第119話 レイジ・オリジン
秋休み中のある日の昼。マジナとルシェヌ、それとネロアはハンバーガショップにいた。
マジナとルシェヌは昼食がてら宿題をするために、ネロアは何となくでここにいる。
「……ネロア。私たち、最大でも一時間はここにいるつもりだけど、その間暇になったら別なとこ行ってもいいからね。君はまだスマホを渡されてないんだし」
「いえ、大丈夫です。最後まで付き合います」
「ああそう……」
数分後、三人が注文した品を店員さんが持ってくる。
「ここ! ここにしない!?」
「だねだね! ラッキー、デカい席あって!」
同時に、他校の高校生と思しき五人組が、満月姉妹三人の隣の席に座る。
五人組と満月姉妹の席は、テーブルの片側が壁に予め備えられたソファ、もう片側がシンプルに椅子二つなタイプの四人用席。
なので高校生たちは椅子側に二人、ソファ側に詰めて座る。
だが、時間が経つにつれて彼女たちはたるんでくる。
ソファ側の三人が適度な空間を徐々に空けていき、やがてそのうちの一人が、まるで満月姉妹に混ざったように、ネロアの傍にビッタリ張り付いてきた。
しかしそんなことはつゆ知らず。ネロアに張り付く女子高生は平然と談笑を続ける。
「ルシェヌさん、わからないところがございましたら僕もお手伝いしますよ」
なお、ネロアも全く知らない女子高生がくっついていることを気にせずにいた。
「ああ、そうかえ……じゃあさっそく聞くのじゃ。貴様、横は気にならんのじゃ?」
ルシェヌに言われて、ネロアはようやく横を見る。
「横……あ、いましたね」
そしてネロアはマジナとルシェヌの方へ向き直して、サラダを食べ始める。
「ちょいちょいちょい、待つのじゃネロア!」
「君、今何かおかしいと思わないの……」
マジナはネロアを促そうとしていた。だが、話している最中にネロアの本質を思い出してきて……
「……そこの君、ちょっと離れてくれないかい?」
とうとうマジナが本人に代わって女子高生を注意し、
「あはは、ごめんさーい」
女子高生はネロアから離れてくれた。
「それにしてもマジナさん。ここのサイドメニュー、ポテトもおいしいですけどサラダもおいしいですよね?」
「……あのーネロア、君さぁ、隣に見ず知らずの女が張り付いてて『嫌だ』とか『邪魔だ』とか思わなかったの?」
「いえ、なんとも思わなかったです。強いて言いますと、とても楽しそうな方々だなーっと」
「へぇ……」
「なのじゃ……」
そして二人はそれ以降、口をつぐみ、宿題のみを注視する。まるでネロアを避けるかのように。
*
その日の夜。満月家にて。
「てな感じの事件があったんだけど、ネロアって人に対して怒ることはないのかい?」
ネロアが入浴中の隙を狙い、マジナはチヨと姉妹八人に問いかけた。
イルミネーターズ時代から付き合いの長いワノは答える。
「んー、あちこちの異世界に飛び回って悪い転生者を懲らしめるときとかは、まぁまぁ声張り上げて『許しません!』みたいな感じでキレるっス。
普段だと『〇〇してくださいよ〜』って感じの、諭す系の怒り方はちょくちょくするっス。
けれども顔真っ赤にするとか、言葉荒くするとかの、ザ・怒りはアタイも見たことないっス」
やっぱりそうなんだ。と、ユノスは感心して、
「ネロアは優しい子だもんね。きっと寛大なんだよ」
「……ユノスおねえちゃん……それはちがう……」
「あれ、違うのイバラ?」
イバラでは時間がかかるだろう。と、気を利かせたトツカが、自ら代わってネロアの性格について話す。
「優しいっていうのもありますが、ネロアねーさんは感性が異常なのも原因かも知れません。
あの人は別の人間に思いきし迷惑がかかっているのであれば常識的に注意しますが、対象が自分であれば大抵のことは無痛で受け入れてしまう人ですから」
これを聞いて、マジナとルシェヌはへーと相槌を打つ。
「そうなのじゃな」
「それはすごくいいかもしれないね」
「いや、オレはむしろ恐ろしいと思うな」
