第143話 10/2クラス(姉妹)対抗文化祭②―アイデアが出ない―
「みなさん、昨日、はりきって話し合いしていたのにごめんなさい。1-Cは、お化け屋敷が出来ないかもしれません」
1-Cの朝のHRで、先生は生徒へ、心苦しくそう伝えた。
これに生徒たちは普通にどよめき、
「なんでですか、先生!?」
そう何人かが尋ねてみた。
先生はこの理由を、これまた心苦しく答える。
百式高校の文化祭は、出店のバリエーションを増やすため、同じ出し物が出ることを禁じている。
しかし昨日のLHRでの企画の時点で、既に一年五クラス中、四クラスが『お化け屋敷』をすると決めてしまった。
「なので、どのクラスがお化け屋敷をやるかを、後で代表者が集まって、じゃんけんをして決めます。
だから、その結果次第で『お化け屋敷ができないかもしれない』んです」
これを受けて、昨日は散々張り切っていたピコリは肩を落とす。
「文化祭で食べ物以外でってなったら大体みんなこれ思いつくかな。とは予想してたけど、まさか四クラスで取り合いになるなんて……」
一方で、コーリンは張り切って肩を回して、
「なあに、心配するな。そこで勝てばオレたちがお化け屋敷だ!」
その手をビシッと挙げる。
「先生! ここはオレを行かせてください! オレが他三クラスをぶっ飛ばして来ます!」
「いいえ俺が行きます!」
と、続いて1-Cの学級委員が手を挙げた。
なんでお前が。と、コーリンの喉から出る寸前、学級委員は語る。
「この1-Cの団結力を校内外に示す文化祭、その行く末を左右する大一番には、やっぱりクラスの代表である俺が行かないといけないと思うんです!」
彼は昔から責任感の強い少年だった。小学校や中学校でも、何かしら役職に就けるタイミングがあれば、必ず率先してそれに就いた。
率先して行動すれば必ず成功する――それが、何度もトップとしての務めを完遂してきた彼の座右の銘である。
学級委員の熱意を聞き届け、コーリンは全身が震えたように錯覚し、
「そうだな。この天王山、ただの気合でやっても勝てるほど、安くはないだろうからな……じゃあ、頑張ってこいよ」
すんなりと手を下ろした。
それと同時に1-Cのクラスメート一同は、
「俺からもだ、頑張れよ!」
「勝てるって信じてるからな!」
「期待して待ってるからねー!」
学級委員へ幾多もの激励の言葉を送った。
「みんな……ありがとう! 絶対、優勝しような、俺たち『1-Cのお化け屋敷』で!」
数時間後。
「ごめん、負けた……」
学級委員は教卓の横で正座し、至極申し訳なさそうに1-Cのみんなに伝える。
さっきの覚悟は何だったんだ。と、言いたいのを我慢して、ピコリは言う。
「ま、まぁ……所詮じゃんけんは運ゲーなんで、別に負けるのは仕方ないと思うし……」
「しかも秒で負けた……俺含む三人がパー出して、1-Bの満月ネロアさんがチョキ出して、一瞬で決まった……」
「はーん、1-Bはネロアが出たのか。アイツ、やっぱゲーム全部強いんだな」
「いくらネロアでもこれはきっとまぐれだよ、姉さん」
というわけで、文化祭シーズンなので期間限定で増えた次のLHR、1-Cは別な展示の案を考えることになる。
だが、やはり文化祭の定番であるお化け屋敷を取られた衝撃はあまりにも重すぎたため、なかなか案が出てこない。
熟考と議論の繰り返しをした結果、1-Cは『引き算の考え』に至る。
「小さい子とかでも遊べるように、お化け屋敷からお化け要素抜いた『段ボール迷路』ってどうですか?」
「あ、それ賛成! ウチみたいな怖いの苦手な人に良さそう!」
こうして無事、『段ボール迷路』という第二の案を生み出し、1-Cの生徒は優勝を夢見てLHRを終えた。
*
翌日。
「みなさん、昨日、はりきって話し合いしていたのにごめんなさい。1-Cは迷路も出来ないかもしれません」
1-Cの朝のHRで、先生はそう生徒に心苦しく伝えた。
これに生徒たちは普通にどよめき、
「なんでですか、先生!?」
そう何人かが尋ねてみた。
先生はこの理由を、これまた心苦しく答える。
「今度は他の二クラスと被ってしまいました……」
「二連続でか……うわー、キッツイねこれ」
「先生。つまりこの後三クラスでじゃんけんですか?」
「はい、そうですコーリンさん。またしても代表者を一人出さなければいけません……」
この時、1-Cの生徒の半数以上は学級委員の方を見る。
あれだけの気概をもって臨んだじゃんけんで負けたショックが大きかったらしい――学級委員が見るからに痩せこけていた。
「……では誰か、行きたい人はいますか?」
真っ先にコーリンは手を挙げて、
「そりゃオレが行くぜ。オレなら負けた後のことへの覚悟ができてるか……」
「いや、ここは俺が行くっきゃないだろ!」
と、1-C所属で一番バスケ部に貢献している男子は、胸を張って言う。
この1-Cで一番バスケ部に貢献している男子が、ただならぬ自信を持っているのは訳がある――彼はとてつもなく運がいいのである。
小学生の頃からバスケをしているが、これまでに経験した『このままでは負ける試合』全てで、『終了間際にヤケクソで放つスリーポイントシュート』を成功させている。
だから彼は信じているのである。『このじゃんけんに勝てる』と。
「今必要なのはただ勝つだけじゃない……生徒会長みたいにお化け屋敷みんなの士気を上げてやるんだ! 俺の持ち前の運でな!」
1-Cで一番バスケ部に貢献している男子の決意を聞き届けたコーリンは、一切の惜しみなく手を下げる。
「そうだな、ここはイケイケドンドンで行っちゃダメだよな。目指す理由と、勝てる理由、その二つが両方ないとダメだよな……」
そして手を挙げているのはその男子ただ一人。
よって1-Cの生徒たちは、
「頑張れー!」
「次こそは勝てると信じてるから!」
「そしてこのままの勢いで文化祭優勝しちまおうぜ!」
代表者に選ばれた男子を激励するのだった。
「みんな……ありがとう! 絶対、優勝しような、俺たち『1-Cの迷路』で!」
と、ここでピコリは思う。
(あれ、このパターン前に見たような……?)
