第112話 満月姉妹withゲーム 〜陣取りボードゲーム編〜
前回、前々回、前々々回に引き続き、満月家にて。
「てなわけで遊んでみるか。オレの勘的に、他の奴らが帰ってくるのはまだまだ後だからな」
数分前に帰ってきたコーリンと、ピコリ、ネロア、ワノ、イバラ、トツカの六人は、ロスイから送られたゲームの内、最も箱が大きいゲームを開封していた。
そのゲームの名前は『マケン』。
いくつかの六角形が組み合わさって構成されたフィールドで、各プレイヤーが土地を耕し、資源を得て、時には戦争を交えて、国力を増やしていくゲームだ。
ピコリはこのゲームに使う細々としたアイテムを整理しながら、
「勘的にって……コーリン姉さん、それ信頼して大丈夫なの?
これ割と時間かかるゲームだよ? もしサバキ姉さんとかが帰ってきたらどうするの?」
「信頼しろ! オレは戦に強いから、速攻でカタをつけてやるからさ! ハハハ!」
「……つよきだね……」
「コーリンねーさんは異世界だと侍として大立ち回りしていたという。なら、言い分は合ってますけどね……」
猪武者――いくら毒舌よりなトツカでさえも、この三文字を口に出すのははばかられた。
それから、六人は配置し終えた六角形のフィールドに個々人の本城をセットする。ついでに初期資源もここで獲得する。
ターンの順番をトツカ、イバラ、ワノ、ネロア、ピコリ、コーリンと決め、いよいよゲームが始まった。
このゲームにおいて自分の番に出来ることは四つ。
一、自分の陣地の資源を得る(数量はサイコロで決定)。
二、資源などを他プレイヤーと交換する(量はルールで定められておらず、あんまりなシャークトレードも理論上は可能)
三、道や街などを建設する(資源はここで消費される)
四、敵の土地へ侵攻する。
と、思ったよりも色々条項があり、かつ、これらに関して細かいルールがあるのだが、まずは一巡目ということで、五人は資源を溜めるだけしてターンエンドする。
「よーし、オレはここに街を建てちまおうっと」
しかしコーリンは得て間もない資源と初期資源を全て使いつくし、比較的他プレイヤーからの攻撃に晒されやすい位置に、街と、それと本城を繋ぐ道をまとめて建設した。
「ははっ、どうだ! これぞ速攻って奴だ!」
このゲームの勝利条件は土地、街、城などを所持すると貯まる発展度ポイントを十点以上持った状態でターンエンドを迎えること。
また、敗北条件は本城を他プレイヤーに奪われることである。
なのでこの時コーリンは、確かに速攻していた。
勝ちにいち早く近づいているといえばそうではある。しかし、このゲームの肝とも言える、交易に参加するための資源がなくなってしまった。
「ピコリお姉さん。僕の木材三つと貴方の石材二つを交換していただけませんか?」
「うん、いいよ!」
「いーなー、お前ら、そうやって物々交換出来るモンがタンマリあって」
こうして数ターンの間、コーリン国はちびちび資材を収穫するだけの存在と化した。
それからゲームがいくらか進んだところで、コーリン国を除く五国は街と道を次々と建て、順調に流れに乗っていた。
「イーバラっ、あなた鉄が足りていなくて大変みたいっスねー。
もしよければアタイの鉄一つと木材五つを交換しないっスかっ?」
「……わかった……このひきょうもの……」
中でも今最も覇権に近いのはワノ国だった。
持ち前の商才を生かして、次誰がどの資源を欲しがるかを予測して、交易用の資源を確保する。
いざその時が来たのなら、高いと思いながらも交換をせざるを得ない、絶妙なレートで不平等交易を押し付けて、膨大な資源を手に入れていた。
当然、このままワノ国に天下を握らせはしない。そう思った他四人(※資材確保で手が回らないコーリンを除く)は、自国の発展よりもワノの対策へ注力し始めた。
トツカは堅実に壁を築き、ワノの進行から自国を守ろうとする。
「……よし、いよいよだ……」
イバラは溜めた資源をはたいてワノ国の土地へ道を作り、そこを伝って急襲する。
戦争の決着方法は、侵略国と防衛国の土地に記載された兵力に、振ったサイコロの目に応じて倍率をかけて比較し、数値が多いほうが勝ちとなる。
イバラは自分の兵力が多い土地を使い、ワノの兵力が少ない土地を攻めた。
だからサイコロの出目に関わらず、イバラはワノに勝利した。
さらに、今回イバラが攻めた土地はワノ国の懐に潜り込める土地。