コーリンはトツカが持っている麦チョコをつまみつつ、
「ってこら、せめて声掛けてくださいよコーリンねーさん」
「ああいう常に優しい類の人は裏にえげつない闇を抱えていることがあって、それが爆発するととんでもないことになる……っていうパターンを何度も経験してるんだよなオレ」
と、ユノスへ視線を移しつつ、自分の懸念を話す。
これにワノは目線をユノスに合わせて共感する。
「あー、そうっスね。やっぱそういう人って結構闇抱えてて、爆発すると面倒っスよね」
「どうして二人ともユノスねーさんを見ているんですか。あとコーリンねーさん俺の麦チョコあんま食わないでください」
何人かが自分に共感してくれたところで、マジナは皆に一つ話を持ちかける。
「てなわけでさみんな、今後、ネロアとの付き合いを良くしていくために、明日、あえてネロアを怒らせるドッキリをしたいんだけど、どうかな」
「ウチは反対かなー。だってたとえドッキリでも本当に怒らせて、凶暴化したら大変だし……」
と、経験者としてピコリは反対した。しかし、
「良いんじゃないか? あのネロアがキレたらそうそう面白いだろうしな」
「要はだいぶ前のユノスの時(※第5話参照)のようなことをすれば良いのだろう? なら、今回は許可しよう」
「ボクも賛成。ネロアのこともっと知りたいもん」
「アタシもやるのじゃ! 嫌がらせならアタシに任せるのじゃ」
「やってやろうじゃないスか。きっと有益になるっスよこれ」
「俺も賛成です。理由は以下同文です」
コーリン、サバキ、ユノス、ルシェヌ、ワノ、トツカ――発案者含めて七人が、この意地の悪いドッキリに同調した。
「ええ、みんなネロアにイタズラしちゃうの……」
「……わたしは……ピコリおねえちゃんのみかた……」
「わぁありがとうイバラ……けど今でも七対二だから、点差絶望的だけどね」
こうして、『ネロア怒らせて本性暴いたる作戦』が始まったのだった。
「ところで、あたしの許可は得なくていいのみんな?」
「あ、母さん……してもいいかいこれ?」
「程々にならいいよ。かくいうあたしも前のユノスの時の発案者だし(※第5話参照)」
*
翌日。
「十時から十一時五十五分まで、ゲームをして大丈夫でしょうか、サバキお姉さん?」
「十一時五十分からお昼のニュースがあるから。十時から十一時五十分までならいいぞ」
「ありがとうございます。ちなみに午後は……」
「確か十五時からトツカがドラマを、十六時からコーリンが録画した騎神バスターを観ると思うから、お昼を食べ終えてから十四時五十五分までならやっていい」
「わかりました。ありがとうございます」
ネロアはきっちりサバキに許可を取った上で、テレビを独占して、大好きな死にゲーを始める。
その傍のダイニングテーブルで、サバキとユノスは宿題をやりながら、ネロアのゲームの動向を監視する。
十分後。ネロアはボスへとたどり着く。
ネロアは神経を研ぎ澄まし、ボスをジリジリ追い詰めていく。
「……今だ行けユノス殿」
その最中、ユノスはネロアへ食パン一斤をお皿に乗せて持っていく。
「ネロア、お昼ごはんグラタンにするから、これ全部ちぎってくれない?」
「おっと……」
急に声をかけられ、ネロアはちょっと驚き、ゲーム内では致命傷クラスのダメージを受けてしまう。
しかしこの後のネロアは冷静にゲームをポーズ画面にし、
「はい、わかりました」
食パンをちぎってくれた。
この時、ユノスはただ見ているだけであることも含めて、この一連に怒ることはなかった。
(やはりゲーム中に邪魔される程度では動じないか。だがこれは初動に過ぎん……)
大好きなゲーム中を重点に仕掛ける――サバキ&ユノスチームの嫌がらせ作戦はこれが肝である。
この後、さっきの致命傷が響き、ネロアはボスに負けてしまった。
けれどもネロアは特にユノスに何も言わず、ボスと再戦する。
ゲームの達人として、相変わらず一切危うさを見せずボスを追い詰めていく。
