第136話 Evolve Forward in Music 〜CDショップ大好きピコリさん〜
「今日はみんなに、CDショップの楽しさを教えるね!」
とある日の夜。ピコリが、イバラとトツカにそう宣言したところから、今回の話は始まる。
「……何故に?」
「トツカ……ピコリおねえちゃんに……しつれい……」
「そうそう、失礼だよトツカ……って言うつもりは無いよ。
やっぱウチらの年齢層は誰でも、一生の内一度はCDショップ行くからさ、行き遅れにならないうちに二人を連れて行こうと思って」
「なるほどですね。その言い分は俺たちでも理解できます。けど……」
「ふふふ……ピコリおねえちゃんとおでかけ……」
「トツカ。今回は相方がイバラだから、その『けど……』は自分で続けないとダメだよ」
そうでしたね。と、トツカは反省して、もう一度台詞を言い直す。
「けど、別に俺は音楽を超限定的にしか聴かないんで、行ってただ終わりになりそうな気がするんですけど」
「それでも行ったほうがいいんだよ」
今日、流行りの曲が何なのか、注目のアーティストが誰なのかを知っていなければ、とにかく周りとの話を合わせづらい。
だからこそピコリは、二人のためを思って、CDショップにつれていきたいのである。
(別に音楽の流行を知りたければ、動画サイトとか配信サイトとかでも良いだろ……)
などなど、色々な意味で正直かったるいと思いながら、トツカは尋ねる。
「ピコリねーさん。どうして俺とイバラねーさんを誘おうと思ったんです?
イバラねーさんは仲良いから自然な成り行きなんですけど、俺はそこまででも無いですよね?
コーリンねーさんとか、もっと流行学ばせたほうがよさそうな人がいますよね」
「コーリン姉さんも流行りの音楽はだいたい知ってるよ。
曲名とアーティストの名前をよく調べずに、『あの歌詞のやつだろ?』って雑な覚え方してるけど」
「なるほど……それは悔しいな」
「じゃあ明日、三人でCDショップ行こうねー」
「うん……たのしみ……!」
というわけで、イバラとトツカは、ピコリにより強引にせっかくのスケジュールを押さえられたのだった。
「まさかこのシリーズ、三部作だったとは……」
「先週の土曜日はマジナ姉さんからカードゲームを(※第134話参照)、今日の午前中はサバキ姉さんから電車マナーを(※第135話参照)を教わったんだっけ? じゃあこの流れでウチの講座もよろしくお願いしまーす」
「はぁ、本当に嫌な流れだ」
「ちなみに次回はユノスが漫画案件のための取材をする話だから、このシリーズはここでラストだよ。さらにいうとトツカは次から二話くらい出番がないよ」
「それ聞かされて俺はどう反応すればいいんですか」
*
翌日。
ピコリはトツカとイバラと一緒に、大型のCDショップへとやって来た。
その入口には、ここ最近流行っているアニメのグッズが並んでいた。
「……ここ音楽屋ですよね。アニメショップじゃないですよね?」
「最近のCDショップはサブカルチャーの発信局みたいな側面もあるから、こういうアニメグッズも取り扱ってたりするの。
有名なアーティストがアニメのオープニング作ってくれるみたいなことも、しょっちゅうあるし」
「なっとくなっとく……」
「斜に構えたこと言って申し訳ないですけど、個人的に、『とりあえず流行ってるもの扱ってる』みたいに見えるんですが……」
大変失礼なことを言いながら、トツカはそのアニメグッズ売り場を見渡す。
するとトツカは、そこでアニソンCDを集めた棚を発見。
そしてその中から、トツカが愛してやまないアイドルアニメ、『ハピバズっ!』のCDを発見する。
「うわヤバいっ! 『ハピバズっ!』のベストアルバムだ! ユニットのCDも、ソロ曲集めたのも全部揃ってる! くうう、どうしよう、どれから買おうかなぁ。あーヤバい、もう悩みすぎてヤバい、三回くらい死ぬ」
「ガスコンロ並に着火が早いね、トツカ」
トツカが初めて見る実物の『ハピバズっ!』CDに夢中になっている間、ピコリとイバラは他の売り場へ歩いていく。
ピコリは入口から歩いて近くにある、メジャー級のアーティストのCDやグッズが一式並べられている棚を見せながら、
「この店だと、本当に有名なアーティストの関連商品は一棚使って売られているの。やっぱり人気なアーティストはでかでか売っても損しないからね。で、さらに、ガチで人気オブ人気なアーティストだと……」
今度はピコリは、各音楽サイト・サブスクのランキングを総ナメしているようなアーティストの売り場を見せて、
