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第189話 騒動決着、マジサバVERSUS

 とある日の満月家のリビングにて。


「一つのチームのメンバーは、八人までが限界という説がある。

 十人を超えると、仲間割れや、派閥争いに発展して、最悪破綻するという説も付随する……んだとよ」

 コーリンは、過去になんかの本のどっかで見た内容を口にする。


 隣に立つピコリは『へぇ』と、うなる。

「確かに、初代の『アベンジャーズ』は六人だったけど、『シビル・ウォー』の時はヒーロー十二人いたもんね」


「……そうだな。

 で、オレたち満月家は母さんも足して十一人いるだろ? 内部分裂みたいな争いは……ないわけではないけど、すぐ解決はした。破綻クラスまではいってないよな。

 けど、あからさまに関係が悪い奴はいるにはいるよな」


「……」


「ていうわけで今日はこんなことをするんだよね。

 第一回! チキチキ、マジナvsサバキ甲乙つけつけ三本勝負〜!」


 コーリンとピコリ、それと冒頭の会話に参加していなかったイバラは、パチパチと元気よく手を鳴らす。


 この三人と、ハの字になるように隣り合ってダイニングチェアに座らされているマジナとサバキは、手を肘に置いたまま、口を真っ直ぐ閉じて結んでいた。


「はい、今回は、怪盗と警察というスタンスが真反対のせいで、だいたいギスギスしてる二人に、多少大人しくしてもらうべく、どちらが優秀かをゆるめに決めたいと思います!」


「どういうおふざけかな、それ!?」

「そんなことして何になる!?」

 怒鳴る二人へピコリは答え返す。


「今後、なんかしら問題が起こったときに、昨日みたいなエンドレス押し問答にならないように、どっちの意見を優先するかって決めるためだよ!」


「遠慮しとくよこんなの!」

「結構だ!」

 二人はさらなる火力で怒号を放ち、ピコリら三人の耳を塞がせる。


「あんなの私のほうが正しいに決まってるじゃないか! 何をこんな面倒までして優劣を決めなきゃいけない!」


「自分はこの隣のトラブルメーカーと違って、私利私欲ではなく家族全体を思って行動しているのだ! ならば正義は私にあるはずだ!」


「こんなところでも正義なんて御大層なワード使わないと面子を保てないのかい!?」


「そちらこそ人を貶めることでしか自分の価値を伝えられないではないか!」


「サバキ、姉に向かってそんな態度してもいいのかね!」


「姉だからといって偉そうにできる時代は終わったのだぞ!」


 ……と、ピコリの進行を無視して激論を繰り広げる二人。

 ここでようやくあの人が吠える!


「だまらっしゃい!」


「「!?」」

 世にも珍しいイバラの大声に、二人は一時休戦して、彼女へ向き直る。


 イバラは裏打ちめいて舌を鳴らしながら、ここまでの怒りをぼやく。

「わたしがせっかく……どらやきつくってあげようとしてた……なのにふたりは……『こしあんにしてくれたまえ』とか『つぶあんがじょうしき』……ずーーーっとわたしにうったえて……あんこかいにいけなくて……けっきょくどっちもつくれなかった……!

