第120話 魔法のような、超大金を。 ――ワノの荒稼ぎ・バーチャルライバー編――
秋休みのある日。満月家にて。
「いくら金が欲しいとはいえ、やっていいことと悪いことの区別も付けられないのか貴様ァ!」
「ひぃぃぃ、ごめんなさいっス! ごめんなさいっス!」
怒髪天を衝くサバキへ、ワノはただひたすら頭を床に擦り付け、誠意いっぱいに謝罪していた。
お風呂から出てきて早々、これに出くわしたネロアは、たまたま近くにいたトツカに問いかける。
「何があったんですかこれは……?」
トツカはワノが現在に至るまでの経緯を語る……
*
話はさかのぼること三日前。
「あーお金欲しいっスー」
ソファで横になり、微塵にも興味がないお昼の刑事ドラマを眺めながら、ワノはそうつぶやく。
そのソファの脇に体育座りし、スマホをいじっているピコリは言う。
「ワノ、ジャスト五分毎にそれ言うのやめてくれない? ウチ、ずっと上手な返し方考えてたけど、『そうだねー』しか思いつかなくて自分が嫌になってくるんだけど」
ワノはこの注意をガン無視し、ソファから起きあがり、
「そうだ、トツカ使ってお金稼ぎしよっス」
「話の導入急過ぎない? ウチくらい話の流れに気を使ってよ」
決断したらすぐ実行。ワノは二階に上がっていく。
ついでに、ただならぬ予感がしたピコリはワノについていく。
トツカは六人用の部屋で、ユノスから借りたスマホで漫画を読んでいた。
「トッツカー、今暇っスかー?」
「暇ですけど、ワノねーさんのくだらない金儲けに付き合う暇はないです」
「あ、そうすか、わかったっス。じゃあ、今回トツカにはバーチャルライバーになってもらいたいんスけど……」
「わかってないじゃないですか」
「しかも話の導入が急だし!」
この後、トツカやピコリに散々注意されたワノは、改めて今回の要件を、いつもどおり卑しく語る。
「今回はトツカにバーチャルライバーになって貰いたいんス。
バーチャルライバーは普通のライバーとは違って、見た目が受けやすいから人気が出やすいっス。
しかもアニメとかゲームとかでキャラデザを転用しやすいから、そういうとこでコラボしやすいんス。
どうすか? なってみたくないスか?」
これを頭が痛そうに聞き終えた後、トツカは一言。
「……まず、バーチャルライバーってなんですか?」
「「ええっ、トツカ知らないんスか?」の?」
「何を二人して驚かなくても……知らないものはしょうがないでしょうが。しかも俺の家は動画視聴厳禁だったんですし」
ここで一つ解説を入れるとしよう。
バーチャルライバーとは、2Dイラストおよび3Dモデルの姿を借りて配信活動をする者である。
主にアニメチックなキャラに扮することが多く、その手のコンテンツが好きな方々から人気を集めている。
その人気は今日、動画サイトに留まらず、バーチャルライバー専門のテレビ番組やイベントが開催されるほどである。
「て、なのがバーチャルライバーっス! それではやるっスか、トツカ!」
「やりません」
「な、何でスか? 姿出すわけじゃないからプライバシーは守られるっスし、トツカは声も良いから成功する見込みがあるっスし……」
「それも踏みとどまってる理由ですけど……そういうことじゃない。俺はワノの金儲けの手伝いをしたくないんです。
やるなら自分一人でやってくれませんか? ワノねーさんもいい声してると思いますんで」
「え! そうスか!? えへへ……」
上機嫌になったワノへ、ピコリはツッコむ。
「わかりやすくおだてられてる……」
「って! わかりやすくおだてられてる場合じゃないっス!」
「ウチのツッコミが秒でコピられた!?」
自分の商談をきっぱりと断られた以上、もはや身を切るしかないと覚悟したワノは、
「じゃあ、ギャラのひり……比率……比率を……」
「ありえないくらい噛んでるよワノ……」
