17話 対 ゴブリンその1
ちなみに今回出てくる3種族を漢字表記すると
ゴブリン=小鬼族
オーク=豚鬼族
オーガ=大鬼族
となります。
ユーリ達は曇天の空の下、森の中を進む。
進軍してから既に2時間経過している。
その間ゴブリンに襲われたが、その数が問題だった。
通常のゴブリンは10体ほどで行動するのだが、今回に限って50体を優に超える数で襲いかかってきているのだ。
囲んで倒せば問題は無いのだが、1つの集団を駆逐したすぐ後に先程戦った倍の数のゴブリンが襲いかかってくる。今のところ死傷者はいないが、これを2時間繰り返している事で兵士達の疲労も限界だった。
ユーリは森の奥を睨み付ける。
奥は薄暗く、陽が当たっていない。風に草むらが揺れ、ザワザワと音を立てる。
約1000体近いゴブリンを倒したのに、まだ後1万9000体いる。その絶望的な数値に兵士達は諦めかけていた。
ゴブリンは雑魚なので1万2000もの兵がいたら楽に討伐出来る。
そう思っていたのだが、結果は全くの予想外。
時間が経過するごとにこちらが不利になっていく。
ユーリはその現実を噛みしめ心の中で盛大に舌打ちした。
(クソ、ゴブリン共の動きに統率があるというのか? 集団を倒す度に数が多くなっていく…これがゴブリンロードの力だとでも言うのか⁉)
瞬間、見回りえおしていた兵が声を荒げた。
「ご、ゴブリン出現! その数、9000体ほどかと思われます‼」
「ばっ――⁉」
馬鹿な⁉ その言葉をユーリは気力で飲み込んだ。
(9000体だと⁉ 何故いきなり。まさか物量で押しつぶすつもりか? 疲労してる今、とてもではないが、今の我らに勝ち目は薄い! …ここは)
慌てふためく兵達にユーリは声を上げる。
「騒ぐな! 相手はたかだかゴブリンだ。数ではまだこちらが上回っているのだぞ? 誇り高きアストレイト王国の騎士がゴブリン如きに負けるなどあってはならん! お前達の命は誰の者だ‼」
それを聞いた兵士達は皆一様に動きを止め、心臓に手を掲げた。
『アストレイト王国。そして国王陛下の物であります‼』
「その通りだ! 臆して逃げるな。命を捧げよ。全軍突撃――‼」
『おぉーー――――‼』
大号令の後、ユーリ達は草むらを抜けた。
そこにいたのは、数えるのもうんざりするほどの小鬼の数々。
それを見て一瞬怯んだ物の、すぐに立ち直り向かっていった。
「はああぁあああ‼」
ユーリは剣を構え次々にゴブリン達を切って捨てていった。
煌びやかな鎧は紅蓮に染まり、剣が刃毀れを起こすのにも気づかぬまま進んでいった。
そんな中微かな悲鳴が聞こえた。
一般兵の部隊の一角が崩されようとしていたのだ。
「う、うわぁ! だ、駄目だ!」
「あ、諦めるな! 我々にも神のご加護が――グゥエ」
ここで初めて軍に被害が出た。だが、攻撃を受けたのは最後方。そこまではまだゴブリンは回ってないはず。
(まさか…まさか!)
ユーリは悟った。囲んで倒す。だが、それはあまりにも甘い考えだった事に。
(囲まれている、だと⁉ ゴブリンが…魔物が作戦を執っている。罠に嵌まったのはこちら側だったと言うことか…)
ユーリ達、前衛の前には9000体ものゴブリン。では残りは何処に?
簡単な話であった。残りの1万は後ろに回っていたのだ。
戦闘が未熟な後方を狙って。
ユーリはゴブリンロードを過小評価していた。
それが今、結果となって牙を向けている。
(なるほど。へーロス卿がロードを恐れていた理由がこれか…認めなくてわな。ゴブリンロード、いや、ロードには人間に近い知性があると)
戦場は完全に混乱状態に陥った。
兵士達は着実に数を減らしていっている。
ユーリは不意に右足に鋭い痛みが走ったのを感じた。
そこには鎧を貫き、深々と太ももに刺さった剣。
仕留めきれなかったゴブリンが死に際にユーリに攻撃したのだ。
ユーリはそのゴブリンの頭を砕き、剣を引き抜いた。
血が噴水の如くあふれ出ている。
それを気合いで止血する。
出血は納まったが、それは一時的な物であった。
速く治療しなければならないが目の前にはゴブリン達が迫ってきている。
ユーリは左腕の円盾で防ぎ、切り札を使う事を決意した。
失敗するかもしれない。だがやるしかなかった。
(私はここで死ぬわけには行かない。約束したのだ。生きて帰ると。でなければ私はペテン師になってしまう!)
ユーリは1人の少女の顔を思い浮かべ、腰だめに剣を構えた。
騎士団に入り3ヶ月。そこで生み出した能力の名は――
『風刃』。正真正銘のスキルである。
「“秘剣――風魔――”‼」
剣を横薙ぎに振った瞬間ユーリの目の前にいたゴブリン達の体は文字通り切断された。
それだけでは終わらず、振った剣から風の大刃が出現し、その先にいたゴブリン9000体を一刀の元に切り捨てた。
これがユーリの新たなスキル『風刃』の力であった。
ちなみにキノは少しの間オヤスミです。
それまでユーリとマーガレットの活躍を見てやってください。