 いいからはやく……おとしまえつけろこれで……!」


 コーリンがイバラの抜いた二丁拳銃を下ろすのを確認してから、ピコリは改めて、

「というわけで、今から二人には正々堂々勝負して貰います! もう拒否権はないですからね!」


「「はい……」」


 ここで一つルール説明を入れるとしよう。

 マジナとサバキには、三つの異なる競技で対決してもらう。

 その内二つは、両者の得意分野をセレクトしている。

 三本勝負の基本原則通り、先に二回、競技に勝った者が今回の勝者となる。


「じゃあまず第一競技! マジナ姉さんが得意な『カードゲーム』!」


 マジナとサバキは、座ってた椅子を運び、向かい合う形でダイニングテーブルの元に座り直す。

 そこにピコリが、それぞれに同じデザインの紙箱一個を渡した。


「なんだこれは? 『タキオンモンスターカードゲーム』?」

「私も知らないカードゲームだね……」


「昨日、ウチがスーパーのおもちゃ売り場を探して、マイナーなカードゲームのデッキを二つ用意してきました。定価五百円です」


「これならサバキでも、マジナの庭でもやれる機会が作れるってわけか」


「そゆこと、コーリン姉さん。今から三十分くらい、二人にルールとかデッキの回し方を確認する時間を与えます。

 はい、じゃあテンポよくドーン!」


 ピコリは自分のスマホのタイマーを起動し、三十分を測り始める。

 二人は慌ただしく箱を開けて、中に入っているルールガイドを読んだり、全カードのテキストを読み込んだ。


 三十分後。

「それじゃあ、対戦よろしくお願いします」

「急に礼儀正しいな、マジナ殿」

「それがカードゲーマーのマナーだよ。ほら、非紳士的行為でジャッジキルさせるよサバキ」

「失敬……対戦よろしくお願いします」


 二人はたどたどしい動きで、カードを出し引きしていく。

 互いに基本的な動きは覚えているが、マジナにはカードゲームの基礎が前々から身に付いている。

 そこが中盤からの展開に効いてくる。

 マジナはこの構築積みデッキに備わった必勝ギミックを完成させて、自分に追い風を引き寄せた。


 サバキはどうにか立て直そうとしたが、同じデッキである分、マジナはそうした小細工をとことん対策して動く。

 そして、

「はい、じゃあこれでおしまい。対戦ありがとうございました」

 マジナがサバキにトドメを刺し、見事に第一競技を制した。


「こちらこそ、対戦ありがとうございました」

 サバキは特段悔しがる素振りを見せず、マジナと握手を交わす。


「まずはお疲れさま! 先に勝利に近づいたのはマジナ姉さんかあ」


「サバキ、次は面白い試合見せろよな!」


「ああ、わかってる、コーリン殿。自分も自分の得意分野で勝てばいい」


 第二競技はサバキの趣味であるパズルの一つ、『ナンプレ』。

 

 ピコリが百円ショップで買ってきた、『レベル九』と書かれていたナンプレ本から、適当に一ページをコピーして、二人に渡す。

 これを先に完成させた人が勝ち。そういうシンプルなルールである。


「あと、さっきは二人のこと信用して省いてたけど、スマホとか、ドラゴン八体とか、断退警察の装備とかみたいなズルは禁止ね。やったら即負けだから!」


「わかってるともピコリ! 素の実力で打ち負かしてやりたいしね!」

「そこだけはマジナ殿と同感だ! それでは合図を!」

 ダイニングテーブルに横並びで座り、カンニング防止の段ボールで隔てられた二人は威勢よく言った。


「あいよー。じゃあもう始め!」


 ここまですぐでなくてもいいのに。という気持ちを感じる余裕を取らず、二人はナンプレに各々のシャープペンを突きつける。


 その姿を、ピコリ、コーリン、イバラはソファに座って見守った。


 芯が紙と擦れる音。ペンとテーブルが接触する音。その他対戦者の所作に伴う音。

 それだけがこの広いリビングでうっすらと漂い、そして消える……


「……」

「……」

「……傍から見てるとつまんねぇな、この勝負」


「ビジュアル的な動きがないからね。俯瞰カメラとか用意すればよかったかな?」


「わたしたちみたとて……なんもいえない……」


「だよなあ。『そこ確定してるだろ!』とか思わず言っちまいそうだよな。

 ……ところでよ、ピコリ」


「はい、どういうところなの、姉さん?」


「さっきの『シビル・ウォー』の話で思ったんだが、あの時点でアベンジャーズに正式加入してたのは八人じゃねえか? ティ・チャラとかスコットとかはまだだろ?」


「そっか、ソーとブルース居なかったし」


「ストレンジとダンバースはつゆ知らずだろうしなぁ」


 ……と、二人が無関係な話を続けること約三十分後。


「はい、できた!」

 マジナが手を上げた。ナンプレはあまりやったことはなかったが、地頭の良さで突破した。


「おっと、今行きます!」

 ピコリが原本を持って、マジナの元へ行き、答え合わせを行う。

 その結果……


「うん! 当たってる! じゃあというわけで、第二競技はマジナの勝ち!」

 これにて勝ち数は二回。この三本勝負は見事、マジナの勝ち越しで終わったのだった。


「ようし! どうだい、やっぱり私のほうが優秀だっただろう! ね、ね、ねっ!」

 ガッツポーズなり飛び跳ねなり、全身で喜びを表現するマジナ。


 その一方で、首を前に出し、口をとがらせていた……コーリンが。


「なんだよ、こんなあっさり決着つくのかよ……面白くねえな!」


「まあまあ、そういうルールで始まってるから。それに、ほら、事の原因も満足しているみたいですし」

 ピコリは、コーリンの隣にいるイバラを示す。

 いつも通りのイバラらしい無表情をしていた。


「いやこれ満足してるのか? なあ、ピコリ、お前はこんなんでいいのか? いくらなんでも短く終わりすぎじゃねえか?」


「ここまでで三千五百文字だから、シーズン3までの平均的な尺ではあるよ?

