第197話 第2回満月のメリークリスマス・仕度編
十二月二十五日。
某ショッピングモール内にある家具屋にて。
ここは、ソファやベッドなどを展示する都合上、この建物の床面積の一割を占めていそうなくらい、広々としたテナントスペースになっていた。
「お、これはビーズソファか……」
「まさかでしょうが言っときますけど、俺たちは通年販売されている家具には用はないですからね、サバキねーさん」
「ふと目に入っただけだから口にしただけというのに……厳し過ぎやしないかトツカ殿」
「ねーさんも大概かと思いますよ」
トツカ、サバキ、それとコーリンとピコリら家具班が目指したのは、レジのすぐ側に配置された季節商品の売り場。
当然そこにはクリスマスツリーが陳列されている。それも机に置く小ぶりなものから、コーリンの背丈をゆうに超えるものなど、多種多様なツリーがあった。
ピコリは自分のスマホで、家具屋の公式アプリを開く。そこで予めセットしておいたお気に入り商品と、目の前の箱を交互に見て、
「これだね、ウチの家のリビングにちょうどいいものは」
高さ百二十センチのツリーの箱を、スマホの角でポンポンつついた。
「うっし、じゃあこれを持っていくぞ」
コーリンは側面の持ち手を引き出して掴み、片腕で軽々と持ち上げた。
ちなみにこれは幹も葉もプラスチックの人工物なので、箱のサイズに対してそれほど重くない。
「あと残り買うのは……以上だったな」
「ですね。昨日、倉庫を調べたら、まさかのまさかでクリスマスツリーが無かったから、急遽買いに来た。それだけの役割ですからね、俺たち」
コーリンは破城槌めいてトツカに箱を押し付ける素振りをして、
「こらこら、あんま卑下すんなトツカ。ツリーはクリスマスパーティーの要だ、これがなくっちゃあ、ただの良いご飯会になるだろ」
サバキはトツカの前に一歩出て、陳列時には上だった箱の面に手を置いた。
「それもそうだ。が、これ一つ買うだけで四人も動員する必要あったのかという疑問なら、自分も同感だがな……」
守らなくて結構。トツカはサバキの真横に出て、自分も箱に手をかざす。
「俺もそういうことを言いたかったんですよ。だからといって、どうしたいというわけでもないけど」
ピコリは二人に合わせて、反対側の面を所在なげにさする。
「なんか雰囲気でこの班分けになったけど、何でだろうね? 木が重かった場合のために、パワータイプのキャラを集めたとか?」
「けどピコリねーさんは違いますよね?」
「テクニックともスピードとも言い難いなピコリは……」
「だよね。ウチはあれでしょ、戦闘要員じゃないからプレイアブルじゃないでしょ。きっと。よくてサポート型」
コーリンは『なんで触るんだよ』と言うように、右手にある箱を軽く揺らす。三人の手が吸盤のように離れたあと、左手に回して持ち替えた。
「さあな、ひょっとしたらセンスの問われる買い物に同行させたくない奴らをこっちに寄せたんじゃないのか?」
「だとしたら自分は切なくなるがな」
「ほら、スーパーも百均もゾロゾロ歩いてると迷惑だからね……」
「そっ。そうですって……やはりツリーの運搬のことを考えたんですよ」
「だといいんだがな……」
一方その頃、スーパーエリアにて。
「イバラ、『ショコパイ』ファミリーパックがあるっスよ! これパーティーの途中途中に摘むとちょうどいいんじゃないっスか!」
「お菓子ならこの『めっしゅジャガ』もオススメじゃぞ! バリバリに硬くておいしいぞい!」
「れいとうフライドポテト……かった……ケーキもつくる……よてい……なのにそれ……いる……?」
また一方、百円ショップでは。
「だいたいにしろ針金入りのモールでオーナメントなんて作れるのかい、ユノス?」
「うん、作れるよ。家にあるピンポン玉かなんかに巻き付けて形を取るとかして。それならいっぱい色が入ったモールで色々作れるよ」
「けど、それだと緑色のオーナメントなんか出来てしまうじゃないか!? 葉っぱと紛れてしまうのはいかがなものかと思うよ?」
