第148話 10/2クラス(姉妹)対抗文化祭⑦―本番二日目『展示発表』―
文化祭二日目――一般の方も招いて開催される『展示発表』の日。
その早朝。マジナとネロアの1-Bコンビと、ユノスとイバラの1-Dコンビは一緒に登校していた。
設備のメンテナンスや掃除などの、展示の最終調整をするためである。
なお、この時点では一般客向けの校内マップ入りのパンフレットが配布されているので、いよいよ他のクラスが何をするのかが正式に判明している。
「マジナおねえちゃん、ネロアおねえちゃんのクラスは……おばけやしき、かちとった……」
「そうですよイバラさん。僕がじゃんけんに勝って、他の三クラスからお化け屋敷をする権利を勝ち取ったんです」
もっとも、一年の五クラスに限っては、計三度、展示の独占権を賭けたじゃんけんが発生したので、三度敗北した1-Cを除いて何をするのかわかっているのだが。
「イバラのところは『縁日』だったね」
「うん……しゃてき……わなげ……ヨーヨーつり……いっぱいある……」
「わぁ、それはバラエティ豊かで楽しそうだね」
「親子連れのお客様とかにうれしい展示ですね」
そんな具合でマジネロコンビとイバラが今日の展示の雑談をしている中、ユノスはずっと真顔で無言だった。
昨日のステージ発表の時もそうだった。けれどもずっとそうではない。
家に帰ってきてからはニコニコ顔で家事をしていたし、どうでもいい話を振っても対応してくれた。
だが学校の中、もしくは学校に近いときはこうなっているのである。
――ユノスは、優勝以外の一切を望まない勝負者と化しているのである。
「……やっぱり今日もユノス、いつになく気合が入っているよねぇ」
「ですね。やはりユノスさんは文化部に属していますから、そこで譲れないものがあるのでしょうかね」
と、ネロアが考察すると、
「こういうイベントごとでやる気を出すのは当然だよ」
と、ユノスは自分の気合の根源について語った。その後、
「イバラ、ちょっとでもクオリティを上げに行こうよ」
ユノスは一秒でも早く教室に着くように、早足になる。
「はい……じゃあね……ダブルおねえちゃん……」
「はい、今日はお互い健闘しましょう! ユノスお姉さん、イバラさん」
ユノスは早歩きの最中、いきなり振り返って、
「健闘するのも義務だよ。ネロア」
と、まるで失言を正すかのように言った。
「あ……そうですね、ごめんなさい、ネロアさん」
(ユノスの意見もそうかもしれないけどさぁ、なーんか、楽しむにしてはやりすぎなような気がするよねぇ)
素直に謝るネロア。せっせと事務的に、足早に教室に向かっていくユノイバコンビ。この二つを見て、マジナは『文化祭って何だっけ』と思った。
*
数時間後。ついに文化祭二日目『展示発表』の全店舗が開店した。
一年五クラスの内、幸先よく教室前にお客さんの行列を作ったのは、1-Bの『お化け屋敷』。
先述の通り、お化け屋敷は文化祭において、アクティビティ性が強く、人気が高い。
受付に並ぶ、約二十数人の行列を目の当たりにして、1-Bの生徒は、四クラスによるじゃんけんで勝てたことのラッキーさを再認識し、にんまりした。
これに続くのは1-Aの『脱出ゲーム』と、1-Eの『段ボール迷路』。ジャンルはお化け屋敷に近いことが功を成しているようだ。
1-Dはというと、教室の前にお客さんはできていなかった。
それもそのはず、教室内にある多種類の屋台の前で五、六人くらいの列を作っているからだ。
かつ、射的や輪投げは一回の遊びにかかる時間が短いため、さっき並べた三クラスとは比べ物にならないくらい、お客さんを回転させていた。
お化け屋敷に並んでいる間、屋台を二つ回れるくらいの回転率がここにあった。
「よし、計画通りだよ」
二日目の評価基準は一般の方々からのアンケートで決まる。
なのでこの比較的軽いストレスで、老若男女問わず楽しめる縁日は、相当評価が高いはず。
ユノスはこの盛況具合を感じて、自分の作戦が成功したという実感を得た。
その裏で、1-Dの様子を偵察しに来た、1-Aの斥候役のワノは、
(ま、まずいっス。このままじゃアタイらが負けてしまうかもしれないっス……)
ただならぬ危機感を感じ、輪投げを素早くきっちり成功させてお菓子を貰った後、学級委員へ報告に行く。
「えっ、そんなに1-Dが人気なんですか!?」
「そうなんスよ、あそこ回転率がえぐいんス! 一撃一撃がデッカく楽しい店よりも、テンポよく程よく楽しめる店のほうが客受けがいいんスよ!
