第127話 スクールクラブ・コンバット
十月初頭のとある昼休み、食後のピコリとネロアとワノは、スマホで、鬼ごっこゲームをしていた。
「あちゃー、今のはいい線いってたんだけどなー」
「あーあ、またネロアの勝ちっスか」
「ごめんなさいね。手は抜けないので……」
今は丁度、ネロアが逃げる側の全員を捕まえ、ゲームが終了したところである。
「逃げでも追いでも勝てるって、やっぱネロアってゲーム強いね。このゲーム、断然逃げる側が有利って言われてるのに」
「そうなんスか。ゲーム内の優劣関係覆して勝てるって、やっぱネロアのゲームセンスはイカれてるっスね」
「いえいえ、僕も僕で慣れないスマホでのプレイでしたので、それなりにミスしまくっていましたから……」
「それ圧勝した奴が言っていい台詞じゃないっスよ」
「うんうん、ネットの見ず知らずの二人をぶち抜き確保した人が言える台詞じゃないって」
それから二人は第二ゲームを始めようとした。
しかしこのゲームを一プレイするには、時間がやや足りてなかったので、代わりに世間話をする。
始めに話題を振ったのはピコリだ。
「ところでお二人は部活どこにするか決まったの?」
「アタイはバスケ部に決めたっス」
「へー、バスケ部なんだ。わりかし意外。ワノってどっちかっていうと文化部に行ってそうな気がしてた」
「活動内容を優先したら、時間が作りやすい文化部がよかったっスけどね。
ただ、アタシは学校生活を贅沢に過ごせるための有益な『人脈』を作りたかったんス。
だから体育館で一緒に集まりがちな部活で、かつ、いい感じにスポーツしてます感のでるバスケ部にしたっス」
「やっぱりワノらしいや。そんな利益を考えて部活決める人、普通いないもの。ネロアは、もうどこ入るか決めてるの?」
「一応候補はございますが……まだ決めきれてないですね。この学校、部活の種類がとても多いですから」
「そうなんだ。それは早めに動いた方がいいね。だってこの学校……」
ちょうどよく廊下のほうが騒がしくなったので、三人はそちらを見る。
「だからサッカー部には入りませんから俺!」
「「「いえ、そこをなんとかお願いします! トツカ様!」」」
という具合で、トツカはサッカー部の先輩に追い回されていた。
「……優秀な人材はあれぐらいの熱量で勧誘されるから。しかもその人を誘いやすくするために、身内も次くらいの熱量で勧誘されるから(※第52話参照)」
「やっぱそうなんスか。なんかアタイとイバラも、あちこちから『トツカさんにも紹介してください』って勧誘受けてたっス。
なんなら二人ともバスケ部と卓球部に入った後にも、『今からでも考え直してみませんか?』って感じで誘われてるっス」
「そうですか……僕のところにはまだ、そういった直接的な勧誘は来ていませんけど、でしたら急いだほうがいいかもしれませんね」
「え、ネロアには勧誘来てないの? 変なラッキー」
残念ながら、これは変なラッキーという安易に片付けられる問題ではない――これはネロアに近々に降りかかる、とある危機の予兆であるのだから。
*
放課後。パソコンから放たれる七色の光以外、光源がない薄暗い部屋――e-Sports部部室にて。
プロジェクターを用い、本日入手した、鬼ごっこゲームのプレイ画面を部員全員に見せながら、e-Sports部部長、通称『”裏回し”の一ノ瀬』は説明する。
「これは僕が、このゲームのマッチングの仕様を熟知し、ネロア氏と同じルームにマッチした際のプレイ画面です。
見ての通り手際よく無駄のない動きで、我々逃げる側を追い詰めております」
一人の部員が手を上げて、一ノ瀬に尋ねる。
「『今月入った転校生に、ゲームの達人がいる』……その達人とは満月ネロア氏で正解ということでしょうか?」
「はい。これまでも状況推理的に九十パーセントぐらいそうだとは断定されていましたが、今こそ百パーセントそれで間違いないでしょう。
他部活に『あの人は絶対我々の部に加入する』と噂を流布し、勧誘を差し止めた工作がようやく意味を成してきました」
今のところ、熱意と人数はあるが、総員実力が足りず実績が出せていない百式高校e-Sports部。
ゲームの達人であるネロアを入部させるのは、まさしくe-Sports部にとって至上命題となっていた。
「噂によるとネロア氏は、まだどの部活に入ろうか迷っている段階とのことです。
ということは、ここで我々が背中を押してあげれば、ネロア氏は我らe-Sports部に加入する可能性は、大いにあるのです。
よって、二宮氏、三木氏!」
「「はい!!」」
そう、e-Sports部ナンバー2の二宮と、ナンバー3の三木に返事をさせた後、一ノ瀬は今回の作戦の主題を語る。
