第140話 弩闘八竜、最強種トーナメント!!!
とある土曜日の夜。満月家二階の六人部屋にて。
「それではただいまより、マジナのドラゴン最強トーナメントを開催する!」
サバキが高らかに開催宣言した直後、この部屋に特設された直径二メートルのダンボール製スタジアムにいる、手乗りサイズ状態のマジナの八竜が湧き立った。
「すまないね、サバキ。こんな催しに付き合わせて」
「これは貴様だけの問題ではないからな……」
*
話はさかのぼること、とある土曜日の昼過ぎ頃。
サバキは大きめの本屋にある、子供向けの本のコーナーにいた。
近日、近隣の児童館で子供の世話をするボランティアへ、百式高校の生徒会執行部としてまた(※第77、78話参照)行くことになったので、今の子供がどのようなものが好きなのかを予習しに来ているのだ。
「それで、なんで私まで来なきゃ行けないわけ?」
「そうなのじゃ」
と、サバキについてきたマジナとルシェヌは、サバキに尋ねる。
「そもそも、自分は貴様らを呼んでないのだが……」
「呼んだじゃん。私ははっきり覚えてるよ。
数日前、ユノスに『土曜の午後、自分と本屋に行かないか?』って聞いた後、『ごめん、先にコーリンお姉ちゃんとピコリお姉ちゃんと映画館行く予定がある』って言われて、その後思いきし肩落として、背中で『誰か代わりに来ないかなぁ』って言ってたよ」
「それはどう考えても呼んだ扱いにはならんだろうが! 貴様は自分のことを極度の寂しがり屋だと思ってるのか!」
サバキはそうマジナに言い放った後、小学校低学年の絵本をペラペラめくるルシェヌを向いて、
「というより、マジナがついてきた理由も解せないが、それ以上にルシェヌがついてきたのが意味不明なのだが!?」
「アタシはなんか面白そうじゃ、と思ってついてきたのじゃ。アタシは単独行動するから、ほっといてもらって構わんぞ」
「皮肉なものだな、マジナよりもルシェヌのほうが解せる理由をもってここにいるとは……」
ルシェヌはペラペラめくり終えた絵本を棚に戻して、
「この本、あんま面白くないのう。話もくだらんし、絵が多すぎなのじゃ」
「それは貴様の年齢に合ってないのだから仕方がないだろう」
「そうかえ。じゃあサバキ、アタシに合った、もっと凝った話の、絵が少ない本を紹介してくれなのじゃ」
サバキは無難に、遠方の文庫コーナーを指さそうとする。が、ルシェヌが悪いことをするかもしれないので、監視しやすいように、
「あそこにあるのはどうだ?」
馬鹿にするようなことしてすまないと思いつつ、児童向け小説が集まった棚を指す。
「感謝するぞい」
ルシェヌは早速その棚へ行き、ここ最近のトレンドらしい、逃走脱出ゲームの小説を軽く読んでみる。
「うーん、これ文字ばっかで頭が痛くなりそうなのじゃ」
「ならもう誰も救えんぞ」
それからもサバキは児童向けの本をあれこれ見ていく。
「ほう、『騎人バスター図鑑』か……コーリン殿曰く、全部で三十八作だからか、子どもに優しくない分厚さだな……」
その途中、
「わっ、わっ、わっ!?」
サバキの後ろを、やたらと胸を張ってマジナが通り過ぎる。
「……はぁ、どうしたマジナ殿。暇すぎてそういう気に障ることをしたくなったのか?」
マジナはサバキの隣で急ブレーキし、
「あ、これ? これが見たいのね?」
と、胸元に向かって会話し始める。
「そうか。貴様のドラゴンの仕業か」
マジナはいつも自分の谷間に、仲間の八枚の竜のカードを挟んでいる。
さっきの奇行はこの八竜が、ある本が気になって勝手に動き出したからだ。
「そうそう。なんかこれを見せろって」
マジナが手に取ったのは『ドラゴン最強トーナメント図鑑』という本。
この本は『最強トーナメント図鑑シリーズ』の一つ。
このシリーズは、神様や動物などのカテゴリーで羅列した数十人(体)をトーナメント形式で、空想で戦わせていき、最強は何かを勝手に想像して決めるというもの。
この本は、各所の伝承のドラゴンを集めて、空想で戦わせるというものなのだ。
マジナの胸元にいる、IrrynCrashはサバキへ言う。
「私たちは各所のドラゴンの存在を引き継いで造られたものじゃけん。だからみんな、元になったドラゴンがどんぐらい強いのか気になるけぇの」