自分の心の根底に住む欲望と戦い、その果てに……
「七対三でどうスか?」
「……一応聞きますけど、七はどっちですか?」
「そりゃあ、アタ……トツカっス」
以上のワノの原因明白な噛みまくり受け答えを聞き、トツカは少々答えを考えて、
「……なるほど。でしたら、試しに受けてみます」
ワノに思いっきりガッツポーズをさせた。
「そうスか……ありがとうございますっス! この御恩と配分は絶対に忘れないっス!」
こうして、ワノプロデュースの『トツカ、バーチャルライバー化大作戦』が始まってしまったのだった。
「いやー、本当に飲んでくれてありがとうっス。やっぱ六より七にしといて本当によかったっス」
「あ、勘違いしないでくださいよねーさん。
俺は一応の義理と今後の面倒さを考えて引き受けたんですから。アンタと違ってドカドカ金がほしいんじゃないんで」
*
まずワノはチャネルバットの中から、白い光沢感のあるボディと七色に輝くLEDライトが眩しい、長方形の重たい箱を取り出す。
「なにこれ? もしかしてワノのパソコン?」
「違うっス。これはアタイらがイルミネーターズ時代に行った異世界の一つ、メタバースが世界の根幹となった異世界『ユーオズ』で拾ったアイテムっス」
「ああ、ジャブ感覚でターゲットの転生者の素顔をネットに流したら、秒でそいつが世間に殺された、あの異世界のアレですか」
「そうっス。んでこいつは、自分のイメージを入力していくとパパっとアバターが作れて、ネットに接続できるようになる――名付けて『めざせメタバース教皇』っス」
「トツカ、また名前が便利グッズみたいになってるけど、これってマジな名前なの?」
「いや、勝手にワノが名付けてるだけです。本当のはもっとしっかりした名前でした……秒で行って秒で帰ったからわかんないですけど」
それからワノはネットで受けそうなキャラを目指し、マシンにデータを打ち込んでいきアバターを制作する。
完成したのは、目つきが鋭い黒尽くめの女騎士のアバターだった。
「できたっス。コイツは倒した邪竜の呪いのせいで中二病を患っている、って設定のバーチャルライバー『黒木シンシア』っス」
「その設定ならもっとハマりの人がいなくない?」
「俺も同感っス、今下でゲームしてると思うんで、呼んできますか?」
「いーやいいんスよ! コイツの中の人はトツカでいいんスよ! さ、次の段階いくっス」
次にワノは、『めざせメタバース教皇』に打ち込みをし、動画サイトのアカウントの作成をする。
「ネロアー、キリのいいところでゲームやめて貰っていいスか? ちょっとアタイら用事があるんで」
「はい、わかりました」
そして、ネロアにテレビからどけてもらい、マシンをテレビに接続。さらにマイク付きヘッドホンやサブモニターやWebカメラなどをマシン内部から引き出して、
「はい、これでOKっス!」
配信環境を構築したのだった。
「異世界の産物使っているのもあるけど、手際いいよねワノ……」
「大金が絡んでるときのワノねーさんは強いんですよ。それで、いよいよ撮影ってとこですか、ねーさん」
「うっス! まずは簡単に『バーチャルライバーはじめました』的な短い自己紹介動画を撮影して、次にゲーム配信をするっス。ちなみに配信するゲームは『END EDEN』っス」
「ワノ、一応聞いておくけどそれって許諾取りとか大丈夫なの? この業界そういうのに厳しいから気をつけてよ」
「大丈夫っス。これは公式サイトに『諸々のマナーさえ守れば許諾取りなしで配信OK』ってガイドラインに書いてあるのを読んでおいたっスから、余裕で配信できるっス。
さて、じゃあいよいよ初動画取り始めるっスよ」
ワノはトツカにヘッドホンを装着させて、Webカメラの前に立たせ、さらに予め用意した台本を渡し、撮影を始める。
「よーい、アクションっス!」
トツカは淡々と自己紹介を読み上げる。
