第132話 100円ショップに行く以外の何物でもない・後編
前回に引き続き百円ショップにて。
ネロアら四人は各々行きたい売り場へと単独行動する。
チヨは自分の買い物と並行しつつ、四人がどんなものを買おうとしているか見て回る。
まず見つけたのは、電気製品売り場にいたネロア。
ネロアはスマホに貼り付けるレバーやボタンやグリップなど、スマホゲームをプレイしやすくするアイテムの数々を見ていた。
(やっぱりネロアはここにいたか。ゲーム好きだもんね)
しかし、チヨが物陰に隠れて様子を見始めて数秒後、ネロアは特に商品へ手をつけずにここを去ろうとする。
その移動先は偶然にもチヨが隠れている方だったので、ばったり会ってしまう。
「あれ、見てたんですか、お母さん?」
「うん、悪いけど見てた」
これはこれで丁度いいと思い、チヨは一応聞いてみる。
「あのゲーム関係のグッズとかは欲しくないの?」
「はい。ああいう本来ゲームに用意されていない物を使って強くなっても意味ないですから」
「なるほどね。いいこと言うわね、ネロア」
「あと、自慢みたいになってしまうので言いたくないのですが、あんな物に頼らなくても僕は十分強いですから」
「なんか一周回って潔さあるよね、ネロア」
チヨは感心したことを若干後悔した。
*
次にチヨが見つけたのは、トラベル用品の売り場にいるワノだ。
今回もチヨは隠れてその様子を伺うが、
「あ、母さん。一緒に見てもらいたいものがあるっス」
「ビクッ!? あ、はいはい今行きます」
ワノにはあっさり気づかれてしまった。
ワノはネックピローなど、睡眠にまつわるものが陳列されている棚を指さして、
「どれがよく眠れるヤツとかわからないスかね?」
「そういうのは個人差があるから『これぞ』てのは言えないけど……あたしがよく使うのは、この円柱タイプの枕とアイマスクと耳栓かなー。
てか、ワノって睡眠に関して悩みとかあるの」
「もうバリバリあるっス。他のみんなみたいにすぐ寢れないし、寝起き悪いしでもう最悪なんスよ。
だからいっつも就寝時間になったら、一時間ぐらいスマホいじってようやくぐったりするっス。
しかも二分の一の確率で、謎探知能力でサバ姐が飛んできて、『寝る前にスマホ見るな!』ってブチギレられるっス」
「サバキのはコメントしづらいから一旦忘れて……
それは困るわね。ちなみにだけど、その寝付きと寝起きの悪さの原因の心当たりはあるの」
「もうバリバリあるっスよ。そりゃもちろん、アタイが基本夜行性の吸血鬼だからっスよ」
「じゃあどうしようもないじゃん。あと今更だけど、ここに売ってるのは高速バスとか新幹線とか、座って寝たいシーンで使うやつだからね」
*
続いてチヨが見つけたのは、調理器具売り場でカゴを抱えて、キョロキョロしているイバラだった。
もう隠れても無駄だと思ったので、チヨは普通にイバラへ近づいて、
「どう、良さそうなもの見つけた?」
「うん……べんりなの……いっぱい……」
イバラは買っていいかの確認もかねて、自分が見つけた商品を、一つ一つカゴから出して紹介する。
一つ目に出したのは、『冷蔵庫のポケットに引っ掛けるチューブ立て』だ。
「これ……わさびとかいれるの……」
「わさびとか、からしとかのチューブのヤツ刺して置けるやつね。
ああいうのは扉の開け締めで散らかりがちだから、それあったら便利よね……いいよ、買ってあげる」
二つ目に出したのは、『マッシャーや計量スプーンとしても使える、多機能トング』だ。
「これ……あらいものへらせる……」
「へぇ、トングだけでこんなに使えるんだ。これはいいね。じゃあ買おう」
チヨは先程のチューブ立てのように、そのトングを自分のカゴに入れようとする。しかし、途中でその手を止める。
「どうしたの……?」
「ちょっと待って、これ、前に買った気がする。
それで確か、多機能過ぎて持て余して、奥にしまったまんまになってた気がするんだよね……」
