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第124話 TEN BUYERを感じろ。 ――ワノの荒稼ぎ・転売編②――

 ワノとロスイと約束を交わしてから二時間後。

 ワノは社長室の隅のテレワークスペースで、例の転売ヤーのセミナーに参加する。


 ごく普通の親切心ゆえか、はたまた商魂たくましいだけなのか、かの転売ヤーのセミナー誘導はやたらと素早かった。


 マジナに作ってもらった捨てアカウントでダイレクトメッセージを送ると即、

『でしたら二時間後、ちょうど一回目のセミナーがございますので、是非! ご参加ください! 説明の通り参加費無料です!』

 と、返信が来たぐらいだ。


 というわけで、ワノたちは社長室の隅でテレワークスペースを用意し、

「この首飾りは、男女の恋愛関係が国に管理された異世界『アイランボー』の変装グッズっス。

 身につけた人は、関係が薄い人から見るとまるっきり別人に見える――名付けて『恋人にだけアタシを見せたげる♡ネックレス』っス」


「なぜ、何故に身内だけ普通に見えるようになってるのかい?」


「……さあ? 味方とスムーズに合流するためじゃないスかね? あと、マジ姐はネーミングセンスについて突っ込まないんスね」


「実際の機能が良ければ、その辺はどうでもいいもの。マジモンカードゲームでシングル買い(※中古カードを一枚ずつ買うこと)するときも、あればちょっと値段が下がった傷有りの買うしさ」


 ワノは首飾りを装着し、カメラには完全非実在な普通のおばさんに映るようにして、セミナー会場のテレビ会議室へアクセスする。


『えー、皆様、ご参加ありがとうございますー』

 SNSアイコンのケバい女性とは程遠い、アイドルになりそこなったような金髪小太りの男――講師『Massaru』が、やたらとニコニコして挨拶する。

 それから小一時間に渡る、第一回物販業に関するセミナーが始まった。


『私が地獄を見たのは、その某ハイレベル大学を卒業した後でしたね。

 もう皆様が誰もが知っている企業に入社し、営業していたのですが……そのー、言葉悪いんですけど上司が時代遅れのバカでして、明らかにこれは無理だろーって感じのノルマを課せてきたんですよ』


 しかしその内容は、もっぱら講師Massaruの自叙であり、

「さっさと物販業のノウハウ教えろっス」

 期待を裏切られ、ワノは激しく後悔した。


「ワノ、今、思いきし悪態ついてたけど、相手方には聞こえたりしないのかい?」


 ワノは画面の赤い斜め線が入ったマイクアイコンを指して、

「しっかり聞こえないようにミュートにしてるっス。このオッサンからも『セミナーを進めやすくするために、みんなはミュートでお願い』って言われてたスから。けど……」


「けど?」


「なんか、子供の声とかがずーっと聞こえてくるんスよ」


 何人かの参加者は指示通りミュートに出来ておらず、子供の声や並行して観ているテレビ音声などの環境音が流れ続けていた。


「ミュートにしろ、って主催者が言ってたよね? あれはどこいったのさ」


「続行中っス。多分こいつらはテレビ通話使い慣れてないだけっスよ。それを注意しない主催者もどうかしてるっスけど」


 それから、講師Massaruは、

『それで自宅療養中にコツコツ物販業をしていって、実際の給料よりもお金を稼げて、ブラック企業も辞められて、妻と子供にもっと豊かな生活をさせてあげることができました! ついでに鬱も完治しました!』

 延々と、延々と、物販業のノウハウなどの根幹部分を教えず、物販業がどれだけ人生を豊かにするかを、胡散臭い自分の過去話を交えて話し続けた。


「……暇っス」

 その間、暇になったワノは、調査の一環として他の参加者の様子を観察することにした。

 まるで高級百貨店に行くような無理のある格好と化粧をした主婦。

 カップ麺の容器などで散らかった部屋を背景にテレビ通話に臨む大学生。

 顔の不養生さとは不釣り合いな、恐らくゲーミングギアであろういかついヘッドホンをつけた若者。

 講師Massaruの話を真に受けて涙する中年女性。


 人を見かけで判断するのは良くないという前提を重々承知の上で、あえて辛辣に言うと、『現状の生活に満足できていないが、それ相応の能力がなさそうな人』ばかりだった。


 傍から見てても情けない。と、ワノは他参加者を内心馬鹿していると、

『というわけで本日のセミナーはここまでです』

 あっという間に時間が経ってくれた。


『第二回は今回と同じく無料で参加できます。でーすーがー、私独自に制作した教科書を話すことが多いのでー、できれば! そちらをレンタルしていただけると理解しやすくなるかなー、と思います!

