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第179話 おかしな追憶 最強スナック菓子捜索記

 とある日曜日の夜。

 チヨはリビングのソファにどっしりと座っていた。

 その隣にはユノスがいる。彼女がセレクトした映画を、正面にある壁際に置いたテレビに映していて、チヨはそれに便乗して観ているのだ。


 そこにルシェヌが現れる。ソファのすぐ手前のローテーブルからヒョコっと顔を出す形で。

「お母さーん、アタシをほっといてユノスと何しているのじゃー?」


「なんかお菓子食べたくなっちゃった。ポップコーンとか都合よくないかな?」

 それと同じタイミングで、チヨはソファから一旦立ち上がり、キッチンの方に行く。


 ドッキリが不発に終わったルシェヌは、しれっとチヨがいた座面に座り、

「おーい、アタシを無視するなんてヒドイのじゃ!」


「映画中に足元からジャンプスケア仕掛けようとしたあなたもよくないでしょ、ルシェヌ」

 と、チヨは都合よくあってくれたキャラメルポップコーンの袋を開けながら言った。


「あと、どけてくれないかな? そこあたし座ってたんだけど……」

「うへへ、お母さんのソファあったかいのじゃ……ぐおっ!?」

 チヨは、ルシェヌを座面の中央部に押し込んで着席し、ポップコーンのパッケージをバケツ状に広げて、ローテーブルに置いた。


 ルシェヌは、

(このままユノスと二人だけで映画を見せていると、いざそういう雰囲気になったら、

 ■

「ユノス、あたしもこのヒロインみたいにキスしてもいい?」

「うんいいよ、お母さん。ボクの仕事だもん」

 ■

 とかやりだすかもしれん!)


「いいや絶対にそうじゃ!」


「ルシェヌ。急に大声出さないで。ボクがチョイスした映画を台無しにしないで」


「あと、何を妄想してたか知らないけど、絶対にそうじゃないと思う。これヒーローものの映画だし」


 ルシェヌは両サイドからの注意を、片耳からもう片耳へ流す。

(ここは引き続き間に挟まって、好きあらばキスしてやるぞい!)

 と、意気込んで、テレビをガン見する。ついでに手前にあったポップコーンをひとつまみ。


「うわ、一口目いってるじゃん」

 チヨは遅れて手を伸ばし、ポップコーンを口に入れた。


「うん、やっぱ映画にはポップコーン合うね」


 ユノスもバケツ状のパッケージに素早く手を入れて、

「だね。ボクは塩のほうが、こういう映画に相性いいと思うけど」


「それはわからなくもないかなあ。しっとりめの映画でもポップコーンバケツ買っていくのは、ちょっと場違い感ある気もしなくもないからね」


「まあボクはどんな映画でもポップコーン買うけど。伝統を重んじたいもん」


(どっちでもいいじゃろ別に)

 と、ルシェヌは画面にも目もくれず、ポップコーンで頬を膨らます。

(ていうか、雑談はいいのじゃな。アタシの大声はダメなのにのう……)


