第126話 若干遅れの高校生活スタート×4
百式高等学校。某県某市にあるマンモス学校にして、多数の業界にそれなりの人材をそこそこ輩出している準名門校。
九月中旬。四人の少女は校門の手前に立ち、
「かの学舎より、僕らの栄達の光明がするのだな」
内一人の群青色の髪の凛とした雰囲気の少女は芝居がかって言う。
「『ここからアタイらのネクストライフが始まる』って翻訳で合ってるっスよね、ネロア。
それと、どうせアタイらしか聞いてないから演技する必要ないっスよ」
と、マゼンダ色の髪と青白い肌をした少女はツッコむ。
「言われてみればワノさんの言う通りですけど……僕とは趣を渇望す!」
「あーそうスか。この先変ないじられ方されても知らないっスよ」
ネロアとワノがやり取りしている一方、黄緑色の髪と、長い尖った耳を持つ少女は校舎の窓という窓を凝視している。
「どこ……ピコリおねえちゃん……?」
青緑髪の容姿端麗な少女は、その真意を察し、
「多分ここからじゃお目当ての者は見えないですよ、イバラねーさん。学校っていうのは広くて入り組んでるんで」
「……ひどいたてものだね……トツカ」
「覗き見し放題な建物こそどうかしてるって」
そして四人は充分に校門前での眺めを目に焼き付けた後、
「じゃあ行くっスよ、みんな!」
「応!」
「……うん……」
「あ、ああ……」
一歩一歩踏みしめて、校門を通り抜け……
「以上、第100話冒頭の丸コピペでした」
……る寸前、四人の後ろにいるピコリは言った。
「ピコリおねえちゃん……うしろいたんだ……」
「うん、みんなが雰囲気づくりし始めたころからずっといた」
「なんならオレたちもいるからな」
と、四人の後ろにいる満月家七人の内の一人、コーリンは言う。
ワノは後ろの七人に対し、恨めしく、
「じゃあさっきのアレ、ガッツリ見てたってことスか? はぁ、転入の初々しいムードに浸ろうとしてたっスのに……ひどいっスね」
それに同調してネロアも、
「そうですよ! 後ろにいるだけじゃなくてボクたちと一緒に、初々しい一歩を踏み出してほしかったです!」
「ネロアねーさん。その『そうですよ!』は誰の台詞にチェインしたんですか?」
と、トツカは、いつもどおりのネロアの感性のズレに対してツッコむ。
マジナは言う。
「初初しい一歩って言われても、私たちはもう半年くらい通って慣れてるから、もうそこまで逆行は出来ないよ」
続けてチヨも言う。
「さらに言うとあたしはもう四十手前だから、もう初々しさもヘッタクレもないんだけど……」
「みなさん、別に無理しなくていいですよ。アレはワノねーさんの謎いゲン担ぎと、ネロアねーさんの謎リクエストだったんで。だからもう、みなさん各々行くとこ黙って行ってもらって結構ですから」
「それは駄目。ちゃんと転入祝の記念写真撮らなきゃ」
と、チヨはスマホを構えて真面目に言った。
「ああ、それは必要でしたね……ごめんなさい、母さん」
「なーに変な気ぃ利かせて先走ろうとしてるんスかトツカ。アンタどんだけ学校入りたいんスか、寒いんスか?」
「そうですよ。せっかくの大事な日なのですから、写真くらいは撮らなきゃダメですよトツカさん」
「ネロアおねえちゃん……ワノおねえちゃん……それいえるたちばなの……?」
それから満月家は校門前で、ネロア、ワノ、イバラ、トツカら四人の集合写真と、そこにチヨを加えたパターンの集合写真と、四人と校門とのツーショット写真計四枚と、満月十姉妹の集合写真と、満月家十一人全員が写った真の集合写真を……
「なんなんだあの人たち?」
「秋の始業式前に集合写真とか遅くない?」
「あの中にいるの生徒会長だよね……」
「なんか四人増えてる気がする……」
普通に登校している百式高校の生徒たちに見られながら、一通り撮影した。
