第142話 10/2クラス(姉妹)対抗文化祭①―始動―
十月中旬。百式高校の全学年全学級で、LHRの時限が始まった。
このLHRで扱う内容は、大体クラスの状況だったり、先生の意向などで、それごとに変わってくる。
しかし、今日は全クラス同じ内容について話すこととなっていた。
「それでは今日は、みんなお待ちかねの文化祭についての話をします」
学校生活の山場の一つ、『文化祭』――この三文字を聞いて、百式高校生徒の八割が狂喜乱舞した。
各教室の担任の先生は生徒たちを静かにさせた後、文脈に差異はあるが、文化祭のルールについて説明する。
百式高校の文化祭は十月末の二日間行われる。
一日目は各クラスが体育館を使って、ダンスなどの出し物をする『ステージ発表』の日。
二日目は各クラスが教室を使って、一般の方に向けて出店を開く『展示発表』の日である。
一日目は審査員の先生からの評価で、二日目は一般の方へのアンケート結果で順位が付けられる。
その総合順位が高いと、年末のクラス忘年会の予算が増えるという特典がある。
今回のLHRは、その二日間、何と何をするかを、どうこの文化祭を制すかを決める、最初の作戦会議をする時間だ。
1-Aの教室にて。ひとまず周りの人との相談タイムの中、
「うわー、ほんとこのクラスにトツカとイバラがいないのが悔しいっスね」
と、ワノはつぶやいた。
「ん、何故だ?」
と、クラスメートのサバキが聞くと、
「一日目は外見チートのトツカがいれば、どんなステージやっても……最悪トツカを棒立ちさせても勝てるし、二日目は鉄人イバラがいればめちゃくちゃ美味いお店が開けるっス。ほら、だからあの二人のクラス、もう出だしからのアドバンテージがすごくないスか?」
「この文化祭の目的は学校行事らしく、『クラスの団結力を高める』ものだから、前者は演者だけでなく芸も工夫しないと審査員が評価しない。後者は……貴様にもイバラにも残念な話だが、そもそも無理だ」
ここで、話に花を咲かせる生徒たちに、先生はあることを伝え直す。
「ごめん、忘れてた! 二日目のお店では一年生は料理売るのが禁止になってるからな!」
「えっ……一年だけ料理禁止なんスか!?」
「ああ。みんなが飲食店をやりたがって、各店のレパートリーが乏しくなるのを防ぐために、この学校は代々そういうことになっている」
「はぁ、だからってガッツリ禁止にするとか、そりゃないっスよね……てかサバ姐、さっきの態度からして、アンタはこのブラック校則知ってたんスか?」
「知ってたとも、生徒会だからな」
なお、この禁止制限を1-Dの担任が申し訳なさそうに伝えた時、
「むごい……」
やっぱりイバラもキレていた。
場所は変わって、1-Eにて。
「ステージはきっと陽キャのみんなが流行りのダンスをしようと引っ張ってくれると思うから、俺は気にする必要はないけど……店はどうするんだ」
こちらでも大きな課題となっているのは、店を飲食以外でどうするかということだった。
「フフフ……トツカ、貴様、見た目の良さに反して頭が回らんのう」
「見た目が良いからって頭いいとも限らんだろ。例えばアンタとか。
それで、その思わせぶりな台詞からしてアンタ、なんか考えてることでもあるのか?」
「え、考えごとってなんじゃあ?」
「……教室で出すものについて」
「あーそれか。そんなのアタシの豪華マジックショーで十分なのじゃ!」
「それ本気で言ってるのか? もし採用されたらアンタ、一日中働き詰めだぞ」
それから、一年五クラスは、『一日目はトレンドに詳しい陽キャ主導による見世物をする』と、だいたい方針が決まった。
それでも決まらないのが二日目の展示。
各クラス内のノリのいい人が、とりあえずで案を挙げていくが、確定はしないまま時間が過ぎていった。
特にその流れが顕著なのが、1-Dクラス。
「もう安牌でお化け屋敷でよくないですか?」
と、誰かが案出しの次ステップに進めようとすると、
「「「……」」」
それまでガヤガヤしていたのが一変、『俺はお前の船に乗って一緒に沈没したくないからな』と言わんばかりの沈黙が起こり、振り出しに戻る――この良くない流れが何度も繰り返された。
このクラスにはみんなを引っ張れるぐらいの度胸がある人はいるが、その勢いのまま物事を確定付られる、失敗しても構わないくらいの度胸のある人はいないのだ。
「ぐだぐた……」
この状況に一番苛立っていたのはイバラだった。
自分の得意分野である食品を封じられたことと、まだ現実での流行りがわからないことで、意見できることがなく、ただ黙って話の成り行きを見るしかできないからだ。
そしてとうとう、成り行きそのものが停滞してしまった。
どうせ通らない意見言ったところで無駄だろうと、みんなが気づき始めてしまったのだ。
担任の先生や学級委員などの真面目なクラスメートが、何とか議論を活発化させようとするが、やはり失敗するのが怖いので、ただ適当に聞き流される。
「そんでさ、俺んとこの先輩が……」
