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第108話 末っ子魔王様、只今トツカとお出掛け中

 とある土曜日。トツカはソファに腰掛け、どうでもいい旅番組を眺めながら、麦チョコをつまんでいた。


「じ〜〜」


「ん? なんだか誰かに見つめられている気がするぞ……って具合じゃないって」


 トツカはキッチンの方へ行き、隠れてスマホを構えていたルシェヌを引きずり出す。


「わー! どうしてアタシがいるのがわかったのじゃー!?」


「ガッツリ気配がしていたり、ちょくちょくフラッシュ焚いてたり、謎に『じ〜〜』とか言ってたから」


「ぐぬぬ……流石が満月家に突如襲来した完璧超人、トツカなのじゃ」


「完璧でなくとも超人でなくとも気づいたってこれは。それでルシェヌ、一体何が楽しくて俺のこと盗撮してたんだ?」


「盗撮ではない! ある極秘研究のための情報収集なのじゃ!」


「なら実質盗撮だろ……それで、その極秘研究ってのは?」


「ふふふ、アタシの極秘研究――それは貴様のようなスタイル抜群美少女になるための研究なのじゃ!」


「極秘研究の割にはあっさり内容教えたな。へー、俺みたいなスタイルになりたいと……」


「何!? どうしてアタシの極秘研究の中身を知っているのじゃ!?」


 トツカはソファに座り込んで頭を抱えた。

 そして絞り出したような声で一言。

「俺はあんたのコントに付き合う暇はない……実際暇だけど……」


「はえ、コント?」


 それからトツカは暇つぶしに、ルシェヌに極秘研究の概要をベラベラ喋らせた。


*


 発端はつい先日。


 消灯時間までの間、チヨはこれから制作する予定の満月コーポレーションのCMの企画案を読んでいた。


 その中でチヨは、CMに起用候補のタレント一覧のページに目が止まる。

 最近メディアで引っ張りだこのタレントの似顔絵がズラリと載っていた。


「流石ロスイさん、羽振りがいいなぁ」


 そこへ、ルシェヌは書類とチヨの間に顔を出して、

「なーに見てるのじゃ?」


「わぁびくったー! ルシェヌー、普通に声かけてよ」


 ルシェヌは書類とチヨの間に現れるだけに生成した台を消滅させて、普通に横に立って改めて尋ねる。


「なーに見てるのじゃ?」


「ロスイさんの会社のCMに起用する予定のタレントさんの一覧だよ」


「ふーん、どいつもこいつも微妙な面構えじゃな。こんなの雇う必要あるのかえ?」


「そう見えるのはコンプラ対策の似顔絵だからだって。

 テレビとかでしっかり見ればみんなスタイル良くて素敵なの。そういう人たちをCMに雇うと画に華が添えられて出来がよくなるのよー」


「へー、そうなのじゃなー。

 スタイルの良い――つまり身長がスラーっとしてて肉付きがいい奴が良いのかえ?」


「そうそう。そういう人とお付き合いしたいの。あと会社のイメージを損なわない人」


*


「……ってお母さんが言ってたから、アタシもそうになりたくて、とりあえず手頃なスタイル抜群女の貴様を研究していたのじゃ!

 もしそれが実現すれば、きっとお母さんは今日こそアタシに胸キュンゾッコンなのじゃ!」


「母さんが言ってた『そういう人がお付き合いしたい』ってのは、契約上の……」


「ほう! 婚姻の契約の……」


「ビジネスの契約上の! お付き合いがしたいという話!

 だからルシェヌのスタイルが良ければアンタの願望が叶ってしまうとは限らないって」


「けどスタイルが良くて損することは無いのじゃ。実際貴様もそのおかげで母さんの彼氏と勘違いされたことがあるじゃろ」


「まぁ、それは言えてるな。だが、そういっても俺を研究してもそれは無理だぞ。俺は神の力を得たっていう成り行きからこうなったんだから」


「嘘こけ! 絶対神ごとき以外にも何か秘密があるんじゃろ!  例えば今貴様が食べてるその黒いのもなんかのサプリメントじゃろ!」


「違う。麦チョコ、普通の駄菓子だ。どっちかって言うと健康に良くない食べ物だ。

 とにかく、もう研究するな。俺はお前にずっとつきまとわれたくないのだからな!」


「な、なんだとー! だったら……」


 ルシェヌはリビングから廊下に出て、丁度そこにいたサバキに嘘泣きを交えて訴える。

「た、助けてなのじゃ〜! トツカお姉さんがアタシのお願いごとをまるっきり聞いてくれないのじゃ〜!」


「うわアイツ、こういう時に限って妹の権威を使いやがったな!」

 

