第190話 友達電撃航(ともだちサンダークラップ)
冬休みシーズン。
「はい、ただいまウチと姉さんは、家からまあまあ遠いところにあるショッピングモールに来ています!」
「そろそろ家にずっといるのも飽きたんでな。数時間単位の暇つぶしならこういうとこがうってつけだろうしよ!」
ピコリとコーリンは、大型ショッピングモールによくある、何らかの催事・イベントを行なうための広場。そこにある円柱を背にして立っている。
「今日はここを適当にうろついて、程々に面白いことしてやろうとしているんだが……」
「正直このコーリン&ピコリペアは、見飽きたっていう読者さんも多いでしょうから、今回は味変に、スペシャルゲストをお呼びしています!」
「スペシャルゲスト……本当にスペシャルだろうなあ、ピコリ!?」
「まあウチらが勝手に言うのはいくらでもできるから……それじゃあお入りください、どうぞ!」
ピコリが右手を向け、コーリンが目を見開いた先から、二人の中間くらいの身長の男子が、腰を軽く曲げてスタスタやってくる。
「はい、どうも、作者の他作品の主人公、見浦ゼンと申しまーす! 今回はどうぞよろしく!」
満月姉妹は思い切り拍手し、ゼンはあちこちに頭を下げるフリをした。
拍手をやめてすぐに、コーリンはゼンに問いかける。
「ゼン! お前こっち来るのは初めてじゃねえか!?」
「そうですね。満月姉妹の皆さんがこっちにカメオってたのははっきり覚えてるけど」
「厳密に言うと、ウチの前の回でマンセルさんと出てたよ(※第157話参照)?
誰だとは言及されてなかったから、ちゃんと名前が出てきたのはここが確かに初だね」
「あっそうだったか。まあ、せっかく正式に姿出せたんで、ちゃんと爪痕残すように頑張ります!」
コーリンは、ゼンが胸元に引き寄せた両拳を、いともたやすく降ろして、
「そこまで肩に力入れなくていいっての! 普段通り仲良くやろうぜ!」
「ええ、そんな軽いノリいいの? ワンチャン俺、百合の間に挟まる男として叩かれないかと心配してんだけど」
ピコリはパーにした両手をワイパーのように振る。
「ないない、それはない。ウチら百合カップルとしての需要はほとんどないから」
という具合でアイドリングトークを済ませたあと、三人はいよいよテナントが並ぶ大通りへと歩いていく。
*
一行が始めにやって来たのは、最近ジワジワと増えつつある北欧系の雑貨屋『スイミングドラゴン』。
素朴な中に遊び心あふれる商品の数々に惹かれて、三人は中に入る。
「すげぇな、ペンだけでもこんなに色々あるのか」
「あ、これ家にあったビリヤード台だ! あの時遊んでたの(※第177話参照)って、ここ出身だったのかー!」
「ボックスキャンバスまであるぞ! 文房具屋以外で見たの初かもしれない……」
三人はそれぞれ気になった商品を手に取って見つつ、店の奥へ奥へと進む。
ロゴが太くて丸めかつ、商品がカラフルなところから察せたが、どちらかというとこの店は子持ちの家庭向けの商品が多い。
そのためか、小さいテントやパペットなどの子供向けのおもちゃが充実していた。
コーリンはスポンジ製の剣を手に取り、自分が本気で戦うときのように構えを取ってみる。
それを見て、ゼンは素直に感嘆する。
「おお! なんかサマになってますね〜、剣士っぽーい!」
(サマになっているって言うより、その剣士そのものなんだがな……)
「へへん、どうだ!」
「なら負けじと俺も……」
するとゼンは近くにあった水鉄砲を、肘を引き寄せて斜めに持って構える。
「おお、なんかカッコいいな」
「それ何の真似なの、ゼン?」
「リコリス・リコイル」
「ああ、そっち? ウチ、ジョン・ウィックだと思ってた」
「それはあれが元ネタの可能性もありますけど」
「確かに。あれだけ銃器のこと突き詰めたら自然と行き着いてそうだけど」
コーリンはおもちゃの剣を元あった場所に戻す。
「じゃあ最後だピコリ、お前もなんか一個モノボケやってみろ!」
「えー、ウチも!?」
「ゲストの俺もやったんですよ? ここは一つ、レギュラーの格を見せてください!」
「……ったく、しょうがないなぁ〜」
ピコリは半笑いで側の棚を見て、そこからウクレレを手に取る。
左手でネックを支えて持ち、空いた右手は肘を直角に曲げて、真上に向ける。
「……何です、そのベタなギタリストみたいなポーズ?」