「ところで何で映画館ってポップコーンしかスナック菓子系の食べ物ないんだろう?」


「黎明期に、原価が安くて量が確保しやすい食べ物がそれだったからって説はよく聞くよ」


「へえ、そうなんだ。今ならポテチとかも置いていいと思うけどね……あと、アレとかないかなぁ」


「アレって何?」


「その、アレだよアレ……って、アバウト過ぎてごめん。あたしが好きだったお菓子ってさ……」


 結構前(具体的には不明)。

 チヨがたまたまスーパーで大安売りしていた、あるお菓子を見つけて購入した。

 それをテレビを観ながら食べてみたところ、内容が入ってこなくなるほど、ものすごく美味しかった。

 数日後(いつのことかわからないのだから経過時間もわかるはずがない)、チヨはまたそのスーパーに立ち寄った時に、その商品をもう一度買おうとした。

 しかしあのお菓子は綺麗さっぱり無くなっていた。


 以降、そのお菓子との一晩の思い出は風化していき、こんな曖昧模糊な記憶と文章になってしまったのである。


「あれ通年販売してもおかしくないくらい美味しかったと思うんだけど、諸行無常よね……」


「盛者さんまで、たどり着けなかったんだろうね、そのお菓子。お母さん可哀想。

 ちなみにどんなお菓子だったか本当に覚えてないの?」


「うーん、きっとスナック菓子だったはず。あとは、丸くて、しょっぱい系だったと思う……」


 この時、ルシェヌは口の中でかき込んだポップコーンをモゴモゴしながら、シメシメと思った。

(これはチャンスなのじゃ。アタシがその幻のお菓子を見つけて、お母さんに渡せば、

■

「わあ、ルシェヌー! あたしの大好きなお菓子を見つけてくれたのね!」

「当たり前じゃ! お母さんのためならプールも学校の階段もひとっとびなのじゃ!」

「キャー、ステキー! ルシェヌだーいすき! 結婚しよー!」

■

 て、なるに違いないのじゃ!)


「絶対にそうじゃ!」

 と、端からすれば突然と大声を出した後、ルシェヌはフフフ……と、端からすれば魔王らしい不敵な笑みを浮かべるのだった。


「え、ハローキティのペッツ!? まさかこんなところで出てくるの?」

「つくづくものすごいアイデアだと思うもん、この作品」


 チヨとユノスはガン無視して、映画に集中する。


*


 翌日の放課後。

 ルシェヌは帰宅部なので、帰りのSHRを終えてすぐ、自分の教室から校門まで走破。

 そこから学校に近いスーパーへと突入した。


「どこじゃ、しょっぱくて丸いスナック菓子はどこじゃ!?」


 スナック菓子が並ぶ棚を前にし、ルシェヌは端から端までくまなく見渡す。

「丸いお菓子、お菓子、お菓子……」


 しかし、一粒がまさに『丸』の形状をしたお菓子は見つからなかった。

「ポテチなら丸いが、ならお母さんは『ポテチを食べた』というはずじゃろう。

 となると、おおざっぱなイメージが丸いということじゃな」


 ルシェヌは条件を緩めて再度、棚を見渡す。

 捜索すること約二分。ルシェヌは右端のほうに気になるものを見つけた。

 野球ボールの布地を片方だけとったように、板が湾曲して丸まった形をしたスナック菓子『シャルルマーニュ』だ。

 ルシェヌはそのパッケージに描かれたシルクハットの紳士に接近して、「おお〜」とうなる。

「多分これじゃ! パッと見て丸いから、これに違いないのじゃ!」

 チーズ味とカレー味の二種類があったが、どちらかというとよりしょっぱそうな前者を手に取り、ルシェヌは跳ねるようにレジへと向かった。


 その日の夜。

 チヨがダイニングテーブルでノートパソコンに向き合っているところに、ルシェヌはやたらとニタニタしながらやって来た。

「お母さん、ちょっといいかのう」


「イタズラとかじゃなかったらいいよ」


「じゃあこれならいいかえ?」

 早速ルシェヌは、放課後に買ってきたシャルルマーニュを見せた。


「じゃーん、昨日お母さんが話してた、昔食べたお菓子じゃ!」


 チヨは目を点にして、ニッコニコでパッケージを持つルシェヌを見つめ続けた。

「……え、どうしたのじゃ、お母さん」


「ええと、それ、多分昨日映画観てたときに話してたお菓子のつもりで買ってきたんだよね?」


「そうじゃぞ」


 チヨは眉毛を八の字にして、慎重に言った。

「……ルシェヌ、その気持ちは嬉しいんだけど、ごめん、それじゃないんだよね」


 今度はルシェヌの目が点になる。

「え、これじゃないのかえ……?」


「必ずってほどでもないけど、それはあちこちのスーパーで見かけてるから、流石に覚えてる。

 本当にごめん。わざわざ買ってきてくれたのに」


 ルシェヌは魂が抜けたような無の顔をしたまま、ガタンガタンと後ろに下がった。

 一瞬振り向いて位置を微調整してから、ソファにへたりこむ。

 しばらく呆然としたのち、皿洗い中のイバラを見つめつつ、手に持っていたパッケージを開けた。


「ハズレだったから自分で食べるのね……いや、まあ、別にいいけど」

 そこでルシェヌは突然立ち上がり、チヨにパッケージの口を向けた。


「どうぞなのじゃ」


「ありがと、じゃあお言葉に甘えて……」

 チヨはその中から一粒取り出して、口に投げ込んだ。


「これはこれで美味しいんだけどね。あの時のお菓子じゃないけど」


 ルシェヌも一つ食べてみた。口に入れた途端サクサクとした初撃が来たのち、チーズの深い味とともに溶けてくる。

「えー、こんなに美味しいのに」


「うん、絶対違う気がする。こういう軽い食感じゃなくて、もっと硬かったイメージ」


「そうなのかえ……」

 この時、ルシェヌはシメシメと笑った。内心ではなく、ガッツリ表に見えるように。

 シャルルマーニュは不正解であったが、チヨのおぼろげな記憶にある謎お菓子のヒントには繋げた。

 大好きなチヨのためとなれば知力ステータスが数倍に増すルシェヌらしい作戦である。


*


 また翌日の放課後。

 

