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第138話 まにあわん 〜侍死神吸血鬼風呂監禁歌〜

 とある日の夜、満月家にて。


「それでは、僕が入ってきますね」


 そう家族に断った後、ネロアはお風呂に入る。


「ふぅ〜、いつもながら気持ちいいです〜」

 しっかりと湯船に浸かり、本日の疲れを癒やすネロア。


 最中、脱衣場と浴室を繋ぐドアのノブがガタガタ動く。


「だから、オレが先に入るって言ってるだろうが、ワノ!」

「いーやアタイが先っスよ、コー姐!」


 ドアノブガタガタの張本人、コーリンとワノは互いに互いを押し合いながら浴室に入ってきた。

 両方とも服を脱ぎ、両方とも本気で入浴するつもりであった。なぜなら、


「オレは早く風呂上がって、『騎人バスターステート』をリアルタイムで観たいんだよ!」

「アタイだって好きなブランドの新作発表会のライブを観たいんスよ!」


 このように、お互いお風呂を済ました上で観たいものがあるからだ。


「てかコー姐、なぜ今更『騎人バスターステート』を観ようとしてるんスか!?

 前に『騎人バスターステートはあんま好きじゃない』とか言ってたっスよね!?」


「今日はなんか『重大発表がある』らしいからだ! その発表は『番組内のどっかでやる』としか言われてないから、もう否が応にも全部観なきゃダメなんだよ!」


「んなもん『Mutter』で公式アカウントが内容まとめてくれるっスから、わざわざリアルタイムで観なくてもいいっスよね!」


「その言い分、貴様にも当てはまってるぞ!」


「アタイの場合はゲスト声優のやりとりとかあるっスから、当てはまらないっスよ!」


 二人は言い争いつつ、相手を追い出そうとお互いをドアへと押し付ける。


 これを見かねたネロアは湯船の中で立ち上がる。


「お姉さん方、僕が既に入っているのですが……?」


 コーリンは引き続きワノを外へ押し出そうとしながら、

「すまんなネロア、それは知ってたぜ。けど大丈夫、オレはシャワーだけ浴びてサッと出るつもりだからよ」


 ワノもコーリンの押し出しに抵抗しながら、

「ネロアはそのまま浸かってていいっスよ。アタイがシャワー浴びてとっとと出るつもりっスから」


「そうですか。ですがお二人がずっと喧嘩しているのはつらいので、僕が出ます」


「いやいや、そこまでしなくてもいいってば……」

「だったらアタイが出るんで……」


 よくよく考えると、ネロアに迷惑をかけることは申し訳なさすぎる。と、思った二人は双方自分が出ようと、ドアノブに手をかける。

 しかし、ドアノブがさっきのように動かない。


「ワノ、一旦下がれ。ここはオレがやる」


 コーリンはドアノブを壊さない程度に力を込めて、むりくりドアを開けようとする。

 だがやはり、ドアノブは微動だにしない。


「しまった、どうやらもうやっちまったみたいだ。くっそー、前のルシェヌのパターンじゃないかよこれ(※第24話参照)」


「アタイらが壊しちゃったってことっスか。これじゃあ、ライブ見るどころじゃないっス」


「僕たち三人、お風呂に閉じ込められてしまったってことですものね」


 ライブが見れなくなったこと。自分たちのせいでドアを壊してしまったこと。ここから出れなくなったこと。

 これらのショックによりワノはサッとシャワーで身体を流した後、湯船でへたりこむ。


「しっかりかけ湯して入るとか偉いな」


「やっちまったっス……明日は入学祝いの焼き肉パーティーだってのに、前日にこんなやな気分にならなきゃいけないなんて……」


 ネロアはワノに合わせて、湯船に浸かり直す。

「やってしまったことはしょうがないですから、ここはまず、どうやって出るかを考えましょう。もちろん明日のことを楽しみにしたままね」


 コーリンもシャワーでサッとかけ湯した後、湯船に浸かろうとした。

「あ、もう二人入った時点でだいぶキツイっスから、コー姐は無理っス」


 仕方なく、コーリンはお風呂用の椅子に座り直す。

「そうかい、それは辛いな……」


 というわけで三人は、ここから出る方法を考える。


「ところでみなさん、スマホは持ってきてないですか?」


「ないな。さっきの通り急いで入ってきたからな」


「アタイも以下同文っス」


「なるほど……僕も見ての通り、スマホは持ってきてないです」


 コーリンは言う

「一番手っ取り早いのはドアを壊すことだとは思うが、それはガラスとかが飛び散って、なおさら迷惑がかかりまくるから最終手段になるだろうな」


「なら外の誰かに助けてもらうことが前提になるっスね。とりま、叫んでみようっス」


 三人はドアの方に向かって、『助けてー!』と叫んでみる。

 しかし、そもそも浴室の防音性が高いため、まるで届かない。


「ダメですね……」

 

