第182話 終業式後のInterrupt
冬休みシーズン到来!
終業式を終えた百式高校の生徒たちのほとんどは、解放されるや否や、蜘蛛の子を散らすように校門を飛び出し、各々のいっぱいあるお楽しみへと向かう。
その人混みの中に、満月家の四女、ピコリがいた。
「へへーん、家帰ったら何しよっかなー!」
ルンルン気分で駅までの道を跳ねるように進んでいく。と、途中でスマホから着信音が鳴る。
「うい、もしもし母さん?」
『満月チヨです。ピコリさんでよろしいですか? 今お時間よろしいですか?』
なんで敬語なのか。というツッコミはさておいて、ピコリはスマホ越しに母と話し続ける。
「はい、大丈夫です。ちょうど放課後になりましたので。それで、ウチになんのご用ですか?」
『今からカラオケに付き合ってくれませんか? 場所はメッセージで送ります。運賃はそちらで建て替えますので……』
「はい、はい、わかりました、では後ほどよろしく、はい……なんじゃこの雑展開!?」
というわけで、ピコリは電車に乗って家ではなく、チヨの職場に近い方の駅に行く。
そこから五分ほど歩いて、カラオケ店へ。メッセージ通り、チヨがそこに立っていた。スーツ姿であるため、仕事の合間を縫って来たのがよくわかる。
「急にごめんね、ピコリ。せっかく午前帰り出来たのに」
「いいよ。ぶっちゃけ予定なかったし」
チヨは『二時間コース・ドリンクバー付き』で注文した。
伝票に書かれた番号を探して、その部屋に入る。ドアから見て両端に長ソファがある、何の変哲も無いし、正直いちいち地の文で書く必要あるのかと思うような部屋だ。
「ピコリ、あなた絶対お昼ご飯食べてないよね? 何か一個、フード注文してあげるよ」
「至れり尽くせりじゃん。それじゃあこの、コラボメニューの……海鮮塩焼きそばで」
チヨはスマホアプリで、ド鉄板のフライドポテトと、ピコリのお昼ご飯をオーダーした。
二人して一旦外に出て、各々のドリンクを注いで戻ったあと、ピコリは尋ねた。
「ところで母さん。これはどういう物の弾みでウチを呼んだの?」
「それはね、ほら、ご存知の通り今は年末年始ってことで、宴会シーズンじゃん。当然ウチの会社でもそういうのをやるらしいんだけど……」
ピコリは、左手にポンと右拳を置いて、
「あ、わかっちゃった! そこでのカラオケで……」
「おまたせしましたー! フライドポテトと、バルロス・タイダルの大海の恵みたっぷり海鮮塩焼きそばでーす!」
ドアを開けながら、店の防音効果に身を預けて、ものすごく威勢よく店員が叫んできた。
器用に片腕で持ってきた料理二皿をテーブルに置き、さらに海の戦士っぽいイケメンキャラのポストカードを一枚添えて、
「ごゆっくりどうぞー!」
すみやかにドアを閉めて出ていった。
「……なんかすごい長ったるい名前の焼きそば頼んでたのね、ピコリ」
ピコリは割り箸を割りつつ、言った。
「コラボメニューっぽい。口が普通のソースじゃなくて、塩だったからこれにした」
「じゃあそのカードは?」
「正直どうでもいい。全く知らないしコイツ」
サラっと言ってのけたあと、ピコリは皿の端にあったキャベツを一枚口にする。
「って、悪意ないとはいえ割り込まれて忘れてたけど……ピコリ、何がわかっちゃったの?」
「ああ、そういえば……閑話休題。
母さん、そういう宴会で絶対カラオケやらされることを見越して、そこで恥かかないように、ウチを呼んだんでしょ?」
ピコリは元の異世界で、ミュージシャンとして活躍していた。だから歌については姉妹の中で頭一つ抜けて上手かったりする。
「そう、だいたい合ってる。けど、そこまで本気でトレーニングはしなくていいかなって」
「どうして? やっぱり時間の問題で?」
「だってほら、あまりにもキチンと歌ったら、練習量が見える感じがして……イヤじゃん。だから、宴会の和んだ空気とお酒でハードルがダダ下がった場でなら、『おお〜!』ってなる程度でいいよ。別に」
「なるほど。じゃあ今日はよろしくご指導させていただきます、お母さん」
「それはどうも」
ピコリが塩焼きそばをすすり、チヨがそれをじっと見つめて、備え付けのモニターからは売出し中感の強い初々しいアイドルグループのインタビュー動画が流れる。
そんな時間が五分ほど続いたあと、チヨは問いかける。
「あ、意外と許してくれるんだね」
「……何が?」
「音楽家のプライドとして、そんな半端な鍛え方はしない! とか、言い出すかと思って」
「ウチにそんなプライドあると思う? 元アーティスト設定自体も滅多に使わないってのに?」