 ルシェヌはSHRを終えるなり、超スピードで校外へと駆け抜ける。

 そして電車に乗り込み、自宅の最寄り駅に到着。

 そこから家に着くまでの途中にあるスーパーに駆け込んだ。


(昨日のあの店は信用ならん! ここならもっと違うお菓子があるかもしれんのじゃ……!)


 ルシェヌはこの店のスナック菓子の棚を一通り見渡していく。

 昨日の時点で既に選択肢は削られている。ルシェヌはここで初めて見た商品だけを選別し、そして見つけた。


「これじゃ! これは丸くて、しょっぱくて、硬そうなのじゃ!」

 手に取ったのは『たこやき局』。球体のスナックにたこ焼きっぽいソースでコーティングしたものだ。


 一粒一粒の見た目は簡易的ながらもたこ焼きそのもの。袋を開けてないのにかつお節の風味が漂ってくるようだった。ルシェヌは、かつお節がそもそも何がどうなって出来上がるものなのか知らないが。


「とにかくこれなら、今度こそお母さんは喜ぶはずなのじゃ!」

 ルシェヌはこれを片手に希望を抱いて、レジへと歩いた。


 その日の夜。

 チヨがソファに座って、スマホでバラエティ番組を観ている中、ルシェヌは口角を思い切り上向きにしながら近づいた。


「お母さん、ちょっといいかのう」


「イタズラとかじゃなかったらいいよ」


「じゃあこれならいいかえ?」

 早速ルシェヌは、放課後に買ってきたたこやき局を見せた。


「じゃーん、一昨日お母さんが話してた、昔食べたお菓子じゃ!」


 チヨは口を本場のたこ焼きばりに丸くし、パッケージを凝視した。

「……え、どうしたのじゃ、お母さん」


「ええと、それ、前に映画観てたときに言ってたお菓子を、探してきたのかな?」


「そうじゃぞ」


 チヨは一度天井を向いた後、苦笑いのまま言った。

「……ルシェヌ、そんな特徴的なお菓子だったら忘れてないと思う」


 今度はルシェヌの目がたこ焼きばりに丸くなる。

「え、これでもダメかえ……?」


「うん、二日にわたっておんなじこと言ってごめん」


 ルシェヌはソファから離れて、ダイニングテーブルとの間の空間でしばらくウロウロした。

 ソファの近くに戻ると、そこで袋を開けた。


「……」


「……ハズレじゃけど、いるかえ?」


「うん、それは食べたことないから」


 ルシェヌもソファに座り、そっとパッケージを左隣のチヨに差し出した。

 それから二人で交互に粒を取っていく。

 味については、ほぼたこ焼き。ソースとかつおだし、時々青のりの爽やかさがやってきた。

 それでいてスナック菓子のサクサク食感が、また違った楽しみをお届けしてくれる。


「うん、これは美味しいけど、あれじゃない。なんかもっと硬かった、サクよりバリって感じだった記憶があるんだよね」


「ふむふむ、サクよりバリ……かえ」

 ルシェヌはスマホを取り出し、初めてメモアプリを起動して、その感想を書き残した。


*


 またまた翌日の放課後。

 ルシェヌは昨日のスーパーにもう一度寄って、