 だとしても短いっていうなら、『作者の好きな映画十選』でもやって水増しする?」


「んなもん自分のnoteでやれ!」


 コーリンはソファから飛び上がり、ダイニングテーブルにいるサバキに近づく。

 流石は生徒会長にも就任した人格ある人物、泣いたり落ち込んだりせず、ケロッとして座っている。

「おいサバキ! お前悔しくないのか!? あれだけ腹立ってたマジナにボロ負けしてんだぞ!」


 サバキは即答する。

「決して全く悔しくはない。だが勝負は勝負だ、ここは潔くこの結果を認めるしかあるまい」


「ここでも変に真面目さを出すな!」


「真面目で悪いか真面目で!」


 負けたと言えど、やはりサバキはサバキだ。事の発端の発端となった頑固さは、よくも悪くも改善されていない。


(しゃあない、こうなったら押してダメなら引いてみろってヤツだ……)

 コーリンは肩幅ほど横にズレて、今度はマジナと向き合う。


「おいマジナ、やっぱりこれ、五本勝負にしないか?」


「いえー……は、何故にそんなことしなきゃいけないんだい、姉御?」


「どうせならもっと格差をつけて勝ったほうがもっとスッキリするんじゃないかと思ってよ。

 これだけ調子いいんだから、お前ならあと一回、余裕で勝てるだろ?」

 

 そう提案を受けたマジナは、一度天井を向き、そしてコーリンに不敵な笑みを見せた。

「それはそうかもね。サバキには散々やられてたものね。早めのクリスマスプレゼントとしようじゃないか!」

 マジナのS心を刺激することに成功し、コーリンはほくそ笑んだ。


「てなわけでサバキぃ、もう一回勝負といこうじゃないか!」

「だとよ。言っとくが拒否権はないからな」


 サバキは深くため息をついて、顔を上げる。

「……まあいい。どうせ予定もないからな」


「あ、なんか続行したっぽい」

 こうして、先程のピコリのコールが詐欺になってしまった。


「わたしの……いけんは……?」

 騒動のきっかけとなったイバラは、すっかり蚊帳の外にいた。


「では早速、第三競技『バドミントン』!

 ……と、言いたかったところですが……第一、二を見てて気づいたんだけど、ダブル姉さんの得意傾向って似たり寄ったりだから、ここはあえて二人ともあんまり得意じゃなさそうなのに変える」

