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異世界行って、騎士団長やります!   作者: 神崎冬花
千草王女編
34/64

外伝 木村乃愛

物語にちょこっとだけ関係します

「孤児院を開いたは良いですけど、暇ですねー木村さん」

「馬鹿ね、孤児院に子供が来ないのは寧ろ喜ばしい事よ」

「そうですけどー」


 新築された孤児院、“時百合”の事務室で、木村と黒野は窓の外を見る。

 激しい雨が横殴りとなって窓を叩く。

 この孤児院は僅か2週間前に作られたにも関わらず、引き取られた子供は一人もいない。

 障がい者の子供も孤児院で一時的に預かることも出来るのだが、ここ周辺には障がいを持って生まれた子供はおらず、孤児院は孤児院としての機能を果たしていなかった。

 まだ若い女性の黒野は不満気だが、木村の言うとおり孤児院に子供が集まらないのは良いことなのだ。

 

「木村さん、後で飲み行きませんか? 昨日良いお店見つけたんですよー」

「そうね、考えてお、く……」

「どうしたんですか木村さ」

「黙って。外から泣き声が聞こえる」

「え……? あ、ホントだ結構近くに聞こえますねー。でも普通に子連れの親が近く歩いただけじゃないですかー?」

「いえ、この声の高さは間違いなく赤ん坊のものよ。そしてこんな大雨の中赤ん坊を外に連れ出す親がいるかしら?」

「え、てことは……」

「……外出るわよ」

「は、はい!」


 木村と黒野はそろって外に飛び出た。

 木村に至っては傘も差さずに外に出ている。


「あれは……」


 木村の視線の先にあるのは校門。その門の端に置かれているのは毛布が入った木の籠だった。

 急いで駆け寄り籠の中を確認する。

 籠の中には案の定と言うべきか、赤子が一人泣いていた。

 生後二ヶ月も経っていないであろう赤子を木村は籠ごと抱きしめ、急いで孤児院に保護した。

 

「……良かったわね黒野さん。これで暇じゃ無くなるわね」

「な、なんか凄い緊張してきましたー……」


 望まれずに生まれた赤子は、木村の手の中で穏やかに眠っていた。



 

 △▼△▼△▼




「名前どうしましょうかねー」

「籠の中に何も入っていなかったからね」


 木村と黒野は、黒野に抱かれ、ほ乳瓶の中身のミルクをゆっくりと飲む赤子を見つめながら考え込んでいた。

 赤子が入っていた籠の中には手紙も何も残されておらず、名前も解らない状態だった。

 

「ここは片っ端から案を出していきましょう! 私が付けるんだったらー、“黒野 すみれ”なんてどうです?」

「貴女の名字を付けるの?」

「良いじゃないですかー。私結婚に憧れてたんですよー」

「まだ適齢期迎えてないくせに何を言ってるのやら……。それに名字と名前の組み合わせ、ちょっと語呂が合わないわね。別のにしなさい」

「えー、特別感あって良いじゃないですかー。じゃあ木村さんだったらなんて付けるんですかー?」

「そうね……“木村 乃愛”。なんてどうかしら」

「木村さんも自分の名字使ってるじゃないですかー。しかもありふれた名前ですしー」

「うるさいわね。良いのよこれで。それに、別に特別な子にならなくったっていい。この子には幸せに育ってほしい。だから普通の名前で良いのよ」


 木村は赤子の頭を撫で、微笑んだ。


「……木村さんってそんな顔出来たんですね」

「どういう意味かしら?」

「いえいえー」


 結局そこから一悶着あり、赤子の名前は“木村 乃愛”となった。




 △▼△▼△▼




「131センチ……っと」

「乃愛ちゃん凄く伸びたねー。お姉さんビックリだよー」

「ありがとーございます」


 赤子を見つけ木村乃愛と名付けてから7年。

 乃愛はすっかり大きくなっていた。

 その間に、また孤児院に子供が引き取られていた。

 同年齢の女の子が二人、1年前に引き取られた。

 まだ3歳前後の少女達を乃愛はとても甲斐甲斐しく世話をし、今ではすっかり姉となっているのだ。

 木村に料理を習い、9歳頃には免許皆伝もされている程に上達していた。

 10歳になる頃にまた孤児が増え、今では乃愛は妹4人、弟3人の姉となっていたのだ。

 そして15歳になり、乃愛は独り立ちすることとなった。

 独り立ちとは言っても、徒歩十分の距離にあるアパートなのだが。

 受験の合格結果を見に行った乃愛から合格したとメールが来たときは、木村も黒野も大きく息を吐いたものだった。

 その夜はご馳走にしようと、乃愛の帰りを待っていた矢先に“時百合”を襲った凶報。


 乃愛失踪。


 それは孤児院内でとても大きな悲劇となって木村達を襲った。

 警察に捜索依頼を出し、大事になるまで探し回ってもいっこうに乃愛は見つからなかった。

 4ヶ月たった今ではテレビのドキュメンタリーで面白おかしく乃愛のことを語られており、凄腕の占い師を呼んだり、超一流の捜索犬を使うも、台風のせいで捜索不可と適当な理由付けで探す気も無い番組まで放送される始末。

 号泣する孤児達。咽び泣く黒野。

 そんな中、木村だけは凜として前を向いていた。

 

(あの子はそう簡単にいなくなるタマじゃない。絶対帰ってくる。あの子は私の娘なんだから)



 木村はそう信じ、静かに乃愛の帰りを待ちつづけた。

 

 いつか帰ってきたとき、お帰りなさいが言えるように。




(愛してるわ……乃愛)

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