それから時間を重ね、ボスのHPは残り一割というクライマックスへ差し掛かる。
「……今だやれユノス殿」
そこへユノスは餃子のタネがみちみちに入ったボウルを持っていって、
「ネロア」
先程の経験を踏まえてか、今度は話しかけられたと同時にポーズ画面にして返事する。
「はい、何でしょう?」
「夕ご飯の餃子作るの手伝ってくれない?」
「へぇ、今日のご飯は餃子なのですね。わかりました」
そこからネロアはゲームをポーズ画面にしたまま、ユノスと一緒に餃子二百個を作り上げた。
ちなみにそれぞれが作った個数は、ネロアが百六十個、ユノスが四十個だ。
「ありがとね、ネロア」
「いえ、どういたしまして」
ユノスが餃子を冷蔵庫へしまいにいくのを横目に、ネロアはポーズを解除しようとする。
そこへサバキがやってきて、
「ネロア。もう時間だからやめろ」
十一時四十九分を示す時計を指して言う。
「そうですか、ですがもう少しでセーブポイントにいけますし、まだ一分ございますので……」
流石にこれは口答えするか――この反応にサバキは少し期待を寄せて、さらに追い詰める。
「ゲームを切る時間とかも考えてくれないか。自分は頭からしっかりとニュースが見たいんだぞ」
「……そうですよね、わかりました」
しかしネロアはこの言い分にあっさり折れて、ゲームをセーブせずに切った。
(むむむ、これでもまだ怒らないか。なら、真に期待すべきなのは昼食後の仕掛けか)
人数分のグラタンが出来上がり、一同が食卓についたのは十二時半。
ネロアは今すぐゲームがやりたいから早食いする――といういやらしいことはせず、普通に皆と談笑し、三十分――平均的な時間をかけて完食した。
「ではゲームを始めますね、サバキさん」
「駄目だ、先客がいる」
サバキはレンタルビデオ店の貸出バッグを持つユノスを伴い、ネロアに言った。
「先客ですか……あれ? さっきサバキお姉さん、『十四時五十五分までならやっていい』と言ってませんでしたか?」
「言ってない。とにかく早くユノス殿にテレビを譲れ。この後もトツカ殿やコーリン殿の予定もつかえているんだから」
さっき強引に中断させられ、ただでさえゲームをやりたいという状態下で、この青天の霹靂な予定変更――さすがのネロアでも怒るだろう。と、サバキは申し訳無さと同時に、勝ちを確信した。
ネロアは『はぁ』と空気を口から漏らして、
「そうですか、でしたらどうぞ、ユノスさん」
何ともなかったように笑顔で、ユノスにテレビを譲り、自分は二階へ上がっていく。
この結末をキッチンに隠れて伺っていたマジナは一言。
「サバキ、失敗だよ」
「……ああ、わかってるとも」
ワンテンポ遅れてルシェヌがキッチンから顔を出す。
「やっぱり駄目じゃなサバキは。嫌がらせの才能が真面目過ぎて使い物にならなくなっているのじゃ。
好きなことをあの手この手で出来なくするなんて程度が低いのじゃ。現実にたまにあるレベルなのじゃ。
そんなぬるま湯じゃ絶対ネロアは怒らんぞい」
それを聞いたサバユノコンビはひどく反省し、
「そうだったのか……だったらますます申し訳ない」
「ごめんなさいルシェヌ。ボクたち詰めが甘かったです」
ルシェヌに気持ち一礼した。
「ふん、わかればよろしい!」
「私も謝りたいよ。こんなところでルシェヌが他人に謝られるところ見たくなかったもの」
*
サバユノコンビが反省している間、既に次なる刺客がネロアの逆鱗を狙う。
「デジタルゲームは出来ませんから、上にいるどなたかとアナログゲームでもしましょうか」
ネロアが階段を上がる音を、四人用の部屋で待機していたコーリン、ワノ、トツカがキャッチした。
「お、ようやくこっちにネロアが来たぞ」
「うっし、じゃあ手筈通りやるっスよ」
「了解です。ダブルねーさん」
二階に来たネロアは人気がする、四人用の部屋へ入ろうとドアノブに触れる。
その瞬間、ネロアは中にいる三人の話を聞き、動きを止める。
「実のこと言うとアタイ、ネロアのことウザいと思ってるんスよー!