「……ごめん……普通にいい思い出にしたかっただけで、悪気はなかったの……」
「大丈夫です。お母さん……僕は恥ずかしくないですから」
「ネロアにそれ言われて、気持ちが楽になるやついるんスか?」
「……少なくとも、あたしは全然よ」
*
写真撮影を済ませた後、
「それじゃあみんな、次は家で会おうね」
満月家はバラバラになった。
チヨは少々仕事があるのと、始業式には親は参加できないので学校から去る。
コーリンら六人は始業式参加前に各クラス教室に寄らなければならないので、そちらへ行く。
そしてネロアら四人は、
「あのお母さん、ますますかわいそうですよね。いつかは親孝行してあげてくださいよ」
「は、はいっス……」
職員室の来客席に座らされ、教頭先生と一緒に始業式が始まるまで世間話をさせられた。
(まだどこのクラスに行くかを教えられてないからとはいえ、よりによってなんでここなんだよ)
(できればもう少し、休めるところがよかったです……)
(おちゃ……あつい……)
数十分後。四人は始業式会場の体育館へ、教師陣一同に混ざる形で入る。
「ひといっぱい……」
「公営体育館並に大きかったというのに、生徒が集結するとこんなに狭く感じるなんて」
「そこそこマンモス校の称号は伊達じゃないみたいっスね」
「それなのに、なんかこう、威圧感があまりないですよね?」
「なんせ全員、準私服ですもの」
満月姉妹が通う百式高校には、『校章付きのネクタイを身に着けていれば、公序良俗に反しない限り、どれだけ制服を崩し着しても構わない』という校則がある。
今四人が見ている、ずらりと並んだ準私服な生徒たちは、それにガッツリ従っているのである。
「ま、アタイらはそれ説明されてなかったんで、ガッツリ制服着てるんスけどね」
「ピコリねーさんあたりが親切にしてくれればよかったっていうのに。
今朝の写真撮影と、この教師陣に混ざった立ち位置に加えてこの服装な、もはや目立ち放題ですね俺ら」
「ごぜんまで……しんぼう……」
幸いにも、本日の予定は始業式とホームルームの二本立てで、午前中には終わる。
その上、満月姉妹には本日、待ちに待ったイベントがある。
「そうっスね。イバラの言う通り午前までの辛抱っスね。スマホとお小遣いがあるっスもんね」
四人は晴れて正式に高校生になれたということで、ついにスマホの契約と、他六人と同じ額のお小遣い六千円の両方を、午後にゲットできるという約束になっているのだ。
「僕には何が恥ずかしいのかわかりませんが……そうです、その意気ですワノさん! 午後の楽しいことを考えて、恥ずかしさなんてぶっ飛ばしましょう!」
こうして、羞恥心が歪んでいるネロアを除く三人は、
(夢の六千円、満額六千円、何でも出来る六千円……)
(スマホ、スマホ、スマホ……)
(おひるごはん……)
とってもステキな午後を待ち望み、生徒にチラチラ見られる恥ずかしさと、先生に挟まれるプレッシャーに耐えながら、始業式を過ごそうとする。
しかし、ここで彼女たちは、まさに『灯台下暗し』な想定外の危機に出くわしてしまう。
「えー、みなさん。短い時間でしたが、秋休みを有意義に過ごせましたでしょうか。
私は秋休みの間も、学校関連の仕事で大忙しでした。しかし隙間時間はですね、読書の秋ということで本を読んでいました。
特に印象深かったのは、えーっと、『僕を愛し……』、じゃなくて『君が愛したすべて……』……いや違うなこれは。
えーっと、とにかく私があまり読まないジャンルの本をですね」
学校の集会の名物にして、最も槍玉に上げられる悪しき風習、『校長先生のお話』である。
これが『悪しき』と言われる理由は至ってシンプル、『話が無駄に長い』のである。
(うわ、あのおっさん本の内容語り始めたっス)
(おなかすいた……)
(せめて本のタイトルくらい正確に言ってくれよ……)
