第109話 満月姉妹withゲーム 〜再・死にゲー編〜
満月家の平日の昼頃、絶賛お留守番中のネロア、ワノ、イバラ、トツカは、だらだらしていた。
単純に、入学前の暇である。
「ねぇトツカ、なんか長尺めのすべらない話してくれないスか?」
「無理です」
このようにワノが無茶振りするのも無理はない。今の四人は、一切合切超絶怒涛にやることが無く、暇なのだから。
「じゃあテーマやるっス。『鮭』でなんか話してみて欲しいっス」
「そんな急に振られても誰も展開できないと思うんですけど」
「……このまえコンビニいって、さけおにぎりかって……」
「「お前が話すんかい!!」」
ここでドアの方からインターホンが鳴る。これには一番素早く動けたネロアが応対する。
ネロアは中くらいのダンボール箱を持ってきて、
「僕たち宛に祝福が来訪した」
「え? アタイたち宛っスか? 母さんとかじゃなくて?」
「はい。お届け先に僕たちの名前が書いてあります。ほら」
「素に戻るの早くないですかネロアねーさん?」
荷物に貼られた伝票のお届け先の名前欄には、かっちりとした字体で四人分の名前が書かれており、その筆者と思しき送り主の名前欄には『飯島ロスイ』と書かれていた。
「おおっ! まさかの社長からのプレゼントっスか! 太っ腹っスね〜! 早速開けてみようっス!」
「……あの社長からか……何だか嫌な予感がするんですけど」
「気のせいですよ。トツカさん」
期待、不安……といった感情を各々抱きつつ、箱を開封する。すると真っ先に、薄く平たい四角のパッケージが現れた。
満月姉妹随一のゲーム好き、ネロアはこれにいち早く反応する。
「お! これはBC5のソフトですね!」
「BC5? ああ、飯島社長がコーリンねーさんたちの高校入学祝いにと送ってくれたあのゲーム機ですか(※第35話参照)」
「あー、アタイもピコ姐から聞いたことあるっス。あの六人の入学前の退屈しのぎにってロスイさんが送ってくれたって(※第35話参照)……じゃあ今回もそのパターンなんスかね!?」
イバラは箱をあさり、見つけた手紙を読んで見る。
「……『ネロアちゃん、ワノちゃん、イバラちゃん、トツカちゃん。とくにいわうことはないけど、ていさいじょうおめでとうといっておきます……にゅうがくまでのひまをどうぞこれでつぶしてください いいじまロスイ』……」
「おっ、アタイの予想通りのパターンだったスか! よーし、それじゃあ早速遊んで、このえげつない暇をぶっ潰すっスよ!」
「「「おー!!!」」」
まず四人は一番目に止まった『END EDEN』という、騎士が中央に配置されたパッケージのソフトを本体に入れる。
オープニングムービーが流れている中、しれっとコントローラーを握っているワノは言う。
「これどんなゲームなんスかね? 雰囲気は海外製のファンタジーなのはすごい伝わってくるっスけど。ネロアは知ってるスか?」
「ええ、ご存知です。これは『CHIZAKURA』など、丁度いい難易度のゲームを何作も作っていることでお馴染みの日本のゲーム会社が作った、オープンワールドのアクションゲームです。
最近発売されて話題になってますね。僕もいずれはやりたいなーっと思ってました」
「へー……高難度スか」
ならお前がお手本見せてくれっス。と、言うかわりに、ワノはコントローラーをしれっとネロアに渡した。
壮大な神話を語るオープニングムービーが終ったあと、ネロアは主人公の騎士を操作し、牢屋を出る。
それからネロアは高難易度の洗礼として配置されただろう、多数の敵や理不尽じみたトラップを『そう来るのも含めて全部わかってますよ』と言わんばかりに軽々突破。
ついには最初のボスを無傷で倒してしまった。
「……すごい……」
「どうでしたか、確かに難しいかもしれませんが、やってみれば簡単ですよ? ではずっと僕がやっているのもアレなので、みなさんも是非……」
ネロアは後ろの三人にコントローラーを渡そうとする。しかし三人は手を出すことすらしない。
「あれ、どうかしましたかみなさん……?」
「ネロアねーさん、相変わらずゲームうまいですね。いつもゲーム買ってやる度に、こう息を吸って吐くぐらい簡単にクリアしているんですか?」
「はい。前にこの会社が作った、同じく高難易度のゲームを始めた時もこんな風にやってました。
本当は死にイベントだったはずの最初に出てきた狼を武器無しで倒してしまって、そのまま手刀でボスを倒してしまったこともありました」
「そ、そうですか……」
と、トツカはネロアの異次元さに戸惑った後、ワノとしばし目を合わせて、
「あ! そうだネロア! 確か今日のお昼のカップラーメンが切れてたらしいっスからー、ちょっと買いに行ってもらっていいっスかー!?」
「……え……おひるはわたしがやきそばつくるよて……ムグムグっ!?」
ワノはイバラの口を押さえつつ、ネロアへお駄賃を渡して、
「さっさ! 早く行ってくるっス! さもないとカップラーメンが売り切れるかもしれないっスよ!」
「はい! わかりました、行ってきます!」
こうしてネロアは家を出て、スーパーへ買い物に出かけた。