 ピコリは大急ぎで二階に上って戻ってくる。二人に、手持ちサイズのホワイトボードとペンを渡した。


 新たな第三競技は『大喜利』である。

「今から二人には、ウチが雰囲気でストップするまで、一つのお題にありったけ回答して貰います。

 その中で一番面白かった回答を出した人が、この競技の勝者です」


「わかったよ。おいおい、これこそ私が有利な競技じゃないか? というより、サバキが圧倒的不利な競技かな?」

「事実無根の誹謗中傷はやめていただきたい。自分とて大喜利はわかっている」


「はいはい。じゃあ肝心なお題を発表するね。『ベーカリーカフェ・ミツキ三号店が意外なところにオープン! 一体どこ?』、お答えくださいどうぞ」


 お題発表から十秒も経たぬ内に、サバキが手を挙げた。


「はいサバキ姉さん、『ベーカリーカフェ・ミツキ三号店が意外なところにオープン! 一体どこ?』」


「駅ビル!」

 と、サバキはやたらと達筆に、デカデカと『駅ビル』と書いたホワイトボードを見せた。


「……」

「……」

「……」

「……」


 四人は、リビングに隙間風が吹き込んだように錯覚した。


「……ど、どうだピコリ! 面白いかこれ!」


「あの、姉さん……まず、意外なところ、じゃないよね?」


「意外、じゃないか? どこもかしこもクラマしかないのだから? もしオープンしたら予想外で嬉しいだろ? 娘として?」


 サバキの弁明は無視し、手を挙げているマジナへ、ピコリは指さす。

「『ベーカリーカフェ・ミツキ三号店が意外なところにオープン! 一体どこ?』」


 マジナは神妙な顔をしてホワイトボードを裏返す。

「寝台列車の四号車」


「ほら、こういうのをやってよ! サバキ姉さん!」


 サバキは名残惜しそうに、ホワイトボードにイレーザーを擦り付けながら、

「こんなのか? 寝台列車にあるのはバーかフレンチだろ」


「そういうことを言うのが大喜利だろうが! ほら、さっさと書け! このままだとまた勝ち越されるぞお前!」


「わかったわかった。今に見ておけコーリン殿……」


 二回連続でマジナが答える。

「給湯室の居抜き」


「うーん、やっぱマジナ姉さんはテクニックがあるよね。はい、じゃあ次、サバキ姉さん、『ベーカリーカフェ・ミツキ三号店が意外なところにオープン! 一体どこ?』」


 サバキはこれまた自信満々に答える。

「空中!」


「つまんな……」

 これには口数の少ないイバラも、つい文句が漏れてしまった。


「ほら言わんこっちゃない。サバキみたいな堅物に大喜利なんかやらせちゃダメだって。さて、これで一本取って三勝目にしよう」

 マジナはピンと腕を上へ伸ばす。


「じゃあマジナ姉さん、『ベーカリーカフェ・ミツキ三号店が意外なところにオープン! 一体どこ?』」


 マジナは指先で器用にクルンとボードを回して、

「タワーマンションのエントランス」


「……」

「……」

「……」

「……?」


「あ、あれ? これは不発かい?」


 どうやらマジナは、大喜利の教科書に則った回答こそはできるようだが、時間経過によって変化していく、科学的に証明できない磁場的な何かに対応できなかったタイプのようだ。


「よし、ここで畳み掛ける! はいはい!」


「はい、サバキ姉さん。『ベーカリーカフェ・ミツキ三号店が意外なところにオープン! 一体どこ?』」


 サバキはコン! と音がするほど強くホワイトボードを裏返して置く。

「離島!」


「「ぶっ……!!」」

 不覚にもピコリとコーリンは吹き出した。相変わらずの異様な自信と勢いと成長の無さが、天丼的な化学変化を暴発させた。


 なお、イバラは首を傾げていた。


「よし! これは決まった!」


「いいや、決まらせないよ!」

 先程の汚名を晴らすべく、マジナは間髪を入れず回答を書き上げた。


「はい、じゃあマジナ姉さん。『ベーカリーカフェ・ミツキ三号店が意外なところにオープン! 一体どこ?』」


「屋形船……えへへ」

 

 満月家のリビングに吹雪が吹いた。


「はい、終了〜〜!」

 これ以上の回答は両者ともに不要と判断し、ピコリはゴング代わりに両手を叩いて鳴らす。

「それではこのお題のピコリ’s BESTは……サバキ姉さんの『駅ビル』で! というわけで第三競技はサバキの勝ち!」


「よし、首の皮一枚繋がったぞ」


 マジナは『屋形船』と書かれたボードをテーブルに倒し、ピコリに抗議。

「回答は私のほうが凝っていたじゃないか! あんなセンスのない力技を許すなんて、これはもうえこひいきでしょう!?」


「よく言うでしょ、大喜利って団体競技だって。場の空気をどれだけ上手く使うかっていうのも肝心だから」


「そうだぞ、マジナ殿。先に二勝して驕った貴様が悪い」


(ま、サバキが狙ってアレをやったとは思えないがな……とにかく勝負が続いてくれてよかったぜ)

 と、コーリンは内心ホッとしていた。

 

(……)