「けどここにも緑色に塗装されたオーナメントがあるよ?」
「あ……けどこれは光沢があるから……!」
「あのー、マジナお姉さん、ユノスお姉さん……ダメですねこれは。白熱しております……」
閑話休題。視点を家具班に戻す。
自分たちだけぶっちぎりで早く用件を済ませてしまうと、二班六人から大ひんしゅくを買いかねない。
なので四人は軽くこの家具屋で時間を潰すことにした。
「オーナメントは百均班と付属のもので足りるからいいとして……ツリー以外にもクリスマス向けの家具って色々あるんだなー」
と、コーリンは陶器製の妖精の置物を前にしてつぶやく。そして、なんかの拍子に割れることを恐れて、気持ち遠ざかっておく。
「家具量販店というだけあって、屋外用の商品も多いなあ」
先の妖精の置物に加えて、ケーブルライト、デッキチェア、焚き火台までもある。
(今年は豪雪だったらどうするつもりなのやら……)
ピコリはペットボトルくらいのサイズの箱を手に取り、見つめていた。
その前面には、傘の持ち手のように曲がった紅白の棒の完成イメージが、印刷されている。
「これはあれかな。ドラックスとマンティスがケビン・ベーコンの家から強奪したアレかな?」
正式名称『キャンディケイン』……の、風船飾りである。
そして四人は、丸っこいフォルムのサンタの像を目にする。
土台は黒い円盤で出来ていて、ここから風を送り込んで膨らませるタイプのもの。そのためかゆらゆらと愛らしく揺れていた。
光源も仕込まれている。内側からはオレンジを帯びた光がビニールを介して漏れており、夜道ならさぞ綺麗に輝くのだろう。
その輝きを先行体験させるように、コーリンの両目はキラキラしていた。
「おお、面白いな! これも買おうぜ!」
「え、これも!? こういうのって十日前から玄関前に飾っておくタイプの代物だと思うんだけど……」 と、ピコリ。
「屋外まで飾る予定はなかったぞ。それに庭に置くスペースがあるかも気がかりだ」と、サバキ。
「あと、ご近所の方も考えたほうがいいかもしれません」と、トツカ。
「全く、夢のない話を三人して言いやがって……まあオレもそこまで馬鹿じゃないからな。ちゃんと詳細を見ておこう」
コーリンは、左手にあるツリーの箱をサバキに預けて、見本の横に積み上げられている、風船マシンの箱に手を伸ばす。だが、指が付く前に戻る。
「どったの、姉さん?」
「……これはダメだ。予算オーバー過ぎる」
四万九千九百円――その値札に背を向けて、四人はツリーの箱だけ持ち、一切の未練を断ち切り、レジへ歩いて行った。
*
午後一時。
満月姉妹は必要な物を無事買い揃え、とっとと家に帰ってきた。
カップラーメンなどで簡単に昼食を済ませてすぐ、母親の帰宅に向けて準備を開始した。
パーティー料理を統括するのは、言わずもがなイバラ。
買ってきた鶏肉を食べやすいサイズにカットし、塩コショウ、小麦粉と片栗粉をまぶしていく。
途中、イバラは横のIHヒーターの辺りへ目をやる。
「どう……ジャガイモのちょうしは……?」
コンロの上にある鍋の中では、小粒の皮付きジャガイモが熱湯に浸かって踊っている。
トツカは聞かれてすぐ、端にある一粒に竹串を刺してみる。頑張れば奥まで入ったが、これはまだ火が通っていない証拠。
「もう少しではないかと……思います、料理長」
「こつぶといえど……かわつき……きながにかまえて……」
「ウィ、シェフ!」
「わたし……フレンチじゃない……」
「すいません」
頑張ってボケて損したトツカは、その後悔の重さから頭を前に垂らした。
「うわっつうッ!?」
そしてすぐ、思いのほか熱かった湯気によって正面を向き直す。
「いいっスねー、トツカは。ただ鍋見てるだけの動きの少ない仕事で」
「アタシらはこんなにも面倒なことさせられておるというのに……」
キッチンのすぐ手前にあるダイニングテーブルでは、ワノとルシェヌ、それとネロアが細かい仕事に勤しんでいた。