コーリン姉さんとかド級の姉とかならまだしも、アタイら妹まで『さん』づけして、ほんのり敬語使っててー! 媚売ってるのかと思えてイラつくんスよー!」
「ははは、そうだよな、ネロア嫌だよな! アイツおっぱい小さいし!」
「俺もネロアのことはあんまよく思ってないです。
アイツと一緒に御飯行くと、ちょくちょく変なメニュー頼んでて、周りからの視線が気になるんですよ。
しかも料理待ちの話もよくわかんないですし」
「そうなのか。やっぱそういうとこでもよくないよなネロア! おっぱいも小さいし!」
「あーそれアタイもよく思ってたっス。
ずーっと『ロジスティクス・サーガ』とかいうゲームの話してるっスからね。
えーっと、『アンティルさんとレイザックさんが今どうしてるか気になる』とか『シュラさんの小説、何冊か持ち帰ればよかった』とか……知らんスよそんな奴!」
「だよなー、おれもわかるぜそれ。あとアイツおっぱいも小さいからよ……」
「だから俺たち、ここで暮らせてすごい安心してます。だって自然にネロアねーさんと距離おけますからね」
「あはは、そりゃよかったな。ところでアイツ、おっぱい小さくねえか?」
「……あのー、お話のところよろしいでしょうか」
コーリン&ワノ&トツカは驚き二割恐さ三割喜び五割で、ゆっくりと入室してきたネロアへ向く。
「あ、いや……ネロア、これはっスね……SDGsの真面目な議論を……」
「にしては『ウザい』や『嫌い』とか、僕の名前と混ぜて話していましたが……」
「違います、違いますよネロアねーさん。これは『ただSDGsのマークバッチをスーツにつけてるだけで、実際取り組んでいない』サラリーマンに対する苦言で……」
「……もう、正直に言ってくれませんか? 今でしたら僕も怒りませんから」
今なら僕も怒らない。つまり、僕が怒る時は今ではない。なので三人は、
「だからSDGsのバッジを着けたサラリーマンが、コンビニでレジ袋買ってたって話なんスよ!」
「そうです。俺たちは決してネロアねーさんの陰口を話していたわけではなく……」
「言ってないからな! お前のおっぱい小さいとか言ってないからな!」
普通の人に使ったのなら絶対痛い目にあうような、頑な否定を展開した。
するとネロアはいよいよ、両脇に握った拳を震わせて、
「……ごめんなさい……僕が色と気を使い切れず……素直になれなくなるくらい嫌われて……」
自分の不甲斐なさをひしひしと感じて、目をじんわりと潤わせた。
すると三人は反射的に正座へ座り直し、
「……スマン、ネロア! お前の悪口言いまくって!」
「アタイも、悪口言ってごめんなさいっス! 今だと信じられないと思うっスけど、総合的に見たらネロアのこと大好きっスからね!」
「本当にごめんなさい、ネロアねーさん。話が盛り上がって、ついひどいことを言ってしまいました」
「いいえ。こちこそごめんなさい、もっと立派な人になれなくて……」
それから三十分ほど、ネロアと三人は終わりの見えない謝り合いを繰り広げた。
この様子をドアに張り付いてマジナとルシェンは伺っていた。
「姉御たち、そろそろ一生分ネロアに謝ったじゃない?」
「うーん。シンプルな陰口で、いい線いってた気はするんじゃがなー。最後の最後でネロアの優しさが暴発したのと、罪悪感に苛まれて目的を見失ったのが残念じゃなー」
「ルシェヌ、君、本当嫌がらせのレビューはまぁまぁ出来てるよね……
おっと、こんなくだらないことに感心してる場合じゃないか。そろそろあのトリオを救出して、真打ちを出さないと……」
というわけでマジナは四人部屋のドアを開けて、
「お楽しみのところ失礼。ネロア、ちょっと頼みたいことがあるんだけど……」
「あ、はい……」
感極まり、四人で抱き合っていた最中のネロアを部屋の外へ呼び出した。
「悪いんだけど、私の代わりに、この子たちが食べる用のチョコを、スーパーまで行ってきて買ってきてくれないかい?」
「はい、わかりました」
普通なら『お前が行けよ』と言いたくなるところだが、ネロアはこれを二つ返事で引き受けた。
そこへマジナは追加条件を足す。