ワノの覇道にイバラは楔を打ち込んだのである。
「……ターンエンド……」
「ほー、さっすがイバラ。人柄がよく出てる作戦っスね。ならアタイは……」
続いてワノのターン。
ワノは先程イバラがしたような道作りを、ピコリ国めがけて実行する。
「えっ!? ここでウチ!?」
「……!? ピコリおねえちゃん……!」
「イバラ、アタイはこの戦争が終わったら、イバラとアタイの国境の間に壁を築くつもりっス――もちろん、ピコリ国を滅ぼす時間を作るためにっス」
ピコリを愛してやまないイバラは、当然、ワノの企みに反発する。
「……やめろ……ワノおねえちゃん……!」
「なら交渉しようっス。イバラ、さっきお前が奪った土地と、それ用に使った道と土地をアタイに譲るっス。
そうすればアタイはこの道からピコリを攻めないっス」
いつになくワノらしい下劣な取り引きだが、それでもピコリを傷つけられるのなら仕方がない。
「……わかった」
イバラはしぶしぶ、自分の一ターンが無駄にされることを受け入れた。
その後、ワノは、新たに出来たイバラと自国の境界に壁を築き、ピコリ国へまた別の道を作り、ピコリ国の土地を掠め取った。
「……ワノおねえちゃん……やくそくどこいった……!」
「アタイは『この道からピコリを攻めない』と言ったんス。これは別の道だからさっきの約束とは無関係っスよ。
流石の流石に、アタイも約束は守るっスもんね〜」
「……ぐぬぬ……」
ワノの卑劣さにイバラは唸り、銃がある方へ手を伸ばそうとする。
ピコリはそれを優しく止める。
「イバラ、ウチのために怒ってくれてありがとう。けど大丈夫。
だってどーせワノのことだからこんなビターな感じになると思ってましたんで」
次はネロアの番。彼女の国はワノとは距離があるためか、特に何もせず、資源を温存してターンエンドした。
そしてワノ国の侵略の魔の手が迫りつつあるピコリの番。
他のみんなと同様、壁を作ろうとする。
だが、先程押さえられた土地が、ピコリ国で唯一石材を採集出来るものであるため、ピコリは石不足に陥り、壁を作れなかった。
「あ、ピコ姐。穀物五つで石材一つと交換してあげるっスけど、いかがっスかー?」
「いらんわ! ますます不利になるし! 戦争は穀物使わないとできないんだから!」
という訳でピコリは意図不明の道を国の前方に伸ばし、亡国の時を待つようにターンエンドした。
そしてコーリンのターン。
だいぶターンが経過したため、資源不足こそ解消されたが、コーリン国もネロア国と同じく、今現在ゲームを席巻しているワノ国から遠い。
なのでコーリンはいつか彼女の土地に届くことを信じて道を作り、ターンエンドした。
順番は一周し、再びトツカのターン。
「あくまでゲームなので、仕方ないと言えばそうですが……このままワノねーさんをのさばらせたくはないので」
トツカは自分の国と隣接する、ワノ国の土地に戦争を仕掛け、そこを奪う。
しかし今のワノは土地一つ失おうがどうてことない。
これからピコリ国・イバラ国の本城を手塩にかけて奪取し、確実に勝つつもりなのだから。
風前の灯火となったイバラにターンが巡る。
イバラは資源を収集し、
「……ターンエンド……」
先程の急襲で主に穀物などの素材を大幅に使ってしまい、やれることがなくなったのだ。
「万事休すって奴っスね。けーどー、今のところ、イバラに『ご愁傷さま』を言うつもりは更々無いっス」
ワノは自分のターンがやってくるや否や、再び彼女の土地へ戦争を仕掛け、ついにピコリ国本城の前に食い込んできた。
「イバラはさっきの攻撃で当分動けない。だったら、ギリ動けるピコリを狙えば邪魔されずに攻められるっスもんねー」
「むむむ、またしても小癪なことして……」
ネロアのターン。
「申し訳ございません皆さん。ワノさんの快進撃を止めたいのは山々ですが……僕は位置が遠いので」
と、ネロアは釈明し、申し訳程度にワノ国の方角へ街と、それに通ずる道を作ってターンエンドした。
ピコリのターン。
「……っていっても。ウチにやれることはもうない。
石材が足りないから防御もできないし。戦争を起こしてもワノとイタチゴッコにしかならない……ぐぬぬ!」
ピコリは投げやり気味にさっきの道を延長して、ラストターン(仮)を終えた。
「お前ら! 見ての通りアタイは次のターンでピコリの本城を取れるっス! 勝利を間近にしているっス!