「二棚占拠しちゃう。しかも本人直筆サインとか、ファンのメッセージとかも飾っちゃう」
「ふうん……それで……?」
「それで……それで……確かに、冷静に考えればそうなるか。やっぱ興味のない人だと『それで』だわこれ。ま、つまり人気のあるアーティストは二棚取るって覚えておけばいいよ」
と、ピコリはこんな『検索すれば一発で早い』となるような知識をイバラに教えて、
「うん……ありがとう……」
イバラは素直に喜んでくれた。
「ピコリおねえちゃんは……どんなおんがく……すきなの……」
「いい質問だねーイバラ。ウチは前にも軽く伝えた気はしなくもないけど(※第121話参照)やっぱポスト・ハードコアだよ」
続いてピコリは、『何でこのアーティストは一棚もらえないんだ』と思いつつ、ハードコアジャンルのCDが集められている売り場へ行き、好きなバンドのCDを見せる。
「これだよ」
「どんななの……?」
「そりゃそうだよね。CDのパッケージ見せても音楽的な良さわかるはずがないもんね」
ピコリはそのバンドのCDの中から、試聴可能な物を手に取り、試聴用のプレーヤーへセット。
備え付きヘッドホンをイバラにつけさせ、
「それじゃいきまーす」
再生ボタンを押下する。
「うるさー!」
刹那、耳に強い刺激を感じたイバラはヘッドホンを外す。
「えー、そんなにー!? イバラのセリフにしては珍しく、三点リーダー(※『…』のこと)使ってなかったけど……」
「うん……うるさいこれ……」
イバラは物心付いた頃から異世界暮らし、森育ちのエルフ。
ハードコアという、文明の利器を使って奏でた轟音は全くして未知であり、耐性がついていないのだ。
「ごめん……わたし……ピコリおねえちゃんすき……けどこれきらい……」
「謝らなくていいよピコリ。『こんなうるさい音楽の何がいいのかわからん』って、もうみんなからバッチバチに言われてて慣れてるんだから」
(けど、趣味が同じだったらもっとイバラと仲良くなれたのかもしれないけどなぁ……ガックシ)
と、別方面で肩を落としたピコリであった。
*
それからピコリはイバラのために、店内を一通り案内する。
その最中、ピコリはペンライト売り場で迷っているトツカを発見する。
「どの色のにしよう……どれが一番想いが届くんだろう……」
そんなトツカを気遣って、ピコリは相談へ乗りに行く。
「どったのトツカ? 何悩んでるの?」
「おおっ、ああ、今俺はどの色のペンライトを買おうかなって……」
「え? それで悩んでるの? フツーに推しのメンカラの光買えばいいんじゃないの?」
「それはそうなんですけど、俺は特別誰が推しとかないんで……つい最近発表されたソロ曲の雰囲気がエモい弓張カナタちゃんの青もいいし、最近劇中で不運続きな桜庭メブキちゃんのピンクもいいし……」
「ごめん、これ以上喋らせるとドーナツ絡んだ時のユノスみたいになるかもだから、ここで遮るね。要するに『箱推し』って感じだよね? だったら、ここはとりま、一番目のキャラとか、無難な色にしてみたら?」
「それで大丈夫でしょうかね……ミーハーだと思われて周りになめられたりしませんかね?」
「大丈夫だって、多分周りはミーハーかそうじゃないかの区別はつかないだろうし。てか今更だけど、トツカって、とうとうライブイベントに行く予定立てたんだね」
「ライブ……イベント……いえ、流石にそれはハードル高いんで、まだですかね?」
「じゃあそこまで悩んで買う必要あるかなー?」
「備えあれば憂いなしだと思いますけどね」
この後、結局ピコリは、トツカのメンカラペンライト談議に数分間付き合わされた。
*
それからピコリは、
「これで大丈夫ですか、書き漏れとかないですか?」
「えーっと、はい、大丈夫です。では、当日のご来店お待ちしております」
自分の用事であるCDの予約を済ませて、イバラとトツカと一緒にこの店を後にした。
「今日はありがとうございます。マジナねーさん、サバキねーさんの三人の中では一番楽しかったです」
「それはどういたしまして。ウチも安心したよ、電車マナー講座よりつまんなかったらどうしようか不安だったからね」
「わたしも……ありがとうピコリおねえちゃん……みみたいせつにしてね……」
「こっちもありがとう、イバラ。耳はもう十分大切にしてるから心配しないでね」
そして三人は仲良く帰った。
ちなみに、トツカは今日、CD・ペンライトともども、悩みすぎて結局何も買わなかった。
イバラは……ピコリおねえちゃんと一緒に歩けただけで満足だった。
【完】




