第146話 10/2クラス(姉妹)対抗文化祭⑤―連れてってあげるよお化け屋敷へ―
百式高校の文化祭前日。
その日の予定は一、二、三年のクラス順でステージ発表のリハーサルがメイン。
残りはステージ発表の調整や、展示発表の設営がメインとなる。
というわけで1−Bは、リハーサルが終わった後、展示のお化け屋敷の準備を行っていた。
現在の完成度は、お客さんを怖がらせる仕掛けはできていて、あとは窓を布で塞いだり、細かい飾りを置いたりすれば完成……というくらいである。
その塞ぎや飾りの作業をする前に、1−Bの生徒は仕掛けが正常に作動するかどうかを、実際に歩いて確認することにした。
すると……
「ひぃぃぃ!」
「うわああ!」
その確認者である男子コンビは、絶叫しっぱなしのまま出口から出てきた。
廊下で飾りの塗装をしてたマジナはこれにびっくりする。
「ど、どうしたんだい君たち!? そんなおっきい声出さないでくれよ!」
床にへたりこむ男子二人は、震えながら、
「だ、だって……マジで怖かったんですものー!」
「このお化け屋敷、ガチでヤバいんだから!」
「えー、そんなにヤバいのかい? 所詮、素人の高校生が作った……」
ここでマジナは、このお化け屋敷を作った中心人物が、ただの高校生じゃないことを思い出す。
マジナは裏で仕掛けを動かしていた張本人を呼ぶ。
「ネロア、おいで!」
ネロアはお化け屋敷のスタッフ用通路から出てきて、
「はい、何のようでしょうか?」
「ものすごく今更な再確認になるけど、このお化け屋敷のギミックを作ったのは君だよね?」
「はい、そうです」
1−Bがお化け屋敷をすると決めてから、クラスメートたちは、ネロアのことを『なんかホラー系に強そう』と思い、注目し始めた。
さらにマジナが、
「ネロア? ああ、あの人ホラーにとっても詳しいよ。家の中では『死神』って誇張気味に呼ばれてるし」
と、推薦したことにより、ネロアはいよいよ本格的にお化け屋敷づくりの監督的存在として、携わることになったのである。
「基本は他の方と相談しながら考えていましたが、ギミック関連は僕に任せて貰えました。ありがたいです」
「そうなんだ。で、それ、どのぐらい怖いとか自分で把握してたりする?」
「どのぐらい怖い……いえ、特にどのぐらいとは決めてなかったです。僕は『これくらいならみんな怖がってくれるだろうなぁ』ってものを考えて、作っただけですので」
ネロアは満月家一の強心臓にして怖いもの知らず。
そんな彼女が作ったお化け屋敷なんて、絶対にネジが外れたものに決まってる。
と、マジナは思いつつ、未だに怖がり震えている男子二人を見る。そして彼らに同情する。
「だったらそれはまずいよ。ネロア基準で怖いものなんて一般の方には耐え難いよ」
「えー、怖くしちゃいけなかったんですか? お化け屋敷ですのでお客様に怖がってもらいたくて、しっかり怖くしたのに……」
「本来はそれでいいんだけどね……ただ、今回は事情が事情なんだよね」
「事情……とは?」
「うーん、私でさえも言いにくい複雑な事情だよ」
このままこのネロアが作ったお化け屋敷を出店して、お客さんを事故クラスに怖がらせれば、大目玉を食らってしまう。
ネロアとは別ジャンルで怖いもの知らずにもかかわらず、そんな危機感を感じたことから、マジナは提言する。
「とりあえずさ、私もこの中に入ってみていいかい? ネロアの作ったお化け屋敷がどんなもので、何をどうしたらいいか見てみたいからさ」
「大丈夫です! あ、でしたら僕も一緒についていって、案内してもいいですよ!?」
「君も!? さっきは裏で仕掛け動かしてたんじゃあないのかい?」
「そうです。けど、このお化け屋敷は僕や他の誰かがいなくても動かせるようになってますので心配無用です」
「だったらなおさら怖いよこれ」
この時点でマジナは、ネロアがどんな仕掛けを搭載したのか薄々察した。