ネロアが食パンを細かくカット。
ワノとルシェヌがそれに、チーズやトマト、キュウリやハムを挟んで爪楊枝で刺す。
今のダイニングテーブルは、ピンチョスの量産場になっている。
サイズ感が違い過ぎるものの、ネロアは刃物に慣れているため、苦も無くサクサクとピンチョスの土台を増やしていく。
その向かいの辺に座るワノとルシェヌは、目をガン開き、下唇を噛んで苦みを感じながら、乗せて刺すを繰り返していた。
「よりによってこの魔王……というのはあえて抜きにして、何故アタシにこんな細かい作業をやらせるのじゃあぁ……」
「絶対に午前の買い物で好き放題やってたことの当てこすりっスね……へらこいヤツやでイバラ……」
ネロアはノールックでまな板に食パンを二枚セットしつつ、二人の歯からうっすら漏れ出す愚痴に苦笑いする。
「ピンチョスも大事なパーティー料理ですから、ここはどうかこらえてください。僕も食パンカットが終わり次第、すぐ援軍に行きますから」
「わかってるっスけど、クリスマス前にこんな地味な作業やりたくないっスよ! しかもどうせ苦労に反して一口でパクパク食われるようなモンっスよこれ! そういう儚い気持ちくらいはわかってくれっス……」
「終わり次第と言わずすぐに来るのじゃネロアー! アタシもう爆発するぞぉーい!」
ここで三人は、キッチンの方から嫌な光が瞬いたのを感知し、そちらへ警戒を向ける。
総料理長イバラの第二の特技、二丁拳銃の突きつけだ。
「つべこべいわずやれ! ワノおねえちゃん、ルシェヌ!」
「は、はいっス!」
「う、うむなのじゃ!」
ここから二人もネロア並のテンポで串刺し作業を進めていった。
イバラはそれをフンと鼻で笑い、粉まぶしを終えた鶏肉のバットを冷蔵庫へ寝かせた。
(いい加減、銃向けるのやめてくれませんかね……もう見飽きてるんだよな。このくだり自体も)
トツカはため息を湯気に紛れさせて、茹でたジャガイモをザルに移していく。
一方その頃、他の五人はリビングの飾り付けに励んでいた。
ツリーの組み立てはもちろん最初に終わらせておいている。
ウォールステッカーやガーランドなどの飾りは、コーリン、マジナ、サバキの背が高い方組が目立つ場所に貼っていく。
ユノスはローテーブルでモールや厚紙を駆使して、オーナメントの作成に勤しむ。
細かい作業は、助手のアザレアとピコリが行っていた。
アザレアはモールのカットと巻き付けを、ピコリはジンジャーブレッドの線画への色塗りとカットを担当している。
「なかなか上手いね、お姉ちゃん」
「へえ、ありがとうございます。ウチ、第159話でも言っていた通り……」
「CDのジャケット作成もやってたから、それなりに絵心あるんだよね?」
「覚えてたの!? ええ、そういう感じなんで楽しくやらせて貰ってます。絵そのものも塗りがいがありますんで……」
ユノスが作ったジンジャーブレッドは、満月家の面々をクッキーに落とし込んだもの。
お菓子で再現できそうな色や飾りしか使えないという制約がありながらも、全員の雰囲気をガッチリ掴んでいた。
「でしょー、ふふん」
これにはユノスも自慢げに鼻を鳴らした。
アザレアも拍手を鳴らして囃し立てる。
「アザレア、そこまでしなくていいよ」
「は、失礼致しました……」
ある程度まとまった数のオーナメントが出来上がったところで、ユノスはそれをカゴに詰めて、床に置く。
「はい、じゃあこれをツリーによろしく」
「任せておくじゃけん! ほいじゃいくけえ、みんな!」
「QYEA!」「NIN!」「BOW!」「PYI!」「WHAY!」「JAVA!」「O!」
手乗りサイズになったIrrynCrashらマジナの八竜は、それぞれオーナメントを持ってツリーへせっせと上り、いい感じの位置の葉に引っ掛けた。
それをガーランドの微調整中に見た主……マジナは「おおー」とうなる。
「これは助かるね、これぞ適材適所ってヤツだね」
「あるいは出番を無理やり作ったというべきかもしんないけど」