「……えー、やあ諸君。俺の名前は『黒木シンシア』。俗世の輩どもは『流血塗れのシンシア』と呼んでいる。好物は魔物の肝臓。趣味趣向は悪魔どもの首刈りだ。これから村を滅ぼした邪竜王の討伐のため、ライブ活動頑張ります。高評価とチャンネル登録お願いします……これでいいですか」
「はいダメーっス! もっと感情込めて! 仰々しく! キャラを想像して読めっス! 簡単に言うとネロアみたいに読めっス!」
「じゃあやっぱりネロアに任せればよかったんじゃないんですか!」
「うるさい! つべこべ言わず読めっス! さもなくば今日の麦チョコ抜きっスよ!」
「なんですかその脅し!? 俺は毎日麦チョコを摂取しないと生きられないとでも思ってるんですか!?」
ワノとトツカが言い争うこと約五分後、
「やあ諸君! 俺の名前は『黒木シンシア』……俗世の輩どもは『流血塗れのシンシア』と呼んでいる。好物は魔物の肝臓。趣味趣向は悪魔どもの首刈り……だっ。これから村を滅ぼした邪竜王の討伐のため、ライブ活動頑張ってくれる……フフ、高評価とチャンネル登録お願いします……あーしんどい」
「はいOKーっス! それじゃあアタイが初投稿動画の編集が終わるまで、休憩してていいっスよ! その後はいよいよゲーム配信っス」
「はい、わかりました……」
撮影を終えてトツカは、一服のため冷蔵庫へ飲み物を取りに行く、
その間ワノは、『めざせメタバース教皇』のAI編集機能を使い、
「はい、じゃあゲーム配信するっスよ!」
秒で編集と初投稿を済ませた。
「……はぁ、後でそのマシン蹴りたいんですけど」
そしていよいよトツカは、バーチャルライバーの花形、ゲーム配信が始まる。
「あ、もはや言わずもがなっスけど、黒木シンシアになりきってプレイしてくれっスよ」
「はいはい、ネロアねーさんっぽくネロアねーさんっぽく……フハハ、さぁこの大地を血土に変貌させてくれるッ!」
このようなネロアら……黒木シンシアっぽい口調で実況しつつ、ゲームを進めていく。
このゲームは以前に散々苦労して進めていた経験から(※第109話参照)、決して上手いとはいえないが、視聴者にストレスを与えないくらいのテンポで進めていく。
音を拾われないよう、トツカから離れてソファに座るワノ(とピコリ)は、
「現在視聴者九人……いいっスよー、バーチャルライバーとして幸先よく仕上がってるっスよー!」
と、トツカを応援していく。
(こんなあざといキャラに扮して三文芝居しながら半端なプレイを見せる奴のどこがいいのか未だにさっぱりわからないんだが……ああ、早く現実見て手を引いてくれよワノねーさん)
そしてトツカは最初のボス部屋の前に到着する。
(これはネロアねーさんがやってたから、俺は初見になるのか……まぁ、操作は慣れてるから、きっちり準備して、二、三回戦えば多分行けるでしょう。
ボス部屋に入る前に、トツカはキャラの装備や、ショートカットの整理をする、
最中、敏腕吸血鬼マネージャーこと満月ワノから指示が飛ぶ。
「あ、トツカ、そこで天然よそおって武器の装備を解除するっス」
何故に今そんなキャラにも配信者にもそぐわない行動を取るのかさっぱりわからないトツカは、応答せずそのまま準備を進める。
するとワノはトツカに寄り、ヘッドホンとコントローラーを奪って、
「聞けっス! 天然よそおって武器の装備を解除するっス! って言ってるっスよねー!」
と、必要以上の大声でトツカに指示を言い聞かせる。
「何故にそうしなきゃいけないんですか」
「人気のためっスよ! 今売れてるバーチャルライバーは全員、キャラ設定にそぐわない素のおっちょこちょいを漏らして、売れてるんスよ!
いいスか、バーチャルライバーの人気ってのはキャラの可愛さとか配信の上手さとかじゃないっス! 多少無理した結果ボロ出して、キャラ演じてる中の人と設定との『ギャップ萌え』で人気を集めてるんっスよ!