「こっちじゃ! 昨日のアタシめ、よくも選択肢を外しおったな!」

 また別のスナック菓子を購入した。


 その日の夜。


「あれ、母さん。今の合計数って九十一でしたっけ?」


「いや、九十六だよ、トツカ」


「ああ……じゃあ俺、何出しても九十九超すので、脱落します」


 娘たちとなんらかのカードゲームをしていたチヨに、ルシェヌはニッコニコで言った。


「お母さん、ちょっといいかのう」


「うん、ちょうど一区切りついたから」


「ありがとうなのじゃ。てなわけで、じゃ~ん!」

 ルシェヌはチヨにだけ向けて、スナック菓子の袋を突き出した。

 今日用意したのは『ポテワ』という、指輪のような形の変則的ポテトチップスだった。ちなみに塩味。


「どういうつもりだい、ルシェヌ」

「貴様にしては珍しいな、人に物を渡すなんて」

「ルシェヌさんも親切できるでしょうよ、マジナお姉さん、サバキお姉さん」

 ダイニングテーブルにいる他の姉妹がボソボソと話し合う中、チヨはしばしの沈黙を挟んだあと。


「うーん、これじゃない。もうちょい一粒の密度があった記憶がするんだよね……」


「そ、そんな……なのじゃあ……」

 ルシェヌはポテワの袋をダイニングテーブルに置いて、テレビ台の横でうずくまった。


「あの、これは私たちで頂いていいかな?」


「好きにせい」


「あっそ」


 ルシェヌはテレビ台の黒に視線を落としながら、考えた。

(丸くて、バリバリに硬くて、中身がある、しょっぱい系のお菓子……ヒントは増えてるのに、まるで答えに近づけてない気がするのじゃ……

 お母さんは一体どれだけ変わったお菓子を食べたのじゃ……?)

 三日間に渡ってお菓子捜索を続けて、全て空振り。

 自称魔王の無神経さがあっても、この結果は流石に堪えてきた。


 もはやチヨが食べたお菓子はこの世に存在していないものかも知れない。

 やがてそうした残酷な結果も想像し始めたところで、ルシェヌはふと、キッチンの方を見た。


 そこではイバラが明日のお弁当の支度をしていた。

(いっそイバラに作らせるかのう……? いや、それだとアイツの手柄になってしまうのじゃ……だが、もうアタシ一人ではどうにもならん……)


 押してダメなら引いてみろ。というように、ルシェヌは発想を少しひねる。

 ――イバラでダメなら、トツカだ。


 ルシェヌはカードゲームで脱落し、ソファでスマホをいじっていたトツカに接近する。

「おいトツカよ、貴様。なんか変なお菓子すきじゃろ」


「変とは失敬だな、変とは」


 ここで一つ解説を入れるとしよう。

 トツカは、大好物である麦チョコを筆頭に、芋けんぴやひねり揚げなどの、よくプライベートブランドで展開されているようなパブリック感あるお菓子を好む(※第122話参照)。


 そうしたお菓子の中に、チヨの記憶にあるようなお菓子が無いか、ルシェヌは経緯説明とともにトツカに尋ねた。

(相変わらず面倒なことやってるなコイツ……)