「言っとくがオレたちは洋楽までは知らんぞ。正解合わせ頼む」
「正解は、映画『スクール・オブ・ロック』のジャック・ブラック」
「知ってるかよピコリ。どこの誰だよ」
「ジャック・ブラックはご存知ない? 実写版マインクラフトに出てた人」
ゼンはテレビCMの微かな記憶を頼りに言う。
「あー、あの……ヒゲモジャの人ですか?」
「それだと『どっち』ってなるよ? ジェイソン・モモアもヒゲモジャだったし」
「ジェイソン・モモア……あ、『アクアマン』の人!?」
「どれでもいいだろもう! 早く買うもの買って出るぞ!」
このコーリンの一言のあと、三人は一時解散して、それぞれ品を持ってきた。
「あ、ゼンさん本当に買うんだ、そのキャンパス」
「部屋のインテリアにします。絵の具でミア様の肖像画にチャレンジします」
ちなみにコーリンは読書記録の手帳、ピコリはスマホのホルダーを購入。
スイミングドラゴンさん、ありがとうございました。
*
「あ、このモールにもあるんだこのショップ!」
「最近は推し活だかで需要があるんだろうな」
「俺たちオタクにはいい時代になった……のかね」
続いて三人が立ち寄ったのは、アニメ関係の総合ショップ。
原作本は言わずもがな、アクスタやストラップなど、幅広くグッズを取り扱っている。
ここでコーリンはそっと二人へ伝えておく。
「流れで来たが……オレ、アニメにはあんま詳しくないからな、口数減るぞ」
「じゃあそこは俺たちがどうにかしますんで、適当にコメント刺し入れてください」
「というわけでゼンさんよろしく」
「いや貴方もですよ、ピコリさん」
コーリンが言及した通り、今日は推し活のブームによって、アイドルさながらに各キャラにテーマカラーが割り振られていることも多い。
髪の色とか、よく着る衣装などのないキャラクターでもそうだ。
なのでどこの作品のグッズを見たとしても、必ず色相環さながらに色とりどり並んでいた。
……どうしてこうした情報量があまり増えない情景描写をしなければならないのか?
それは一行が、あまり喋ったり、『歩く』『見る』以外の比較的アクティブな動きをしないからである。
この店内には、コーリンはもちろん、ピコリとゼンのサブカルチャーに強い二人でも詳しくないグッズばかり並んでいた。
(え、今あの大手漫画雑誌って、この作品が人気なの……? 全然知らない)
(俺の好きな『クリアーリバティ』のコーナーがこんなに縮んでやがる)
数十年前から続いている人気作品のグッズは流石に堂々残っているものの、その他はキッチリと世の中の流れを毎秒追っていないと主人公の名前さえも言えないような作品が、あちこちの棚を占有するようになっていた。
それと、大手のバーチャル配信者か、実況者グループなのかアイドルなのかよくわからない出どころのグッズ。
「おい、お前ら二人とも……口数が少なすぎるぞ。何があった?」
「うん、ウチらもう、年取ったのかもしれない……」
「だったらオレもおばさんなってるだろうが」
「そういう例えだよ。ウチ、今のトレンド全くついて行けてないんだから」
すっかりしょげた様子で、ピコリは言った。同時に意味もなく、両手の指先を合わせてゴニョゴニョさせている。
そんなピコリの肩に、コーリンはそっと手を置く。
「気にするなよピコリ。興味の無いものに無理に付き合ってたってどうしようもないだろ。動物みたいに常に環境のために進化しないといけないわけじゃあるまいしよ」
肩に伸びてきたコーリンの腕に、ピコリは触れて、
「そうだね、ごめん、姉さん」
そしてコーリンは目を細め、歯を見せて言った。
「……てなわけで、さっきみたいな謎の俳優のネタ使うの止めてくれないか」
するとピコリの顔がまた曇る。
「……だから最新の漫画とかゲームのネタもキチンと把握しておきたいって思ってたんだよ。
作者がここ最近映画ばっかり観てるから、ウチも映画ネタを扱うようになってるんだからさぁ。
本当に作者のチョイスの年寄り化は深刻だからね? 未だにリコリコが二次元コンテンツの一線張ってると思い込んでたから! そのくせして、ショートアニメやってたこと気づいてなかったし!?
あとゲームももっと色々やるべきだって! あの人いつウマ娘始めるの!? ずーっとイラスト投稿サイトで二次創作はバンバン観てるくせに、キチンとコンテンツに貢献しようとしていないしさあ!
