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第141話 確認したいことがあります

 ある日の百式高校にて。


「あの、君、満月ルシェヌさんですよね?」

 と、とある男子が声を掛けてきた。


 校内では顔が広い方でもあるにも関わらず、突然見知らぬ男子から声を掛けられたことに、ルシェヌは戸惑う。

「うむ、そうなのじゃ。で、何用じゃ?」


 知らない先輩はやたらと周りの目を気にしてモジモジしている。

(何じゃコイツ。さてはアタシに告白するつもりかえ? 無謀じゃの……)


「これ、トツカお姉さんに渡してくれませんか!?」

 しばらくして、彼は首を極限まで右に回しながら、目的のものを渡す。

 近所のコンビニで売っていた中で、最も高いスイーツである。


(なんじゃそっちか……全く、アタシをポスト代わりに使うとは生意気なのじゃ)

 と、心の中で不満を漏らしつつ、ルシェヌはトツカへの贈り物を預かった。


 一方その頃。百式高校内の別場所にて。


「そこの君!」


 突然聞きなじみのない声に呼び止められ、ネロアは振り返る。


「何奴であるか!?」


 その体育会系な大柄な男子の先輩は、やけにピンと伸びた背筋を、カクンと九十度に曲げて、

「これ、俺からの気持ちです!」

 と、紙箱入りの丁重な雰囲気の和菓子を渡す。


「え……ごめんなさい! 突然そんなこと言われても僕は……」


「トツカお姉さんに渡してください!」


「ああ、トツカさんにですね……この約定、必ず果たさん」


 ネロアは、『自分への告白では』と、勘違いしたことを恥ずかしく思いつつ、トツカへのプレゼントを預かる。


 また一方その頃。


「あ、コーリンさんだ! 丁度よかった~!」


「おう、なんだお前か」


 教室内で、コーリンはクラスメートの女子に話しかけられた。

 女子は照れくさそうに、背中に回していた素朴でナチュラルでオシャレな商品を売っていることでおなじみ『無銘良品』の紙袋を出して、


「週末、全力でトツカさんのこと考えて選んできたこのバウムクーヘンセット、あなたのお姉さんに渡してくれませんか?」

 と、お願いする。


「……オレの……お姉さん?」


「そう、お姉さんに……」


 コーリンは数秒黙って考えて、

「え、誰にだ?」


 女子のほうも数秒沈黙し、

「ああ、そっか! それはそうだよね! コーリンさん姉妹がいっぱいいるもんね! ごめんごめん、ちゃんと名前指定しないとダメだよね……愛しのトツカ様に渡してください!」


「おう……オレのトツカ『お姉さん』に渡せばいいんだな?」


「はい!」


「おう、わ、わかったよ……」

 コーリンは激しく違和感を覚えながら、その紙袋を預かった。


*


 その日の夜。満月家の食卓にて。


「『こんな大荷物、持って帰れないんで』って言い訳して受け取らないようにしてたんですよ俺。そしたらまさか他の姉妹に渡してすり抜けてくるとは……」


 トツカはソファテーブルに仮置きされた、山盛りのプレゼントを見て、改めて絶句する。


「そんな密輸品見つけた税関職員みたいなこと言わないでよトツカ。どれもこれも気持ちがこもってるものなんだから」

 

 というチヨのお叱りを、トツカは辛そうに飲み込んだ後、

「ごちそうさま……」

「あ、イバラねーさん。あれ食べていいですよ」

 誰よりも早く夕食を完食したイバラへ、山盛りのプレゼントを指さして勧めた。


「わあい、おかしいっぱい……」


「言ってるそばからそんなことしないでよー! トツカー!」


 イバラがトツカへのプレゼントをパクパク食べている間、コーリンは今日起こったこれにまつわる話をする。


「ところでよ、今日あのプレゼントを預かった時に変なことがあったんだよ」


「なんでもない日に妹の伝言ならぬ伝プレ頼まれるのも十分変ですけどね」


「まあな。けどこれもこれなりに変だぜ。あの今イバラが食ってるバウムクーヘンを渡すときによ、その女の子がオレに言ったんだよ。『お姉さんに渡してください』って」


「お姉さん……貴様に言ったのなら、誰になるんだ?」


「そうだよ、サバキが今言った通りのことをそんとき思ったんだよ。オレ長女なんだから姉いねえよなぁって! だからそいつが何したいのかわかんなくて、ほんと変な時間過ごしちまったぜ」


