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第147話 10/2クラス(姉妹)対抗文化祭⑥―本番一日目『ステージ発表』―

 十月末、百式高校の体育館にて。


「ただいまより、百式高校文化祭の開会を宣言します!」


 ついに、百式高校の一大イベントである、文化祭が始まった。


 まず、学内のイベントのお約束、開会式が行われた。


 校長先生、実行委員長、あのとことん厳格なことでおなじみの生徒会長がスピーチをする。

 ただ、今日『は』、みんな文化祭を楽しみにしているので、全員話を短めにまとめてくれた。


 こうして巻き気味で開会式が終了した後、いよいよ文化祭本番――一日目の各学年・クラスの『ステージ発表』が行われる。


 最初の最初に発表する1-Cは、支度のため、幕が降りたステージの中へ。

 その中にいるコーリンは着替えをしながら言う。


「今日はえらく展開が早えな、ビビったぞオレ」


 ピコリも楽器のセッティングをしながら、

「ウチの作者は導入がくどいことで有名だから反省してるんだよ」


 数分後。体育館が暗転し、ステージの幕が開く。

 全校生徒の座席後ろに控える照明担当が、ステージのうっすらとしたブルーの照明を点灯すると、そこにはキーボードとマイクを正面にセットしたピコリと、その他ギタリストやドラマーが。