 サバキを怒らせた後始末の大変さは満月家なら大体承知のこと。トツカはスイッチを入れられる前に急ぎ釈明をしようとする。だが……


「どういうお願いだ? またワガママを振ったんじゃないのか? 一応言っておくが、自分は小さいことでいちいち出動するほど暇じゃないからな」

 と、サバキは適当に応対し、ルシェヌから去った。

 ルシェヌの涙には大体しょうもない裏があるのも、満月家なら大体承知のことなのだ。


「ふぅ、サバキねーさんも流石にルシェヌには厳しいか……」


 ルシェヌはトイレから出てきたてのマジナに、嘘泣きを交えて訴える。

「た、助けてなのじゃ〜! トツカお姉さんがアタシのお願いごとをまるっきり聞いてくれないのじゃ〜!」


「それあと六回やるつもりかお前?」


「ざんねーん。お母さんはお仕事に、コーリンとピコリとネロアはショッピングモールに出かけてるから、正解は『あと三回するつもり』なーのじゃ」


「そんなのどうでもいいだろ」


「ええー! トツカー、君、せっかく新しく出来た可愛い妹の頼みも聞けないのかーい?」


「悪ノリしないでくださいよマジナねーさん」


*


 お昼過ぎ、暇になったトツカは外へ出かける。


「で、何故ついて来る」

 道中、トツカは自分を尾行するマジナとルシェヌへ振り返る。


 ルシェヌは気持ちがいいくらいの満面の笑みで答える。

「貴様のスタイルの良さの秘訣を調べるためじゃ!」


「こんなただの散歩を調べてもどうともならないと思うけど。して、隣の元々スタイル良いねーさんは何故について来るんだ?」


「面白そうだから」


「もう二人とも帰ってくれよ…」


 というわけで、観念したトツカは特に目的地もなく、二人を背に街中を歩く。


 最中、トツカは、多数の色のレンガを織り交ぜて舗装されている歩道を通る。


(都会にはこんな洒落た道があるのか。前いた異世界ですら一色のレンガ道だったのに)


 生まれてこの方田舎育ちのトツカは、この最初はオシャレだと思えるが通いなれるとどーでもよくなるレンガ道に軽く興奮する。

 そして、決めた一色のみ踏んで道を進む。特に理由はないが。


「おお、決めた一色のレンガだけ踏んで歩くとスタイルが良くなるのじゃな!」


「違う! そんなわけあるか!」

 と、トツカはルシェヌに激しくツッコむ。これも特に理由はないが。


 そんな彼女にマジナはニタニタ嘲笑って返す。

「へー、結構なお年頃なのにこんなお子ちゃまみたいな歩き方するんだねー、トツカ」


「違う! これは諸事情あるんです諸事情が! ……ああもう、せめてマジナねーさんだけでも帰ってください」


 それから、トツカは『道に落ちた小石を軽く蹴る』、『信号待ち中、車止めのポールを撫でる』、『ビル上の高位置にある看板広告を真面目に見る』……

 などなど、本当にどうでもいい所作をする度に、ルシェヌに『スタイル抜群の秘訣』と騒がれ、おまけにマジナに『田舎臭い』とイジられ続けたのだった。


「そこの貴方、私こういう事務所のもの……」


「だから興味ありませんって!」


 もちろん、恒例の芸能界スカウトも加わり、トツカはありえないぐらいのストレスを抱えることになった。


 そんな三重苦の茨(イバラ)の道を経て、トツカはストレスガン漬け&心身ボロボロの体でリサイクルショップに着く。


(ここなら立ち読みとか出来るし、二百円くらいでいい本買えるから、時間つぶしになるだろうな……けど)


 トツカは後ろでニタニタしているマジナとルシェヌへ振り向いて、予感する。


(そしたら絶対『こんな本読むんだー』とかイジってくるんだろうなぁ)


 なのでトツカはリサイクルショップに入れなかった。


「あ、ごめんトツカ。私、ここでお別れするよ。作りたいデッキの必須カード探したいからさ」


「じゃあ、家でまた」


 マジナがリサイクルショップに入ったことにより、降りかかる呪縛が半減したトツカはホッと一安心する。


(よかったー、リサイクルショップ来て良かったー……)


「またななのじゃー。じゃあ行くぞ、トツカ」


「半減止まり、か」


*


 再開された行き先のない散歩の中、トツカはふとルシェヌに聞く。


「ルシェヌ、仮に俺の行動からスタイルUPの秘訣が知れたとして、アンタはどうするつもりなんだ?」


「それを上手いこと織り込んだ魔法を使って、パパパーっと変身するのじゃ」


「結局魔法頼みかよ! ……アンタ自称魔王だろ。色々魔法覚えてるんだろ? だったらそういう身長伸ばす魔法とか覚えてないのか?」


「何を言う! アタシは魔王じゃぞ! 確かに色々魔法は覚えているが、それは全て攻撃魔法か嫌がらせ魔法のどちらかじゃ! 味方のパワーアップとかそんなみみっちい魔法はまるで知らんのじゃ!」


