第111話 満月姉妹withゲーム 〜名前当てアナログゲーム編〜
前回、前々回に引き続き満月家にて。
まだ学校に入学しておらず、暇極まれりなネロアたち四人と、学校から帰ってきたばかりのピコリは、ゲームで遊んでいる。
「……ピコリおねえちゃんかえったから……まぜてあそべるゲームがいい……」
「そうっスね。せっかくなんでピコ姐で遊ぶとしますか……」
このワノらしかぬ協調心にピコリはうんうん頷く。
「ピコリねーさん。今ワノねーさんは、ピコ姐『で』遊ぶと言った……」
と、トツカが言った途端、ワノは仰々しく声量を上げて、
「んーっ! ごぉーにんで遊べるゲームは無いスかねーっ!
あ、これは最大六人対戦出来るっぽいゲームっスね! えーっと『騎神バスターステート バトルロイヤル』……」
「あ、ちょい待ち!」
「お、やっとピコリねーさんが気づいた」
「多分そろそろみんな帰ってくるから、テレビ空けないと色々言われちゃう。だからもうゲームはやめた方がいいかも」
「そっちですかい」
「そうスか。じゃあ今日はここまでにしとくっスか……」
ワノは軽く残念そうに段ボール箱を閉じようとする。
「ワノ、それもちょい待ち。家にはちゃんとゲームソフト入れる用のケースあるから、そっちにしまった方がベストだと思う」
「細かいっスね。サバ姐スか」
「実際サバキ姉さんが言うんだよ。『引っ越し直後のだらしない人の部屋みたいに、段ボールを放置するな』って」
ワノはテレビ台に入っていたソフトを入れる用のボックスを引き出し、段ボールの中のゲームソフトを次々と入れていく。すると、
「あれ、この荷物、よく見たらゲーム以外の物も入ってたっスね」
と、言いつつワノは、イマイチ言葉に表しづらいキャラクターが何体も描かれた、トランプぐらいの大きさの紙箱を、四人に見えるように出す。
「なんだこれ……『ナズケタナントカ』?」
「可愛らしいキャラクターですね」
「……ぐにゃっとしてきしょい……」
「へぇ、ロスイさん、テレビゲームだけじゃなくてボードゲームも送ってくれたんだ。さっすが社長、センスあるー」
ナズケタナントカ――意味不明なキャラのカード十二種(一種五枚)に名前を付け、めくられたカードのキャラ名を思い出して素早く言い当てるボードゲームである。
「いろんな人がこれのプレイ動画上げてるんだよねー。だからそれ見てウチもやりたいなーって思ってたの」
「じゃあ買えばよかったじゃないスか」
「何その冷たいマジレス。確かに買おうと思って何回か雑貨屋行ったことあるけど、どうもいい感じの文房具の方に目を奪われちゃうの……
じゃあどうする? これならテレビ独占せずに、部屋の隅の方でも遊べるから、今からやってみる」
「いいですね! 評判なのでしたら是非ともやりたいです!」
「……やりたい! ……やりたい! ……ピコリおねえちゃんとあそびたい!」
「おっけっけー。よし、じゃあ早速やろう!」
というわけでピコリは四人にナズケタナントカのルール説明をし、リビングの隅辺りでプレイする。
このゲームの基本的な進め方は、順繰りに山札からカードをめくっていく。
今回の順番はピコリ、ネロア、ワノ、イバラ、トツカ。
なので正真正銘の山札の一番上を、ピコリがめくる――『サウナの温度計を力技でゆるくしたようなキャラクター』を表に出す。
ここで表になったキャラクターが初出であれば、めくった人が名前をつける。
「ま、この場合はウチが名前付けるの確定だけどね。それじゃあ、『地中豆』」
「ピコリお姉さん、そういう風にパッと付けていいのですか」
「そっそ、適当に付けていいの。後々覚えやすい名前でも、周りが覚えづらい名前でも」
「へぇ……なるほど」
と、言いつつネロアは山札をめくり、『朝の天気予報のマスコットとしてギリいなさそうな竜巻っぽいキャラクター』を表にして、
「この方は……『ゲイルリンド・A・ハング』としましょう」と、名付けた。
次に山札をめくるのはワノ。
山札の厚みはまだまだあるため、またしても別なキャラクター――『ドラゴンフルーツのように外見と中身のギャップがすごそうな果物のキャラクター』を表にして、
「じゃあコイツは『ナナーシャ・コロネッタ』にするっス」
続いてはイバラが山札をめくる。
これまた初出。なのでイバラはこの、『最小限の図形だけで作ったような王子様風のキャラクター』に、
「……『エルンライト・マグナルタ』……」
と、命名した。
そしてトツカに番が回ってくる。
五人ともこの流れから予想していたが、またまた初出。
よってトツカは、『ファンタジー作品などで勇者にみみっちいイタズラをしてきそうなサングラスをかけたキャラクター』へ、
「こいつは……『久門将郷』だな」
再びのピコリの番。彼女がめくったカードにかかれていたのは、『朝の天気予報のマスコットとしてギリいなさそうな竜巻っぽいキャラクター』――既出。