だからお前もポンコツ取り入れていけっス!」
「……は、はぁ、わかりました」
ヘッドホンとコントローラーを返してもらい、トツカはゲームプレイを再開。その直後にあたかも普通なふりをして武器装備を外し、素手の状態でボスに挑む。
「さぁ異形よ、我が剣の錆にしてくれ……なっ……剣が無い! 拳ではないか! 『けん』違いではないかーっ!」
この時、微かながら盛り上がりを見せているコメント欄を見て、ワノは色めき立つ。
「うっし、作戦成功っス! このままどんどんいけーっス!」
そこへピコリは、自分が水を差してしまうことを自覚しつつワノに言う。
「……あのさワノ、これはちょっとひどくない?」
「え、何がスか?」
「バーチャルライバーの人気って、キャラの見た目とか、設定とか、声とか、あとワノが言う通りギャップ萌えの部分もあると思うけどさ……それを支えてるのは『中の人の健気さ』だと思うんだよ。
だからさ、そういった部分をヤラセしたりしたら多分人気が簡単に天井に届いちゃうと思うんだけど……」
するとワノは烈火の如く怒り出す。
「うるさいじょピコ姐ッ!
こちとら金が欲しいんだじょぉ! ありったけの富・名声・力を異世界に置き去りにしてきた分、こちらでもガツガツお金使って豪遊したいんだじょぉ!
バーチャルライバーなんかに健気さとか説法といたところでどうともならんだじょぉ!
今売れてる輩も極論言っちまえば自分の実力じゃなくて事務所の根回しとかで売れてるんだじょ!
そんでもって、奴らは今、ライバーが好きなのか事務所が好きなのか、はたまたそれを応援している自分が好きなのかわからなくなった視聴者から金を巻き上げてるんだじょぉ!
だからアタイらなんかド底辺が立ち上がるにはヤラセでもなんでも使わなきゃいけないし、それをゲスだと責める権利はどこにもないんだじょぉ!」
このワノの金銭欲にまみれたドス黒い本意を聞いたピコリは、
「……も、もうダメだ……この人手に負えない……」
とぼとぼと部屋を去った。
*
それからというもの、ワノとトツカは、
「そこはわざと落下するっス!」
「ぐわあああ! こんなところに奈落があろうとは!」
マンツーマンで黒木シンシアの配信に勤しみ、
『頑張って呪いと戦ってるシンシアちゃんマジで可愛い』
『後ろでアドバイスしているのは邪竜の亡霊かな?』
『お二人のジュース代です』
などなど、ジワジワと視聴者を増やしていった。
それから三日後。
「あのー、ワノさん、トツカさん。今日のは……」
「ごめん、ネロアねーさん。今日は特に大事な配信があるんで……」
「そうっス。ようやくチャンネル登録者数が収益化の基準に乗っかった報告をしなきゃいけないんス」
「じゃあ今日もゲームはお預けですね……はい、わかりました」
大好きなゲームが出来ず軽く肩を落とすネロアを脇目に、二人は撮影の準備をする。
「トツカ、そろそろ自分ひとりで機材のセット、出来るスか?」
「ええ、もう三日目なので……」
「じゃあちょっと頼むっス。アタイ、上で軽く台本書いてくるっスから」
こうしてワノは二階へ行き、トツカは一人『めざせメタバース教皇』の準備をする。
トツカは三日分の疲労を込めたため息をつく。
(……あの程度の義理で付き合うんじゃなかった。人気が出てきて収益化とやらもした以上これから先、ずっと黒木シンシアとかいう意味のわかんない皮を被って活動しなきゃいけなくなるのか……ただただ辛い。現実でもネットの中でもチヤホヤ囲まれるなんて……)
と、内心嫌々と設定をしている中、トツカはアカウントに紐づけたメールアドレス――普段は動画サイトから、視聴者数などの分析データが届いてくる――に、馴染みのない差出人からメールが届いていることに気づく。
「何々、『株式会社ライブセトラ……」
*