「そうなのか。まぁ、程々に楽しむんだぞ」
八竜が固唾をのんで見守る中、マジナは『ドラゴン最強トーナメント図鑑』の要所のページを見せていく。
その後、マジナの胸がゆさゆさ揺れ始める。
谷間に挟まれた八枚のカードが暴れ始めたのだ。
「わっ、こらっ! 急に暴れないでよ!」
「本当にそうだぞ! 子供が通っているようなところでそんなセンシティブな現象起こすな!」
「ごめんけぇ! けどみんな……この本の勝敗の結果に怒り心頭なんじゃけえ!」
「JAVAVAV!?(どうして我が一回戦目で敗北しているのだ!)」
と、白竜『JavaWock』は怒り、
「NIN……NIN?(なぜ拙者は石化能力を持っていて……なぜそれを跳ね返されて負けているのでござる?)」
と、緑竜『BASLC』はこの結末を不思議に思い、、
「WHAY!?(つーか俺出てねぇぞ!?)」
と、赤竜『Hellkite-W』はそもそもの事実に驚いた。
……このように、八竜たちは総じて、この本の結果を受け入れられなかった。
それから、八竜はギャーギャー騒ぎながらマジナの胸をプルプルさせ続けて、やがて、
「QYEEA!(ちゅうか、何でこんな見ず知らずの他人に強さと勝ち負け決められなきゃあかんのや!?)」
そもそもの話、この本の存在について怒り始めた。
「PY! PYY!(PORTRONの言うとおりですわ! この作者、いくらなんでも礼儀がなってなさすぎですわ!)」
紫竜『O』は、黄竜『SGL』にうんうんと頷いた後、
「O(本当にイラつくなあ。絶対本当に戦ったら、アタシが優勝だと思ってたのに)」
すると即座に橙竜『Bhmthon』が言い返す。
「GOOW(別にO殿を愚弄するつもりはないが、このような真剣勝負においてはO殿ではなく、自分こそが勝つと思っていました)」
「QYE、QYEA!(それはちゃうやろ。ワイが最強や)」
「NINNINN(拙者も、拙者が一番強いと思っていたでござるが)」
「WHAY! WHAAAHY!(なに抜かしてんだお前ら! 本当に本当に強いのは俺だっての!)」
こうして、八竜は『ドラゴン最強トーナメント図鑑』を火種にし、誰が一番強いかという言い争いを始めてしまうのであった。
「ああもう! 今回は見逃してくれよサバキ!」
マジナは胸元を開いて、ガタガタする八竜のカードを取り出し、
「君たち! そんな不毛なことでかっかしないでくれ! 私にとってはみんな最強で、みんな私の仲間! これでだめかい!?」
「JAVA!(ダメだ! この話題は燻らせるだけではもったいない!)」
八竜で一番物分りがいいIrrynCrashは、もはやこの戦火は簡単には消せないと悟り、マジナに案を出す。
「マジナ、もうこうなったら一回、私たちだけでトーナメントを開催するじゃけん。ここで決着をつけて、一旦溜飲を下げるのが手っ取り早いけぇの」
「んー、そうかもね。よし、じゃあやってみようか」
こうして、マジナのドラゴン最強トーナメントが企画されたのである。
*
「こちらも姉が本屋で乳揺らされたり、谷間を全開にされては困るんでな……いや、そもそも今更だが、あのカードはそこまで乳房に挟まんといけないのか?」
「こちらの気分だよ」
「……はぁ、気づくのが遅かった。結局は貴様の問題ではないか」
もう会場は作ってしまい、八竜の熱気もあって今更開催中止とは言えない。サバキは仕方なく大会進行を続ける。
「この大会は題の通り、トーナメント形式で行われる。最後まで勝ち上がったものが優勝だ。
対戦のルールは、戦意を失った、あるいはマジナが『そろそろ助けないとヤバい』と思ったほうが敗北となる。場外負け・時間制限は存在しない。
戦場はこの直径二メートルのスタジアムで行われる。
なお、このスタジアムはダンボール製ではあるが、試合開始と同時にルシェヌがバリアを展開して補強・空いた上部を塞ぐので、憂いなく戦える……ようにしろよ、ルシェヌ」
サバキの隣にいるルシェヌはピースサインを出し、
「任せるのじゃ。アタシもコイツらの強さには興味があってのう……邪魔はせんぞ」