 今度は窓の方を見て、ネロアは言う。

「ここを開けて、近所の方に助けてもらうというのは……よくないですよね」


「近所の人を巻き込むのはあれだもんな。けど、この窓は使えそうだな。

 ワノ、お前ここからコウモリ飛ばして、家の中に戻らせれば助け呼べるんじゃないか?」


 ワノはだいぶ間を開けた後、至極申し訳なさそうに言った。

「残念ながらそれは無理っス。今は諸事情でチャネルバットは出せないっス」


「そういえばここ最近、ワノさんがコウモリ出してるとこ見てませんね。それもやはり、諸事情で?」


「申し訳ないけどそうっス、詳しくは言えないけど諸事情っス。

 ちなみに、もうわかってると思うっスけど、その関係でいつものアイテムは出せないっス。

 まー、仮に出せてもドアを壊さず開けられるようなもの持ってないんスけどね」


「そうか。まいったなこれ……そうだ! ネロア! お前ガイコツ召喚できるよな!? それをドアの向こうに召喚して開けさせるってことはできないか?」


「はい、僕はスケルトンを召喚できます!」


 ついにそのホラーさ故に普段は使えない自分の力を使える。ネロアは心躍らせ、スケルトンを召喚しようとする。だが、


「やはりダメでしたか。ごめんなさい、モンスターを召喚する位置は自分のいる『区切られた空間』以内ですので、お風呂の外には出せません」


「わりと制約厳しいんだな」


「そりゃゲームのスキルっスもんね」


 そして三人は、自発的に脱出する方法が思いつかなくなってしまう。


「もうしゃあない。誰かが不審がるまでここで待とう!」

 やがて、コーリンは諦めて、風呂椅子から立ち上がり、しっかりシャワーを浴び始めた。


「そうですね、ここは皆様を信じましょう!」


 シャワーの音に紛れるように、ワノは小声で言う。

「はぁ、しばらくコー姐と裸で一緒っスか……」


「どうかしましたか、ワノさん?」


「ネロアは、コー姐が性欲旺盛なの知らないんスか?

 こんな一糸まとわぬ姿で密室にいたら、いずれアタイらも食い物にされるっス。だから怖いんスよこの状態が。

 はぁ、明日の焼き肉が遠ざかっていく感じがするっス」


「食い物、それは怖いですね。ならせめて焼きは焼きでも蒸し焼きでお願いしたいです……」


「そのまんま食い物じゃないっスよ!? あとごめんっスね、引っかかりやすいタイミングで明日の焼き肉パーティーの話して!」


 ネロアの下への関心の無さに軽く驚いたあと、ワノは注意する。


「とにかく、なるべくこの状態でコー姐を興奮させるような真似はやめるっスよ」


「わかりました、ワノさん」


 ここでコーリンは、体を泡で擦って洗いながら、

「暇だからなんか話しようぜ。悩みとかなんかないか?」


 ネロアはびしっと手を上げて、

「はいっ! お胸を大っきくするにはどうしたらいいですか!」


「言ってるそばからなにやってんスかネロアッ!?」


 満月家内ではサバキ、トツカについで豊かさを持つコーリンは、ちょうどそこの部分をふにふに洗いながら、


「さぁな。よく食ってよく動いてよく寝りゃあいいんじゃないか」


「そして回答がありきたりっスね、コー姐」


「てか、あんまそういうのに興味なさそうなネロアが、そんなこと聞くなんて意外っちゃ意外だな?

 やっぱ高校入ってから気にするようになったか、それ」


 ネロアは誇張無しでまな板のような胸に手をおいて、

「はい。部活のチームメイトさんたちなどに『ネロアって、親にいじめられてたりしなかった?』とか、『親にご飯食べさせて貰わなかったの?』とか、全然そんなことないのに、余計な心配をさせてしまっているので……」


「それは確かに気になるっスよね……」


「そういう根も葉もない噂は気にしなくてもいいと思うぜ。

 あと、おっぱいなんて、あっても困ることはあるからな。肩こるし、服とか着づらいし」


「そうですか、わかりました。ありがとうございます! おかげで気持ちが楽になりました!」


「わりと悩み相談の体になったっスね」

 と、ワノはツッコむ。

 

 そこでコーリンは、今度はワノにロックオンする。

「ちなみにワノはおっぱいに関して悩みごととかあるのか?」


 ワノは赤面し、腕で自分のやんわり膨らんだものを寄せて上げて、

「な、ないっスよ! ほら、こうすればこんなにあるんスから!」


 泡を流しきったコーリンは浴槽の縁にもたれかかる。

「そうだな。お前は大丈夫そうだな。そうすればマジナの一回り下くらいにはなるもんな」

 そこからワノの胸を、妖しい目つきでいやらしく凝視した。


 この後されることを恐れ警戒し、ワノは壁を背中につけ、コーリンとの距離を数十センチ遠ざける。


 その時、ワノは生唾を飲んで、浴槽の縁に乗っかったコーリンの胸を見てしまう。


 先の通りその大きさはサバキ、トツカには勝てないが、その形はまとまりがよくて豊満だった。

 さらには縁についた下の変形具合からして、柔らかさと弾力に関しても抜群のようだ。

 おまけに、今さっき体を洗っていたこともあり、それは水気で輝いていた。

 さらにもう一つおまけで、片方の乳房にはささやかにつやつやの金髪がかかっているのも、偶然にもその魅力を増していた。


(や、ヤバいっス……コー姐もわりかし素質あるっスね……)