既出のキャラクターが出たときには、そのキャラクターの名前を言う。
「……『ゲイルリン……」
「『ゲイルリンド・A・ハング』さん!」
「『ゲイルリンド・E・ハング』っス!」
そして一番早く、正確にそのキャラクターの名前を言えた人は、めくられて溜まったカードを全て手持ちにする。
これを繰り返して山札がなくなった時、一番手持ちが多い人が勝ち――というのがナズケタナントカのルールである。
よって、誰よりも早く正確に名前を言えたネロアは、溜まっていたカード六枚を一気にゲットし、他の四人を突き放す。
「くっそー、『E』じゃなくて『A』だったんスか」
「ネロアねーさんが先だったんで、仮に間違えなかったとしても取れなかったですけどね。ワノねーさん」
「……つぎはもっとはやく……」
「いい滑り出しです。それでは続いて僕が……」
その時、ピコリは神妙な面持ちで挙手して、
「……その前に、ウチ言いたいことがあるんだけどいい?」
「いいですよ、どうかしましたか?」
「……みんな何故にガチの人物の名前っぽい名前付けてるの?」
「……え、そりゃあ……なんとなくっス」
「……わたしも……てきとうに……」
「俺たちはピコリさんが言った通り、適当に名前を付けただけなんで……これがなにか問題でもあるんですか?」
「そこまで問題があるわけじゃないけど……このゲーム、ハチャメチャなキャラクターにギリかすってる感じのヘンテコネームを付ける、大喜利的な要素もあるからさ……
つまりそのー、もうちょっとふざけても良いんだよ?」
このピコリの若干ウザみのあるプチ説教に、ネロアは生真面目に頭を下げる。
「申し訳ございません。そうとは知らずについ……前の異世界で会った方の名前を拝借して命名していました」
「ごめんね、ウチもごめんね。そこんところの説明してなくて……って、『ゲイルリンド・A・ハング』さんって実在の人物だったの? どんな人?」
「『錦山橙瀧』さんの息子さんです」
「それも誰なの!?」
*
気を取り直して。ネロアの番からゲームが再開される。
「『地中豆』!」
「『ナナーシャ・コロネッタ』っス!」
「……『エルンライト・マグナルタ』……」
「『久門将郷』!」
運が良いのか悪いのか。直前のターンで名付けたカードがそのまま出てきて、その名付け親がそのまま取ってしまうという、結果つまらない展開で終了した。
三巡目。ピコリがめくったカードは『田舎の海水浴場の付近にある、夏と無縁なお店が便乗して仕入れた微妙な柄のビーチボールのキャラクター』――初出のキャラクターである。
「初出のカードか。ここは後の人が取りにくいようにちょっと長めの名前にしよ……『禁断の扉の向こうは、この世かあの世か』」
「えー、そういう戦術的な名前もアリなんスかー!?」
「さっきピコリねーさん『ふざけた名前にして』って言った癖に、これは卑怯じゃないですか」
「アリアリだよこれも! 実際『名前の長さ』でふざけてるし! はいじゃあ次はネロアねー」
「わかりました! はいっ!」
この時ネロアがめくったのは『田舎の海水浴場の付近にある、夏と無縁なお店が便乗して仕入れた微妙な柄のビーチボールのキャラクター』のカード――言わずもがな既出。
「ええと、何だっけ……『禁断のドアの……」
「ほら言わんこっちゃないっス、名付け親本人が思い出せないってどうかしてるっスもの!」
「マウント取ってる場合ですかワノねーさん。俺たちも早く言い切らないと、ネロアねーさんの六枚差の牙城は崩せませんよ」
「ううんと……確か……『禁断の扉の……」
と、四人がこのキャラクターの名前を言いあぐねている中、
「……『きんだんのとびらのむこうは、このよかあのよか』……」
イバラが見事に長い名前を言い切り、カードを二枚を獲得した。
「うわすっご。ウチたった一回しか言ってないのによく覚えられたねイバラ」
「……やった……ピコリおねえちゃんにほめられた……だってわたし……ころすひょうてきのなまえ……ぜったいわすれないから……」
「けど理由が怖いなぁ」
この時、ワノはすこぶる焦っていた。
ナズケタナントカに慣れているピコリ、そもそもゲームが得意なネロア、記憶力が良さそうなイバラ、そしてなんかなんでもできそうな感じのトツカ……
そして自分――ワノは、このゲームで活かせる取り柄がない。つまりビリケツになる可能性が大なのだ。
そんなことは無難にプライドが許さない。よってワノは背後に召喚したチャネルバットから、インカムめいた機器を左耳に装備する。
情報戦が物をいう異世界で用いられていた、敵の生年月日や物質の主成分を瞬時に分析・視覚化できる装置――名付けて『めぼしいスター発見くん』である。
(これでカードがめくれる度に、その名前を誰よりも早く確認し、言う……これなら楽勝っス)