くっそー、商売には強くてもエンターテインメントはそうでもなかったアタイが憎いっス」
「だとしたら、こちらも健闘はしていると思いますけどね……」
1-Aの『脱出ゲーム』は、入場したお客さんに『九分』で設定したタイマーを手渡して、制限時間を設けている。
ゲーム性の向上のためと、お客さんの回転率の向上のためのルールだ。
「それでもやはり足りないのですか……」
「そうっぽいっスね」
ここからは制限時間を短くする。という改善案もあるにはある。
だが、この九分という時間は、1-Aの大勢の人がプレイして決めた最適な制限時間。
これを安易に変えてしまえば元も子もなくなることを恐れ、ワノたちは静観を余儀なくされた。
このように、1-Aは『お客さんの回転率』という問題に頭を抱えていた。だが、1-Bと1-Eはこれ以上に頭を抱えていた。
お化け屋敷も、段ボール迷路も、脱出ゲームと同じく、『一つの教室に限られた人数のお客さんを入れて楽しませる』というものだが、前者二つは脱出ゲームと違って、制限時間が設けづらい。 常識外でない限り、どれだけお客さんが長居しようとも追い出しづらい。
なのでこの二クラスの生徒たちは、次々とお客さんが入っては満足して出ていく1-Dの教室を見て、歯がゆい思いをした。
「「「キャー、トツカ様~!」」」
「冷やかしはやめてください、お客さん」
なんでよりによって俺に受付をやらせたんだ。と、思いつつ、トツカはお客さんをさばいていく。
その最中、トツカは隣の1-Dの盛況具合を見て思う。
(縁日なんて地味だなとか、聞いたときは思ってたけど……それはひどい驕りだったな。ユノスねーさんは、こういう現実的な部分も考えていたんだろうな)
そういう目線で見てはいけないとは思ってはいるが――トツカは、楽しんで帰ってくれるお客さんの数を比べて、敗北感を味わった。
ここでトツカは、『敗感』というワードであることを思い出す。
(そういえば、あっちはどうなってるんだろう?)
この文化祭でいう『敗北』といえば、で思い出した。
展示の権利を賭けたじゃんけんで三度も負けたことでおなじみ、1-Cの教室をちらっと見る。
「え、そんなにか!?」
すると1-Cでは、大勢のお客さんが並び、大勢の人が絶え間なく「また並ぼうね」などと言いながら笑って出ていく様子が目に入る。
「はい、次の方どうぞ……なんだなんだこれは! てっきり俺は、1-Cは絶望してステージ発表に力を全振りしたかと思っていたのに……!」
一組のお客さんを教室内に入れた後、トツカはパンフレットを開き、1-Cの出し物が何かを確認する。
*
「へぇ、ビリヤードですか」
自分のシフト外の時にネロアは、1-Cの教室にやってきた。
そこにあるのは、勉強机を利用して作ったビリヤード台が八つ。
「おっ、来てくれたのかネロア!」
「こらこら姉さん、身内にもマニュアル通りの接客して」
「あ、ごめんよピコリ。いらっしゃいませ、ネロア!」
「お客さんの名前呼べってマニュアルに書いて無かったよね!?」
三度目の敗北の後、展示の案が思い浮かばなくなり、お通夜状態となった1-C。
その中でコーリンとピコリは、前にネロアと三人でエンターテインメント施設に行ったこと(※第105話参照)を――特に、ビリヤードで遊んだことを思い出した。
「ビリヤードはまだあるよな! あれなら室内でできるし、作れるよな!」
「うん! 本物みたいにデッカイのは無理だろうけど、『文化祭の出し物だからテンポよくするため』ってことにして、サイズ小さ目で玉少な目のにすれば……!」
「そうだ、それなら間違いなく、お化け屋敷にも、段ボール迷路にも、脱出ゲームにも対抗できるぜ!」
最後の最後で二人は妙案を思いつき、1-Cは百円ショップで材木をかき集め、ネットでDIYブログをたんまり見て参考にしながら、このビリヤードを完成させたのである。
「そうですね! 行きましたね『ACTIVEパーク』に(※第105話参照)!」
「そうだ、あそこでビリヤードした(※第105話参照)ので思いついたんだ!」
「いやー、あの時『ビリヤードはまた別の回のネタにする』って地の文で言ってた伏線を、シーズン3内で回収できてよかったねー(※第105話参照)!」
身内同士の思い出話はほどほどにして、ピコリとコーリンはネロアを、一つのビリヤード台に案内する。
この店では、その場で集まった人を一つのビリヤード台で二~四人でまとめ、順繰りで玉を打ち、計六個ある玉を多く入れた人が勝ち。という簡易ルールでゲームが行われる。
終了条件は、『最後の六つ目の玉が四隅に入る』か、『五分経過する』か。という、短時間での決着を見込んだものとなっている。
あまり遊ぶ機会のないビリヤードを遊べるという魅力だけでなく、驚異のお客さんの回転率を持つ。
この二輪により、1-Cはリピーターを生み出すほど、お客さんをジャンジャン集めていくのだった。
「ようし、これならアンケートトップ行けるぞ!」
「ウチらの快進撃、どんどんかましてくよー!」
*
ユノスは縁日のマネジメントをしながら、1-Cのビリヤード店の人気を確認し、危機感を抱く。
「まずい、もっとお客さんを呼び込まないと……」
なのでユノスは今動かせるクラスメート全員へ指示を出す。
「宣伝担当の人はもっと明るく、他のクラスを食いつぶす勢いで宣伝して!
