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第107話 儲けられればどうでもいいと思うよ。 ――ワノの荒稼ぎ・同人誌編――

 九月下旬のある日曜日。満月家にて。


「いくら金が欲しいとはいえ、やっていいことと悪いことの区別も付けられないのか貴様ァ!」


「ひぃぃぃ、ごめんなさいっス! ごめんなさいっス!」


 怒髪天を衝くサバキへ、ワノはただひたすら頭を床に擦り付け、誠意いっぱいに謝罪していた。


 お風呂から出てきて早々、これに出くわしたネロアは、たまたま近くにいたユノスに問いかける。


「何があったんですかこれは……?」


 ユノスはワノが現在に至るまでの経緯を語る……


*


 話はさかのぼること一週間前。


「あーお金欲しいっスー」


 ソファで横になり、微塵にも興味がないお昼の旅番組を眺めながら、ワノはそうつぶやく。


 そのソファの脇に体育座りし、スマホをいじっているピコリは言う、

「ワノ、ジャスト五分毎にそれ言うのやめてくれない? そろそろウザい通り越して怖いんだけど」

 

 ワノはこの注意をガン無視し、ソファから起きあがり、


「そうだ、ユノ姐使ってお金稼ぎしよっス」


「話の導入急過ぎない? さっきの『インターバルお金欲しい』の怖さ凌駕しちゃってるよこれ」


 決断したらすぐ実行。ワノは二階の六人姉妹の部屋に上がっていく。

 ついでに、ただならぬ予感がしたピコリはワノについていく。


 ユノスが家にいるとき、やることは大体三パターン。

 一、掃除洗濯などの家事雑用をする。

 二、インスパイアのための映画鑑賞。


 そして今、ユノスがしているのは『三、漫画執筆』だ。


「おーっス、ユノ姐! 漫画描き描きはかどってるっスかー?」

 と、若干のウザ味が含まれるワノの問いかけに対し、


「普通だよ」

 ユノスは机に向きっぱなしで、Mutterで上げてる漫画を描きながら、そっけなく応じた。


「作業の段取りは普通スか。んじゃあ反応とかはどうすか?

 マジ姐から聞いたところによると、一応ラノベのコミカライズ二作と挿絵担当の経験があるんスよね? ならそれなりにファンが多かったりするんですよね?」


「反応は下の上くらいだよ。

 そもそもボクにファンはあまりいないよ。

 コミカライズは連載前に中止になったり(※第53話参照)、売れ行き悪くて一巻で打ち切りされたり(※第66話参照)したもん。

 挿絵担当もそのラノベが一巻で打ち切りになったから(※第81話参照)、ボクの絵師としての実績は皆無だよ」


「そうなんスか、出版社とお話しできている時点でだいぶすごめかと思うっスけどね。

 ユノ姐、今回は一つ頼みがございまして……」


「だから話の導入が急すぎるって!」


「ピコリお姉ちゃんもツッコミのボリュームが大きすぎだよ」


 閑話休題。ワノはユノスへ自身の金稼ぎプランをプレゼンする。


「結論から言うと、ユノスさんには同人誌を描いてほしいんス」


「……どうして?」


 ユノスの質問に、ワノはド直球ストレートで答える。

 

「お小遣いが欲しいからっス」


 もっと遠回しに言ってよ――この台詞がピコリの首辺りまで到達していた。

 しかし、この台詞はそこで引っ込む。

 何故ならワノの金稼ぎに対する姿勢と智謀は、そんな稚拙なツッコミをまかり通らせるようなヤワなものではないからだ。


「ユノ姐にもメリットはアリアリっスよ。

 同人誌はきちんと人気のある作品を取り扱えば、注目度が半端じゃないっスから、オリジナルの作品を描いているよりも絵師としての知名度UPが見込めるっス。

 そんでもって、昨今のイラストレーターや漫画家は、同人誌での活躍を買われて企業とお付き合いすることが多いスから、今度こそまともな仕事に繋げられる可能性が高いんス。

 アタイにはお金、ユノスさんにはまともな企業とのコネクションを持つことが出来るというメリットが生まれるっス。どうスか? アタイと手を組まないっスか!?