*
こうしてマジナとネロアも、テストプレイのためお化け屋敷の中へ入る。
今のところはまだ制作途中の段階。
教室内の遮光は済んでおらず、一部装飾が足りていない、壁の段ボールが剥き出しのところもちらほらとある。
けれども、入って早々に一つ立っている、ルートの横に段ボール製の鎧など、このお化け屋敷――没落した貴族が遺した幽霊屋敷という設定の雰囲気が、ある程度醸し出されている。
「この鎧は僕が自分でこだわって作りました」
「へー」
そう裏話を交えつつ、二人はその鎧の正面を横切る。
すると、その鎧は突如腰の剣を手に取り、半身ほど抜刀した。
「……ああ、やっぱりね」
「お、さすがマジナお姉さん。これくらいでは物怖じしませんか」
マジナは数歩戻り、段ボール鎧の兜を外す。と、中身のガイコツの頭が露わになる。
「この人、君の能力で召喚したガイコツでしょ?」
ここで一つ解説を入れるとしよう。
ネロアが転生した異世界は、衛星的めいて付属する小さな世界を、VRMMOゲームの舞台として活用している異世界『アンド・ロジスティクス』。
ネロアはそこの衛星異世界で得たスキル【モンスターコール:スケルトン】を使い、ガイコツ型モンスター――スケルトンを召喚できるのである。
「はい、このお化け屋敷にうってつけだと思いまして」
はじめまして――と、言うかわりにペコペコお辞儀をするスケルトンから、そのように説明するネロアに向けて、マジナは視線を移す。
「これは色々やりすぎだって……」
「ええ、ダメなんですか? 半抜刀ですよ?」
私は全抜刀しないように気をつけましたのに――と、言いたげなスケルトンに見つめられながら、マジナはネロアへ、
「ダメだよ。普通こういうお化け屋敷にある鎧は基本動かない。せいぜい揺れるのが関の山だってのに、半抜刀なんかしちゃったら怖すぎるもの。
しかもこのギミック、度胸あって知りたがりな人が、私みたいに兜取ったら大騒ぎになるよ。リアルに動くガイコツがいる! って」
「それは大丈夫です」
ネロアがスケルトンへ目で指示を送ると、スケルトンはその骨身を黒いモヤで覆う。
「こうして全身に闇属性エネルギーをまとわせればガイコツだとは気づかれません」
「なるほどね。今はまだそんなだけど、本番はもっと暗くなるから、そうすれば兜とってもバレないね……って言うと思った?」
諸々の判断は後でまとめてするとして、二人はお化け屋敷を進んでいく。
次にあったのは宴会場と思しき部屋だった。
思しき、と付けたのは、教室の広さの関係上、二畳くらいの広さに区切られた空間に、四枚の皿がギリギリ乗るくらいのテーブルがある……現実的にとても宴会場とは思えない規模だからだ。
「広さに関してはあまりツッコまないでほしいです。内装などは頑張りますが……」
「確かに頑張ってる気はするよ。広さのわりには雰囲気は出てるしさ……」
二人はその宴会場を通過しようとした瞬間。テーブルの皿四枚が、部屋の角へと飛んでいき、そして壁に刺さった……ように固定される。
これを冷静に見て、マジナは一言。
「今の、糸で引っ張ってたよね?」
「え、よくわかりましたねマジナさん! すっごく細い糸を使ってましたのに!」
「元怪盗だからね。こういう糸を使ったトリックは見慣れてるのさ……ところで、これの裏のギミックはどうなっているのかい?」
「はい、これはですね……」
ネロアは壁の隠し扉を開けて、スタッフ用の裏通路をマジナに見せる。
すると両手それぞれに糸を持った二人のスケルトンが、『あっ、マジナさん。お疲れ様です』と言うように会釈してきた。
「このお二方が、お客さんが来た瞬間に糸を引っ張っています」
「スケルトンっていうファンタジーな存在使ってるのに、仕組みが原始的すぎやしないかい?」
それから、マジナはネロアの解説を受けながらお化け屋敷を進んでいく。