店のスタッフはもっとテキパキキビキビ動いて、お客さんを待たせないようにして!」
この時、一人の店舗スタッフが恐る恐る手を挙げて、
「あのー、悪いけどユノスさん。俺そろそろシフトの終了時間なんで、他の店行かせてくれませんか……」
「次のシフトの人がいないみたいだけど?」
「それは見て回るついでに呼んでくるんで……解放してくれませんか?」
ユノスは即答する。
「ダメ、その人が来るまでまだいて」
「ええ、でも……」
スタッフが口答えしようとすると、ユノスと、彼女の補佐をしているイバラと一緒に、
「いいからあなたはちゃんとしなさい!」
「くるまで、はたらけ……!」
と、叱りつけて、強引に店舗に戻した。
なお、このスタッフの次の担当が来たのは三十分後。この間、そのスタッフは口をつぐんで店を動かしていた。
「絶対に勝つんだ……このクラスが勝つようにするんだ」
「なーんかここの店はギスギスしてるのう」
ルシェヌは魔法で操った輪っかを的へ確実に引っ掛け、そうつぶやいた。
景品を貰って帰ろうとするルシェヌへ、ユノスは尋ねる。
「いたんだね、ルシェヌ。それで、ギスギスってなあに?」
「みんながよく知るギスギスじゃよ。
ユノス貴様、『勝ち』だの『勝利』だの『優勝』だのというキレイな言葉の縄で皆をしばりつけて、どうしたいのじゃ?
さては貴様、またいつぞやの『仕事頑張らなきゃ中毒』で、みんなに無理させているんじゃあないのかえ?」
「違うよ。あの時はボクもやりすぎたって反省してるもん。今回のはね、みんなが頑張らなすぎるから、こうあなたが厳しいなって思っちゃうような当たり方をしてるんだよ」
1-Dの生徒たちは、『文化祭にのめりこみたい』という気持ちはあっても、『自分が盛り上げていきたい』という気概が薄い、積極性のない面々ばかりだった。
だから展示を決めるの際もあまり意見が飛び交わなかった。
ステージ発表の際も、四、五人くらいの親しいグループがぽつぽつとできて、全体で連携することもなく、細々と自分たちがしたいことを練習する始末だった。
そこで、異世界から帰りたての時よりかは幾分か現実的な程度にはなったが、与えられた仕事への責任感が強いユノスは激怒した。
ユノスは、学校の行事にまともに取り組もうとしない生徒にいら立つイバラと共謀して、1-Dの文化祭を恐怖で監督した。
その結果が昨日の真面目過ぎるミュージカルと、本日の高校生の文化祭らしからぬ、利益重点の展示なのである。
「なーんじゃ、そういう理由じゃったのか。てっきりアタシたちは『文化部としてのプライド』で張り切ってたと思ったぞい」
「それも少なからずあるよ、けどボクはどっちかっていうと、美術部よりも生徒会執行部の方に精を出してるから、そうでもないもん。
さぁ、ボクもルシェヌも時間がもったいないから、こんなところで話してないで遊んだほうがいいよ」
ユノスはルシェヌの肩を押して、ヨーヨー釣りの列に並ばせようとする。
ルシェヌはそれを振りはらって、
「はいはい、わかったぞい。けど最後に一つだけ言わせてほしいのじゃ――『文化祭は楽しんだもの勝ち』じゃぞ」
と、ユノスとイバラに言い残して、1-Dの教室から立ち去った。
「たのしんだものがち……じゃあわたしたち……いまどうなんだろう……?」
「ルシェヌなんかの言うことを気にしちゃダメだよ。イバラ。さ、ボクたちは1-Cに勝つため、もっとお店を盛り上げよう」
ユノスは宣伝のため、看板を持って廊下に出る。
その時、室内にも関わらずサングラスとマスクとキャップを身に着けた、ピンク色の髪の女性が、
「アノー、スミマセンー、オススメノオ店ッテドコデスカー?」
無理に変えたような声色で、ユノスに尋ねた。
「ここです。射的とか輪投げとかが十円単位で遊べて、景品ももらえちゃうんです」
「ソウナンデスカー、親切ニ教エテクレテアリガトウゴザイマスー」
その女性はユノスのあからさまな誘導に乗って、1‐Dの教室へ入る。
途中、女性はユノスとすれ違うタイミングで、