次のアタイのターンが回ってくるまでに、止められるもんなら止めてやるっス!」
「おうとも!」
と、ターンが回ってきたコーリンは威勢よく返事し、
「ピコリ、お前の道をオレによこせ!」
これまた威勢よくピコリにお願いし、ピコリが伸ばしていた意味不明な道をゲット。
さらにコーリンはもう一つ道を作り、自分が伸ばしていた道とピコリの道を連結――その先にあるのは、ワノ国のピコリ国侵攻の中間に位置する土地。
「そこだ! そこでオレは戦争を仕掛けるっ!」
ワノの土地はもとより戦争用に支配していたため、兵力の数値は高めだった。しかし、この時を待って準備を進めていたコーリンの土地は、もっと兵力が高かった。
なのでいくらサイコロを振って倍率をかけたといえど、ワノの土地はすんなりとコーリンに奪われることとなった。
このゲームにおいて飛び地は許されない。
コーリンの戦争勝利により、分断されたワノのピコリ本城間近の土地は、誰のものでもなくなった。
「へぇ……この分断攻撃、なかなかやるっスね。コー姐、ピコ姐、いつこんな作戦を思いついて打ち合わせたんスか?」
と、ワノが二人に尋ねると、ピコリは困惑して、
「え……ウチは特に何も……」
「じゃあ、コー姐は……」
「勘だ。それも戦人の勘だ!」
「へ、へぇ……勘っスか……んなまさかっスよね?」
ワノが困惑する中、ターンが来たトツカは、イバラに余った穀物を渡した後、ワノ国に戦争をし、再び土地を奪う。
続いて、イバラも、ワノとの国境の壁を破壊。トツカから受け取った穀物を使って戦争し土地を奪う。
「精々しますよ。ワノ国の一強時代がようやく終わりを迎えそうになってね」
「……しかえしだ……ワノおねえちゃん……!」
ワノのターン。彼女はまだ余りある資源を用い、イバラ国とトツカ国の国境に壁を建て直す。
そして今度はコーリンの方へ通ずる道を建設し、
「戯言を言うんじゃないっスよお前ら! アタイはまだまだやる気も財産もバリバリあるっス。だからアタイの天下も、このゲームまだまだ終わらないっスよ!」
と、堂々と啖呵を切り、ターンエンドした。
ネロアのターン。
「では、一気に参ります!」
ネロアはコツコツ溜めていた資源を一気に使い、自国本城の周囲に支城や街を一気に建設し、発展度ポイント十点を超過する。
条件達成により、ネロアの勝利だ。
「し、しまったっス……」
「ワノとの戦いに夢中になりすぎて、このゲームの勝ち方がそれだってこと、すっかり忘れてた……」
「え、ど、どういうことだピコリ? まさか、今のでネロアが勝ったのか?」
と、コーリンはネロア以外の四人に聞いて回る。
しかし、全員、熱中のあまり『マケン』の勝利条件を忘れていたことと、本日のゲーム全てにおいてネロアにいいトコ取られっぱなしだったことにガッカリしているので、まともに相手をしなかった。
戦人の勘は良くても、その他の勘が鈍いコーリンであった。
【完】