「我らe-Sports部三竜将が直々にネロアを勧誘しましょう。さすれば我々の全国制覇と校内での地位向上は決まったも同然です!」
これにて、e-Sportsによるネロア入部作戦が決起された。
*
翌日。
まず動いたのはe-Sports三竜将の一人、通称『”話術”の三木』。
「ククク……勧誘とは『勧めて誘う』と書いて勧誘というのです。
ならば、私の話術はそれに最適。よって今回のミッションは私こそが適任なのです」
彼はその通称通り、情報の巧妙な出し引きによる、話術を持っている。
彼と人狼ゲームをしてまともに勝てる奴はいない――と、言われている。
三木はネロアがいる教室へと入り、彼女へ話しかける。
「お忙しいところすみません。私はe-Sports部の三木と申します。あなたが満月ネロア様でいらっしゃいますでしょうか?」
「なんだか急にきな臭い先輩がやってきたね。気をつけてよネロア」
近くにいる同クラスのマジナはだいぶ失礼な警告をした一方、ネロアはごく普通に返事する。
「応とも、僕が満月ネロアだ。未だ尚、部の誓約は空虚のまま。故に名前以外に語る肩書はない」
「とか言ってたら、ネロアがもっとやばい人になっちゃってるよ」
「やはりあなたが、満月ネロア様ですか。お会いできて光栄です。
まだ部活が決まっていないということでしたか……なるほど、それは大変ですね」
「なんであのネロアの難解文がすぐに解読できちゃってるのさ」
「それでしたら、私たちe-Sports部に入ってはいかがでしょうか?」
ここから、三木はe-Sports部のことをネロアに説明する。
「e-Sportsはここ近年、世界的に流行し、かつ、社会的にも立派なスポーツとして定義されつつあります。
私たちe-Sports部は、高校生ながらも今後、世界規模の戦いを目指して切磋琢磨しております。
ゲームで、高校生から世界を目指す。そんな部活に入ってみたいと思いませんか?」
ネロアは即答する。
「すまない、僕はそう想わない」
「「ええっ!?」」
絶対いけると思っていた三木と、マジナは、激しく驚く。
「な、何でだいネロア? 君ゲーム好きだから、e-Sports部は結構合ってると思うのに。この先輩は胡散臭いけど」
「ごめんなさいね、ゲームは完全に楽しんでやりたいので、そういう競技性が強いものはあまり……コホン、三木殿。希望に応えられず、僕としても申し訳ないと想う。されど、我が信念が迎合されぬのだ。赦してくれ」
「ああ、そっすか。はい……じゃあすんません、また気が変わったら、どうぞ」
ミッションに失敗した三木は、思いきし肩を落として、マジナとネロアの教室から出ていった。
「あの人、終盤、すごく口調が雑だったね。印象悪いんだから徹底しなよ」
*
その後、昼休みにe-Sports部の第二の刺客にしてナンバー2、通称『"熱血"の二宮』ネロアの元にやってきた。
彼は『そもそもとして、誰かと一緒に協力してゲームをするということは楽しい』ことを教えるため、一緒にスマホゲームをした。
「ははは、ふぅ、楽しかったですね。ありがとうご……感謝するぞ」
「こちらこそありがとな! で、俺は今、e-Sports部に入ってるんだけど、そちらでも俺と一緒に……」
「んー、わざわざ部活に入らなくても、こうして空いた時間にできますので……ごめんなさい」
しかし結果は、上記のようにあっさりと書けるぐらい、悲惨であった。
放課後、e-Sports部部室にて。
「というわけで私たちは手ぶらで帰ってきました」
「本当にごめんなさい、一ノ瀬部長」
と、二人は一ノ瀬に正座し侘びた。
「君たち二人でも負けたか……なら、次はe-Sports部三竜将最強の僕が自らいくしかない」
「とうとう部長が行かなければならないとは……それまでにどうにか出来なかった私が憎い!」
「部長! 行くことについては絶対否定しませんが、何か策はあるのですか!?」
「あるとも! 時間が惜しいから説明はしないけど……とにかく、果報は寝て待てだ!」
「「は、はい!」」
ほぼ同時刻。ネロアはピコリと一緒に帰ろうとしていた。
そこへ、
「待ってくださ〜い! ネロア様〜!」
一ノ瀬が猛ダッシュで二人を追いかける。
「ネロア『様』!? え、ネロアって、転入間もなくカースト上位に上がってたの?」
「いえ、カーストうんぬんはよくわかりませんし、あの方がどちら様なのかもわかりませんし……」
ネロア(とピコリ)に近づいた一ノ瀬は、息を切らしながら、
「ぜぇ、ぜぇ……僕の名前は、一ノ、ぜぇ……e-Sports部の部長です」
「一ノぜぇ殿か。この対面は僥倖であろうか」
「多分一ノ瀬さんでしょ!