 ここでネロアは手を挙げて、

「僕もそれと似たようなことがありました」


「ネロアもかい?」


「はい、『トツカお姉さんに渡してください』と。その時は告白みたいな頼まれ方をされて混乱していたので『そういう呼び方なのでしょうか?』と納得していたのですが……よくよく考えますと変ですね」


 さらにルシェヌも昼のことを思い出す。

「アタシも、アタシもなのじゃ! 全く知らん先輩に『トツカお姉さんに渡して』って言われたのじゃ!」


「ルシェヌは末っ子だから合ってるっスよね」


「……そ、そういえばそうじゃな」


 もはや通算141話、シーズン3も残りわずかというところで、こんなことをするのはくどいかもしれないが……念には念を。

 ここで一つ解説を入れるとしよう。


 満月姉妹は全員、生まれた年度こそ同じではあるが、月日が異なる。

 この差により、一応姉妹の上下関係ができている。


 これこそ今更な解説だが――順番はコーリン、マジナ、サバキ、ピコリ、ユノス、ネロア、ワノ、イバラ、トツカ、ルシェヌである。


「コーリン姉さんの例は極端だけど、やっぱ身内以外の人にとっては覚えづらいのかなぁ。ウチらの姉妹順って」


「実際あたしも、お葬式とかで親戚が集まったときに、誰がどういう関係の人なのかわかんないときがあるからさ。そういうものだと思うよ」


 マジナは言う。

「けどなんか腹立つんだよね。私の場合だと特に『コーリン、サバキ、マジナ』の順で間違われたときとか」


「それは半分自分への怒りだろ、マジナ殿」


 ユノスは言う。

「ボクは間違われることは、あんまり気にしてないよ。ただ、みんなはどんな順番だと思ってるのかが気になる」


「それは俺も気になりますね。なーんかさっきの二人の話からして、どうもみんな俺のこと過大評価して、上の方の姉妹だと誤解してるようなんで」


「せっかくだから周りに聞いてみても良さそうだ。自分たちの印象調査も兼ねてな」


 というわけで、満月姉妹は明日、それぞれ親しい人に、『満月姉妹の順番を知ってるか?』と聞いて回ることにした。


「このクッキー……てがみはいってる……」


「それ開けずに、即行捨ててください。イバラねーさん」


「無慈悲ねトツカ」



*


 翌日。

 まず尋ねに行ったのはサバキとユノス。彼女たちの調査対象は……


「ご無沙汰してます。青木先輩」


「おはようございます、青木先輩」


「え、生徒会長とユノスちゃん? どうしたんです急に?」


 二人と同じ生徒会執行部のメンバー、自称『情報通』の青木先輩だ。


「わざわざ二年生のエリアまで降りてきて……もしかして説教ですか?」


「いや違う。一つ、聞いておきたいことがあってな……」


「ボクたち満月姉妹の順番ってどうだかわかりますか?」


「急にそれか……?」

 この質問のどうでもよさ。さては説教の導入ではないか、と、青木先輩は怪訝に思いながら慎重に答える。


「コーリン、マジ……いや、呼び捨てはダメか。

 コーリンさん、マジナさん、生徒会長、ピコリ、ユノスさん……」


「あ、ごめんね。満月姉妹『十人』の順番を答えてね」


「ええっ!? アディショナル姉妹も答えなきゃいけないのかよ!? じゃあ……

 コーリンさん、マジナさん、生徒会長、ネロアさん、ワノさん......だったっけ?