実際、この校長先生も、やたらと自分が読んだ本についての、興味のない人にとってはまさしく責め苦じみた話を長々と展開した。
しかし、百式高校はさっきの制服関係の校則がある通り、比較的柔軟性がある気風の学校。
当然、学校のトップとして校長先生もその気風を理解している。
校長先生は、生徒たちがうんざりしている様子を見ると、
「じゃあこの続きは、実際にみなさんが読んでくださいということにします。ではみなさん、のこり半分の学校生活、有意義に使ってください!」
と、気を使って話を畳んでくれた。
(ふぅ、物わかりがいい校長先生で助かったっス。ここはいい高校っスね……)
(もう終わりですか。どんな本だったのでしょうか? 僕も読んでみたいです……)
これにてようやく始業式の終わりが見え、ワノたち含む百式高校生徒一同は、開放を間近にして色めき立つ。
しかしその時、始業式進行役の先生が、青天の霹靂の到来を告げる。
「続いては、生徒代表の言葉。生徒代表、満月サバキさん、ご登壇をお願いします」
「はい!」
と、生徒会長としての気概の強さを返事に込めて放った後、サバキは堂々と登壇に立ち、
(まさか、あ、あの犬コロ……!)
(さては校長先生と同じ真似をするつもりっスか!?)
「皆様、この短い秋休みで十分に身体を休められたでしょうか。
これから、文化祭を筆頭として、様々な行事がございます。特に三年生の皆様においては……」
かろうじて峰打ちで留めてくれた校長先生による創傷をえぐり、そして仕留めるつもりであるかのように、長い長い話を展開し始めた。
(流石生徒会長です! キマっていますね!)
(やめろ……かえせ……いえかえらせろ……)
サバキが融通の利かないくらい、生徒会長としての使命に燃えていることは、百式高校生徒にとっては周知の事実。
故に、生徒たちは、長いこと立ちっぱなしになることを予見し、そして絶望した。
もはや恥を晒してでもこの場から逃れようと、貧血を装い自ら倒れる者たちもいた。
その人たちを見て、サバキは話を続ける。
そんなくだらない仮病なんかで自分の職務を中断するわけにはいかないのである。
このサバキの仕事に対する冷徹さを見つつ、ガクガクになる足を震わせて、ワノら三人は思う。
(もう助けてくれっス、サバキ……せめて午後の分の体力は残してくれっス……)
(おなかすいた……)
(あのバカ犬め、覚えていろよ……)
サバキの気合が入り過ぎた話は約三十分続いた。
この後、予定通り各クラスでホームルームが行われたが、気力が枯渇してしまった故に、ネロアたち転入生が来たことすらも満足に喜び切れなかった。
そしてただ立たされただけでなく、身内に虐げられた苦痛と、楽しみを遠ざけられた憎悪故に、他の誰よりも疲弊したワノ、イバラ、トツカは……
「いぇーい! 本当に、本当にありがとうございまっス! 母さん!」
「これがスマホか……俺はもう、一生持てないかと思った!」
「おみず……おいし……」
携帯ショップにきた瞬間に全快したのだった。
その三人のはしゃぎ様を見たチヨは、『そこまでか』と若干引きながら、
「どういたしまして……ところでみんな、今日初めて学校に行ってみて、どうだった?」
真っ先に、入学式が始まる前からずっと状態正常なネロアが答える。
「僕は何ともありませんでした。なんせ午前中だけということもあり、自由時間が少なく、そもそもあまりクラスメートとお話できる機会がなかったです」
「そうか、じゃあ本格的な交流は明日からなのかな? 他のみんなはなんか変わったことにあってたりする?」
「サバキが生徒全員を皆殺しにしようとしてたっス」
「そうそう、アイツ、他人の気持ちを何とも思ってなかったです」
「すごくおなかすいた……」
「……あたし、今安心すればいいのかな? 不安になればいいのかな?」
【完】