 と、内心ウザく思いつつも、押し問答を避けるべく、条件に合致するお菓子を答えてあげる。

「それなら、確か……」


*


 またまたまた翌日の放課後……に、ルシェヌはトツカから教えてもらったPBのお菓子を買った。

 そして、その日の夜。


「ごめん、スナック菓子だったのは間違いなかったの……」


「し、しまった……そうじゃった……」


 ルシェヌは両手で歌舞伎揚を持ちながら、愕然とお風呂の一歩手前で立ち尽くした。

 我に返ったとき、脱衣所のドアが閉まっていた。


 ルシェヌはみるみる顔を赤くしながら、リビングへ向かい、ソファでくつろいでいたトツカに掴みかかる。

「貴様ーッ! よくもアタシにデタラメ教えてくれたなー!」

 トツカは気だるげに右手を伸ばしてルシェヌの頭を押さえて、相手のリーチ外に止めたまま、

「俺はアンタが言ったことに合わせて、俺が知ってるお菓子を教えただけだっての。陥れるつもりでホラ吹いてない」


 ルシェヌは一歩下がって、踵を返す。

「それは、そうじゃな……」


 意外にもすんなり抵抗をやめてくれた。トツカはルシェヌの珍しい素直さに驚く。

 しかし普段しないようなことをするのは、何らかの感情的な圧力がかかっている証拠でもあったりする。


「どうやら相当お悩みのようだな、ルシェヌ」


「貴様に言われたくない。かれこれ四日もお菓子売り場に通って、全ての商品名を暗記してしまうくらい探したのに、まるで正解にたどり着けないなんて……」


「メチャメチャ言われたがってたような台詞が続いてるな。

 ……なあルシェヌ、アンタはそこまでしてお母さんにどうなってほしいんだ」


「そりゃ喜んでほしいのじゃ……あ」

 キチンと口にしてようやく気づいた。

 ここまでお菓子を探していたのは、チヨの記憶の奥底とクイズしたいためじゃないことに。


「……わかった。ありがとうなのじゃ」


「なんか俺の知らない内に勝手に解決してくれたようで。ま、別にいいけど」


*


 またまたまたまた翌日の放課後。

 ルシェヌは急いで電車に乗り込み、学校からも家からも少し離れたところにあるショッピングモールに来た。

 そこに入居する大型スーパーのお菓子売り場で仁王立ちして、棚の全体を隅々まで見る。


(今日でお菓子探しは最後にするのじゃ。

 お母さんが本当に美味しいと思ったお菓子を見つけられなくても構わん、それに近しいお菓子を見つけて、それにアタシからの真心を乗せて渡せば、合計点数は同じになる! それがアタシの計算じゃぞい!)


 丸く、しょっぱく、硬く、噛めばバリバリ言う、一粒一粒の質量がある、スナック菓子……


 その条件を完璧に脳裏に浮かべた上で、ルシェヌは自分の思いを伝えるに相応しい商品を選別する……そして、見つけた。

「もうこれで構わんのじゃあ!」


 その日の夜。


 リビングにて、チヨがノートパソコンで仕事をしているところに、ルシェヌはラストバトルに臨むラスボスのように真っ直ぐな目をして、チヨの元に迫った。

「お母さん、ちょっといいかのう」


「とうとう週末まで続いたね……で、今日はどんなお菓子を持ってきたの?」


「これじゃ」

 ルシェヌは背後に隠していたパッケージを前に持ち直す。

 決着をつけるために持ってきたお菓子は『めっしゅチジャガ』。

 名前の通り、網網模様にカットされたポテトチップスで、一口一口の噛み応えに優れた一品である。


 チヨはそのパッケージを、中身を噛みしめるくらいにじっと見つめたあと、覚悟を決めた。

「ごめんルシェヌ。それも違う……よくよく思い出したら、ポテトチップスじゃなかったから」


「そうか……じゃが! アタシはこれを堂々と渡してやろう!」

 ルシェヌは、ピンと腕を張ってめっしゅジャガをチヨに差し出す。一昔前の下駄箱での甘酸っぱい風景を彷彿させるスタイルだ。


「いつもアタシのためにお仕事を頑張っているお母さんへの。ささやかなプレゼントなのじゃ。

 にしてはスナック菓子というのも変じゃが、まあ母の日とかバレンタインデーとかでもないから、不相応ではあるまいの」


「ルシェヌ……」

 思ってたのと違いすぎた。

 今日のルシェヌは、自分の頭にある錆びついた金庫を開けて褒められようとしているのではなく、本気で感謝を伝えに来た。あれだけ自分が大好きなだけで通してきたルシェヌが。

 

 正直なところ、ルシェヌなら刹那の思い出だったお菓子を見つけてくれるかもしれないという期待をしていたが、まさかこうした裏切りの仕方もできるとは……


 チヨは、無意識にうめき声を出していたことに気づいた後、少し言葉を整えて……

「ありがとう、ルシェヌ。お仕事のお供にもらうね」

 結局、ベタな感謝の言葉を告げて、袋を受け取った。


「どういたしましてなのじゃ!」


 早速、チヨは袋を開けて、めっしゅジャガを一枚食べてみる。

 バリバリと砕くたびに、じゃがいもと薄塩の王道の風味による幸福感が、口内から駆け巡った。


「うん、五日目もおいしい……」


「それはどうもなのじゃ」


 チヨはめっしゅジャガを食べ進めながら、考える。

(正解じゃない気はしてるんだけど、かれこれずっと言ってた条件にほぼ当てはまってる気もするんだよなあこれ……)

 チヨはそのパッケージの左上にあるメーカー名を確認して、ノートパソコンで公式サイトを覗く。


 そこから過去の商品を探して調べて見ると……ビンゴ。

(これだ、『めっしゅコーン・バーベキュー味』か……)


 そしてチヨは、商品画像の下にある『生産終了』の文字を見てすぐ、そっとブラウザを閉じた。


【完】

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