 えーっと、ええと、あ! すみません、今から言い直します! 生徒会長様、ユノス様……」


「……青木先輩、わからないのなら正直に言ってください。

 少なくとも、機嫌取りのためにあえて自分たちの順番を上げて間違えるよりかは、見苦しくないですから」


「……ご、ごめんなさい。会長が姉でユノスちゃんが妹なのは絶対わかってたんですけど……」


「それは当たり前ですよね先輩。ボクたちと長い付き合いですもんね」


「……は、はい……それで、今回の本題はなんですか?」


「これが本題でした。では、お邪魔しました」


 質問を終えたサバキとユノスは二年生のエリアから立ち去る。


「結局、何もかも正解がわからなかったか……」

 二人に翻弄された青木先輩は、ただただやるせなくなった。


*


 次の質問者はピコリ。その対象は、


「おいっす〜☆ ソウたん、ミナミっち!」


「「おいっす〜☆ ピコリーヌ!」」


 同じ軽音楽部の友達、ソウとミナミである。


「ねぇねぇ、突然だけどクイズ出していい? 問題、『満月姉妹十人の順番を正確に答えなさい』」


「うわ、マジで突然じゃん」

「賞金とかあるこれ?」


 賞金もないし、突然過ぎるしで申し訳ないと思ったピコリは、『二人で相談していいルール』を追加した。


 二人はお言葉に甘えて相談して、

「コーリン、マジナ、カイチョー、ピコリーヌ、ユノス……」

「ネロア、ワノ、イバラ、トツカ様、ルシェヌ……だよね?」

 と、答えきった。


 ピコリはテレビ的な間を溜めた後、両腕で輪っかを作る。

「……あったりー! よくわかったね!」


「もちのろんだよこれ、だって友達でしょ!」


「しかもアタシたちはイメージ出来るからね、ピコリが姉妹にどんな立ち位置で振り回されてるかがね」


「そうそう、コーリンちゃんには強引気味に、ルシェヌちゃんには駄々こねられてー、とか」


「え、そういう角度でわかったの……?」


*


 そして今度はトツカが質問する。その相手は、


「キャー! トツカ様がいるー!」

「早く早く! 悪い人に触られないうちに早く!」


 休み時間中、普通に廊下を歩いてただけで集まってくるトツカファンの皆様である。


 トツカは自分を囲う男子女子全員と適切な間合いをキープして、


「ちょっと、みんなに、聞きたいことがあるんですけど……」


「「「なーに!?」」」


「……みんな、俺たち満月家の姉妹十人の順番って、わかりますか?」

 と、トツカが尋ねた途端、ファンたちは我先にとタイミングバラバラに答え出し、何を言ってるのかわからなくなるくらい混線してしまう。


 その中でトツカがかろうじて聞けたのは、


「もちろんトツカ様が長女ですよね!?」

「そのお姿と才能、長女以外ありえませんよね!」

「そもそも姉妹って誰がいるんですか!?」

「はいはい、私がトツカさんの妹です!」


 完全に自分への愛で歪んだ答えだった。

(みんな真剣に答えてくれない……勝手に期待した俺が馬鹿だったか……)