「あーそう、そういう意味でも魔王らしいのか。じゃあ俺頼みになっても仕方ないか。けどやっぱずっと付きまとわれるのウザいんで帰って貰えません?」

 と、トツカが頼み込むとルシェヌはわかりやすく駄々をこねる。


「嫌じゃ嫌じゃ! 身長もおっきくなりたいー! おっぱいもケツもおっきくなりたいー! そしてお母さんのハートをガッチリ掴みたいのじゃのじゃー!」


「……あのなぁルシェヌ。もし本気で母さんに好かれたいと思うなら、他に第一優先して改善すべきところがあるぞ」


 ルシェヌは駄々こねを急停止させ、トツカに目をキラキラさせて張り付いて、

「へ!? 何じゃ何じゃ!? どこを改善すればいいのじゃ!? 教えてくれなのじゃ!?」


「性格。その子供っぽくてワガママなところを直したら、母さん……いや、もっと他の人に好かれるんじゃないか」

 トツカのド直球な苦言を食らう。


「な、なんじゃあその嫌味は! アタシの性格のどこが悪いのじゃ! 全部言ってみよ!」


「わかりました。けど最低小一時間はかかると思うから、家に帰ってからでいい?」


「嫌じゃ嫌じゃ! 今言ってほしいし、長いのも嫌なのじゃ!」


「ええ……面倒だな……」


 そこへ百式高校(※満月姉妹が通っている高校)の制服を着た男女グループが、二人の方へやってくる。


「よっ、ルシェヌ、半日ぶり!」


「お、お前らか! 奇遇じゃな〜!」


 と、ルシェヌとグループは軽いノリを交わす。


「ルシェヌ。誰だこの人たちは」


「こいつらは学校での知り合いでな……」


 グループの内の一人の男子は無言でレシートをルシェヌへ渡し、それをルシェヌは両手の中でゴニョゴニョさせる。

 そして両手を開くと、そこには一輪の白い花があった。


「「「おお、やっぱすげー!」」」


「特にアタシのマジックが大好きなのじゃ」


「へー……ん!?」

 ここである点に気づいたトツカはルシェヌの耳に口を寄せ、小声で聞く。


「ルシェヌ、母さんに『異世界関係のものは周りにひけらかすな』と注意されたのを忘れたか?」


「お母さんの言いつけじゃぞ。忘れるものか。安心せい、これはマジックという建前じゃ、タネが魔法というだけだから問題ないのじゃ」


「それでもだいーぶ問題がなくないか……?」


 トツカが呆れて耳打ちをやめた途端、グループの人たちは彼女をチラチラ見つつ、ルシェヌに、

「ところでこのイケメンさんは誰?」

「もしかしてルシェヌの彼氏?」


「ああ、こいつはアタシの新しく出来た妹じゃ」


「違うって! ああ、この際なので自己紹介します。

 つい最近、諸事情ありましてルシェヌの姉に加わりました、満月トツカといいます。男装してるのは……これまた諸事情です」


「あ、どうも……この姉妹まだまだ増えるんだ?」

「え!? 女の子だったの? うわー、初見じゃ気づけなかった! カッコよ過ぎー!」

「そうなんだ! 学校はどうしてんの!?」


 それからトツカはルシェヌの囲いグループに数十分ぐらい質問攻めに会い、


「そんじゃあなー、トツカさーん」

「同じクラスになったら仲良くしよーねー!」


「ああ……はい……」

 それが終わる頃にはトツカは、質問の圧倒的物量と元陰キャ特有の軟弱対人耐性のせいで、先程のマジルシェ尾行時よりもボロボロのボロとなってしまった。


「トツカは人気者じゃの。やっぱりスタイルが良くて損はないんじゃなー!」


「はいはい、そうだなそうだな……あと、ごめんなルシェヌ。せっかくのお前の友達を横取りしたみたいになって……」


「え? そんなのどうだっていいのじゃ」


「そうなのか」


 ルシェヌは案外寛大なんだな。と、トツカはここに来て初めてルシェヌに感心した。しかし……


「だってアイツらは単にアタシに寄ってきただけの連中だからの。アタシはお母さんさえいてくれればそれでいいのじ……」


 トツカその感心を撤回し、ルシェヌのほっぺたを叩く。


「……いっだぁ! 痛いのじゃあトツカ!」


「……なら、【慈愛の世戒】」


 トツカは地面をコンと叩き、【慈愛の世戒】を展開。

 毎秒傷や痛みが癒える状態となったルシェヌへ、トツカは再度平手打ちを浴びせる。


