いわね」

「ウー……。こういう盤上のゲーム苦手なんだよぉ……」


 ミュウを召喚してから三日。

 私はアウロラに誘われゲームをしていたのだが……。

 元の世界にあったゲームとは勿論系統が違うし、盤の形も四角形ではなく六角形。

 ただでさえゲーム類は苦手だというのに、まったくもって未知なゲームでは攻略の糸口さえ掴めない。

 一時間程時間が経っているが9敗0勝。

 惨敗である。


「難しく考えすぎなのよ。もっと柔軟な思考にしないと」

「うーん……。そうはいっても、私の地域にあったゲームとはちょっと毛色が……」

「へー……。キノって何処の国の出身なの? 黒髪黒目なんてこの国にはいないはずだけど」

「え。あー、えー。国とも言えない小さい集落の生まれ、だよ?」

「なんで疑問系なのよ。まあいっか。それよりもっと頭を柔らかくしないと駄目ね。それだからミュウのことであんな驚いたのよ」

「いや、あれは聞いてなかったら誰でもビックリするって」


 私がミュウを召喚した日。

 ミュウも同じベッドで寝た方が良いんだろうかと思っていたその時、驚くべきことが起こったのだ。

 異世界小説ならここは全裸のケモ耳美少女になるところだろう。

 私ももしかしたらミュウも人化出来るかもしれないと思っていたので、いつくるかと待ち構えていたのだが。

 ミュウは美少女にならなかった。

 代わりに狐型の首飾りになった。

 予想していた物の斜め上を行く変化に声を出して驚いたものだ。

 使い魔と言うより、式神じゃね? と、私は心の中で突っ込んだのだった。

 と言うわけでミュウは今私の首にいる。

 

「んー。じゃあもう寝よっか。かなり遅い時間だし」

「………」

「アウロラ……?」

「――明日、ホントに行くの?」

「……うん。行く。行かなきゃ、なんないんだ」

「そう――」


 私は明日死の森に行く。

 それは二日前にアウロラに教えたのだが、その時アウロラは「そう――」と、今とまったく同じ声音で応えたのだ。

 アウロラはその後何も言わなかったが、今は、蒼い瞳が、光りを反射するように、濡れていた。

 

「無理しなくていいんだよ? 死の森に本当にその千年草があるかなんて保証も無いし、もしかしたらキノが死んじゃうかもしれないんだよ? 私は別に死んでもいいから……」

「なに馬鹿なこと言って」

「いいの、キノ。もう。キノが私のために死の森に行くのなんて、お母様に護衛任務……私が死ぬまでの遊び役に任じられてなかったら、例え私の事を知ってても死の森に行ってまで、私を助けようだなんて思わなかったでしょ?」

「そんなこと――」


 駄目だ。

 今何を言ってもなんの慰めにもなれはしない。

 アウロラの顔は齢十二歳とは思えない、死ぬことへの許諾と、生きることの諦めを秘めていた。

 私がアウロラと同じ年齢で、同じく死を控えていたら、私は同じ顔を出来るだろうか。

 この儚く、触れたら散ってしまいそうな美しい表情を、私は出来るのだろうか。

 

「そういうことよ、キノ。人は必ず義務って名前の鳥かごの中で生きてる。ご主人が来たら可愛らしい泣き声を上げないといけない。誰にも鳴けと言われてないのにね」



「それが自分の存在価値、至上命題だからよ。そうしないと自分が何者にもなれない、ただ息を吸って余生を無駄にするしかない存在に成り下がるからよ」



「だから例え心の底から嫌がってても、やらなくちゃいけない。やらなきゃ自分の存在意義が無くなってしまうという強迫観念に駆られてしまう」



「だったら代わりに違う鳥かごにいる自分が鳴こうだなんて思う人はほとんどいない。だって他人事だもの。他人が虐められてるのを見て涙を流して悔しがる人なんているかしら。そんなの物語の中に居る馬鹿みたいに自己犠牲が高い正義の味方だけよ」