 なお、この後、トツカはこのファンの包囲網を脱するのに休み時間をまるごと費やす羽目になった。


*


 その日の夜。満月家にて。


 代表として、今日の調査データを集めて分析したサバキが、結果を発表する。


「まず、全員の順番を正しく言えたのは、調査対象百五十人中、十八人。正答率十二パーセントってところだ」


 チヨは言う。

「やっぱりみんな覚えづらいんだね」


「そのようだ、母さん。実際、青木さんという、自分とユノス殿と深い関係がある先輩にも聞いてみたが、答えられてなかった」


 やはり根本的に、満月姉妹十人全員と親しくないとこの問題は難しいのだろう――と、とりあえずの結論を出す。


 それからサバキは、解答者全員の答えの傾向について話す。


「しかし、誰がどういう順番かは、大体把握してくれていたようだ。

 例えば、解答者の九割は、コーリン殿、マジナ殿、自分の上下関係であることはわかっていた」


「やっぱ姉御は長女のイメージが強いんだね」


「そんで、いっつも仲良くしてるマジナが次って印象があるわけか」


「そしてそれを常日頃監視してる自分が、さらに次と思われているようだな……自分で言いながら思ったが、何とも言えぬ経緯だな」


「他にはないの、サバキ?」


「あるぞ母さん。ピコリを四女と挙げた人の割合もなかなか高かった」


「あ、これの理由わかった! ウチこの作品内で登場回数一番多くて(※要出典)、『姉さん』呼びしてるシーンが何度も出てくるからだ!」


「そこまでは知らん。多分他の誰かとの振り回され具合で、なんとなく四番目くらいの、パットしない立ち位置だというイメージがあるのではないだろうか?」


「サバキ姉さんまでそんな分析なの……がっくし」


 この後、『ユノスとイバラは身長的に下めの妹に思われがちだった』、『トツカは答える人がふざけてばっかで、位置がブレブレだった』と、個々の傾向を話した。


 そしてサバキが説明するのは、『ネロアとワノ』の順番について。


「この二人は中間あたりにいることが多かったな。身長的に、イメージ的にという理由だろう。

 ここで一番言っておくべきなのは、『ネロアが姉でワノが妹』であることの正答率が、ほぼ五割だったことだな」


 チヨはこう考察する。

「どっちも同じくらいの背丈で、かつ主導権を妹のワノが握りがちだから……かな?」


「そうだろうな。『優しく見守ってるネロアが姉っぽい』か『ガンガン引っ張ってくワノが姉っぽい』か。その見方で答えが変わってくるのだろう。それと、お互いの呼び方もあるだろうな」


「あ、それもあるかも。ネロアがワノを呼ぶ時は『ワノさん』、ワノがネロアを呼ぶ時は『ネロア』って呼び捨てだもんね」


「ユノスから上の姉さんを呼ぶ時は『〇〇姐』って呼んでるのになぁ……」

 そういえば変な法則だな。と、コーリンは気づいた上で、コーリンは二人にこの理由を尋ねる。


 先にワノが答える。

「これは単に、ネロアが姉って意識があんまないからっス。

 イルミネーターズとして、他人の仲間として長いこと付き合ってきたってのと、生まれた日があんま離れてないからっス(※ネロアは一月七日生まれ、ワノは一月二十日生まれです)」


「僕もそこまでワノさんが妹だって意識はしてませんでしたね。やはり仲間っていう意識のほうが強いので」


「そうなのか? 『ネロ姐』って、他の姉みたいに呼ばれないこととかになんか思うところとかないのか」


「さらさらないです。姉だから妹に優しくするとか、妹だから姉を慕ってとか、なるべくそういった形に囚われるのではなく、自然体に仲良く接したほうがいいと僕は思ってるので」


「そうか。ありがとよ、ネロア」

 と、コーリンは二つの意味で感謝を口にする。

 チヨたち周りの満月家も、ネロアの言ったことに感心した。


「いいこと言ったな、ネロ……」

 と、サバキがネロアを褒めようとした途中、


「おいサバキ! アタシはどんな傾向があるのかまだ聞いていないのじゃ!」

 ルシェヌはまるで空気の読めていない、催促をした。


 雰囲気をぶち壊すな。と、言う代わりにサバキはルシェヌへ軽蔑の眼差しを送りつつ、

「ルシェヌ殿は、解答者全員が末っ子だと言い当てていた」

 と、事実をありのままに伝えた。


「なんでじゃ!? アタシそんなに自分が末っ子だと言った覚えは無いのじゃ!? なのにどうしてそんな下に見られてるのじゃ!?」


「ルシェヌ……お前、今のネロアの話に逆行し過ぎだぞ」


「うんうん、コーリンの言うとおりだし、あたしもネロアの言葉に反しちゃうけど、ルシェヌはそう見られても仕方ないと思うよ」


「わーん、母さんまでひどいのじゃー! このネロアのいじわるー!」


 というわけで、この話で、親愛なる読者の皆様に確認していただきたかったのは、


 ①満月姉妹の順番は『コーリン、マジナ、サバキ、ピコリ、ユノス、ネロア、ワノ、イバラ、トツカ、ルシェヌ』


 ②ルシェヌはやっぱり末っ子が似合う


 ということです。


【完】

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