18話 対 ゴブリンその2
知人に聞いたのですが、ブックマークは出来るが、ポイントが入れられないと聞きました。
ポイントは受け付けるにしているのですが、何故でしょう(汗)
ユーリの獲たスキル『風刃』は単純。それ故に強力無比であった。
自らの武器に高速移動する風を纏わせ、風の刃を作り出す。
その風の刃は超圧縮された竜巻の如く、凄まじい切れ味と速度を誇っていた。
だが、その分魔力消費が激しい。魔力があまり多くないユーリにとって“秘剣――風魔――”は一か八かの賭けであった。
その結果、ユーリ達前衛の目前に迫っていたゴブリン達は物言わぬ肉塊と化した。
ユーリは成功したという喜びが半分。後ろにまだ1万のゴブリンがいることに絶望を感じていた。
「戦況は――⁉」
後ろを振り返り状況を確認しようとしたユーリは目を見開いた。
大量にいたはずのゴブリン達は全て地に伏し、首から上を無くしていたからだ。
戦闘経験の浅い兵達にこんな芸当を行えるはずがない。
では一体誰が?
その答えは長槍を背負った一人の騎士であった。
その者の名はケレス。最強の国王直属近衛騎士団の副団長その人であった。
「こちらは終わりましたよ、司令官殿」
皮肉めいた言葉だが、それに不快感を感じる前にユーリは深い憤りを感じ、ケレスの胸ぐらを掴んだ。頭一つ分の身長差であったが、ユーリは気にせずケレスを上からバイザー越しに睨み付けた。
「何故、何故もっと速く行動しなかったんだ! あんたがもっと速くから戦っていれば、兵が無駄に死ぬことはなかったんだ‼」
ユーリはケレスを思いきり怒鳴りつけた。
ユーリはそれがただの八つ当たりであると解っていたのだが、憤慨せずにはいられなかった。
自分よりも遙かに強いであろうケレスがいたならば見習いの兵達が死ぬことはなかった。
そう思ったからこそユーリはケレスを怒鳴りつけたのだった。
だがそれに対する返答は予想外のものであった。
「確かに一理ある。私がもっと速く行動していれば先程襲われた兵士は死ななかっただろうな。
だがそれは、私がこの場にいなかったらの話だ」
ケレスはそう言って後ろも振り返らずに後方に指を指した。
ユーリは指された方向を見ると、そこには殺されたはずの兵士達が不思議そうに自分の体を確認していた。
「ど、どういうことだ?」
ユーリはケレスの胸ぐらから手を放し、困惑の表情でケレスに問いかけた。
その兵士達をよく見れば体に薄皮一枚分の光りの膜が覆っていた。
ケレスはそこで兜を外し、少年ぽさが残る顔を晒した。短く整えられた茶色い髪は柔らかで、本人の大らかな性格を如実に表しているようだった。
「なに、簡単な話だ。神聖魔法の第3階位、『防御皮膜』を皆に使っただけだ。衝撃は全て緩和しきれないが、刃物は通さなかったぞ?」
ケレスは何でも無いような雰囲気で言ったが、ユーリとしては絶句する案件であった。
魔法の第3階位を剣士が使ってる事事態有り得ない話なのだが、ユーリが驚いているのはそこではない。
(まさか、1万2000名全てに魔法を行使したと言うのか? そんな無茶苦茶な…)
ユーリはしばらく立ち尽くしていたが、ケレスに肩を叩かれる。
「先刻、右足を怪我していただろう? 後方に回復術士団が数名控えているから治して貰ってこい」
「あ、ああ」
ユーリは驚愕冷めぬまま、後ろに下がっていった。
それを見送ったケレスは思う。
(なるほど。魔力量はそれほどではないが、中々の素質を秘めているな。
…さて、雑兵は全て始末したがどう来る。――ゴブリンロード)
△▼△§▼△▼
同時刻。
森の奥では一人――嫌、一匹の魔物が岩に腰掛け、瞼を閉じていた。
耳に微かに同族の悲鳴が聞こえ、その魔物は瞼を開け、ゆっくりと立ち上がる。
その体躯は2メートルを超え、頭には王冠のような物を被っていた。
魔物の王に相応しい衣服を携えた魔物は長年愛用している武器を手に取り、同胞の断末魔が聞こえた場所に向かった。
薄い緑色の肌、古傷をいくつも持つそれは、ゴブリンロードと言った。
▼△▼§△▼△
準備を終えたユーリ達は再び進軍を開始した。
残りはゴブリンロードただ一匹。
それなのに皆の足取りは重い。
言いようのない緊張感が彼等を絶え間なく襲い、森の奥に進むにつれ、木々のザワつきが大きくなっていっているのだ。
そして、それは突然やって来る。
広い場所に出たとき、薄暗くよく見えない森の奥から何者かの影が姿を現したのだ。
「全軍散開! 相手は一人だからと油断するな! 全力で応対しろ‼」
『はっ‼』
ケレス以外の兵達が即座に反応し、それぞれの部隊に分かれて敵の様子を探る。
そして完全に姿を現した。
大柄な体躯。そして巨大な戦斧。間違いなくゴブリンロードだとその場に居た者達は直感でそう感じた。
ゴブリンロードはそのまま歩を進め、やがて歩みを止めた。
その隙に相手を完全に包囲し、それぞれ武器を構える。
ユーリの指示を待つ間、信じられない事が起こった。
『フ、ム。聞コエルダロウカ。人族ヨ。
儂ハゴブリンノ王ゴブリンロードダ。
何故コノ地マデ参ッタ?』
ゴブリンロードは声には出さず、全兵士の頭の中に語りかけた。
困惑する一同だったが、動じなかったのはケレスだ。
『お初にお目にかかる。ゴブリンの王よ。魔物とはいえ『念話』を使えるとは驚きました』
『カッカッカ。
抜カシオル。
貴様ナラトック二見抜イテオッタデアロウガ。
サテ、何ヨウダ? 強キ者ヨ』
『貴殿を討伐しに参りました』
『ホウ。
同胞ガ次々ト討チ取ラレテ、只殺サレル訳二ハ行カヌ。
悪イガ抵抗サセテ貰ウゾ』
『勿論』
話は周りを置き去りにして完全に進んでいった。
ケレスはユーリを振り返る。
「司令官殿。ここからは私達二人でやるぞ」
「は、は⁉ 私達二人だけで⁉ 皆で掛かった方が…」
「駄目だ。この相手は数で挑んでも殺されるだけだ。私達二人しかまともに戦えん」
「なっ⁉」
数が通じない相手。それは一度経験していた。
つまり、ゴブリンロードはそれほどの相手だと言うことがユーリはすぐに理解できた。
故に、ユーリの決断は早い。
「――了解だ。二人でやろう」
「よし、では行くぞ!」
二人は互いに武器を握りしめ、ゴブリンロードと対峙した。
この日、森林地帯での最後の戦いが始まろうとしていた。