「わぁ、間近で見るともっと大きく見えますね」


「だろー! 触ってみるか? ワノも遠慮せずに来いよ」


「いやあ、それは申し訳ないのでちょっと……」


「ありがとうございまーっス!」

 ワノは思い切り口を開けて、コーリンに迫る。


「ってそういうことじゃねぇよ!」

 そしてコーリンに鉄拳制裁を受けた。


「オレは『吸ってみるか?』とは言った覚えはないぞ! それはいきなり過ぎんだろうがよ! 段階踏めよ段階!」


 ワノは風呂場の隅にもたれて、やつれた体で、

「ご、ごめんなさいっス。けど、アタイはそんなつもりじゃなくて……確かに吸おうとしたのは事実っスけど、吸いたかったのは、血なんスよ」


「はぁ、血ィ!? お前吸血鬼……だったな」


 ここでネロアは思い出した。

「そういえばワノさん、確か二ヶ月周期で血を吸わないといけなかったのですよね。

 それで、最後に吸ったのは確か、まだイルミネーターズだった頃の……二ヶ月半前でしたよね?」


「つまり半月超過してて、もうそろそろ吸わないとガチでやばい状態ってことか?」


「そ、そうっス……チャネルバットとか呼べないのも、それで力が出ないからっス」


「てか、何故に半月も我慢してたんだよ」


「きっとワノさんは、この世界の方に迷惑をかけないようにしていたんですよ」


「違うっス。アタイはどうしても、明日焼き肉を食った後の誰かの血を吸いたかったんス」


 ワノは二ヶ月に一度しか血が吸えないため、その瞬間は何よりも良質な体験をしたい。

 その試行錯誤の末、ワノは『肉を山ほど食った後の、不健康にはならないくらいのコッテコテの血がイッチバン美味い』と気づいたのだ。


「で、今に至るってことか」


「……や、ヤバいっス……そろそろ限界が近いかもしんないっス……」


「んー、別にお前を見捨てたいってことじゃないが、血を吸われるのはなんかヤダなぁ。ネロア、お前は?」


「はい、喜んで行きます!」


「お前は本当に健気だな」


 お風呂に血が入ると、その後に入る人に迷惑がかかるので、二人は洗い場に移動し、そこでお互い向かい合う。


「ネロア……本当にありがとうございますっス……」


「困ったときはお互い様ですよ。家族ならなおさらのことです」


 ネロアは自分の首筋をトンと指でつついて、

「さあ、思う存分大事に至らない程度に吸ってください!」


「はいっス! では、いただきますっス!」

 ワノはそこに噛み付いた。


「あ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁぁ……いいです……」

 ネロアは噛まれながらも恍惚の表情を浮かべた。

 噛まれた時の苦痛を逃がすため、ワノのタイプの吸血時に相手へ快楽を感じさせるようになっている。

 あと、ネロアのそういう癖もあるかもしれないが。


(なんスかこの味……! 流石にアタイが見出したあの血には適わないっスけど、この透き通るような味とのどごし……これはこれでたまんないっス!)

 ワノもワノで、久々の血の味を感じて、激しく喜んでいた。


「いいです、ワノさん……お願いです……もっと良くしてください……はぁぁ!」


「むむっむむっむ、むむむー!(わかってるっス、ネロアー!)」


 それから二人はお互いに異なる快感を味わい続ける。


 その一方、一人湯船に浸かるコーリンは、

「な、なんだよお前ら……オレはそんな気でここにいたんじゃないのに」

 二人の行為を見て昂ぶっていた。


 そして、無事吸血が終わり、二人は離れた。

「はぁ……はぁ……」


「ほんとにありがとうっス……ネロア……」


「いえ、こちらこそ……ありがとうございます」

 

 ネロアは疲労で、ワノは活力が急激に回復しすぎた反動で、洗い場でぐったり横になる。


「おい、大丈夫か……?」

 コーリンはネロアの身を案じる半分煩悩半分で、湯船から出て二人へ近づく。


「よし、あいた……」

 その時、なかなかお風呂から出てこない三人の身を心配して、チヨがよこしてきたイバラが、たった今不具合を直したドアを開ける。


「あ」

「え」

「わ」


 そこでイバラは三人のとんでもない状態を間近に見て、

「ほわああああ!?」

 混乱極まり、その声が家中に轟くほど絶叫し、ドアを閉めた。


「違うんだイバラ!」

「これは決してそのようなものではなく……」

「真面目な話っスよ! 誤解しないでくださいっス!」


 翌日、かねてからのとおり満月家は焼き肉屋に行った。が、


「あれ、どうしたんだい姉御、それとネロアとワノ。なんだか美味しくなさそうに食べてるね」


「なんか、美味しくない……」

「実際は美味しいはずなのですが……ね」

「それと心なしかお腹一杯っス……」


 三人は、満足に楽しむことができなかった。


 余談だが、昨日の『騎人バスターステート』の特報は、毎年最終回間際にやる、恒例の舞台イベントの告知だった。


【完】

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