「じゃあ、現実はどうかしら。誰もが自分はああならないようにしようと思うだけ。同情する人はいても、助ける人なんていないのよ」



「ねえ、キノ。貴女は本当に優しい人よ。他人の幸福を願い、悪事に手を染める事を極端に嫌う。貴女はそんな素晴らしい人格者よ。でも。それでも。こんな鳥かごの中に入ってなかったら私を助けるだなんて思わなかったでしょ?」 



「それが人間よ。私は自分が死ぬっていう事が私の存在価値。放っとけば一つの命が消える。でも貴女が森に行けば最低でも二つ以上の命が消える。私は、一国の王女として。――そして、貴女の妹として、貴女を森には行かせられないの」


 


 そう言って、アウロラは笑った。

 悔しいがアウロラの言うことは正論だ。

 反論の余地も無い。

 


 でも、一つだけ。



 私は腑に落ちない点がある。



 それは――




「――なんで、笑ってるの?」


「――――え?」


「なんで、自分が死ぬのに笑えるの?」


「なんでって……」


「人間は確かに弱いよ。弱いし、脆い。だから皆死ぬのが心底怖いはずなんだよ。アウロラ、今、泣きたいでしょ?」



「泣きたいはずだよ。生きてるんだもん。死にたくないでしょ。生きてるから。それが人間だよ」



「いくら死にたいって思ってても、よっぽどのことが無い限り、人は死なないんだよ。死ねないんだよ。だってやりたいことがいっぱいあるから」


「あ、う……」


「泣きたいときは泣きなさい。死ぬほど泣いて、いっっぱい迷惑掛けて、我が儘言って。だからさ、その分笑おうよ。怒って泣いて、怒られて苦しんで。だから明日は笑おうよ。最期の時に、精一杯生きたって、楽しかったって、笑えるように――」



 ここまで言って、アウロラの目の端に水滴が浮かぶ。

 

 私は姉として、妹をあやすように、優しく抱きしめ、




「――だから、今は泣きなさい」



 


「……ぁ、ぅぁ…………」


 腕の中から漏れ出る小さな嗚咽。

 私は強くアウロラを抱きしめる。

 

 そして、アウロラの中で、何かが決壊した。




「……ぅああぁあぁ………ああああアァああアぁあああアア! わたし、まだ、死にたくない……。ヒッ、ちゃんと生き、て、い、いっぱい、怒られて、いっぱい遊んで、大人になって、普通に死にたいよぉ……」




 それから続くアウロラの独白のような泣き声。

 私はその言葉を何度も頭の中で反響させ、「うん。うん」と、何度も頷いた。 

 



 私はその日、


 ようやく。




 アウロラのお姉ちゃんになれた気がした。




 △▼△▼△▼




 アウロラが泣き疲れ、ベッドで寝静まっている中。私はベランダで街の景色を眺めていた。

 明日、死の森に行き、千年草を入手する。

 言葉にすれば簡単だ。だが、それを実現させるのには至難の業だ。

 ハンスは死の森出向くと言った私に、なんと近衛騎士を9名も出してくれると約束してくれた。

 この国最強の騎士団のほぼ全戦力。

 もしかしたら誰も欠けずに生き残れるかもしれない。

 千年草入手は最低目標。

 何人欠けようと、私が死のうと、何よりも大切だ。

 

「……もう寝よう」


 呟き、アウロラのベッドに向かおうとし、


《何者かが個体名:キノに『念話』を送ってきています。拒絶は不可能。5秒後に声が届きます》


 何日かぶりのナビ子さんの警告に問いかける暇も無く頭の中に声が響いた。



『あー、おーい聞こえるか? キノ』

「ふぁふぃ⁉」


 思いもしない人物の声に私は妙な声を出し、腰を抜かしてペタンと床に崩れ落ちてしまった。

 私は俄に今起きた事が理解出来なかった。

 それはもう二度と話すことが無いと思っていた相手。

 そう――



『し、酒呑童子……?』

『おう、そうじゃそうじゃ。久しぶり、でもないかの』


 私にトラウマを植え付けてくれた、最強の鬼だった。


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