「えっ、ピコリが先陣切るのかい!?」


「ほう、1-Cはダンスだけではないのか」


「ピコリおねえちゃん……かっこいー……」


 これが1-Cのステージ発表の第一幕、ピコリの生ライブである。

 ピコリは目まぐるしく色が変わる照明の下、お得意のスクリーモを歌い奏でる。


 そのメロディの早さといい、音の圧といい、ピコピコ音といい、観客たちのバイブスを熱狂に染めるのは容易かった。


 最前列に座る三年生は、その曲が何なのかもわからなければ、歌っている人が誰なのかもわからないが、とにかくノッて、会場を盛り上げてくれた。


「いいぞ、イケイケー!」

「FOOOO!」


「流石三年生です。場の作り方も僕たちより一枚上手です」


「……ていうより、1-Cの作戦が絶妙にいいとこ突いてるっスよねー。フェスは音楽で始めてなんぼっスもの」


 そしてピコリはきっちりと歌い上げ、とりあえず文化祭を盛り上げる前座の役割を勤め上げた。と、思いきや、


「はい、どうもみなさんはじめまして、1-Cの満月ピコリでーす」


 後ろでクラスメートが楽器を片付ける中、ピコリはステージの前方へ立ち、まさしく曲と曲の間にアーティストがやるように、観客に絡み始めた。


「そこまで徹底してやるんですか、ピコリねーさん」


「よっぽど主役になれたのが嬉しかったのじゃな」


「この1-Cまだまだ見どころたっぷりありますんで……どんどん盛り上がっていきましょー!」


「「「イェェェイ!!!」」」


 ピコリはベタな観客への声がけをした後、次の演目についての説明をしようとする。

「次するのは、ウチら1-Cの女子精鋭チームによるダンス。その曲は……」


 その最中、

「待て待て待てーい!」


 いかにも某ディスカウントショップでこしらえて来ただろう、悪の雑魚怪人っぽいマスクを被ったジャージ集団が、ぞろぞろとステージに現れ、ピコリを囲む。


「な、なんなのですかあなたたち!」

 と、ピコリは臭い演技をして言うと、怪人の一人は仰々しく、


「俺たちはジャマー団! 全国各地の文化祭を邪魔することで世界征服を目論む軍団だァ!」


「あれ、台本だとジャママ団でしたよね!? ジャマー団だと某カードゲームのスマホゲーに出てくる組織と被るから、ジャママ団にしたほうが無難だって……!」


「うるさぁい! 必殺、極悪パンチ!」


「グワーッ!」


 ピコリは怪人の一人に優しく押されて、後ろの別な怪人役の人に優しく受け止められる。


「とにかく! この文化祭は俺たちがジャックした! さぁ、今から貴様らが持ち物を置いてる各教室へ、財布を奪いに行ってやるぞ!」


「だ、誰か助けてー!」


 このピコリの叫びを合図にして、


「「「「「そこまでだ!」」」」」


 これまた某ドンキで揃えたような、赤青黄緑桃の衣装を着た五人組が現れる。


「だ、誰だ貴様ら!?」

 と、怪人の一人が尋ねると、


「燃え上がる闘志、熱血の炎、イチノシーレッド」

 まず赤スーツの男子が棒読みで名乗り、


「クールな頭脳……えっと、氷、イチノシーブルー」

 次に青スーツの男子が一部台詞を飛ばして名乗り、


「強き勇気ッ! 轟く稲妻ッ! イチノシィィィイエローッ!」

 続いて黄スーツの女子が、格段と気合を入れ、本物のそれらしく名乗り、


「……あ、次俺か。素早い行動! 吹き荒れる風! イチノシーグリーン!」

 その後に緑スーツの男子が、数秒ほど間を忘れて名乗り、


「優しい愛情! キュートな光! イチノシーピンク!」

 そして桃スーツの女子が、十分にカンペを読み込んで名乗り、


「「「「「五人合わせて、『仲良し戦隊・イチノシージャー』!!!!!」」」」」

 最後に五人は、ここだけはしっかりとタイミングを合わせて名乗りを叫んだ。


「うわぁ、いかにも文化祭らしいノリが始まったっスね」


「ねぇサバキぃ、あの黄色の人、なんか見覚えないかい……?」


「見覚えどころじゃないんだがな……それはあえて言わないでおけ」


「仲良し戦隊だとッ!? 何をする気だお前ら!?」

 そう怪人の一人に問いかけられたイチノシージャーは、一旦輪になってヒソヒソ話し合う。


「ここ誰が言う、誰が言う?」

「やっぱリーダーの火野が行ったほうよくね?」

「いやここは台本読み込んでる満月さんが行くべきでしょ?」

「えー、オレは別にいいけど、せっかく戦隊組んでるんだから台詞量はまんべんなく言ったほうが……」


 そして面倒くさくなったイチノシージャーは、

「「「「「お前ら全員ぶっ潰す!!!!!」」」」」

 強引に戦闘パートへ移行した。


「台本練り込んで来いなのじゃ」


 それからイチノシージャーと怪人ズは、一旦ステージから降りて、その下の空きスペース――ここも発表中に使っていいことになってる――で戦い始める。


 両勢力、黄色の約一名を除いてヘロヘロのアクションを繰り広げ、やがてイチノシージャーが不自然な被弾率の上昇により劣勢となる。


 するとステージ上でポツーンとしていたピコリが、頃合いを見て、

「わわっ、イチノシージャーが負けそうになってる! こうなったら応援するしかない! てなわけで1-Cの女子のみなさん、応援のダンスお願いしまーす!」

 台本通りの台詞を言って、女子グループの男子に繋げた。


「このくっだらない寸劇……いるのか?」


「そんなこというなトツカ……ピコリおねえちゃんかわいそう……」


「ピコリねーさんも、これをやらされてることが可哀想だと思いますけどね……」


 ちなみにこの劇の考案者は、中心人物となっているピコリでも、アクションパートに趣味が出ていそうなコーリンでもない(※そもそもコーリンは騎人バスターには興味があっても、ハイパー戦隊にはあまり興味がない)。

