表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
如是我文  作者: 葉倉千緒
7/8

行黄泉伴一人

程なくして、ミオの部屋に三人目の訪問者があった。


「……あの女のキチガイな声が聞こえたけど」


三人目の訪問者は恐る恐る、ドアノブを回して扉の隙間から中を覗く。


「……あのアマ、帰ったみたいだな」


そこに教主の姿は既になかった。ホッと胸を撫で下ろす訪問者。


「ミオちゃーん、おじさんだよ」


訪問者は中にいるはずのミオに声を掛ける。この訪問者も明と同じく、何回かミオの部屋を訪れていたのだろう。しかし、中からミオの返事がない。


「あれ? おーい、鼎脚(ていきゃく)の出口おじさんだよー?」


訪問者は鼎脚の中年男で、名を出口というらしい。


「……まさか」


出口に一抹の不安が過ぎった。出口は廊下側の壁にあるスイッチを押し上げた。ミオの部屋にある裸電球が橙色に点る。


「ミオちゃん!」


不運にも、出口の不安は的中してしまった。裸電球に照らし出されたのは、部屋の隅でぐったりとしているミオの姿だった。


「ああ…… ああああああああ!!!」


駆け寄り、ミオの体を抱き寄せる出口。


「あの糞アマぁああああああああ!!!」


出口は右手の握り拳で畳に叩きつける。ミオの顔は腫れ上がり、血液が付着し、光のない目が見開かれたまま、薄い唇も半開きになっていた。開かれた口からはもう、僅かな呼吸の音も聞こえない。


「はあ、はあ…… まっ、待ってろ、ミオちゃん! 今、おじさんが助けてやるからな!」


冷静さを取り繕うと、抱き寄せたミオの体を畳の上に安置し、出口はミオの体の側に正座して合掌した。


南無眞大理王主(なむしんだいりおうぬし)南無臺主(なむうてなのぬし)、今当に我がミオにお(たま)わせをせんことの旨を(かしこ)(かしこ)みもう申す……」


震える声で「お賜わせ」をミオに施そうというのだ。


「南無眞大理王主、南無眞大理王主、南無眞大理王主……」


自身が帰依する主神の御名を唱え、ミオの全身を撫でる出口。これが眞理教のお賜わせらしい。


「助け給え、助け給え、助け給え……」


目に涙を浮かばせ、何度もミオの全身を出口は撫でる。何度も何度も、ミオが息を吹き返すまで。











:

:

「た、助け給え…………はあ、はあ」


一時間以上は同じ動作を繰り返しただろう、出口の息も切れだした。出口はミオの口に耳を当てる。


「……そんな、そんなぁああああ!!!」


出口の耳朶(じだ)を、ミオの息が打つことはなかった。


「ミオちゃぁああああああああ…………」


ミオの体に身を伏せ、泣き崩れる出口。


「ちくしょう、ちくしょう……!」


再び、出口は握り拳を畳に叩きつける。


「俺は、俺はッ……!」


作務衣の上着を脱ぎ、タンクトップ姿になる出口。上着の背には「眞理教」と書いてある。


「ごめんな……ごめんなぁ……」


上着を広げ、ミオの亡骸を包む出口。


「……おじさん、鼎脚だけど修行がまだまだ足りなかったね。垢まみれだ。ミオちゃん、一緒に祓い清めに行こう……」


作務衣で包んだミオを両腕で抱き上げると、出口は部屋を後にした。


「ごめんなぁ……ごめんなぁ……ミオちゃん……」


扉も開け放ち、電灯も点したままの部屋に誰もいなくなった。


「ごめんよぉ…………」


廊下に間隔の空いた足音と啜り泣く声が響く。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