「じゃあ……いまはやめとこ……」
「そうだね。いくら便利でも二個もいらないからね」
というわけで多機能トングは、チヨのカゴではなく売り場へと逆戻りした。
三つ目に出したのは、『ゆで卵の殻を向きやすくするアイテム』だ。
「これ……じたんになる……」
「ゆで卵ってちょくちょく料理に使うけど、殻剥くのが地味に時間かかるからね。これあったら便利ね……ってあれ?」
チヨとイバラは、それぞれ違った既視感を覚える。
「これも……もうある……?」
「うん、確かあった。ゆで卵作る機会がなくなってったから、忘れられて引き出しの奥に行ってたはず」
というわけでゆで卵剥きもあえなく、売り場へと帰らされた。
そしてラストに出されたのは、『袋パッケージを密封するハサミ』だ。
「これ……ながもちできる……」
「あ、ごめん。これは確実に家にあるよ」
というわけで、この密封ハサミは秒で売り場に戻された。
余談だが、イバラはこのあと家に帰って『多機能トング』と『ゆで卵剥き』を探したが、残念なことに見つからなかった。
チヨは『買った』というしょぼいデジャヴを見てしまったのだった。
*
そして見つけたのは、おもちゃ売り場にいるトツカだった。
この百円ショップでは、最近、なにかと話題になっている推し活サポートのグッズも取り揃えている。
トツカはそこで、缶バッジカバーやトレーディングカードのスタンドを陳列している棚の前に立っていた。
彼女はその棚と、スマホに映したフリマサイトの検索結果とで目線を行ったり来たりさせて、ダウナー寄りなキャラに似合わないくらい、ニヤつきながら考える。
(缶バッジなら街中でも持ち歩きやすいしな。
ああけど、カードもズラーッと並べて飾れるから捨てがたいな。
ハピバズっのメインキャラは九人、だから母さんに買ってもらうのは計九百円……よーく考えて買わないと……
うへへ〜、くー、本当に百円ショップってのは罪深い!)
缶バッジかトレーディングカードか、後々に買う、トツカがイチ押ししているアイドルアニメ『ハピバズっ』のグッズを考えながら、どちらのケースを買うか考えていたのだ。
「あの場合は……そっとしてあげたほうが良さそうね」
*
この後も、ネロアたち四人は百円ショップ内を歩き回り、気になった商品を探していく。
四人の欲しいものが被る場合もあり、途中で合流する瞬間も多々あった。
例えばトツカとイバラは、文房具売り場の、ペンが揃えられているエリアで出会った。
「けいこうペンいっぱい……どれにしよう……」
「『青が覚えやすい』とかよく言われますよ。イバラねーさん。
最後は自分の好きな色で決めていいとは思いますけどね。
ただ……一つ、聞いてもらいたいことがあります」
「なに……?」
「あんまりにも安っぽそうなペンを買うのだけは、気をつけてくださいね」
この話は、トツカが中学校に通い始めたころまでさかのぼる。
その頃お金がなかったトツカは、町にある小さな小さな商店で、出来る限り安い文房具を買い集めて、学校に行く支度をした。
しかし悲劇は間もなく――入学してから数日後に起こった。
トツカが買ったシャープペンシルの出来があまりにもチープだったあまり、書いている最中に破砕し、飛散したのだ。
数日で壊れるシャープペンシルなどありえない――このことを周りに散々イジられ、トツカは入学間もなく『筆圧バカ』というあだ名で呼ばれるようになってしまったのだ。
「実際見てくださいよ、この『黒ボールペン十本セット』。外装が雑で、芯が細い。
これは絶対途中でかすれて書けなくなるタイプですよ。
この店は良いものが多いですが、何でもかんでも鵜呑みにしてはいけなそうですね」
「わかった……かしこくかいものする……ありがとう……ひつあつバカ……」
「イバラねーさん。そんな大昔のあだ名で俺を呼ばないでください」
その一方で、ネロアはワノと、本関係のアイテムを揃えた売り場で合流していた。