シャンデリアがガタン頭に当たらない程度の位置で下がってくる。壁に飾られた絵から笑い声がする。蝋燭ライトが突然点灯する。などなど、お化け屋敷にはよくある仕掛けを体験していく。いうまでもなく、その仕組みは全てスケルトンが関与している。
「スケルトン使っちゃってることは無視して……なんだ、今のところ普通のお化け屋敷じゃないか……ネロアだったら幽霊とか呼び出して、ガチの心霊現象を起こすとかやりそうだと思ってたけど」
「それはしたかったのですけどね。ただ僕はジョブが【騎士】なので、【モンスターコール:レイス】を使えないのです。【射手】とか【魔剣士】とかなら使えたのですが」
「むしろしなくていいよそんなもの。じゃあ今のところこれ、本番は仕掛け動かす役をスケルトンじゃなくて、クラスのみんなにするだけで大丈夫だね」
「え、そこはスケルトンにしたほうがいいと思うのですが……?」
何が違うんだい。という薄情なツッコミをマジナは胸の内にしまって、
「クラスのみんなに役割を与えるためさ。文化祭はクラス全員が働いてこそなんぼなんだからね」
「なるほど! でしたら是非お願いします!」
この時、裏で待機していたスケルトンは、総リストラのショックを受けて塵と化した。
*
そして二人はお化け屋敷の終盤についた。
ここは分かれ道になっており、一つは施錠された出口へと通じ、もう一つは鍵が置かれた場所へと通じる。
ただし、鍵は番号ロック式の錠前がついた箱に入っており、その付近の壁に書かれた暗号を解いてパスワードを当てなければならない。
という、いかにもお化け屋敷の最後らしい、やや凝った仕掛けとなっている。
「ここでは僕は何も言いません。是非自分で考えてみてください」
「わかったよ」
と、言った後、マジナは胸の谷間からカードを一枚取り、黒竜『IrrynCrash』を召喚する。
「この謎を一緒に解いておくれ」
「はいじゃけん」
それから無慈悲な一人と一体は、徐々に徐々に大きく速くなっていく時計の音を聞き、そこそこ焦りながら暗号を解読。錠前を開け、中の鍵を取り出した。
その時、暗号が書かれた壁が回転。鍵が入った箱の代わりに出てきたのは、鉄臭さといい、装備の風化具合といい、何もかもがリアルなガイコツ騎士だった。
「うわぁぁ! なんじゃいこいつはぁ!」
「わっ、最後だし直接驚かしてくるとは思ったけど……忍者屋敷みたいなギミックで登場していいのかい、スケルトン君!?」
ガイコツ騎士は有無を言わず剣を手に取り、紅く染まった刃をちらつかせ、二人へ斬りかかろうと迫る。
マジナはガチでビビりまくるIrrynCrashをカードとして谷間にしまい、全速力で出口へ行き、
「ってよく見たら扉も鍵も、段ボール製のハリボテじゃないか!」
マジナは段ボール製の扉の穴に、鍵を押し込みながら、
「鍵取りましたよ! ほら、鍵取りましたから開けてください!」
と、裏の通路へ向いて叫ぶ。
それに気づいたスタッフが扉を開けてくれ、晴れてマジナは脱出した。
直後、未だに出口付近でへたりこんでいた男子二人が、
「「ねっ、怖かったでしょ……」」
「ああ、怖かったよ! 最後の最後であんなガチのお化け出してくるなんてね!」
そういえばネロアを置き去りにしてきちゃったな――と、思い、マジナは出口から来た道を戻っていく、と、すぐにあのガイコツ騎士とバッタリ合う。
一度脱出した人かつ、お化け屋敷の仕掛けなので、ガイコツ騎士はまた斬りかかることなく、ペコリと一礼した。
そしてマジナは裏のスタッフ用通路へ叫ぶ。
「ネロア! 流石にこれはアウトだよ! 君のスケルトンをまんま出すなんて、本気で怖いじゃないか!」
『え、スケルトンは出てませんよ』
「じゃあこの今私の目の前にいるスケルトンは何なんだい!?」
ネロアはガイコツの被り物を外して、
「僕が細部までこだわって作ったコスプレです」
「最後は君が直々に出るのかい!?」
【続く】