「もしルシェヌが何かしでかした際は、自分の監修の元、遠慮なくボコボコにしてよしとする」
「邪魔せんと言っておるのに、わざわざそんなこと説明するななのじゃ!」
一通り説明が終わったところで、ついにトーナメントが始まる。
「なお、試合模様の実況は自分、満月サバキが、解説は八竜に詳しい満月マジナ氏がお送りいたします」
「よろしくお願いします」
「ちなみにですが、マジナさんはどなたが優勝すると予想していますか?」
「そう、ですねぇ、んー……やはりこのような真っ向での勝負に強い、PORTRON、Bhmthon、BASLCの誰かだと思います」
「なるほど、マジナさんは以前(※第19話参照)、IrrynCrashが好きと言っておりましたが、そちらはこの真剣勝負では優勝には至らないというお考えで?」
「はい。彼女も彼女なりに強さはあるのですが、この場で不向きな部分がございますからねぇ……」
「二人ともノリノリじゃの」
一回戦第一試合『JavaWock VS SGL』。
JavaWockがお手芸の虚像作りで自分の偽者を何体も生み出し、奇襲を狙った。
しかし、SGLが気合を入れてスタジアム全体にまんべんなく放電したことで、あっけなく本体がバレて、そのままビリビリさせられた。
――勝者、SGL。
一回戦第二試合『Hellkite-W VS PORTRON』。
マジナに優勝候補と謳われたことに偽りなく、PORTRONは槍を嵐のように振り回し、Hellkite-Wへ襲いかかった。
最初こそ相手の獰猛さに気圧されたHellkite-Wだったが、後半戦は自分のホームである空中を飛び回り、安全に火の息吹を浴びせ続けた。
――勝者、Hellkite-W。
一回戦第三試合『Bhmthon VS BASLC』。
姿は同じく二本足立ち。けれども体格はマッシブとシャープで、ファイトスタイルはパワータイプとスピードタイプ。という、対局にいるもの同士の対決となったのが今試合。
二体はそれぞれの長所で相手の短所を狙い続ける、良く言うと『拮抗』、悪く言うと『一進一退が無さすぎて、盛り上がりに欠ける試合』を続けた。
――最終的な勝者、ギリギリでBASLC。
第一回戦四試合『O VS IrrynCrash』。
さっきマジナに『直接的な実力は一歩劣るのでは』と心配されたIrrynCrashであったが、そこは持ち前の地頭力でカバー。
蛇型の長い身体を振り回して大暴れするOの動きを、冷静に見切り続けて、隙を突いて頭に組み付きロックを決めた。
――勝者、IrrynCrash。
「なんか、恐ろしいほど次々と試合が進んでいくのじゃな……」
「いやぁ、一回戦から見ごたえのある試合が続きましたね。マジナさん」
「そうですね。個人的には、対戦カードの都合とはいえ、先程挙げました優勝候補が二体も脱落したことが衝撃的でした。それとSGLがこの閉鎖空間下での戦闘において強みを発揮したのも意外です」
「なるほど。いい感想ありがとうございます。では、準決勝に参りましょう。
準決勝第一試合『SGL VS Hellkite-W』。
SGLも飛行能力を持っているため、稲妻と火炎が立体的に飛び交う激しい試合模様が展開された。
しかし、純粋な空中戦においてはやはりHellkite-Wが特化しており、主導権は彼に握られていった。
――勝者、Hellkite-W。
準決勝第二試合『BASLC VS IrrynCrash』。
BASLCの軽快かつ鋭利な体術を、IrrynCrashはその早さに若干の遅れを取りつつもギリギリ対応。業前!
このままでは自身のスタミナの残量や情報的アドバンテージにより、優位性を奪われてしまう……BASLCは実際焦燥する。
「NIIN!(イヤーッ!)」
よってBASLCは奥義を発動。手裏剣めいて高速回転し、その勢いのままIrrynCrashへ蹴りを御見舞しようとする。
「それはちょっと、焦りすぎじゃけぇの!?」
だがIrynCrashは、このBASLCの攻撃を迂闊さ諸共読んでいた。
彼女は接近したBASLCの身体を掴むや否や、BASLCの回転を合気めいて利用し、思い切り地面に叩きつける。
これにてBASLCはしめやかに失神!
