第134話 満月マジナはカードゲームをビギニング・スタートさせる
「今回は君たちに、カードゲームの始め方について教えるよ!」
とある日の夜。マジナが、ネロアとトツカにそう宣言したところから、今回の話は始まる。
「……何故に?」
「面白いからではないですか?」
「そう、カードゲームは面白いから……
っていうのもあるんだけど、一番の理由はね、急遽遊ぶ相手を増やしたいからなのさ」
「遊ぶ相手を増やしたい? 確かマジナねーさんって、週末にカードショップ行ってたんまりと対戦してましたよね? それで満足じゃないんですか?」
「きっとお家でも遊びたいからですよ、トツカさん」
「ネロアの言うとおり、お家でも遊びたいから……
っていうのもあるんだけど、何よりも話しておきたいのは、どうも行きつけのカードショップが閉店するらしいってこと」
ここでトツカは、Mutterで見たあるつぶやきを思いだして、
「カードショップが閉店――それって本当のことですか?
個人情報を騙し取るため、架空の店が閉店キャンペーンとか言ってパック配ってるアレじゃないですか?」
「ちゃんと実在するお店の事実だよ。近所にもっと大っきくて、業界的に存在が太いショップができるから、痛い目を見る前に逃げるんだって」
「思ったより切実な理由だこと」
よって当分の間、マジナはカードショップで対戦できない。
なのでネロアとトツカを誘って、家でも遊べるようにしたい。それが今回のマジナの狙いである。
正直かったるい――と、思いつつトツカは尋ねる。
「マジナねーさん、どうして俺とネロアを誘おうと思ったんです?
ネロアねーさんはともかく、コーリンねーさんとか、もっと快く乗ってくれそうな人いますよね?」
「君みたいな一見無関係な人が、意外とハマりやすいからだよ」
「なるほど……なのか?」
マジナは早速、二人にカードゲームの始め方を教え……ない。
「ごめーん。明日改めて、初心者用のデッキを買ってから教えるよ。
たぶん私が使ってる上級者デッキとかじゃなくて、そういうので説明したほうが入りやすいと思うからね」
「わかりました。ご親切にありがとうございます!」
「だったら今日、『教えたい』って言わなくてもよかったじゃないですか?」
というわけで翌日。
マジナは宣言通り、昼前に『マジモンカード』初心者用デッキ+αを買って帰ってきた。
「うわ、本当に買ってくるとは……わざわざ自腹で買ってくれてありがとうございます」
「そのへんは気にしなくて大丈夫さ。だってこれ、本当に初心者向けの五百円のデッキだから」
ワンコインという破格の値段に、ネロアは大いに驚く。
「え、今のカードゲームってそんなに安いのですか!? 最低千円くらいだと思っていましたが……」
「本当に初心者向けの淡白なデッキだからね。ルールを覚えるくらいなら有用ってくらいのね」
その隣で、トツカは「へー」と、淡白なリアクションをとる。
それからマジナは、この初心者向けデッキを使って、『マジモンカードゲーム』のルールを一通り説明する。
その説明と、軽い補助をしながらの試合を経た後、
「なるほど。まだ出だしの部分ではありますが、これは奥が深いですね……」
ネロアはゲーマーらしく、面白い点に気付きかけ、
「俺は……面白かったと思いますかね」
トツカはちょっとだけ、マジナの道楽に付き合ってよかったと思った。
「それで、次はいよいよマジナねーさんと試合ってとこですか?」
「え、私とやりたいの? 悪いけど、私との試合は激しいから、いきなりは無理だよ。悪いけどまた後で、ね」
*
次にマジナが教授するのは、サプライ――カードゲームを遊びやすくするグッズの紹介。
マジナはデッキを買うついでに、百円ショップで取り揃えた+α――カードサプライを並べて、二人に説明する。
まずマジナが手にしたのは飾り気のない『デッキケース』。
「デッキはこの箱に入れて持ち運ぶんだよ。でないと散らかるからね」
ネロアは試しに貰ったデッキを入れてみる。
「デッキ一つに対して結構ゆとりがありますね。三デッキぐらい入れられそうです」
「と、思うじゃん? 違うんだなぁこれが……じゃあ次行ってみよう」
次にマジナが手にしたのはシンプルな透明の『カードスリーブ』。
「これは一枚一枚にカードを入れて、傷や汚れから保護するものさ。
特に裏面が傷ついているとマーキング――どのカードかわかるようにしていると思われるから、つけておくのが無難だよ」
ネロアは試しに、デッキの切り札をスリーブに入れてみる。
「これをつけると一枚一枚が分厚くなるのですね。だからあれくらいデッキケースも大きくないといけないのですか」
トツカは自分のデッキのパーツ一枚一枚をスリーブに入れながら、
「昔、惰性でよく知らんカードゲームのアニメを見てたことがあるんですけど、それでスリーブつけてる奴、一人もいなかったですよね。大丈夫なんでしょうかアレ」