「あんな適当に作ったキャラで、たった三日で収益化出来るとは夢にも思わなかったっスね……ようし、このまま登録者数を万単位まで増やして、ついには大手ライバー事務所に入って、その権威を借りてガッポリ稼いでやるっス」
と、ゴチャゴチャ独り言をつぶやきながら、台本をかきあげたワノは一階のリビングへ入る。
「おまたせっス、トツカー! え」
その時、トツカはキレイに整えて置いたマシンの側で、正座して待っていた。
「ねーさん、アンタに一つお伝えしたいことがあります」
「え、何スか? いいニュースっスか、悪いニュースっスか?」
「この度、黒木シンシアがライバー事務所『株式会社ライブセトラ』に所属することになりました……」
「え、マジっスか! 今んとこ全く知らん事務所っスけど、とにかくよかったっスね!」
「……ただし条件を一つ付けました。『俺、満月トツカが中の人をしない』ってことで」
「え? どういうことスか? 事務所入りしたんスよね、黒木シンシアが」
「ええ、そちらはしましたとも。黒木シンシアのキャラだけ事務所入りしました。あとは事務所が声質似たライバーを新たな中の人に任命して、活動させるとのことです」
「は、はあっス!? それって皮だけ奪われたってことじゃないっスか!? そんなことが許されるわけないスよね!」
「いいえ、奪われてません。後々正式な話を付けて、事務所側が対価を払うそうです……なお、そんな入り組んだ話、高校生にさせるわけにはいかないですから、母さんを挟んで後々しようとも言ってました」
「……そ、それじゃあ、ライブ配信の収益はもちろん、黒木シンシアを売ったお金も……」
「はい、俺たちにそっくりそのまま返ってくることはまず無いでしょう」
「は、はあああ! なんだじょその不条理な話はああああ!」
突如として大金の道が途絶えた故に絶叫するワノを、これまで前線を張って頑張ってきた身として、トツカは諭す。
「ねーさん、俺はこれまでどれくらい無理していたかわかってますか?
好きでもないキャラに扮して、せっかくの秋休みを家でずっとマイクに向かって話して、事細かくアンタに命令されて……
……義理だのかんだので引き受けてこんな裏切りをした俺も俺ですけど、元々はアンタが無茶苦茶言ったせいですからね。
また次にこういう稼ぎをしたいときは、一人でやってくれませんか?」
「い、嫌だじょおおおお! こんのへらこい下郎がぁあああ!」
するとワノは、背後に召喚したチャネルバットから白黒一対の大砲を取り出し、自分の両脇に浮かせ、さらに二つから放った一筋の光を『めざせメタバース教皇』へ接続する。
「それは確か……味方につけた人々から集めた感情を力にする聖女たちが戦争を繰り広げた異世界『ハートレス』の……」
「そうだじょ……そうっス! 白は喜び・楽しい・好きといったプラスな感情を聖なる雷に変え、黒は怒り・悲しい・嫌いといったマイナスな感情を邪なる炎に変えて放つ魔導砲! 名付けて『アタシの教えを聞けーっ! カイザーカノン』っス!」
「かつてないくらい語呂悪いですよその名前」
「そんな悠長にツッコんでいられる暇あるんスか? あの『めざせメタバース教皇』の中には、前の持ち主のアバターが集めたラブアンドヘイトがどっさり詰まってるんス。それとこれを繋げたときのコンボは絶大っスよ!」
ワノは魔導砲二門を起動させ、マシンから感情を吸い上げエネルギーを貯める。
「……ん? 何やら下からとてつもない力と不吉な予感がするぞ……」
その力は二階で宿題中のサバキですら感じ取れるほどだった。
だが、トツカはそんなの食らうはずがないと言わんばかりに、冷静に床に拳を当てて、
「【利己の世戒】」
ワノの魔導砲を自分から三メートル以上の位置に、マシンとの接続を解除した状態で瞬間移動させる。
「あ、しまっこれは……!?」
発動地点から三メートル以内にいる者は、武器を一つだけ持つことを強制させられる。