「ナンプレ本が多いっスね。そうだ、これサバ姐のために買ってみようスかね?」
「それは姉孝行になっていいですね、ワノさん」
「いや、サバ姐がめんどくさくキレてる時にこれ渡して、大人しくさせるためにっス」
「それは素直に反省したほうがいいと思いますけどね……」
そしてワノは、『なんでサバキにペコペコ屈して、ホイホイ物を献上しなきゃならないんスか』と考えを改め、結局ナンプレ本を買わないことにした。
余談だが、サバキはすでにこの百円ショップのナンプレ本全巻を所持しているので、どのみちこの小細工は通用しない。
流れで二人は、ナンプレ本の棚の側にある、ブックカバーの棚を見る。
「ラミネートみたいに透明なフィルムをかぶせるタイプのカバーっスね。これは本のデザインそのままに保存できてよさそうっスね」
これなら自分が集めてるBL作品コレクションを保護できる。と、思いながら透明ブックカバーをカゴに入れる。
「文庫本サイズから雑誌サイズまで、サイズも豊富ですね。
これなら『六人の娘が異世界から帰ってくるだけの話』っていうネット小説が文庫判と新書判、どちらで書籍化されても安心ですね」
「あんな作品が書籍化したらこの世の終わりっスよ。
ジャンルは一応異世界転生なのに、あんまチート多用バトルとかしないで、万人受けしなさそうなヒロインがグダグダしてるだけの作品なんスから。
最新話なんか『百円ショップに買い物にいく回』なんスよ? そんななろう小説、誰が読むんスか? どこの出版社が拾うんスか?
ここ最近、三年かけてようやく100pt入ったらしいスけど、多分その程度っスよ。
シーズン3終了のとき、完結ブーストで悲願の一日1000pv行くと夢見てたらしいスけど、結局900pv止まりだったスし。
その悲願は晴れて他作『カンナギイヤサカ』で叶ったっスけど、こっちが本命だったからより傷ついたらしいっスし。
さらに一回この作品を消したのは、この後あったシーズン4が完結してもなお、労力に反してコテンパンに少なかったのも一因だったらしいっスよ。
もう大人しく異世界チート物とか、悪役令嬢物とかやればいいっスのに、あの勘違い夢見がちバカ野郎」
「そうですかね、それは言い過ぎと思いますよ……」
*
この後も四人の百円ショップ探訪は続いた。
最終的にはカゴ二つが山盛りになった状態でレジを通過した。
「こんな巻物みたいなレシート、まさか百円ショップでもらえるとはね」
四人は帰宅して早速、本来の目的で買ってもらったグッズを使って机を整理整頓し、部屋をスッキリさせたのだった。
「これで当分は安心ですね。今回はありがとうございます、お母さん」
「ありがとうございますっス! これからはお母さんのために、この机で勉強頑張りますっス!」
「ありがとう……おかあさん……」
「本当、色々と買ってくれてありがとうございます。母さん」
「ワノは相変わらず媚売ってる感がすごいなぁ……どういたしまして。じゃあこれからは散らかさないようにしてね」
「「「「はい!!!」っス!」」」
そしてチヨはキレイに片付いたネロアたちの部屋から出ていこうと、踵を返す。
するとその先には、コーリンとマジナとサバキが――前者二人は指をくわえて――立っていた。
「いーなー、いくら百均だからとはいえども、あんな買ってもらえるなんてよー」
「私たちも収納には窮屈してるのにねー」
「……予め伝えておくが、自分はこの二人とは違って、おねだりしにここにいるのではないからな。
自分は『母さんは最近、ネロアら四人を甘やかし過ぎてないか』と注意しにここにいるのだからな……」
「……はいはい。もう何も言わなくていいよみんな。火を見るより明らかだから……」
それから数日後。チヨはまたしても、百均グッズで見違えるほど片付いた部屋と、巻物めいた長いレシートの両方を見る羽目になった。
【完】




