14話 大図書庫
レイスとの戦いから翌日。朝8時。
私は昨日と同じ訓練室に連れてこられていた。
ハンスによると『嬢ちゃんはスキルと魔法の強さの割に魔力量が少ない。あんな強力な魔法を使ったら、すぐに魔力切れを起こして動けなくなる。だから、訓練の間はなるべく魔法は使わないようにして戦ってくれ』とのこと。
実際図星だった。
ドラゴン戦の時も魔力消費した後だったとはいえ、もう少し戦いが長引いていたらこちらが不利になっていたのだ。
私は剣と魔法を織り交ぜて戦う、言わば魔法剣士の様なバトルスタイルなのだ。
だが、実際には魔法の方がレイピアより使用回数が多い。
『光の剣』も武器に纏わせるとはいえ、あれも魔法なのだ。
魔法を重点において戦うには、魔力量が些か足りないとのこと。
故に、私は今日から近接戦闘に重点をおいて訓練することとなった。
それと一緒にハンスから国王直属近衛騎士団の専用装備を貰った。
重厚な金色の鎧に両刃の片手剣だ。
私は体格的にレイピアを好んで使っていたのだが、貰った鎧とレイピアは明らかに相性が悪い。
全身を隈無く覆うタイプなので、細かい動きが必要とされるレイピアでは動きづらいのだ。
扱えない事はないが、どうしても以前と比べると動きが制限される。
片手剣はメイン武器が使えなくなった際の武器、言わばサブウェポンだ。
レイピアしか振ったことしかないが、『怪力』と『加速』の御陰で一般人では視認出来ても、躱せないであろう。
もっとも一般人に剣を振るうつもりはないが。
そんな訳でレイスと魔法、スキル抜きで斬り合っていた。
スキル抜きとは言っても、常時発動型の3スキルは使ってるのは内緒の話だ。
…
だってしょうがないんだよ。
『怪力』がなければレイピアは振るえても、鎧のせいで動けなくなるし、『加速』がなければレイスの攻撃は躱せないのだ。
今も『攻撃予測』と『思考加速』は使ってないんだし、結構ギリギリな戦いなのだ。
魔法が使えないのはかなりきつい。
魔法が使えれば、遠距離からチマチマ撃てるのに…
そんな事を考えているとレイスのハルバードが眼前まで迫っていた。
ヤバッ!
そう思ったが時すでに遅し。
レイスの攻撃が私の頭に迫り――
――ゴィイーーン。という音が響いた。
「――痛っい、頭が~」
私は攻撃が当たった後、床に座り込み、兜を外し頭をさすっていた。
レイスはハルバードを面の方で殴ったらしく、御陰で頭がクラクラする。
そんな私の様子を、同じく兜を外したレイスはケタケタと笑っている。
「油断は禁物だぜ。途中までは良かったが雑念が混じっていた。訓練とはいえ戦闘中に気を抜いたら駄目だぜ?」
兜を外したレイスの顔はどこにでも居るような高校生といった感じの出だちだった。
右目が深緑色、左目は真珠色のオッドアイの青年だった。
「どうする? もう一回やるかい?」
「えっと。え、遠慮しておきます…」
もう体中クタクタだった。もうまともに剣を振れそうにもない。
「そうか。じゃあ今日は王城の中を探索してくるといい」
レイスはそう言って訓練室の奥に引っ込んでいった。
私は重い鎧を脱ぎ、レイピアを腰に提げ訓練室から出た。
軽く腕を上に伸ばしてみると、バキバキと骨が鳴った。
こりゃ明日は筋肉痛だな、と思いながら王宮を歩いて行った。
しばらくすると大図書庫とプレートがついた扉が目に止まった。
ゆっくり扉を開けてみると、無数の本の香りが鼻腔をくすぐった。
インクの匂いやら紙の匂いやらが一気に体を駆け巡った。
なるほど、確かにこれは大図書庫だ。
多すぎてもはや読む気力がなくなるほどだ。
私は歩を進め、やがて椅子に座りながらライトノベルサイズの本を読んでいる蒼色の髪の女の子が目に入った。
「マイちゃん、なに読んでるの?」
「うひゃっ⁉」
声を掛けるとマイはビクッと体を震わせた。
マイとは昨日レイスとの戦いが終わった後すっかり意気投合し、今では気軽に接することが出来ている。
そう思い軽く声を掛けるととてもビックリしていた。
昨日も声を上げて驚いていたし、怖がりなのだろうか。
「き、キキキキノのん! ぐ、偶然だね!」
マイはそう言って読んでいた本を勢いよく閉じ、隠す様に私から遠ざけた。
そんな怖がることだろうか。
「うん。訓練の後に気になって寄ってみたんだ。なにかオススメの本とかある?」
「うぇっ⁉ え、えぇと。あ、あっちの魔法全集とか良いと思うなぁ!」
マイは早口で本棚を指さした。
「魔法全集か。解った、見てみるね。ところでマイちゃんが見てる本って何の…」
「あ、あぁああ‼ そう言えばワタシ団長に呼び出されてるんだったぁ! じ、じゃあまた後でねキノのん!」
「う、うん」
マイはそう言って机に積み上げていた本を強引に引っ掴み、逃げるようにその場を去って行った。
最後まで慌てた様子だったが、なにか見られてはマズイ本だったのか。
いかがわしい本とか…なんて。マイちゃんに限ってそれはないか。
そう思い、マイが教えてくれた魔法全集があるという本棚に向かう途中一冊の本が落ちていることに気がついた。
拾ってみるとそれは先程までマイが読んでいた本だった。
辺りを見回してもマイの姿はどこにも無かった。
落としたのだろうか。後で届けてあげよう。
そう思い私はふと、本の内容が気になった。
勝手に見るのはマズイと頭のどこかで訴えかけてくるも、私は好奇心に負け本を開いてしまった。
人は良心より、好奇心に従って行動してしまう生き物なのだ。なので私は本能に従っただけなのでなにも悪くないのである。
そんな馬鹿なことを思いながら読んでいく。
物語は、1人の不良少年と、真面目な少年の話のようだ。
真面目な少年が不良少年を更生させようと努力する物語のようだ。
私は先程までマイが座っていた椅子に座り、ページをめくっていく。
ペラ…
ペラ…
ペラ…
ペラ…?