「……ワノねーさん。いくらなんでも理由づけが強引すぎませんか」
「黙れっス。ここはとにかくネロアを家から追い出せればそれでいいんス。
……あんな化け物が近くにいる状態でゲームしても、『本当は簡単にクリアできるんっスよねー』とか思い始めてストレスになるっスからね」
というわけで、ワノたちは三人で『END EDEN』を、ネロアが終わらせた後のところから交代交代でプレイし始める。
しかしそれからというもの、ゲーム内の騎士の冒険は粉微塵にも進まなかった。
理由はシンプル。難し過ぎて三人では攻略できないのだ。
「うわっ、こんなところに罠っスか!?」
ある時は悪意の塊めいた罠に殺され、
「……ひとりひとりくびをきる……あ、うしろにも……」
ある時は突拍子もない数の暴力に殺され、
「なんだこの暗すぎる洞窟は……え、あ、落ちて……た」
ある時は冒険の危険性を煮詰めたようなマップに殺され、三人は何度も何度も第一ボスを倒した地点にリスポーンした。
「……これゲームなの……ごうもんじゃないの……?」
「ゲームとして売られてるんだからゲームなのは確定事項っスよ……やってることは実質拷問っスけど」
「まさにそうですね。ただ、この時において一番辛いのは『まともに進まない』ことではなく……」
「『ネロアなら楽勝だったんだろうな』ってとこっスよね……あー、自分たちが不甲斐なさ過ぎて腹立つっス」
「俺も同感です」
ここでイバラは荷物の段ボール箱をガサゴソして、動物たちがいっぱい写ったファンシーなパッケージのソフトを取り出す。
「……わたし、こっちがやりたい……」
「そちらならイライラすることは無さそうですね。ワノねーさん、区切りがいいところでやめにしましょう」
「そうっスね。じゃあセーブするっス」
ワノは自ら崖へ突っ込みリスポーン地点へ戻り、そこでセーブしようとする。と、その時、
「ただいま」
ネロアが買い物から帰ってきた。
「あ、おお、おかえりっス、ネロア」
「ただいまですワノさん」
ネロアは買ってきたカップラーメン四つをテーブルに置きつつ、セーブ中のゲーム画面を見る。
「あれ? そこってさっき僕が進めてたセーブ地点ですよね? あれから進められていなかったのですか?」
「!? え、ええ……どうもこのゲームはアタイらには難しすぎたみたいっス」
「ネロアねーさんが買い物に行ってから、もう悲惨でしたよ。あそこの敵兵たちの野営地とか本当に対処が難しくて……」
ネロアは電気ポットのスイッチを入れて、
「え、そうなんですか? ちょっと僕にやらせてください!」
ワノとしては本当は早いところ別のゲームをやりたかったが、クリアできなかった故のモヤモヤを取りたいという気持ちもあったので、
「ええ、是非お願いしまっス」
ワノはネロアにコントローラーを手渡した。
「……おてほんプレイだ……」
ということでネロアは三人が苦戦したところを進める。やはりネロアの卓越したゲームの技量にはいかなるトラップも悪路も通じず、先ほど言及された敵兵の野営地前へ到着する。
「ここが俺たちじゃどうやっても突破できないんですよ。見えてる分でもそれなりの大人数なのに、いざ戦闘開始するとどこからともなく増援が来て……」
「そうですか、教えてくれてありがとうございますトツカさん。んー、となりますとさては……」
ネロアはあることを確かめるため、アイテムボックスのテキストや現在地の情報などを見る。
それからは野営地を離れ、さっきのセーブ地点に戻り、近くの崖際へ行く。
するとそこでムービーが発生し、味方NPCがいる隠れ里にワープする。
「やはりそうでしたか。はい、鍛冶屋さんと商人さんが使えるようになりました。これで冒険が楽になりま……」
「あ、あれ? ちょ待ってっス……さっきの野営地の攻略はどこいったんスか?」
「ああ、あれですか……あれは多分ゲーム後半で行くところだったので、ひとまず避けました。オープンワールドのゲームだとよくあるんですよ、簡単なエリアと難しいエリアが普通に行き来できてしまうことが。
あ、もしあそこを今すぐ攻略してほしいということであれば是非腕をふるって……」
「……ネロア、ちょっとアタイ、急に『たらこパスタパン』が食べたくなったんで、買いに行ってもらっていいっスか?」
「『たらこパスタパン』……ああ、あのここから三十分くらい歩いた先にしかないコンビニで売ってる、この前ピコリお姉さんがべた褒めしてたあの菓子パンですか。わかりました。行ってきます」
と、ネロアはワノの無茶振りを二つ返事で引き受け、また家を出ていった。
その後、ワノはホッと一息つき、自分のカップラーメンにお湯を注ぎ、
「……さて、みんな、これ食べ終わったらゲーム続けるっスよ」
「ワノねーさん。アンタまたネロアが疎ましくなって買い物に行かせましたね」
「……しかも……おひるたべるまえに……」
「ええそうっスよ。流石のアタイとて今度ばかりはネロアに悪いことをしたと思っているっス。
けどこれはやむを得ないこととも思ってるっス。
アタイは許せないんスよ。これが届いた途端一番喜んでたアタイが、このまま、まともにゲームを進められず、ネロアにおんぶにだっこされっぱなしになるのが!