数時間後。1-C担任の担当教科の授業時間にて。
冒頭、文化祭シーズンなので、今回は代わりにそれ関連の話をしよう。と、担任の先生が言った直後、あの男子が前に出て、
「まずみんな、ごめんなさい……1-Eに負けました……」
と、床に頭をつけて言った。
担任の先生は男子をなぐさめ、立ち上がらせてから、
「なので、この時間はもう一度、展示を何にするか考えましょう」
1-Cの全員にとって、前回の『迷路』は知恵を絞りに絞って出したもの。
それが粉砕された上で、それと同等以上の案を出さなければいけない――生徒たちのやる気とアイデアはもはや干上がり、まるで話が進まなかった。
――あの女子が何気ないことを言うまでは。
「そういえば室内で金払ってする系の遊びで『脱出ゲーム』ってあるよな」
会議が行き詰まる中、コーリンはふと、騎人バスターのCMで見た催しを思い出してつぶやく。
脱出ゲーム――会場にいくつか置かれた謎を解いていき、ゴールを目指すイベントである。
このコーリンのつぶやきは、
「それなら教室内でもギリ再現可能じゃね?」
「確かに、アタシも行ったことあるからわかる!」
「いいじゃん脱出ゲーム!」
新発見された砂漠のオアシスのように、瞬く間に1-C内に広まり、枯れて滞った議論を進展させた。
「お、急に脱出ゲームやる流れになったな。なんでそうなったかオレはわかんねぇけど……よし、これならお化け屋敷と迷路を奪った1-BとEに太刀打ちできるぞ!」
こうして、言った本人でさえ気づかない奇跡の閃きにより、1-Cは再々起の奇策を生み出したのだった。
「うーん……」
「どうしたピコリ、なんか浮かない顔してよ?」
「ううん、何でもないよ姉さん……ちょっと、二度あることは三度ある。って思っただけ」
翌日。
「皆さん、昨日、はりきって話し合いしていたのにごめんなさい。1-Cは、脱出ゲームが出来ないかもしれません」
1-Cの朝のHRで、先生はそう生徒に心苦しく伝えた。
(フラグ回収はっや……)
三度目となると、いよいよその訳を聞く人はいなくなった。
「今度は1-Aと被ったからです」
「「「知ってます」」」
「じゃあこのあとじゃんけんするのも、ご存知ですよね。じゃあ……はいどうぞ」
特にこれをしろと言われたのではないが、1-Cは三度目のじゃんけん戦士を誰にするか考える。
「いよいよここはオレが行かなきゃダメだよな。散々行くって言ってるのに、行かないとかメンツが立たんよな」
コーリンが恒例の如く手を挙げた途端、やはり別な方から手が挙がる。
「いや、ここは私に行かせてください!」
その手の主は、1-Cイチなんか幼馴染感のある明るい女子だ。
1-Cイチなんか幼なじみ感のある明るい女子が手を挙げるのには訳がある。
彼女は実際、前回の男子と、前々回の学級委員と幼馴染……
「待って! 誰かこの地の文を止めて! ポッと出のキャラの解説は敗北フラグなんだから」
この後、この女子がじゃんけんに勝つ熱意を語り、コーリンが彼女に代表者を任せた。
それからクラスメート全員は彼女を激励し、このHRは終わる。
そして数時間後。
「みんな、ごめんなさい……」
1-C担任の担当教科の時間冒頭、この女子は土下座した。
「……手遅れだったみたい……」
お化け屋敷、迷路、脱出ゲーム――料理禁止という厳しい条件の中、限界を超えた思考の末に生み出した案を、たった一度のじゃんけんで全てへし折られ、
「みなさん……何かありませんか……」
「今検索してみたけど……残りで出来そうなのは『撮影スポット』とか『ライブハウス』とかしかない……」
「ライブハウスだってよ、ピコリ……」
「そりゃ無理だよ。ウチの喉が持たなくなるから……はぁ」
楽しい楽しい文化祭を前に、1-Cは、お通夜のようにマイナスな空気が漂ってしまった。
【続く】
「考えろコーリン、考えろコーリン……何か室内でできる特別な遊びはないか……」
「思い出せピコリ、思い出せピコリ……一応143話も続いてる作品なんだから、その中で使えそうなアイデアはあるでしょ……」
「はっ、そうだ……前やった時、メチャクチャ楽しかったあれがあるじゃないか!」
「そうだ、前に『いつかこのネタを使う』って言ってて、結局まだ使ってないアレがある!」