「仕事のスケジュールを無理やり空けて来たから一時間も居れないけど、一緒に楽しませてもらうね。ユノス」
と、小声でささやいた。
「あ……ごめんなさい……」
それから、百式高校の生徒たちは、店で働く人はいきいきと接客し、シフト外の人はとことん他クラスの出し物を体験した。
より端的に言うと、百式高校全校生徒は、一切の惜しみなく文化祭を楽しんだ。
「みんな、もっともっと頑張って、文化祭を楽しくしていこうね!」
「「「はい、ユノスさん!!!」」」
序盤こそアレではあったが、これは、1-Dも例外ではなくなった。
*
十六時。
一時間前に全クラスの展示の営業が終了し、全校生徒は昨日と同様体育館に集合した。
いわゆる閉会式である。
今回も校長先生、実行委員長、あの注意したいことは果ての果てまで注意しないと気が済まないことでおなじみの生徒会長がスピーチをした。
ただし今回も、普段とは違って短めだった。三人とも文化祭を満喫しすぎて疲れ気味なのだ。
その後、この閉会式のメインイベント、『結果発表』が始まる。
(ついにか。自分たち1-Aの精鋭の努力が実ってくれるといいが……)
(あんだけ綿密に話し合って、時にはしょうもないことでも揉めながらあんないいもの見せてやったんス。ぜひとも1-Aの忘年会を豪華にしてほしいっス)
(これは私たち1-Bの優勝であっておくれよ。あのステージでの先生いじり、あれだけ会場が沸き上がったんだからさ)
(僕渾身のお化け屋敷、お客さんに気に入ってもらえたでしょうか……?)
(さぁ言ってくれよ、1-Cが優勝ってな!)
(過密度なステージ発表と、閃きによる展示発表――両方に努力、故に1-Cが最強……なはず)
(やれることは全部やったもん。だからボクは、あとは自信を持って結果を待つよ!)
(いっぱいたのしんだし、たのしんでもらった……だからおねがい……)
(優勝は絶対1-Eなのじゃ。それ以外はありえんのじゃ。だって陽キャも陰キャも団結してたのじゃぞ)
(少なくとも、俺が三パートのダンスを踊ったことは褒めてくれよ……)
満月姉妹を含めた全校生徒は、数多くの差異はあれど、総じて『自分たちはこの日に全力を注いで頑張ったんだから、優勝してくれ』と願った。
またその一方で、全校生徒は、こちらはあまり差異なく思った。
――結果がどうであっても、紆余曲折あったけど、ものすごく楽しかったな。と。
全校生徒がこれまでの歩みを振り返り、感慨深くなりつつ優勝を願う最中、教頭先生がステージに登壇し、結果を発表する。
そして、体育館内でブーイングが響いた。
発表された結果が、いくら校風がフリーダムな百式高校でも、『卒業生へのはなむけ』はせざるを得なかったのか、ステージ部門、展示、総合、全ての部門の上位三クラスが、三年で占められていたからだった。
「こんにゃろー! ほぼ出来レースじゃないスかこれぇ!」
「アタシらの発表はいったい何だったんじゃあ!?」
「クッソぉー! オレたちがあの手この手で頑張ったのによぉ! なぁピコリ!」
「うんうん! だよね姉さん! せめて展示部門では食い込んでほしかったよ!」
「ステージ発表の方はどういう評価基準だったんだ? 俺たちのクラスは団結もしたし、俺が三パート踊ってやったんだぞ」
「あはは、やはり食べ物には勝てませんでしたね……」
「やっぱり、真面目なミュージカルは文化祭の場に似合わなかったんだね……」
「らいねんは……とびっきりおいしいやきそばやく……」
「ねぇ、生徒会長さん。来年はこういう忖度しないように、暗黙のも含むルール改定よろしくね」
「ああ、任せろマジナ殿」
ちなみに後日、一年の各担任の先生に、『自分たちのクラスは、学年内で何位だったんですか!?』という質問が山ほど投げられた。
しかし、低順位のクラスに配慮するよう、大人の事情が働いているためか、
「審査員たちには受けてた」
「楽しかったっていっぱいアンケートが来てた」
「先生たちはすごいと思ってた」
などと、漠然とした評価しか得られず、一年生は、二度も煮え切らない思いをしたのだった。
【完】