 イバラはというと、しれっとソファからキッチンに行っていた。

 そこにある戸棚で軽く物を漁ったあと、彼女はホットケーキミックスのパッケージを持って来る。

 そして、その中にある粉入りの内袋を、一つずつ二人に渡した。


「急にどったの、イバラ?」


「このたたかいのきぼうしゃ……わたし……だからひときょうぎ……わたしがしてい……」


「あ、それは一理あるね。ウチも第四競技どうしようって悩んでたとこだし。

 で、ホットケーキミックスで何してもらうの? モノボケ?」


「ちがう……だいよんきょうぎ……『おりょうり』……

 ふたりとも……きのうつかいそこねた……これつかって……ホットケーキをやけ……

 おいしくつくれたほう……かち……

 レシピとかのしらべごとや……あからさまにヘンなことしたら……ころす……」


「……ですって。じゃあお二人ともそれ持って、キッチン行ってくださいな」


「は、はい……」

「う、うむ……」


 二人はダイニングテーブルからゆっくり立ち上がり、のそのそと粉パックを持って歩く。


「やたらと足が重そうだな、アイツら」


「二人とも料理経験あんまないだろうからね……ウチもいきなりホットケーキ焼けと言われたら、困るっちゃ困るけど」


 二人はそれぞれボウルを出して、そこへ粉を投入する。

 そして、共にここからの動きが鈍った。


 マジナはリビングの三人へ、やけに芝居がかって、

「……あ、あれー? ここから、どうやったらあのトロトロのになるんだっけー」

 

 サバキは計量カップを片手に、イバラへ向かって、

「牛乳を入れれば良いのか? 水を入れれば良いのか? どっちなんだ?」


 するとピコリはすぐさまイバラの耳元に寄って、

「あの二人、遠回しにヒント貰おうとしてますぜ」


「……そこふくめてじりきでかんがえろ!」

 と、イバラはブチギレて、満月家の料理長としての貫禄を披露した。


「「し、失礼しました……」」


 二人はほぼ無言でホットケーキを調理する。

 マジナは水と砂糖を入れて、サバキは牛乳のみを入れて生地を作った。


 満月家のIHヒーターは三口ある。二人はほぼ同時に、熱したフライパンへボウルを傾ける。


 ホットケーキミックスの賜物で、焼菓子のふんわりと甘い香りが漂う。二人はゲロマズにならない最低保証を得られて安堵した。


(端が固まってきたね……コゲたら怖いからこのへんでひっくり返そ)

(ありえないくらい膨らんできたぞ……大丈夫かこれは)


 ひっくり返して両面を焼き終えたあと、両者渾身のホットケーキ一枚を皿に移す。

 二人はメープルシロップなりチョコソースなりで、ダメ押しのデコレーションを施したあと、イバラの待つダイニングテーブルに、ホットケーキを提出する。


「お待たせしました、料理長」

「真心を込めて焼き上げました」


「……」

 イバラは二つの皿を二回ずつ見たあと、席を立つ。

 キッチンから、フォークとナイフを一セット持ってきて、また席につく。


「なんだ、食べるに値しないと思ったじゃないか……」

「すまない、イバラ、気が利かなくて……」


 改めて、イバラは実食審査に入る。

 先にマジナの一枚にフォークを当てて、縁を一口サイズにカットする。

 その断面にチョコソースの滝ができたあと、じんわりと、半生の生地が中から漏れ出した。


「……」

 イバラはマジナのお皿を自分の視界外へ弾く。


「そんな、結局食べるのに値しなかったのかい……」

 

 しっかりと加熱されていないホットケーキの生地は、そのまま食せば消化不良などを起こす危険性がある。

 安心して食べられないものに審査などつける筋合いはないのだ。


 続いてサバキのホットケーキの審査に取り掛かる。

 限りなくコゲに近い茶色が、メープルシロップでテカってる表面に、ナイフを当ててカットする。

 刃が皿に当たるまで少々の力を要したが、それで見えた断面は、キチンとスポンジ状になっていた。

 カットした一片を口に入れる。なんとも形容し難い(普段からイバラの表情は読み難いが)表情で、それを味わった。


 一対のカトラリーをサバキの皿に置いたあと、

「それでは……けっかはっぴょう……」


 二人は目をつむり、各々のやり方で手を組んで、自分の勝利を祈る。

(お願い、上手くいってくれ……!)

(頼む、イバラ料理長……!)