――勝者、IrrynCrash。
「ようやく、ちっとは試合が綿密になってきた気がするのじゃ」
「名残惜しいかもしれませんが、ついに決勝戦のカードが決まりました」
「Hellkite-WとIrrynCrash。皆様にとっては意外かも知れませんが、この戦いを間近で見ていた私たちとっては、非常に納得のいくカードでございます」
「皆様って誰じゃ。この部屋アタシと貴様ら二人しかおらんぞ」
「さぁ、泣いても笑っても次が最後。果たして優勝の栄光を掴むのはどちらか」
「それでは、試合開始です!」
マジナのドラゴン最強トーナメント、決勝戦。
「WHAAHY(IrrynCrash、まさかアンタがここに来るとな……)」
「『やっぱりか』と言ってほしいじゃけん。むしろ、私は頭に血が上りやすいお前が、ドジらずにこの場にいることのほうが意外性を感じてるけぇの」
「WHAAHY(わかっているとも……俺は熱くなりがちってのと、俺が真に強いドラゴンだってことをなぁ!)」
Hellkite-Wはこれまで通り飛び上がり、空中で上の方へ向いて、
「WHAAAAHY!(だから見せてやるよ、この俺が本当に熱くなったらどうなるかってのをなぁ!)」
息を大きく吸って吐き、天井のバリアを覆うほどの猛火を放つ。
炎はやがて壁へ、地面へと伝い落ちていき、やがてスタジアム内部がほとんど紅蓮に染まっていく。
「おーっと、これはえげつないぞ! 炎で見えづらいので、もはや自分らでは詳細がわからないが、とにかくえげつない!」
「IrrynCrashは空を飛べないので、恐らく燃え盛っている地面に居続けてしまっているでしょう……サバキさんの言う通り、これはえげつない」
「WHAAAA!(だはは、参ったか! 悪く思うなよ! 俺を怒らせ本気にさせたお前のせいだからな!)」
「いんや、私は全然悪く思ってないじゃけん……」
と、炎の中でじっと耐え、開けた口から満ちたエネルギーの輝きを見せながら、IrrynCrashは言う。
「あれはまさか、IrrynCrash砲!?」
「IrrynCrash砲!? マジナさん、それは一体!?」
「長時間エネルギーを溜める、それを一気に放出する、IrrynCrashの叡智の結晶にして最終奥義です!」
「WHAY!?(冗談だろ!? まだ試合開始からもそんな経ってないのに、それ溜める時間どこにあったんだよ!?)」
「前の前の試合から溜めてたけえの! 動きながらだったからすごい辛かったじゃけん! だからこの一発、堂々食らってみるけえの!」
そしてIrrynCrashの口から、極太レーザーが発射される。
「WH、HAAA!(ぬああ! 食らってたまるかぁ!)」
負けじとHellkite‐Wも火炎を吹き出す。
レーザーとブレスは二体の間で激突。その衝撃と飛び散ったエネルギーがスタジアム全体に広がっていく。
「二体による渾身の一撃! これを制した者がきっと優勝者になるだろう!」
と、サバキが実況に専念する中、スタジアム上部のバリアにヒビが入る。
そこから一瞬光が漏れた後、サバキの服が裂かれて、彼女の胸がたぷんと露わになる。
「さぁ、勝利の行方はどちらになるのか!? ……って、うわっ、何だこれは!?」
サバキは片腕で乳房をムニっと隠しながら、スタジアム上部のヒビを確認する。
「おいこらルシェヌ! このバリア壊れたぞ! どういうつもりだ!」
ルシェヌは髪に点いた火を水魔法で消しながら、
「どういうつもりと言われても、アタシは全力でこれを作ったのじゃ! さっき言ったとおり、アタシはこの戦いを普通に応援してただけなのじゃ!」
「じゃあつまり……」
マジナは静かに服を脱いで上半身裸になる。
サバキと違って大きいとは言えないが、上品な膨らみをした乳房を、恥ずかしげに片腕に乗せて強調し、
「ごめん、サバキ……多分みんなの力が強すぎたんだよ」
「……何故に脱ぐのだ貴様」
「君のポロリとおあいこになるように」
「ああ、そうか……それはありがとな」
「こらー! 二人ともおっぱい見せ合っとる場合かー! そろそろスタジアムが崩壊するのじゃー!」
それから三人と脱落済みの他六竜は全力を尽くし、二人の激戦による被害を、スタジアムといくつかの衣服のみに留めた。
これにてマジナのドラゴン最強トーナメントは続行不能、優勝者不在で閉幕。
「予め言った通りだからな、恨むなよルシェヌ!」
「どうせなら君の胸をメチャクチャ揉み尽くしてやりたかったが、君はそこまでじゃないからね! 今回はこれで我慢してあげるよ!」
そしてルシェヌはこの危機の責任を取らされる。
処罰は、マジナとサバキの協議の末決まった。
児童向け小説の読書感想文(原稿用紙二枚)を書かされるというものだ。
「うわーん! どうしてこんなことになったのじゃー!?」
「WHAAHY……(どうするIrrynCrash、俺らが止めに行く?)」
「もう流れに任せるしかないじゃけんよ……」
【完】