しかもカードゲームも最近は……」
以下強制カット。
「お、おう……とにかくもうここ出ようピコリ。腹も減ってるだろうしよ。冷やかした風になって悪いがな」
「そ、そうだね……とにかくウチが言いたいことはこれだけ。
最近のコンテンツの流動性早すぎ、もっとよく咀嚼して嚥下すべき。
以上、満月ピコリでした!」
一方その頃、
「ミア・ロマネスク……ミア・ロマネスク……クソーッ!」
ゼンはクリアーリバティの棚に、自分の最推しキャラがいないことで、シェイクスピア悲劇ばりの絶望さえも覚えていた。
*
お昼頃。
歩き回ってお腹がすいた一行は、フードコートへ昇った。
そこで残る体力を削り、なんとか三人座れるテーブル席を確保する。
「レシートとか小物置くなよ! ちゃんとカバンとか迂闊に触りづらいものを、人数分置けよ!」
「さもないと後から来る、席に飢えた人に誤解されるからね!」
「わざわざ大声で言わなくてもわかりますって、お二人さん」
三人は自分が食べたい店へと並びに行く。
十数分後。
コーリンは鶏唐揚げ定食。ピコリは野菜味噌ラーメン。ゼンはサンドイッチセットをご購入。
「ゼン、それ、ここのフードコート以外にもあるよな?」
「俺んちの最寄りの店はここなのですよ。無理してここ限定のもの食べようとしないタイプですから俺。そういうのって当たり外れ多いし」
「……不安になること言うんじゃねえよ、ゼン」
「あ、すみません……コーリン姉さん」
コーリンは割り箸を机に叩きつけて、袋を破る。
「オレには弟などいないぞ!」
「いやそんな本気で否定してきますかあ!?」
と、ゼンは眉毛を曲げて、軽く戸惑った。
この反応に、仕掛けたコーリンも逆に笑ってしまう。
と、ここでピコリから一言。
「フードコートあるあるだよね。パッと見個人店かと思いきや、実は五個くらいチェーン店があったみたいな」
「タイミングおもっきしズレてません、ピコリさん?」
一行は各々が頼んだ料理を実食する。
まずはコーリン。
こんがり赤茶色の衣をガブッと歯で割り、中の鶏肉をかじる。
八、九回ほど噛んで、身の旨味と肉汁を堪能した後、ご飯をかき込んだ。
そして添えられたキャベツとたくあんで、口の中をリセットする。
「……うん、衣はサクサクだし、鶏肉も程々に弾力があるぞ……だが……」
「「だがーー??」」
「……なんか、噛み合ってないんだよな。ちゃんと美味いし、ご飯も進むが……なんか一歩足りてないんだよなあ、唐揚げとして……ああ、繰り返すが、美味いには美味いぞ」
次はピコリ。
その手の専門店ではないので、公園で『山』という愛称で呼ばれていそうな遊具くらいの高さに盛られた野菜の中から、もやしとキャベツとコーンをまとめて口に入れる。
それに染みた味でスープを先行体験したあと、本題の麺をすする。
最終確認として、レンゲでラーメンの土台的存在のスープを一口飲んだ。
「ああ、今日。冬で良かったねこれ。野菜と味噌のいい成分が沁みてくる感じするぅ」
「ほう、それでどうなんだピコリ?」
「麺も角ばってて噛みごたえあるから、一口目の濃度すごいよ」
「んで、まだあるんでしょう?」
「もやしがね、第二の麺みたいになって……何故にウチのパートだけ長いの?」
最後はゼン。
長方形のサンドイッチの一角に大きく口を開け、豪快にかぶりつく。
「うん、エビの濃厚な旨味と、アボカドのクリーミーな風味がマッチしてる。やっぱ王道はこれだね」
続けて、セットで注文したフライドポテトとソーダをご一緒に。
「これは……いちいち言わんでもいいね。ここのはすげーホクホクしてるって」
と、ゼンは言い切ったあと、目を下へ落とし、決め顔を作る。
満月姉妹の二人は、それを無言で見つめた。
「……あ、これじゃダメですか? じゃあ頑張って付け足します。
ご存知の通り、ここの店はパンから具までカスタムするタイプなんだけど、オレはメニューの写真のまんまが食べたかったんです。
だけどそれを言わせて貰えるチャンスがなかったんで、結果、何から何まで一つずつパーツを言わなきゃいけなくて……面倒でした。これでいい?」
「おう、いいぞ!」
「ごめんねーゼンさん、ゲストってことでハードル高くしちゃって〜!」
ここから三人は、フリーで自分の昼ごはんを食べていく。
その途中、ゼンはふと二人に問いかけた。
「別に迷惑だからって言いたいわけじゃないですが……今日はなんで俺だけをオファーしたんです?」
ピコリはレンゲを置いてから、