「火を見るより明らかなのに、何やってんだあの二人?」

「やらせてあげようよ、一応」


「しょうしゃ……サバキおねえちゃん……!」


「ようし、これでどうにか五分五分にまで追いついたぞ!」

「ま、まあ……勝負に負けたわけじゃないからね。いいよ、これくらい」


「なんだかんだダブル姉さんとも楽しくやってんね」


「……」

 イバラも、自分指定のお題で、二人に料理を無理くり作らせて、ご満悦の様子だった。

 相変わらずの無表情ではあるが、口元を拡大すれば端のドットが上にズレてるに違いない。


*


 いよいよ本当の決着をつける、第五競技。なのだが……


「さて、ラストに相応しい競技はどうしましょうかね……?」

 

 最初のハの字に並んだ状態で、イバラとコーリンに挟まれていたピコリは、悩んでいた。

 最後にふさわしく白熱するように、二人の能力が活きる競技にしようか。二人が前二つ以上に手探りでやっていく展開を続けようか。そこが問題だ。

 

 今回の進行人として馬鹿にされないように、ピコリはアイデアを振り絞るべく集中する。


「……おいピコリ、何十回肩突っついてると思ってるんだ。そろそろ胸に行くぞ」


「ごめん、それは勘弁して! で、どったのコーリン姉さん?」


「第五競技だけどよ、オレが決めちゃダメか?」


「そっか、ウチとイバラがやったんだから、姉さんも一個案出すのが道理だね。何かいい案あるの?」


「おう、あるぞ!」

 そしてコーリンは、声を張り上げた。

「最終競技は、『エロ対決』だァーーッ!」


 ピコリは直ちに止めに入る。

「いやいやいやちょい待ち! いくらなんでも願望丸出し過ぎやしません、姉さん!? というか『エロ対決』ってなによ!?」


「今から二人には服脱ぐなりなんなりして、オレを興奮させてみろ! で、オレをその気にさせたら勝ちだ!」


「紛うこと無きたった一人のための欲望の競技じゃん!」

 と、ピコリは当然ツッコんだ。

 同時に、イバラは目をかっぴらき、足元に微弱な低周波装置を仕込まれたようにブルブル震えていた。


「お前ら二人とも、色々やらされて疲れてんだから、これなら楽に終わるだろ。どっちもおっぱいデカいんだからよ。

 じゃ、そういうわけでとっととパフォーマンスしてみろ!」

 と、言い切ると、コーリンはニッコニコで二人の様子を眺める。


「あのー、今から頑張ってまともな勝負考えるんで、ちょっと待ってて貰って……」


「いいや。このままやらせていただく!」

 サバキは椅子から立ち上がり、自信満々に言った。


「何でぇ!?」


 マジナとのくだらない対決に終止符を打つのにふさわしいのは、マジナの存在意義とも言っても差し支えない『エロ』で圧倒するより他ない。

 サバキはそうした覚悟の元、手早く上着を脱ぎ捨てる。

「フリル付きの黒……けっこう可愛いブラジャーしてるんだね、サバキ」

「いちいち言うなマジナ殿! こういうのしかないのだ! 自分のにはな!」

 すかさずホックを外す。ブラジャーは押し込んでいたものが戻ろうとする力に負けて吹き飛ぶ。

 満月家最高峰の乳房は三度別々に揺れて、その全容を露わにする。


 サバキは自分の胸を両手で鷲掴みにして持ち上げる。

「ど、どうだ……コーリン殿! お望みなら下も脱いでやろうか!」


「あ、パンツだけは脱がないでください。サイト運営的な観点からお願いします」


「貴様には聞いていないぞ、ピコリ!」


「ウチはまともなこと言ったのに……」


 そして肝心なコーリンはというと、完全に白けた様子であった。

「……うん、サバキのデカさを見込んでこの競技にしたんだが……なんかいざ丸出しされても、エロくねえな」


「そ、そんな……!」

 サバキは両膝からカーペットに崩れ落ちる。

 

 ちなみに、イバラはサバキが脱ぎ始めた段階で気絶し、床にぐったり倒れていた。


 マジナは対戦相手のクラッシュを鼻で笑う。

「やはり餅は餅屋なんだよ、サバキ。

 さて、では久々に本領発揮といこうか……」


 マジナは抜刀するように、スルスルとベルトを外す。重力にある程度託して、ズボンも自然に下ろした。

 トップスであるシャツのボタンを上から順に外しつつ踵を返す。シャツの裾が花びらのようにヒラヒラと開く。


 そこから慣れた手つきでブラジャーを外し、コーリンの方に放り投げた。

 最後に、ゆっくりとシャツを開いてするりと床に落としてから、マジナは振り返り、バランス良く膨らんだ胸を、コーリンに見せつけた。


「どうだい、コーリン?」


「うん、それ見飽きた」

 と、コーリンは冷淡に返した。


「お、おいおい、けどサバキよりかは遥かに品があるではないか?」


「けど興奮しないからダメだ。悪いがオレは厳正にやらせてもらうからな」


「ふ、ふうん……そ、そうかい」

 自分の最大の武器をへし折られ、マジナはいつになく動揺した。半裸なのでダラダラ汗をかいているのも丸わかりだ。


(何かないか、何かないか……?)