てか、e-Sports部って、マジナ姉さん曰く、最近ネロアを付け回してる部活じゃん! そんな人と関わって大丈夫なの!?」
「まぁまぁ、出会い頭で偏見なんて持たないで、ひとまずお話しましょうよ」
「偏見じゃなくて既出の印象なんだけどね」
というわけで、ネロアは一ノ瀬に用件を尋ねる。
「ぜぇ、ぜぇ……それはもちろん、あなたを我らe-Sports部に勧誘するためです」
「やはり其れか……三度も悲哀の崖底へ突き落としてすまないが、私はe-Sports部は興味がない故……」
「それで……後悔しませんか?」
「後悔?」
「……部活っていうのは三年間、同じことを一貫して、自分がしたいこと、叶えたいことを追い続けるものです。
ネロア様が何故e-Sports部に入りたがらないのかは、とやかく言えません。ただ、三年間追える好きなことを、軽はずみな気持ちで考えないでくださいね!」
それを言い切ると、一ノ瀬は下駄箱により掛かりながら踵を返して、
「これ以上ご迷惑をおかけしたくないので、以降はe-Sports部からの勧誘はいたしません。それでは後は、後悔のない決断をお願いします」
下駄箱や壁や柱などを伝って、よたよたと去っていった。
「あの人、疲れすぎだったね……」
「ええ……三年間追える好きなことを、ですか」
*
一ノ瀬から部活を決めることの覚悟の大きさを聞いた後、ネロアは、真剣に考えて、締切ギリギリに入部届を提出した。
そして、ネロアはソフトボール部に入部した。
「「「え、e-Sports部じゃないんですかァ!?」」」
と、その後の報告を聞きに来たe-Sports部三竜将は驚愕した。
近くにいたピコリとマジナも、
「あの流れからしてウチ、絶対e-Sports部行くと思ってたんだけど……」
「しかも私、ネロアがソフトボール好きなんて初耳だしさ」
「僕、小さい頃は地域のソフトボールクラブに通ってまして――年齢的に小六で卒業しましたが――そちらをもう一度やってみたいと思い、入部いたしました。
言いそびれてすみませんね。僕が剣投げを多用する理由の一つでもありますのに」
「そ、そうだったんだ……あの技無茶してたわけじゃないんだね」
「ていうより、本当にいいのかい? e-Sports部入れば部活でたんまりゲームできたっていうのに」
「はい、それは結構です」
ネロアはマジナ(とピコリ)から、e-Sports部三竜将へ視線を移して、
「やはり僕は、競争としてではなく享楽としてゲームに興じたいが故に、な」
「「「そ、そんなぁ〜……トホホ」」」
そして、ネロアを逃したe-Sports三竜将は、壁や柱やらを伝って、よたよたと帰っていった。
「疲れているのかな? あの三人?」
「急いできたから……じゃなくて、今回は今までかけた手塩の反動が大きいんだろうね。
……ところであの三人、どうして『三竜将』って、やたらと大仰なグループ名にしてるんだろう」
「いいじゃないですか、かっこいいですもの」
【完】