 一ヶ月間六八〇〇円でレンタル可能です! 一見お高く見えますが、これは私独自に制作した、本当に実践的なものですので! 実際はすごーくコスパが良いですからね!

 あー、あと、私、動画サイトでも物販業のノウハウを教えてますんで、そちらもチェックしてください!』


 そして第一回セミナーは、無駄な自叙九割、宣伝一割で終了した。


「……ま、こんな儲け話をタダで話してくれる聖人なんか、いるわけないっスよね」

 

 話が終わりそうと聞いて、再びワノの側に戻ってきたマジナは言う。

「六八〇〇円って、本にしては高すぎじゃあないかい?」


「ええ、高いっスね。ま、けど明日のセミナーはこれがないと成り立たないらしいスから……ロスイさんから拝領したお金を投げ打つしかないっスね。それと、転売ヤーの裏に迫れそうな気がするスし」


 というわけでワノは苛立ちながら、教科書のPDFをダウンロードする。


*


 翌日。ワノは言うまでもなく第二回セミナーに参加した。


 参加者数は昨日と比べて三割ほど減っていた。 恐らく教科書をレンタルできなかったか、このビジネスを怪訝に思ったかのどちらかだとワノは思った。


 いざビデオ通話が始まると、その認識の幅が増えた。

 残った参加者がより、上昇志向は高いが社会的に無知そうな人へと先鋭化されつつあったからだ、


『教科書の一ページにドカンと書かれていますように、まず、これだけは覚えていただきたいのですが、「物販業は社会的に認められています』!

 世の中は私たちがしていることを『転売だー、悪だー」とか言っていますが、あれは偏見です!』


 第二回の主題は、物販業が社会に与える影響について――綺麗事を取っ払って言えば、『自分たちの悪行の正当化』だった。


『私たちがしてるのは転売ではなくて、「せどり」という昔からある商法です。価値のある商品をもっと適切な値段にして、皆様により買いやすい方法で販売する――これが「せどり」といいます!

 例を言いますと、ここ最近、あちこちの企業が自分たちのサイトのみで商品展開をして、一部の人にしか買えないようにしていますよね? しかもアカウントを作るのが大変だし、平気で個人情報を横流しするアレ。

 私たちはああいうを解消して、フリマアプリとか、利用者が多いサイトで販売しているのです!』


「なーに大ホラ吹いているんスかこいつ」


「どこが大ホラなんだい?」


「『せどり』の意味っス」


 ここで一つ解説を入れるとしよう。


 せどりとは、狭義としては『同じ業者から物を買い取り、それに手数料をつけて売る人、または行為』のことを言う。

 広義的には『倉庫とかに眠ってて売れない商品を買い取って、若干の利益をつけて大々的に売りさばく』ことを言う。


「本当はもっと違うっスけど、例をあげると『田舎の奥の奥で仙人みたいなジジーが作ったツボを、街中で利益込みのちゃんとした値段をつけて売る』感じっス。

 だから『元々ちゃんとした値段がついてて、しっかりした店で売られてるもの』を、また買い取って利益つけて売るのは違うっス。

 まあ、本来の意味でもこれはこれで嫌われるスけど。古本業界とかだと特に」


「そうなんだ。ならあんまりじゃないか、物販業のプロを騙ってるくせにそんな大間違いした話をするなんて」


「このMassaruとかいう奴も多分わかってるっスよ。けどこいつは絶対そんな正しいことは話さないっス……今んとこ確信が持てないっスけど、コイツは……マジナなら言い切らなくてもわかるっスよね?」


「うん、わかるとも」


 それからワノは、講師Massaruによる転売行為の正当化と、繰り返される『自分は転売で生活が豊かになったアピール』を聞き流し、ページ数は百あるが、メチャクチャな改行とクソデカ文字サイズのせいで内容が薄すぎる教科書を斜め読みし、セミナーの時間を過ごした。


『それでは、本日のセミナーは終わりです! 明日もご参加お願いします……』


「お、終わったみたいっス」


「またバカみたいな値段の教科書を売りつけてくるのかな?」


『……と、いいたいところですが、今回は皆様に宿題をしてもらいたいと思います!