と、ピコリはボソっとつぶやいた。そしてマジナからゆるめに一発蹴られた。
「失敬だね! ここ数ヶ月は私自身がアクションするタイミングがあまりなかっただけだよ!」
そんなこんなで、満月姉妹は賑やかになったり、不平不満をぼやきつつ、このリビングを一日だけ別世界に作り変えていった。
*
そして、夜……午後七時。
「いっそげいっそげ、みんなが準備して待っているんだ」
革靴で無理なく出せる範囲での最高速度をもってして、チヨは澄み切った夜の空気を切り、最寄り駅からの距離を遠ざけていく。
やがて自宅の姿を捉えた。それは街灯に照らされた、本当に見慣れた家の景観だった。
(流石に外までは飾らなかったか……まあ、ご近所さんに『こういうのって一週間前から飾りますよね?』とか言われるのもやだし……)
冬の外気に晒されてすっかり冷えたドアノブを、コートの裾越しに触れて開ける。
「ただいま……」
チヨは急いで内側……廊下に入った。リビングに通じる引き戸のガラス部分以外の光源がない中、靴を揃えて脱いだ。
リビングの方からコソコソ人の気配を感じるが、まだ返事はない。この特別な日のための初撃を何かしら用意しているのは間違いなかった。
「さて……果たしてどうなっていることやら……」
チヨは引き戸の前に立ち、喉を鳴らしたり、腕を回したり伸ばしたり、ボクシング経験など一切無いのにボクサーステップを踏んだりして、心の準備を整える。動作は形から入るためにある。
そしてチヨは意を決して、
「ではいよいよ……ただいまー!」
勢いよく引き戸をスライドする。
すると娘十人がソファなり、ダイニングチェアなり、リビングのあちこちで各々のスタイルでくつろいでいた。
数秒開けて、全員は携帯していたクラッカーを構えて、
「はいそれじゃあ爆発まで五秒前! 四、三、二、一……」
「「「「「「「「「「メリークリスマス!!!!!!!!!!」」」」」」」」」」
十人同時に紐を引っ張り、けたたましい破裂音を解き放った。散らからないようにクラッカー内にくっついたままの紙テープが、チヨの頭や肩に被さる。
(……こういうのって戸を開けた瞬間にやるものだろうけど、あたしが腰抜かさないように配慮したんだろうなぁ……)
「い、イエーイ、メリークリスマ〜スッ!」
チヨは娘たちの華やかなムードに答えて、紙テープで三割ほど覆われた顔で笑みを浮かべ、ダメ押しのピースサインを強調した。
数多のオーナメントを吊るすクリスマスツリー、ガーランド、ウォールステッカー……今日一日の娘たちの奮闘の成果を見ながら、チヨはダイニングテーブルの特等席(※余った飾りを引っ掛けた、元々あった椅子)に座る。
「やっぱクリスマスツリーを買ってもらって正解だね」
「だろうな。自分たちが計算してこのリビングに最適なサイズの買ってきた」
「で、オレが一人で家まで運んできたってわけよ」
「オーナメントのいくつかはボクが作ってるもん」
「ちゃんとよく見ておくれよ、母さん。あのオーナメントを作る際には様々なドラマがあったんだからさ」
「あ、ホントだ。なんかあたしっぽいクッキーいる!?」
そこにクリスマス料理が次々と運ばれた。
「このフライドチキンは……やっぱりイバラの手作り?」
「うん……ちなみに……ポテトサラダは……だれかわかる……?」
「え、ええっと……ネロア?」
「わかるはずないですよね。全部イバラ監視の元で作ってますから。なお正解は俺です。トツカです」
「僕は食パンを切る係を主に務めていました」
「え、食パン……ああ、これね! このピンチョスの土台か!」
「で、それをぜーんぶ挟んだのはアタシじゃぞ! どうじゃ、凄いじゃろ母さん!」
「おいこらルシェヌ! 手柄を独り占めするんじゃないっスよ! アタイも久々に細かい作業して頑張ったってっスのに!」
「あはは……それと僕も後半はお手伝いしてますけどね……」
「……本当にお疲れ様でした、三人とも」