 黒幕は、なんか物足りないなー。と、本番数日前になって余計なことを考え始めた1-C担任の先生である。


 閑話休題。

 ステージ下でイチノシージャーと怪人ズが互角の戦い続けている間、女子グループは極力下を見ないようにして、流行りのアイドルの曲を踊る。


 聞いて『だから何なんだ』となること請け合いな余談だが、この曲に応援の意味合いはない。


 ダンスが終わると、女子グループは袖へはけていく。

 そしてステージ下のイチノシージャーは、


「「「「「いくぞ必殺、イチノシーバズーカ!!!!!」」」」」

 と、決め台詞を言い放ちつつ、五人は何らかの飛び道具が出そうなポーズを別々に決める。


 怪人ズは台本に従い、「わー」と、やる気のない断末魔と同時にふっとぶ演技をして、そのまま袖へ退散した。

 ついでに怪人を倒し終わったイチノシージャーも、無言で袖へ帰った。


「締めの言葉とかないんだね」


「付け焼き刃っぽい演劇だったな」


「はい、では次の男子グループのダンスをお楽しみください!」


 そしてピコリは、これまでの寸劇の流れがなかったかのように進行をし始めた。


「やっぱあの三文芝居いらないんじゃないスか?」


「ていうか、ピコリが司会進行なのはそのままなんじゃな……」


 この後、男子グループの面々が、何人かが着替えながらでステージに登場し、可もなく不可もない仕上がり具合のダンスを披露。

 そして1-Cの発表は、イチノシージャーを最前列にした、クラス全員によるハイパー戦隊シリーズのエンディング曲のダンスで幕を閉じた。


「最後は戦隊モノで締めるのですか、すごくいい伏線回収ですね」


 なお、イチノシージャーのダンスのレベルは、アクションパートと違ってほぼ均等だった。


*


 それからのステージ発表は、1-E、1-B、1-A、1-Dの順で行われた。


 1-Eは、何故かトツカが三パート全てで踊るという、トツカ全面押しのダンス三連発。


 1-Bは、クラス内の身内ネタが多い劇を交えたダンスパフォーマンス。


 1-Aは、やたらと個性が強い面々が多いので、ダンス、合唱、劇、漫才、手品など、多彩な演目をハイテンポで制限時間内に押し込んだ発表をした。


「急にダイジェストになったね……まぁ、全部やったら文字数エグくなるし、小説的に見どころ無いから仕方ないけどさ……」


 そして一年部門のラスト、1-Dの面々は、準備のためステージ脇へと移動する。


 最中、入れ替わりで自席に戻ろうとする1-Aのサバキは、1-Dのユノスと出会う。


「ユノス、次の発表頑張るんだぞ。自分も楽しみにしているからな」


 このサバキのさりげない親切な応援に対して、


「うん」

 ユノスは、彼女にしては珍しい真顔で、こう短く返した。


 それからユノスはイバラたち1-Dのクラスメートと共に、まるで軍隊のように整然とした歩みでステージ袖へ入っていく。


 数分後、本日五度目の幕が上がって始まったのは、ミュージカルだった。


 しかも1-BやCが行ったような、高校生の特有のいい意味での悪ふざけが多い劇ではない。

 まるで卒業生が今まで育ててくれた両親へ向けてするような、メッセージ性の強い、オリジナルのミュージカルであった。


 もちろん間に行われるダンスも、世界観を逸脱しないもの。

 この徹底された1-Dの発表に、


「まさか一年生がこんな本格的なものを……」

「圧巻、ですね……」

「これは優勝候補かもしれません」


 審査員の教師陣は、息を飲んで評価した。


 その一方で、


「な、なんだこのクラス……真面目過ぎないか?」

「どんだけ優勝狙ってるの……」

「えー、怖い怖い怖い」


 一部の生徒――特に、これまで馬鹿騒ぎよりの文化祭を二度も経験してた三年生の先輩たちは、自分たちが思っていた文化祭との不一致により、ヒソヒソと戸惑いの声をあげた。


 さらにその一方で、


「ユノスねーさん、何考えてるんですかね……」

 と、トツカは神妙な面持ちでつぶやく。


 ルシェヌはこれを拾って、問う。

「おい、トツカ。貴様なぜこれがユノスの仕業とわかったのじゃ?」


「根拠は特にない。俺の勘だ。こういう劇を作れる人材は、1-Dにはユノスしか居ない。っていう決めつけだ」


「たしかに『勘』じゃの。けど、ただの決めつけとも思えんのう」


 さらにさらにその一方で、さっき、真顔のユノスと、異様な気合の入り様だった1-Dの面々を間近で見たサバキは思う。


(ユノスたちの様子と、この劇の出来栄え……さてはユノスめ、この文化祭に際して、いよいよ本気を――表現者としての本気を出したな)


 絶賛と困惑の中、1-Dのミュージカルは終幕した。

 それから立て続けに二年生、三年生の発表が続いた。

 

 それらの発表は、1-Dの奇怪な気概に衝撃を受けた故か、微かに『あんな場違いな発表に負けるか』というような反骨心、もしくは『自分たちは後輩の前で何してるんだろう』というような羞恥心を、本調子の出ていなさから感じられた。


 一日目の『ステージ発表』の部は、たった一クラスの異端な発表により、台風下の海原のように荒れたのである。


「とりあえず、ステージ発表は終わりましたね……マジナさん」


「そうだね。さぁて、果たして明日の展示はどうなることやら……少なくとも、ユノスの存在感は本日限りとはいかなそうだ」


 真剣な眼差しで、今後の時間について話す先生を見るがてら、『遥か彼方』を見ているユノスを見て、マジナは己の危機感を口にした。


【続く】

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