「痛く……なぁい。けどこれはこれで気分が悪いのじゃあ! というか、何故急に叩いたのじゃ!」


「ごめんな急に叩いて。けど、こうでもしなきゃアンタはわからないだろうなと思ったんだ。

 ――ルシェヌ、自分を好いてくれる人をそんなふうに無下にするな!」

 と、トツカは真剣に、自分が異世界にいた時の経験を踏まえて説教する。


 高校一年生の序盤、異世界『カンナギイヤサカ』にいたトツカは担任とクラスメートと共に現代的な『表世界』から剣と魔法のファンタジーの『裏世界』へと転移した。


 直後、転移の張本人である裏世界の住民は状況が飲み込めない三十七人へ、単刀直入に告げる。


『君たちには世界を救える力がある。どうか世界を滅ぼさんとする邪神を倒してほしい』


 そして元の世界に帰るには邪神を倒さなければならないと悟った三十七人は邪神を倒すための戦いに身を投じた。


 しかしこの戦いは壮絶以外の何物でもなかった。

 次々と襲いかかる邪神の手先、裏世界の情勢、そして何よりも『クラスメート同士の不和』によって、ものの一ヶ月程度でクラスメートの半分が命を落としてしまった。


 それを間近で見ていたからこそ、トツカはこのようにルシェヌに厳しく当たったのだ。


「これまでの悪行が祟って雑に始末された奴もいた。信じられる奴がいなくなってそのまま永遠に孤立した奴もいた……アンタはそんな惨めな目にあいたいのか?」


「いやいや、何を言うとる。アタシは魔王じゃぞ! そもそもそんな惨めな目にあうわけない……とは言い切れないのじゃ」


 今思い返せば、自分も異世界から戻ってくる前――勇者たちに追い詰められた時、自分は一人ぼっちになっていた。

 だからルシェヌは普段強気な彼女らしくなく、しょんぼりとして、


「アタシも、そんな惨めな目にはあいたくないのじゃ……ごめんなさいなのじゃ、トツカ」


「わかればいいんだルシェヌ」


 ルシェヌは案外道徳あるんだな。と、トツカは今度こそルシェヌに感心した。


 その時、先程のルシェヌの知り合いたちが拍手しながら戻ってくる。


 さては異世界関係の話を聞かれたのではと思い、トツカはドキッとする。

 

「!? え、みなさんいたんですか!? まさか今までの聞いてましたか!?」


「はい、聞いてました」

「ちょっと遠くにいたんで具体的な内容は分かんなかったけど」

「友達を大切にしろっていう感じの話してましたよね!? 滅茶苦茶カッコよかったです!」


「ああ、そうですか……ありがとうございます」


 それからトツカはルシェヌの囲いグループによるベタ褒めをくらい、

「そんじゃあなー、トツカさーん」

「同じクラスになったら仲良くしよーねー!」


「ああ、はい……」

 残された心身スタミナをごっそりと削り取られたのだった。


 その様子を見て、ルシェヌは元気ハツラツに言う。

「なるほど! これがさっき性格を良くしろと言ったことの真意じゃな!」


「随分と話さかのぼったな。まぁ、そういうことだ……ってことにしておこう……俺はもう疲れたから帰るぞ」


「じゃあアタシも帰るのじゃ。せっかくだから最後までついていくぞい!」


 こうして、トツカとルシェヌの目的迷子な散歩はやんわり微笑ましく終わったのだった。


 帰宅後。

 

「マジナ、くらえなのじゃ!」


 先程トツカの行動を散々イジっていたマジナを反省させるため、ルシェヌはマジナの背を狙って火球をぶっ放し、


「おっとっ! ちょっとルシェヌ、急に後ろから魔法ぶっぱなさないでくれよ!」


 マジナは訳がわからないながらも背後に橙竜『Bhmthon(バハムート)』を召喚し防御した。


「こら防ぐな! しっかりこれを食らって反省するのじゃ! そしてアタシが性格良くなるための糧になるのじゃ」


 そこへトツカが間に入る。

「こらこらルシェヌ、さっきは自分がやったクセに言うのも何だが、人を反省させるのに暴力は伴わせるなって」


「え、これが性格いい人がすることじゃないのかえ?」


「……やっぱり小一時間話してやろうか」


 トツカは、ルシェヌの斜め上の反省に、とことん頭を抱えるのだった。


【完】

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