そして最後にケーキが運ばれてきた。『Happy Christmas』のホワイトチョコの文字が印刷された板チョコが中央に置かれた、いちごとホイップクリームのケーキだった。
「こちらはイバラ料理長が手作りしたものになっております」
と、補足を入れたピコリに、チヨはなんとも言えない顔をして尋ねる。
「……今年は、思いの外、無難なのね……?」
「あ、はい、前回は好き放題やり過ぎていたので……」
おかあさんあいしてる、百万一心、などの場違いに重いメッセージが書かれ、鶏軟骨が突き刺さっているような、不気味なケーキを心の奥底で期待していたチヨであった。
「そ、そうね……ごめん。そりゃみんなで食べる物だから、あんまり遊んじゃいけないよね」
「だけど、これはこれで逆に、私たち満月家のメリークリスマスにしては大人しすぎると思って……こんなものを用意してみたよ!」
マジナはチヨの手前に、キャンドルを置いた。黄色、赤、青、オレンジ、緑、群青、マゼンタ、黄緑、青緑、紫、最後にピンク……十一人全員のカラーが揃ったキャンドルだ。
「今日、百均に寄ったときに一応買っておいたんだよ」
と、マジナは背後に回した左腕で、白いキャンドルを揺らしながら言った。
同じくそちらへ同行していたネロアが言う。
「クリスマスケーキにろうそくを立てる意味はあまりないとは思いましたが……マジナお姉さんが盛り上がれば定石にこだわらなくていいと言いましてね」
「それでどうする、刺す?」
「そりゃもちろん!」
このキャンドルはサバキを代表して刺した。後々揉めないように、装備のマシンで十一等分になる位置を緻密に計算して、その目印を作るためだ。
「じゃあ火はアタシが……」
ルシェヌは、他の姉妹たちが警戒する中、ライター程度の火を人差し指に灯して、それを十一本に移した。終わった途端に一同からホッと一息つかれたが。
スイッチをネロアのスケルトンが押すと、ダイニングテーブル周辺が十一色にほのかに染まる。
「どうじゃ、どいつもこいつもボヤ騒ぎを警戒しておったが、アタシはこれだけ器用なのじゃぞ! えっへん!」
そこから満月姉妹たちは、お互いに顔を見合い……何かしようとした。
二十秒ほど、満月家にふさわしくないしめやかな沈黙が場を占有したことに耐えかね、チヨは恐る恐る言った。
「……やっぱこういうのってバースデーケーキでやるものだよね……みんなそれに代わるクリスマスソングとか歌おうとしてないし」
「もしよければウチがなんか歌うんで、皆さんご一緒にどう……」
「いらねえよ。ピコリの知ってる曲ってリズムが取りづらいのばっかだしよ」
「……テクノ感ない普通の歌おうとしたのに、グスン」
というわけでチヨは、歌などのタメ時間はなしに、そのまま息を吹きかけて火を消した。
その瞬間、スケルトンが再びスイッチを押してリビングを明転させると同時に、姉妹たちは盛大にこの瞬間を祝う。
「クリスマスおめでとうだ!」
「良き聖なる夜が来たね、母さん!」
「二度目のメリークリスマスだ!」
「ハピメー、母さん!」
「ハッピークリスマスだよ、みんな!」
「満月家の聖夜に祝福あれ!」
「ウェーイ! クリスマスっス!」
「おめでと……」
「ええっと……おめでとうございますっ!」
「今年もよろしくなのじゃー、母さん!」
「やっぱ貴方たちは揃わないねぇ!?」
チヨの渾身のツッコミがリビングに響いたあと、十一人分の笑い声が長く続いた。
それから満月家は、この十人の娘たちの作った愉快な空間と料理によって、クリスマスパーティーを賑やかに過ごすのだった。
*
一時間後。
ダイニングテーブルに並んだ大皿がほとんど空になり、満月家の何人かが胃も身体も疲れてダラけてきた頃、チヨは意を決して宣言する。
「それじゃあみんな、事前に言ってた通り、あれ、やろうか……」
その瞬間、姉妹十人は途端に背筋を伸ばして、チヨ一点を見つめる。
皆の気合十分さを受けて、チヨは思わずキリッとした表情を作る。
「では、本日のもう一つの大イベント……プレゼント交換会を行います!」
【続く】