と、ワノがあからさまなズルを踏まえ、あまりにも早すぎる勝利を確信をする中……
「次はワノねーさんの番です」
「あ、アタイっスか! そんじゃあいきまっスよ〜!」
ワノは気を改め、山札をめくる。
オープンされたのは『竜巻のキャラクター』。
(※もういちいち全貌書いてると字数稼ぎみたいになってくどいので、今後はこのように略していきます)
「『ナズケタナントカ』っス!」
真っ先に口を開いたのはワノ――インカムから伝えられた商品名を素早く声に出して読んだ。
「『ゲイルリンド・A・ハング』!」
数コンマ遅れて、ピコリはこう言った。
なのでこのカードの獲得者は、誰よりも早く正確に名前を言えたピコリだ。
この結果をワノは納得せず、左耳のインカムをコンコンつついて、
「あ、あれ……? おっかしいっスね。これ付けてればその物の名前が出てくるはずなんスけど」
「まぁ、出てはいましたよね……このゲームそのもの名前ですが」
「そしてなーに堂々とズルしてるんですかワノねーさん」
この後、ワノも含めて五人は真剣に取り組み、そして……
「ま、まずいことになったっス……」
ピコリの持ち札、十一枚。
ネロアの持ち札、十三枚。
イバラの持ち札、十二枚。
トツカの持ち札、十枚。
そして、ワノの持ち札……九枚。
残り山札の枚数五枚にして、ワノの予想が現実になってしまおうとしていた。
(嫌っス、このままビリケツで負けるのは絶対嫌っス……かくなれば残り五枚、絶対に取らなきゃダメっスね……)
場に緊張感が漂い、約一名が勝手にその上に責任感を抱える中、ピコリはカードをめくる。
描かれていたのは、『スイカでもないしメロンでも無いけどなんか夏に食べたくなりそうな緑色のフルーツのキャラクター』。
「『メロン星人』!」「『網帽子くん』っス!」「『スイカ男』っ!」
と、ピコリ、ワノ、トツカの三人は、めくられた刹那に、そのキャラクターの名前を叫んだ。
「……あれ、これ誰が合ってるの?」
「そりゃアタイっスよ。コイツは絶対『網帽子くん』っス」
「それは前にワノねーさんが言った『タイツ被り常習犯』と混ざってるじゃないですか。これは『スイカ男』」
「いやメロン星人だってこれは。だってウチ、これに誰かが名付けた記憶がバッチリあるよ?」
「……どうなんでしょうか。僕、この人の名前は覚えていません……イバラさんは?」
「……わたしも……しらない……」
このキャラクターには誰が名付けたか、誰が正しい名前を言えたか。
その真偽を問うべく三人は割と激しめの論争を繰り広げた。
その勃発から約五分後。
「ただいまー」
コーリンは帰宅するや否や、
「『メロン星人』!」
「『網帽子くん』っス!」
「『スイカ男』!」
「何やってるんだアイツら……?」
理由不明に謎のキャラクターの名前を血眼で言い合う三人の姿に困惑した。
争うことは割と好きだが、見苦しい争いだけは例外なコーリン。
彼女は三人を止めるべく介入し、事情を把握した。
「じゃあもうコイツの名前は『緑丸』ってことにしろ」
そして妥協案として、例のキャラクターの名前を改めて付けてあげた。
「えー、コーリン姉さん。それはセンス無さすぎない」
「うっさいなぁ。覚えやすくてゲームがやりやすくなっていいだろ」
「そうですよピコリねーさん。そもそもコーリンねーさんにセンスを問うこと自体がセンスがないですから」
「トツカ、今のはちょっと傷ついたぞ……?」
これにてゲーム再開。さっきのカードは今名付けた扱いで溜めて置いた。
(ところで、あの人は本来どんな名前だったのでしょうか……)
ネロアはそう素朴な疑問を抱きつつ、山札からカードをめくる。
先程の緑色のキャラクターが表になる。
「『緑丸』!」と、ネロアがいち早く名前を言い、先のも含めて二枚獲得する。
次にワノが山札をめくる。出たのは先程の緑色のキャラクター。
「『緑丸』!」と、ネロアがいち早く名前を言い、一枚獲得する。
続いてイバラが山札をめくる。描かれていたのは先程のキャラクター。
「『緑丸』!」と、ネロアがいち早く名前を言い、一枚獲得する。
そしてトツカは最後の一枚を表にする。そのカードにいたのは先程の緑色のキャラクター。
「『緑丸』!」と、ネロアがいち早く名前を言い、一枚獲得する。
これにてゲーム終了。優勝は十八枚所持のネロア。ビリは九枚所持のワノである。
この決着を側で見ていたコーリンは一言。
「こんな妖怪の名前の言い合いして楽しいかお前ら?」
「楽しいワケないでしょ今回は!」
「本来はもっと盛り上がるはずだったんスよ!」
「けど今回は運が悪かったんです!」
ラスト五枚のカードは全て、偶然にも先程の緑のキャラクターだった。
それが、コイツの名前を誰も思い出せなかった理由であり、こんな締まらないゲームセットになった原因である。
【完】