「あ、さらに悪いんだけど、みんなと行ってくれないかい?」
そう言ってマジナが指したのは、八竜のカードを持ったルシェヌだ。
「おいネロア、貴様がコイツらを持って、アタシと一緒にスーパーへ行くのじゃ」
「はい、わかりました。それでは早速行きましょうか、ルシェヌさん」
そしてネロアは言った通り早速に、ルシェヌと八竜を連れて買い物に行った。
言わずもがな、これは三組目の刺客――マジナ&ルシェヌの作戦である。
ルシェヌがネロアについていったのは説明不要、魔法を酷使してネロアへイタズラするため兼、見届人の役割を担うため。
八竜を連れて行かせたのは、彼らの『チョコを選ぶ時、何を買うかですごい揉める(※第79話参照)お約束』を生かし、ネロアを困らせるためである。
「ふふふ、いくらネロアであっても満月家の二大迷惑キャラを連れて歩けば怒る……と思うけどなぁ。どうだろうかな?」
結果はこの後ルシェヌに聞くまでのお楽しみとし、マジナは侍と吸血鬼と美少女がいる部屋に入って、
「で、この後ネタバラシする時どうするの、姉御たち? 滅茶苦茶やりづらいのは目に見えてるけど?」
「「「はい、すみません」っス」」
*
数十分後。
「おまたせしました! マジナお姉さん!」
無茶な買い物から帰ってきたネロアがニコニコして、四人部屋へ顔を出す。
「あと姉御、『おっぱい小さい』以外の悪口は思いつかなかったのかい?」
「それで頭がいっぱいだったんだよ。ありえないくらい育ちが悪いんだから……っておい、マジナ、後ろ」
「え……あ、ありがとうネロア。八竜とルシェヌの様子はどうだった?」
「ああ、皆様はと言いますと」
「イダダダ! だからやめてくれなのじゃー!」
「可愛そうなことに、あの通りです」
マジナとネロア、それとコワトトリオは窓を覗いて外を見る。
ルシェヌは八竜に襲われながら家へと歩いていた。
前の一件もあり(※第114話参照)、スーパーへ行くまでの間、ネロアは八竜と仲良くなった。
その最中に、ルシェヌが手を滑らせたらしく(とーぜん嘘)、ネロアに氷の槍を投げてしまった。
ネロアはこれを難なく防御し、事なきを得たものの、『よくもネロアさんを!』と八竜は怒りだした。
それから流石にスーパー店内とか、人の目が多いときとかでは大人しくしてくれたが、そうでないときはずっとああいう風にルシェヌをこらしめているのだ。
「一応、僕は何度も注意して止めましたけどね……」
「あらら、これは私の采配ミスだ。ごめんねルシェヌ。あ、そうだ。ネロア、君は八竜にどんなチョコを買ってあげたんだい?」
「シンプルな『麦チョコ』です。みんな喜んでくれました」
「麦チョコか。これじゃあ買い物そのものの意味もなくなったね」
「だから勝手に俺の麦チョコを私物化しないでくれませんか? ねーさん」
その後、マジナは八竜をなだめルシェヌを救出し、
「……っていうわけで、今日、私たちは総掛かりでネロアに嫌がらせをしていたんだ。本当にごめんよ」
ネタバラシと謝罪した。
「ああ、そうでしたか……ならこちらこそごめんなさい。僕が期待通り怒っていれば……」
「ネロア殿、貴様は謝らなくていいんだぞ」
「……ますます申し訳なくなってきたっスよ。ここまで優しい人を怒らせようとしたんスもの」
「僕だって申し訳ないですよ、さらに言いますと……」
それから八人はお互い謝罪を言い合う合戦を……
「ネロア、ワノ、頼むから別な類の反省をしてくれ。時間がもったいない」
「「ごめんなさい」」
こうして、ネロアへの嫌がらせ作戦は、『必要以上の詮索はする方もされる方もよくない』、『ネロアは優しい』という総括をもって終結した。
それはそれとして、ユノスはネロアへ尋ねる。
「ちなみにネロア、自分が一番怒った瞬間ってなあに?」
「はい。これは断言できます。『ロジスティクス・サーガ』内で、命国ミレアの化神官、『ヴァイス・O・ヘブン』さんが非人道的な階級制度を用いた政治を行っていまして……」
「そんなの誰だってブチギレるぞネロア」
「あとやっぱり、『ロジスティクス・サーガ』の作中用語をポンポン出さないでくれませんかネロアねーさん」
【完】