「それは失礼しました。じゃあ程々にお願いします」
「おっけっけー」
数分後。
リモコンを操作して、筐体に搭載された採点機能をONにしてから、
「じゃあまず今のあたしがどれくらいかを聞いてください」
「はーい」
チヨは自分が十八番としている曲を予約し、丹精を込めて歌い上げた。
「って、感じ……どう?」
ピコリはタンバリンを持ちつつ拍手を送りながら、
「うん、これくらいなら特に場が冷めることないと思う。各種団体に配慮して大胆に描写カットされてるから読者さんにはどれくらいかわかってないだろうけど、ウチはよかったと思うよ?」
「そ、そうかなあ……」
二人がカラオケマシンのモニターを見ると、採点分析結果が表示されており、八十二点の文字がデカデカと光っていた。
「まあ、平均くらいだから、いいのかな、これで」
「たぶんね。まあマシンによっては五点くらいズレがあるのは否めないけど」
このまま焼きそば食って、指導垂れ流してるだけの奴になるのはよくないので、ピコリは次いでマイクを手に取った。
「じゃあウチの実力がどのくらいか、確かみてみろ!」
予約したのは、皆さん御存知のあのピコリーモバンドの曲である。
いかにもテクノっぽい疾走感と重厚さを併せ持つイントロが流れたあと、洗礼めいたデスボイスパートが始まる。
この世界に帰ってきて歌う頻度は滅多になくなったが、喉の頑丈さはいまだ健在。ピコリはそこを難なく歌い上げていく。
「なにげに初めてピコリの歌を聴いたかも……ちゃんとすごいじゃん! ただ、参考にならないってのと……」
チヨは娘への手拍子をしつつ(曲の進行が不規則すぎるので、出来ているかは怪しい)、モニターを一瞥する。
採点モードを入れたときに出る音階の線には、『間奏』の文字が出るだけで、何一つノーツが表示されていない。
「ここは別に歌わなくてもいいところなのに。まあ、そこがカラオケの醍醐味なのかもだけど」
デスボイスパートが終わると、今度はハイトーンパートが始まった。
こちらは採点ノーツが表示されている。ピコリは元よりの歌唱力と、聴き込んだ経験を活かして、ノーツを安定して辿っていく。
「低かったり高かったり忙しいねー」
ハイトーンでのサビが終わると、再びデスボへ戻った。後からピコリに聞いた話によれば、このバンドは一番をやりきったあとは、のびのび好き放題に音楽性を爆発させる傾向があるらしく、何を言っているのかさっぱりわからないデスボの割合が大幅に増した。
もはやピコリも空耳の方の歌詞で歌っている。 なお、デスボパートは『間奏』となっているが、ピコリは構わず続けた。
そしてピコリは最後の高音域を出し切って、マイクを口元から離す。
採点画面に表示されたのは、九十五点と、お昼時のカラオケ番組でないと見られないような数字だった。
「うっし、アーティストピコリは永遠に不滅なり! ど、どうだった、お母さん?」
チヨは雑に振っていたタンバリンを、側のソファ面に置いて、ぎこちない笑顔をする。
「そ、そうね……私はすごいと思うよ。この曲まったく知らないけど」
「うん、だと思った」
と、ピコリはやたらと真っ直ぐな目をして言った。
「ねえ、これ野暮なことだけどさ……もうちょっと万人受けする曲とか歌ったらどう? そしたらもっと人気出ると思うんだけ……」
ピコリは食い気味という言葉の原義を説明するくらい、食い気味に言う。
「いやそれは無理。ウチの音楽性に関わるから」
「流石はアーティストね」
「あと、『作者以上に賢いキャラは生み出せない』っていう作品の原則の派生で、『作者が興味のない歌は作品内で扱えない』ってのがあるから。
七組くらいのアーティストの楽曲のみをグルグル回すだけのプレイリスト組んでるような人なんだから」
「あ、そう……なの?」
ちなみにチヨの歌唱パートが雑なのもそのため。チヨの世代に合いそうな曲がわからないためである。
*
この後、二人は交互に自分の好きな曲を歌いあって、充実した二時間を過ごして、店を出た。
「今日は急に予定入れてくれてありがと、母さん!」
「いえいえ、とんでもない……
いやぁ、しかしたまには家族でカラオケするものかもね。本当に、二時間があっという間だった」
「だねー。このシーズン4、作者の嫌な文章力上昇のせいで、ほとんどの話数が五千文字超えしてるからね。
前の第181話に至っては一万六千文字くらいあったからね。たまには原点回帰して、これくらいの短いエピソードも作らないとねー。
大好きなバンドのアルバムに毎回入ってる、Interludeみたいなさぁ」
……本当に、すみませんでした。
【完】




