行黄泉伴一人
程なくして、ミオの部屋に三人目の訪問者があった。
「……あの女のキチガイな声が聞こえたけど」
三人目の訪問者は恐る恐る、ドアノブを回して扉の隙間から中を覗く。
「……あのアマ、帰ったみたいだな」
そこに教主の姿は既になかった。ホッと胸を撫で下ろす訪問者。
「ミオちゃーん、おじさんだよ」
訪問者は中にいるはずのミオに声を掛ける。この訪問者も明と同じく、何回かミオの部屋を訪れていたのだろう。しかし、中からミオの返事がない。
「あれ? おーい、鼎脚の出口おじさんだよー?」
訪問者は鼎脚の中年男で、名を出口というらしい。
「……まさか」
出口に一抹の不安が過ぎった。出口は廊下側の壁にあるスイッチを押し上げた。ミオの部屋にある裸電球が橙色に点る。
「ミオちゃん!」
不運にも、出口の不安は的中してしまった。裸電球に照らし出されたのは、部屋の隅でぐったりとしているミオの姿だった。
「ああ…… ああああああああ!!!」
駆け寄り、ミオの体を抱き寄せる出口。
「あの糞アマぁああああああああ!!!」
出口は右手の握り拳で畳に叩きつける。ミオの顔は腫れ上がり、血液が付着し、光のない目が見開かれたまま、薄い唇も半開きになっていた。開かれた口からはもう、僅かな呼吸の音も聞こえない。
「はあ、はあ…… まっ、待ってろ、ミオちゃん! 今、おじさんが助けてやるからな!」
冷静さを取り繕うと、抱き寄せたミオの体を畳の上に安置し、出口はミオの体の側に正座して合掌した。
「南無眞大理王主、南無臺主、今当に我がミオにお賜わせをせんことの旨を畏み畏みもう申す……」
震える声で「お賜わせ」をミオに施そうというのだ。
「南無眞大理王主、南無眞大理王主、南無眞大理王主……」
自身が帰依する主神の御名を唱え、ミオの全身を撫でる出口。これが眞理教のお賜わせらしい。
「助け給え、助け給え、助け給え……」
目に涙を浮かばせ、何度もミオの全身を出口は撫でる。何度も何度も、ミオが息を吹き返すまで。
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「た、助け給え…………はあ、はあ」
一時間以上は同じ動作を繰り返しただろう、出口の息も切れだした。出口はミオの口に耳を当てる。
「……そんな、そんなぁああああ!!!」
出口の耳朶を、ミオの息が打つことはなかった。
「ミオちゃぁああああああああ…………」
ミオの体に身を伏せ、泣き崩れる出口。
「ちくしょう、ちくしょう……!」
再び、出口は握り拳を畳に叩きつける。
「俺は、俺はッ……!」
作務衣の上着を脱ぎ、タンクトップ姿になる出口。上着の背には「眞理教」と書いてある。
「ごめんな……ごめんなぁ……」
上着を広げ、ミオの亡骸を包む出口。
「……おじさん、鼎脚だけど修行がまだまだ足りなかったね。垢まみれだ。ミオちゃん、一緒に祓い清めに行こう……」
作務衣で包んだミオを両腕で抱き上げると、出口は部屋を後にした。
「ごめんなぁ……ごめんなぁ……ミオちゃん……」
扉も開け放ち、電灯も点したままの部屋に誰もいなくなった。
「ごめんよぉ…………」
廊下に間隔の空いた足音と啜り泣く声が響く。