トツカはワノの武器を『めざせメタバース教皇』と定義してこれを発動し、余計な魔導砲を除外したのである。
さらに……
「ここからの流れはイルミネーターズの時に、散々見てきましたよね? この理を応用して俺は……」
トツカは【利己の世戒】を転用し、自分をこのルールに適応すべく【世戒】から生成された、長さ三メートルの大槍、【利己槍テルアキ】を手に取る。
トツカはそれを握りしめ、雷を圧縮して込めて、
「【絶対至敗】」
「やっぱそれっスかぐわーっ!」
柄で思い切りワノをぶん殴った。いくらムカつくとはいえ流石に刃で斬るのはかわいそうなので。
そしてワノはヨロヨロ後ろへ後ずさりし、
「何の騒ぎだと思えば……やはり貴様かワノ!」
そのままサバキにキャッチされ、
「あ、いやこれは……ちょっとゴルフの練習を……!」
「それをするなら外か、ボールが芝の台座に紐でくっついたアレでやれ! 貴様、とりあえずここで話をしようか……」
終いにはサバキに現行犯逮捕され、厳しい取り調べからの説教を受ける羽目になった。
「……長い付き合いなんだから抵抗するならもっとマシなことしてくださいよ、ねーさん」
*
「というわけです」
「そうですか、それはお気の毒に……」
ネロアの同情に、ピコリは一言。
「悪口のつもりじゃないけど、一回お気の毒の意味調べたほうがいいよ」
「うう、アタイのマージンが……アタイのマージンが」
「とにかく、この事件は母さんにも報告する。そして厳粛かつ相応な罰を受けてもらうからな……」
「う〜、ううう、あんまりだ……あァァァんまりだァァアァ!」
と、ワノは泣きじゃくり、感情爆発の衝撃により家から出ていってしまった。
「ああ、待ってくださいワノさん!」
それをネロアは、よせばいいのに追いかけていった。
「……元ネタの吸血鬼食べられる人は、この後ちゃんと冷静になって反撃するんだけどね」
数分後。河川敷にて。
涙を流すだけ流しきったおかげですっかりクールダウンしたワノは、
「……今日のアタイは一体どこで間違えてたんスかね?」
そう問いかけられ、彼女の隣で芝に座るネロアは答える。
「裏表を作って、人に悪く思われてしまったからだと思います」
「やっぱそうなるっスかね……はぁ、前の世界でも社員のハラスメントを徹底的に防止したり、クレームは真摯に受け止めてたりとか、そういった印象づくりは十分わかってたつもりなんスけどねぇ」
「……社員やお客さんはその肩書から、してはいけないことのボーダーラインがわかりやすいと思います。ですけど、今回は身内っていう、いくらかの無茶振りがしやすい人とのコミュニケーションでしたから、そのボーダーラインを無意識に超えてしまったのがいけなかったのでしょうかね?」
「ははは、なら今回はアタイが至らなかったってことっスね。ありがとうっス、ネロア」
と、反省とネロアへの感謝を済ませたところで、ワノは芝生から立ち上がる。
「もう落ち着きましたか、ワノさん」
「あったりまえっスよ。アタイはたかが萌えキャラ一人失ったくらいで、いつまでもクヨクヨしないっス。さっさと帰って、次の金策を考えるっス」
「そうですか……その気持ちの切り替えの早さ、流石はワノさんです!」
こうして、明日に昇るために今は沈んでいく夕日を背に、ワノはネロアと帰っていった。
ワノの大金への夢は、まだ続く……
「ワノ! いくらお金が欲しいからってトツカに長時間ゲーム配信させるのはダメでしょう!」
「母さんの言うとおりだ! とくと肝に銘じろこの守銭奴が!」
「ご、ごめんなさいっス〜!」
それと説教もまだまだ続く……
ちなみに余談だが、ライバー事務所に買い取られた後の黒木シンシアは、思いの外人気が伸びなかった。
以前にあった『シンシアの中の人の隣で、「ス」が語尾の特徴的な何者かが、思いきし指示をしている』という、最大のツッコミポイントが無くなったのが原因だったという。
【完】