 マジナはマンネリ……もとい、沈静した戦況を打破するヒントを探す。そして彼女は、膝立ち状態のサバキに目をつけた。


「かくなる上はこうだ!」

「うわっ! 何するマジナ殿!」


 マジナはサバキを押し倒し、床に組み伏せる。

 自分の魅力は独りよがりで成り立つものではなく、他のものとの比較によってその価値が成り立つ……という、嫌なことに芸術家らしい観点でのマジナの作戦である。


 その体勢でマジナは自分とサバキの胸を押し合わせたり、キスを迫ったりするなどして、ギリッギリのラインのパフォーマンスを行った。


「ほほう、やるじゃんかよマジナ……」

 ようやくコーリンの食指も動き始めた。


「……もう早いところ軍配挙げてくんない、姉さん?」


 満月家のお色気担当の面目躍如で決着……かと思いきや、

「こ、こんな変態に負けてたまるかー!」

 サバキは火事場の馬鹿力でマジナを押し返し、上下を交代して密着する。


「は、離れるとかはしないんだね、サバキ……」

「自分は勝負を諦めていない! このまま上を陣取れば貴様の身体は覆い隠せるから……自分のほうが優位になるはずだ!」


「あえて見えてないほうがそそられるみたいな説もあるけどなあ……」


「……」

 コーリンは眼の前の光景に夢中だった。


「なら私も……同じことをやり返すだけ!」

 マジナもまた、火事場の馬鹿力を発揮し、サバキと共に床を半回転する。再びこちらが上になった。


「なんのこれしき!」

 だがすぐさまサバキが上を取った。

 こうした逆転の連続が、しばらく続いた。


「……これはエロなのかな? どうなんです、審査員長……!?」

 この時、審査員長コーリンもまた、半裸になっていた。


「二人ともよく戦った! 故に、二人とも優勝だ! そのご褒美にオレも混ざるぞーッ!」


 そしてコーリンは、二人が横たわる場所めがけて思い切りダイブする。

「それは嬉しいけど……せめてちゃんと勝敗つけてくれよ姉御!」

「ここまでやったというのに……よくも試合を私物化したな、貴様!」


「うるせぇ! いいからオレもイチャつかせろ〜〜!」


 この後、具体的な経緯は大幅に省くが、ピコリ主体でどうにか場を収めた。


 そして、その日の夜。


「パンケーキにスクランブルエッグとベーコンとは、よくわからん夕食じゃのう」


「多分、アメリカのダイナーをリスペクトしたんだろうね。ボク、映画でこういうのよくみるもん」


「どちらかというと朝ごはんに見えるっスよね」


「美味しいですけど……なんだか不思議な雰囲気な感じがします」


「……真に不思議なのは、キッチンの光景だけど」


 ダイニングテーブルに座っている満月家の七人は、キッチンへ向いた。

 そこではコーリン、マジナ、サバキが、イバラ料理長の監視下の元、支度につかった食器の後片付けまでもやらされていた。


 チヨはふわふわのパンケーキを切りつつ、斜向かいのピコリに尋ねる。

「……ねえ。なんで今日はあの三人が料理してたか、話せたりしない?」


 ピコリはしばらく目を泳がせた後、サッと一言で答えた。

「言いたくないです」


「なるほど。またろくでもないことしてたのね」


【完】

おまけ

【作者が好きな映画十選】


タイトルの羅列だけ。

面白さランキングというよりかは、ジャンルを極力バラバラにした場合、どれが一番になるかという趣旨でセレクトしました



1 天カス学園

2 パパはわるものチャンピオン

3 最強のふたり

4 グランド・ブタペスト・ホテル

5 ユージュアル・サスペクツ

6 Mr.ノーバディ

7 RRR

8 22ジャンプストリート

9 イエスタデイ

10 フォレスト・ガンプ/一期一会

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