「あの作品の顔と言ったらゼンさんかなーって思いましてね。そちらが言いたい通り、同じく主人公のミハルさんとリョウカさんも呼んでもいいかなーって思ったけど、五人で動いたら一話にしては情報量が多くなっちゃうからねー」
コーリンが補足する。
「モールとの相性ってのがあるからな。ミハルは本屋じゃないと本領発揮できないだろうし」
「そうですね、ミハルちゃんはそれ以外のロケーションだとあんまコメント出ないでしょうから。
あと、後出し情報ですけど、リョウカは今日、家族六人で焼肉屋行く予定があったので、モール行くのは焼肉屋に失礼だってことでどのみち無理でした」
「うわっ、それ聞いたら焼肉の口になってきたぞオレ。今日の夕飯、運よく焼肉にならねえかな?」
「ならないならない……あとゼンさん、さっきリストアップしそびれたオウマさんはダメだったの?」
ゼンはサンドイッチの包み紙を丁寧に折りたたみつつ、
「あー……オウマは、別にフリーだったっぽかったんですけど……」
「ですけどー?」
「最近、よく二人だけで遊びに行くことあるんですけど、その度になんか小一時間に渡ってトイレ行くのがあって……多分短気な二人がそれされたらキレると思って、連絡入れてません」
「よくやったぞゼン……まあ、友達だからそんなグワーってキレる気はないがな」
「オウマさん、そんな胃腸弱いキャラだったっけ……?」
「さあ。けどなんか戻ってきたとき、毎回ヘットヘトかつ、喉ガラガラなんで、相当格闘してるんだと思います」
という他愛のない世間話を交わしつつ、三人は昼食を終えた。
揚げ工房さん。十勝家さん。ゲートウェイさん。美味しい料理をありがとうございました。
*
ここでスペシャルゲストのゼンからお知らせ。
「えー、俺が登場している作品『マルチバース産ブギーマン的問題解決法×3 ――クローゼットより遥々来た相棒と、冴えない日常を、蹴って、斬って、着色する――』……タイトル長えな……は、絶賛公開中です。
俺はマイナーキャラの二次イラスト創作に励む主人公、見浦ゼンを演じてる……っていうより、本人です。
異世界にあるドデカ美術館のエージェント、マンセルさんとの出会いから始まる、そこそこ笑えて、ちょっぴり泣ける人間ドラマ、是非ご覧くださいっ!」
*
お昼過ぎ。
三人は最初に集まっていたモール内広場の、柱の前に集結した。
ピコリはパチンと手を鳴らしてから、
「はい、これにて、ウチら三人はモール内で十分楽しんできました! 今日の感想はいかがでしたでしょうか!? じゃあまず姉さんから!」
ピコリに握りこぶしを向けられたコーリンは、軽く息を整えてから、言った。
「やっぱ暇になったら定期的に来てみるもんだな、ショッピングモールは!」
「ありがとうございます! じゃあゲストのゼンさん! いかがでしたか今日は!」
ピコリがさらに腕を伸ばして来たところで、ゼンは、ボックスキャンパスを抱えて、自信満々に口を開く。
「やっぱりこれに出会えたのが一番の収穫かなーって思ってます、はい。また機会があれば、余裕で来ますんで、その時はよろしくお願いします!」
「わかりました、ステキなコメントありがとうございます! あの作品、『4Iワールドエンフォーサーズ』以上に人気が出なかったので、今後はこっちのキャラとして振る舞って貰う可能性が高いですから……期待しててください!」
そして三人は柱に向けた背をピンと張って、同じ方向を向いて、
「それではまた次の機会にお会いしましょう! 満月ピコリと!」
「満月コーリンと!」
「見浦ゼンでした〜〜!」
しばらく笑顔で手を振るのだった。
「……はい、じゃああとは解散! お疲れ様でした!」
「はい、お疲れ様でした、ピコリさん、コーリンさん!」
ゼンは二人に礼をした後、広場を横断した先にある、スーパーマーケットのエリアへと歩いていく。
その後ろ姿を見て、コーリンは思い出し、スマホでメッセージアプリを開く。
「おいピコリ、そういやイバラから、ここでしか使えないクーポンで、ケチャップとオリーブオイル買ってこいって言われてたよな?」
「おっと、いけない。危うくイバラに始末されるとこだった。帰りのバス乗る前に寄ってかないと」
そしてコーリンとピコリもスーパーエリアへ向かう。
二人の方が若干歩速が早かったため、解散したてのゼンと結果隣り合った。
「どうも……まだなんか用です?」
「いや、そうでもないんだなそれが」
「あはは……偶然ですホント」
【完】