見せてやりたいんスよ、アタイとてやれるってことをっス!」
「なるほど、流石ですねワノねーさん……単なる負けず嫌いを軽く聞き流すとカッコよく聞こえるように言うなんて」
「……けっきょくワガママだ……」
数分後。ワノたち三人はネロアより前に昼食を済ませ、『END EDEN』の攻略に取り掛かる。
今度はNPCの話をしっかり聞くなどし、ゲーム内の情報を把握し、装備などを整えた上で、恐らく開発者が想定しているだろう第二ボスを目指して進む。
相変わらず敵やマップの構成は凄まじいが、今度は比較的順調に進めている。『適切な難易度を選べた』ということ、それと『いよいよ慣れてきた』のが大きな理由だ。
そしてワノたち三人は、ついに第二ボスの元へと到達した。
このゲームの特性故に、案の定このボスはとてつもなく手強かった。
「……このゲームのなかでも……じゅうがあれば……」
「アタイも、このゲームの中でチャネルバットとウン千本の剣があれば」
「そんな都合いいものゲームに持ち込んだら元も子もなくなりますって」
と、いったボヤキを入れつつ、三人は戦闘開始、敗北、交代のループを繰り返す。
その中で三人はこのゲームの核心にあたる、ある部分を発見する。
「このボス。左で殴った後必ず右で殴って来てませんか?」
「……はなれると、ジャンプでふもうとしてくる」
「なるほど、このボス、攻撃のパターンがあるんスね!」
敵の行動や仕掛けのパターンを見切り、隙を伺い攻略する――死にゲーの基本原則を手繰り寄せた三人は、相変わらず敗北のループを繰り返すものの、徐々に与えるダメージ量を更新していく。
「ちぃっ、あと片手で数えられるくらいの攻撃ができれば……ワノねーさん、後はお願いします!」
「しゃあ、任せてくださいよっス! もう奴のパターンは第二形態含め粗方読み切ったっス! 後はもう、こちらの集中力と気合の問題っス!」
次こそは終わらせる、その意気込みを持ってワノはコントローラーを握り、ボスに挑む。
言い出しっぺとしての責任を背負い、打倒ネロアを強く望み、ワノはボスの攻撃を防ぎ、ボスにコツコツとダメージを積み立てそして……
「どぉらぁ、くらえぇぇぇ……っス!」
開始から約四十分後、なんでも無い普通の攻撃を与え、ついにボスを倒し、四人は思い切り喜んだ。
「……かった……ながかった……」
「一時はどうなるかと思いましたが、ここまで必死にやって終わらせると、達成感がものすごいですね」
「何だかんだ楽しかったっスね。今までの苦労が全部報われたような気がして気持ちいいっス」
「そうですか。おめでとうございます、ワノさん」
「えへへ、どういたしま……へ?」
ワノは直前に声がした場所、ダイニングテーブルの方へ目をやると、ネロアがカップラーメンを食べていた。
「ネロアっ!? お前もう帰ってたんスか!?」
ネロアはテーブルに置いた『たらこパスタパン』を軽く、ワノの方へ押して、
「はい。ワノさんを待たせないようにと全力で走って買いに行って来ました。一応『ただいま』は言ったつもりですが、みなさん熱中しすぎてて聞こえてませんでしたね」
「ああ、そうっスか。おつかいありがとうございまっス」
「どういたしまして。ところで……お三方、とっても楽しそうにプレイしていましたね? ようやくこのゲームの面白さをわかってくれたようで、僕も嬉しいです。
では、どうぞ続けてください。僕は三人の楽しみに水を差したくないので、ここで見守っていま……」
第二ボスに集中した分の疲労と、これから自分たちに襲いかかるだろう、ネロアが無意識に発してしまうプレッシャーにより、
「もういいっスよこんな難しいゲーム!」
「……もういい……つかれる……」
「もう十分です! 流石にこれ以上は身が持ちませんもの!」
三人はこのゲームが元来辛いものだということを思い出し、揃って感情を爆発させた。
【完】