 内容はですねー、近日始まる『満月コーポレーション×マジモンカードゲーム・コラボキャンペーン』の応募券を……んーと、一人五十枚ほど集めていただきたいと思います!』


 満月コーポレーション。講師Massaruから聞き馴染みがあるどころでは済まされないレベルのワードが飛び出したことにより、ワノとマジナは驚愕する。


「それって昨日ロスイさんが言ってたキャンペーンのことじゃないか!?」


「そうっスよね!? それの応募券を五十枚……ってことはっス……」


 テレビ会議内で、セミナー参加者の一人である主婦が質問する。

『すいませーん。それって物販業とどういう関係がある的な感じですか?』


『これはですね、皆様に『仕入れの練習』をしていただきたいのです。今後物販業をする上においては、街のお店で必要な商品をまとめて仕入れることが必要不可欠となりますので。

 今回はその練習を、パンとかお菓子とかでやってもらおうってことです。わかりましたか?』


『はいはい、わかったわかった』


『あと、ついでに郵送のやり方も学んで貰うために、明日集めた応募券を、こちらの画面に映してもらった後は、後日教える住所にまとめて送ってください。

 というわけで、明日はセミナー参加前に、応募券五十枚をお願いします。

 もしそれがしっかり出来たと確認できれば、次に渡す、僕オリジナルの『物販業パーフェクトツール』を特別価格、四万円でレンタルいたします!

 では、明日もよろしくお願いします!』


 こうして、Massaruによる第二回セミナーは終了した。


「……特別価格四万円って、じゃあ定価はいくらなのさ……!?」


 その時、ワノは、モロに悪役じみて笑っていた。


「ハハハッ! やーっぱりあの野郎、そういう奴だったっスね」


「……カードの応募券を占有しようとしてる時点で、もう悪いやつなのは確定的だけど、どういうことだい?」


 ワノは特設テレワークブースから、社長机を見て、


「ロスイ社長、今、お話したいことがあるっスけど、お時間よろしいスか!?」


「いいわよ。むしろ待ってたぐらいよ」


 そしてワノはロスイとマジナに、早くもまとめ上がった転売ヤーの調査結果を報告する。


「まず結論から言うと、『物販業を騙って儲けている奴はただの転売ヤーではない』ってことっス。奴は『詐欺師』っス」


 自称物販業者Massaruの主な収入源とは、ズバリ『情報商材』。


 情報商材とは、『投資の上手いやり方』や、『ネットカジノの勝ち方』などを謳った書籍やデータを、内容にそぐわない高額な値段で販売し、利益を得る詐欺方法。


 理論的に一攫千金を成し遂げたい野心を持つ情報弱者が標的になっている。


「それに合わせて『転売』を取り扱っているのが憎いっスね。

 投資とかカジノとかと違って転売は、ドス黒いイメージがまだ付ききってないスし、前提となる知識も少ない。基本的には『人気商品を買ったときより高く売る』だけっスからね。

 だから、意識高い系のバカをより釣りやすいんス」


「なるほどね。じゃああのセミナー主催者は、転売で利益を得てないってことかしら?」


「確定ではないっスけど、メインではないっスね。

 あんなバカ高い商材売りさばいてたら、わざわざ店行って売り物買い漁ってる手間なんて必要ないっスもの。

 あと、セミナーやってない方の転売ヤーも、多分稼げてないっスよ。

 ああいう『情報提供者』からのレンタル費用を納めるので赤字かそれスレスレになるだろうスし。

 で、今回の奴の場合は、軽ーく転売ビジネスをしているっスね」


「ワノちゃん、それって何?」


「あのMassaruとかいう奴、セミナー参加者に例のキャンペーンの応募券を集めさせて、限定カードを大量ゲットして転売するつもりっス」


 そうきたか。と、ロスイは社長らしく冷静に反応した後、ワノほどではないが悪役じみて笑う。

「ありがとねワノちゃん。お陰で、そういう時のために一応用意しておいた『一計』が無駄にならなくて済んだわ」


「そうスか、それは光栄でございますっス」


 こうしてワノとロスイによる転売ヤーの調査は、終幕を迎えるのだ……


「ところでワノちゃん、アタシとしてはもう転売ヤー調べは十分かなーって思ってるけど、ワノちゃんはどうしたいの?」


「ロスイ社長が良ければなんスけど、アタシは明日だけ、もっかいセミナーに参加したいっス」


「ええ、筋の通った訳を話してくれれば、まだ協力してあげるわよ」


「わかったっス。アタイらとしても、奴には『報復』したいんスよ」


【続く】

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