最終的には、序盤こそ活躍していた陽キャ勢が、文化祭と全く関係のない雑談を、さも関係あるかのようにし始める始末となった。
「あいつら……なにさまだ……」
これにはイバラも堪忍袋の緒が切れた。彼女は片手に銃を持ち、無駄話をする連中を机の下から狙う。
この凶行にユノスが気づく。
「イバラ、それは話がややこしくなるからやめて」
「けど……ぶんかさいすすまない……」
「大丈夫。ボクがちょっとやってみるから」
と、言い聞かせてイバラに銃をしまわせた後、ユノスは挙手する。
「ユノスさん、どうしましたか?」
「先生、ボク、このクラスのお店、射的がいいです」
その後ユノスは、『設備と景品の用意が楽』や『小さい子供でも楽しめる』など、次々と理由を述べて、自分の意見に肉付けしていく。
するとこれまで雑談に興じていたグループの一人が、手を挙げつつユノスの話を遮って、
「はいすみませんすみません。あのー、ユノスさん。これ決して反対するつもりとかじゃないんですけど、高校生がやるものとして、それちょっと……ぬるくないですか?」
と、実質反対しているような意見を言った。
するとユノスは、いつもどおり微笑んで、
「だったらあなたは、他にやりたいことがあるんですか?」
「いや、そういう問題じゃなくて……僕はただ、それはいくらなんでもっていうわけで……」
「そうなんですね。勘違いしてすみません。ボクは、みんな黙りこくってクラスに貢献しようとしないから、代わりにボクが牽引しなきゃと思って焦って、変なこと言ってしまいました。ごめんなさい」
ユノスは着席し、再び来た沈黙を微笑んで迎え入れた。
そして教卓でクラスの滞った議論を眺めていた先生は、生徒全員にやるせない感じで言う。
「先生も決して『みんなに怒りたい』とかではないですが……やりたいことがないのなら、それが本当にひどいということでもなければ、何やらされても文句は言わないほうがいいと思いますよ」
その後、先生は黒板に『射的』ときっちりと記入した。
すると、先程ユノスに言い返した男子が再び手を挙げて、
「あの……射的だけだと多分つまんないと思うんで、輪投げとかも一緒にできませんかね?」
「はい、『輪投げ』ですね」
先生は彼の意見を板書した。
ここから、1-Dの意見交換はゆるやかに加速し、やがてここの展示は、射的や輪投げなどの『縁日』と定まった。
一方、1-Cでは、
「コーリン姉さん。今ネットで調べてみたけど、やっぱお化け屋敷がド定番っぽいよ!」
「うっしゃ! じゃあみんなお化け屋敷やろうぜ!」
テニス部のパワー系エース、コーリンと、軽音楽部の筆頭格、ピコリ――二人のスクールカースト上位勢が協力して流れを生み出し、さらに元々ノリの良い1-Cの気風も味方し、1-Dとは対極的に活発な議論を行っていた。
文化祭開始まであと約二週間。
一年五クラスの初日は、大まかな方針決定で終了した。
*
その日の夜。満月家にて。
「ほう、1-Dはユノスが中心になっているのか」
夕食の最中、満月姉妹は今日の反省会を軽く行っていた。
「今のところはだけどね。サバキお姉ちゃんのところはどうなってた」
「特に行き詰まった様子はないな。みんなそれなりに意見交換していた。ま、自分が生徒会長として場が緩まないように締めていたのと……ワノがな」
ワノは異世界で養った商才を活用し、まとまりつつある1-Aの意見の輪郭を修正しつづけるなどして、フィクサーとして活躍していたのだ。
「優勝するだけで、年末の忘年会が豪華になるんス。これは絶対手を抜けないっスよね!」
「たかが忘年会のグレードでも本気出すのかい。つくづく君はがめついよね、ワノ」
「まぁまぁ、ワノさんらしくていいじゃないですかマジナお姉さん」
「ちなみにオレらは多分一年の中で、ブッチギリで話が進んでるクラスだと思うぜ」
「そうそう! もうステージ発表の段取りとか、教室の使い方とか、結構話がまとまったよ」
これはもう自分たちが優勝だな! と、言わんばかりに、1-Cの二人は八人に自慢してみせた。
「なっ、もうそんなところまで言ったのかえ!? 貴様ら、一体何をするつもりなのじゃ!?」
「こらルシェヌ。アンタ、『ギリギリになるまで他クラスに、発表内容をバラしてはいけない』って言われたの忘れたか?」
「別にアタシは、1-Eでやることをバラしてないぞい? トツカよ、何故貴様は怒るのじゃ?」
「アンタがバラ『させよう』としたからだ……はぁ、ルシェヌ、お前本当に気をつけろよ」
ここまで娘たちの話を黙って聞いていたチヨは言う。
「まぁ、とにかくみんな頑張ってね……あたしも、なるべくスケジュール作り頑張るから」
「おう、絶対来てくれよ母さん!」
「そうそう、それで是非ウチらの優勝のお手伝いをしてね!」
と、今日の進み具合の好調さ故に、至極調子に乗っているコーリンとピコリであった。
しかし翌日。二人に――1-Cに、とてつもない災難が降りかかろうとしていることを、まだ二人は知らない。
「みなさん、昨日、はりきって話し合いしていたのにごめんなさい。1-Cは、お化け屋敷が出来ないかもしれません」
【続く】