………
終盤に差し掛かった所で私はページをめくる手を止め、パタンと本を閉じた。
顔が熱くなっているのが解る。
内容は、まあ、なんていうかあれである。
まさかとは思っていたことが実現したとは。
不良少年はどうしても更生してくれず、真面目な少年は強行手段としてベッドに押し倒し…
…まあ解りやすく言うと、ホモォな本であった。
マイちゃんも年頃なんだなぁ、と思った次第であった。
…え? 私? 私はもちろん違う。そう絶対に違う。断じて違う。多分違う。…違うと思う。
…と、とにかく魔法全集を!
思考を切り替え魔法全集を手に取る。
かなり分厚い。持ってる手が疲れるほどであった。
よく学校の図書館にデカイ図鑑が置いてあったりするが、あれよりもデカイんじゃなかろうか。
ページをめくっていく。
内容は魔法の発動条件、魔力適正、魔法の階級等が記されていた。
私がその中で興味を引かれたのは魔法の階級だ。
以前ナビ子さんに私が使えるのは初級の魔法だけだ、と言われていたのでその上の階級が気になっていたのだ。
まず魔法には7つの階級があるらしい。
初級が第1階位。最上位が第7階位だ。
詳しい詳細が書かれている。
第1階位。
初級の魔法。魔法使いならば必ず習得しなければならない。魔力消費が少なく、詠唱も短いのが利点だが、威力は弱め。これを扱えて初めて魔法使いを名乗れる。
例:『火炎魔球』
第2階位。
初級よりも数段強力な魔法。一端の魔法使いならば、第1階位ではなく第2階位を使用する者が多い。
例:『火炎魔壁』
第3階位。
攻撃範囲、威力が第2階位を大幅に超える。一端の魔法使いならば切り札とも呼べる。
例:『火炎魔波』
第4階位。
ほとんどの魔法使いがここで生涯を終える階級。これを使えてようやく凄腕と認められる。
例:『爆炎大魔砲』
第5階位。
人間が覚えられる階級の限界と言われている。扱える者は限られてくる。
例:『豪炎之牢獄』
第6階位。
詳しい詳細は不明。現状では使える者は世界で3人のみ。
例:『獄炎之抱擁』
第7階位。
神話級。扱えるのは一握りの神々のみと言い伝えられている。
例:不明。
と、まあこんな感じだ。
第4階位から『・』が付いてるからヤバさ加減が増したよね。
第7階位なんてもう存在が確認されてるかどうか怪しまれてるじゃないか。
ていうか第7階位の詳細欄のところに嫌なもの発見しちゃったんだよね。
書かれている綺麗な文字ではなく、書き殴ったような字で、
『一部の魔王が該当する』
なんて。
神々しか使えないって言ってるのに、何故魔王が使えるのか。あれかな魔王って邪神だったりするのかな。
…ん? 一部の魔王?
ってことは魔王って複数存在するの⁉
うわぁ。本当に嫌なものを見た。魔王っていっぱいいるのか。
魔王倒して、元いた世界に帰ろうと思っていたのに、一気にやる気激減したんですけど。
ていうかこれ誰が書いたの?
何故そんなことを知っているのか。もしかして魔王と戦った人だろうか。
ナビ子さんや、これ誰がいつ書いたものか解る?
《約200年前のものだと推測します。人物の特定は出来ません》
200年前…この本ってかなりの年代物だったのか。
まあ、流石のナビ子さんでも誰が書いたかわかんないよね。
《…》
ん? なんか言った?
しかしナビ子さんからの返答はない。
気のせいだったか。
私は本を棚に戻し、図書庫から退出した。
△▼△▼△▼
1つ気になる事があった。
有り得ないと思うが、あの本に書かれていたあの文。あの字――
私の字にそっくりだった。
オマケ
キノ「マイちゃん。これ落とさなかった?」
マイ「ど、どこでこれを⁉」
キノ「図書館の出入り口に…」
マイ「…見た?」
キノ「…はい」
マイ「…」
キノ「…」
マイ「…どうだった?」
キノ「うえっ⁉ …面白かったけど…」
マイ「あれよりスゴイのあるけど…見る?」
キノ「あ、あれよりスゴイの…」
マイ「…どうする?」
キノ「…見ます」
――腐女子組結成のお知らせ――