「ああいうのはどのカードで遊んでるかわかりやすいように、裏面を見せなきゃいけないからね。ツッコむのは野暮なのさ」
「きっとこういうのみたいに透明なものを使ってるんですよ」
「あ、スケスケ透明って聞いて思い出した」
「『スケスケ』は言ってなかったですよ。マジナねーさん」
「こういう透明なスリーブ以外にも、前だけ透けてて、裏は絵が描かれてあるものもあるよ。人気キャラクターのイラストが描かれてあるのとかね」
早速、トツカはショッピングサイトでスリーブを探してみたところ、彼女の大好きな『ハピバズっ!』のキャラスリーブがあった。
「お! しっかりこういうものもあるんだ! ならこれ買って使ってみよっかな……」
「おーっと。ただし、そういうキャラスリーブを使う上で、一つ気をつけたほうがいいことがあるよ」
時と場合によるが、カードメーカーが認可していないキャラクターのスリーブを使うことを禁じている大会がある。
また、仮に禁じられていないとしても、無関係なキャラクターのスリーブを使っていると、対戦相手が不愉快に思う場合もある。
よって、スリーブによる自己表現は節度を見極めて行ったほうがいい。
同じくネロアも、ショッピングサイトでスリーブを調べながら、
「じゃあ僕はこの無難に黒のスリーブにします。『マット加工でシャッフルしやすい』とも書いてありますし」
「マット加工っていうのは、スリーブ同士が張り付きにくいようにする加工のことだよ。
これは私も愛用しているね。例えば……」
マジナは胸の谷間に手を入れて、おなじみの八竜のカードを取り出す。
「この子たち用のスリーブにね。買ってから(※第56話参照)ずっとこれを愛用しているんだ」
「ああ、そいつらもしっかり保護しているんですね」
続いてマジナが手に取ったのは、黒色一色の『プレイマット』である。
「この布は、机に敷いて、置いたカードをめくりやすくしたり、滑ってどっかに行かないようにするマットさ」
ネロアは、買ってもらったデッキの箱に畳んで入っていた紙製のプレイマットを引っ張り出して、
「これのグレードアップ版のようなものですかね」
「その通り! それはどっちかっていうと、カードの置き方を説明するための教材って意味合いが強いんだけどね」
こちらでも、トツカはショッピングサイトでどんなプレイマットがあるか調べてみる。
「こちらにも『ハピバズっ!』のがある。けど……八千円は高いなぁ」
「あ、そうそう。こちらに関しても注意したいことがあるよ」
さっきのキャラスリーブ同様、『大会で認められない場合もある』、『無関係なキャラマットを使うと不愉快に思われる場合もある』ということに気をつけなければならない。
さらに、プレイマットに関しては注意点がもう一つ――海賊版の存在である。
「インターネットで拾った『マジモン』の二次創作のイラストを、勝手にプレイマットに印刷した、海賊版のプレイマットが流行ってるんだよ。
出来の良いイラストを使ってるから、基本『カッコいい』からね」
ネットの噂程度ではあるが、『そのような海賊版を作っていた企業が、イラストの製作者に訴えられて御用になった』という話もある。
時たまに『海外限定で売ってたものを取り寄せました!』とうたって、やたらとデザインが優れたプレイマットを使う人がいる。
だがしかし、それは海賊版である場合もあるので……懐疑的に見るのが丁度良いだろう。
「以上、そういう所でマウントを取ってくる輩への、私からの怨嗟でした」
「じゃあこちらも、マジナお姉さんが買ってくれましたような無地のものが無難でしょうね」
余談だが、マジナが買ってきたプレイマットは、プレイマットではない。
キーボードなどを置く時に使う『デスクマット』である。
*
ルール説明、サプライ紹介を修め、ネロアとトツカは、これにてカードゲーマーとしての一歩を踏み出した。
「今日は私のお遊びに付き合って貰ってありがとう! これからはカード関係のインフルエンサーの動画を見て、より強く賢くなっておくれ!」
「それが最適なんでしょうけど……最後だけ投げやりですね」
「わかりました! これから精進して、マジナお姉さんのライバルになれるよう頑張ります!」
若干後退して冷静になっているトツカと、常に全力で熱心なネロア、この構図は最後まで変わらなかった。
「じゃあ早速ですがマジナお姉さん! 僕と勝負していただけませんか!」
「いいとも! もちろんトツカも、やるよね?」
「ええ。どんくらいマジナねーさん強いのか、興味がありますからね」
そして先ほどの約束通り、マジナはネロア、トツカと本気の対戦をした。
――容赦なくガチデッキを使用し、非道にも大会でも散見されるようなガチムーブを使用し、微塵にも悪びれず、徹底的に打ちのめした。
「むむむ、ゲームに関しては誰よりも強いと思っていましたが……それは僕の慢心だったようです」
「絶対、こちらが初心者デッキを使ったから負けたんですよ。ネロアねーさん」
【完】