 あ、もちろんその同人誌で得た収入そのものも、二人で分けまっスよ!」


 このいかにも守銭奴らしい長話を聞き終えて、ユノスは一言。


「まず、同人誌ってなに?」


「え、漫画家のくせに同人誌知らないんスか!?」


「画竜点睛大欠けしてる!?」


 ここで一つ解説を入れるとしよう。

 同人誌とは、原義としては、同じ趣味を持った人が自分で編集、執筆、そして出版を行い作成された本のことである。

 しかし昨今はアニメ・ゲームなどの既存作品の二次創作の本のことをよく指す。

 さらに言うと二次創作は二次創作でもエロに走ったもののことをよく指している。


「……つーわけっス。あ、もちろんユノスにはエロはやらせないっスよ。十五歳のユノスがそれ描くと法に触れるスから」


「そうなんだ。けどボク、いつもお世話になってる出版社に申し訳ないかも……」


「んなもん裏名使ってしれっとやれば大丈夫っス。ダメ出版社の戯言なんか犬に食わせとけばいいんスよ。

 ガチの出版社からいい仕事貰いたいんスよね? じゃあ同人誌描くべきっスよ。アタイと手を組むべきっスよ」


「ユノスがお付き合いしてる出版社って、『境迅社』だったよね? あそこも結構ガチの出版社だった気がするけど……ワノ、あそこけなしすぎじゃない?」


 ピコリの台詞はさておいて、ユノスはしばらく考えた後、

「うん。じゃあわかった。ちょっとだけ試しにやってみるね」

 首を縦に振ってくれた。


「あざます! よくできた子っスね〜、ユノ姐!」


「本当にいい子だねユノス……ワノのことだから絶対ろくでもない目に会うだろうってのに」


*


 今日、電子書籍の配信サービスは充実しており、同人誌を比較的簡単にネット販売できる。


「やっぱここはいい世界っスねー、アタイの異世界の室内娯楽と言えば読書かアナログゲームくらいしかなかったっスから」


「ねぇワノ、アカウントに登録するメールアドレスはどうする?」


「無難にユノスのメアドでいいんじゃないスか? 他人に見られるとかじゃないんスし」


 まずワノは、とある二次創作物配信サービスのアカウントをユノスに作らせる。


「それで、これからボクはどの作品の同人誌を描けばいいの?」


「んーっとそうっスね。ピコ姐、Mutter見るんで一瞬スマホ貸してくれないスか?」


「あ、どうぞ」


 ピコリから貸してもらったスマホで、ワノはMutterのトレンドワードをチェックし、

「へー、今、『景神』ってオンラインゲームが流行ってるんスね。

 よし、じゃあ『景神』の二次漫画描くっスか!」


「うんわかった」

 と、ユノスはワノの司令をすんなり受ける。


「ちょ、ちょい待ってー!」

 そこへ何かを感じたピコリが止めに入る。


「何を待ってほしいんスかピコ姐? あ、追加でお願いなんスけど、今からブラウザで『景神 人気キャラ』って検索してもいいスか!?」


「それも待って! そういう同人活動は『同人ゴロ』扱いされるから良くないってご存知ないの!」


「同人ゴロ? ピコリおねえちゃん、それどういう意味?」


「野球好きなんスかピコリ姉さん?」


「ボール転がることじゃないよ! えーっと、同人ゴロってのは……」


 ここで一つ解説を入れるとしよう。


 同人ゴロとは、同人活動においてよくない方法を用い、利益を得た実行犯への蔑称である。


 大流行している作品・キャラクターの二次作品を、さして興味関心も無く作っては利益を得る。

 また別の流行が来れば、以前の作品とはスッパリ関わりを切り、そちらの二次作品を興味関心なく作る。

 などなど……コンテンツへの愛情を込めて行われるのが基本である二次創作活動において、特に、そのような愛のカケラもない下劣な製作者への蔑称として使われている。


「いいタイミングで解説が来てよかったー。てなわけで、今ワノがしようとしてるのは同人ゴロのソレなの! そんなことしても周りから嫌われ……」


 ピコリの手にスマホが返されていたことに気づいた時、ワノはユノスのタブレットを一緒に使い、百科事典サイトを見ていた。


「うっス、キャラ設定調べ完了っス! じゃあ早速描いてみるっスか」


「うん。わかった」


「ワノ、それは非道徳的にもほどがあるでしょ、それは!」


 ワノはユノスに優しくタブレットを返した後、鬼の形相でピコリへ振り返り、


「うるさいじょピコ姐ッ!

 こちとら金が欲しいんだじょぉ! ありったけの富・名声・力を異世界に置き去りにしてきた分、こちらでもガツガツお金使って豪遊したいんだじょぉ!

 愛だの情だのかんだの都合の良いことしか言わずに正義ズラするへらこい野郎どもなんか知らん! 悔しかったら一生商業作品愛でてればいいんだじょお!」


「……も、もうダメだ……この人手に負えない……」

 ピコリはすっかりワノのドス黒い金銭欲に気圧されて、とぼとぼと部屋を去った。


*


 翌日。 


「出来たよ」


 ユノスは十ページの『景神』二次漫画を完成させた。


「え、もう出来たんスか? アタイ、『漫画家は一ページ描くのに一日かかる』って聞いたことあるっスのに?」


「そんなに遅いんだ。ボクは前いた世界だと『一日最低六ページは描けない漫画家は死刑』って法律で定められてたよ」


「なんちゅうブラックディストピア異世界スかそれ。アタイの世界の奴隷クラスの待遇じゃないスか」


 無駄話はさておいて。この後二人はサイトでの配信の手続きを進める。


「販売価格は、普通の単行本は約二百ページで五百円前後。ボクのこれは十ページで、全ページカラーだからちょっと多めに見積もって……五十円くらいでいいかな?」


「ユノ姐、そんな安くちゃダメっス。それはもはや無料配布っスよ。ここはもうちょい強気に千円にしようっス」


「それはやりすぎだよ。ワイド版単行本一冊分のお値段の漫画なんて、誰も買ってくれないよ」


「え、そうスか。じゃあ九百円」


「それもほぼ千円と変わりないよ。十ページの本に払うには大きすぎるもん。

 じゃあボク、欲張って百円くらいにしてあげるよ」


「それもダメ、アタイらボランティアしてるんじゃないんスよ? ページ少なくても面白さはたっぷりあるんスから、せめて八百ぐらいはしないと……」


 数分後。


「おーい二人さん、イバラねーさんがクッキー焼いてくれましたから食べましょ……」


「じゃあ、百六十円」

「いーや、七百九十円!」


 二階へクッキーを持ってきたトツカは、同人誌の値段決めで言い争う二人を目撃する。


「なにフリマアプリの値引き交渉みたいなことしてるんですか」


 これまた数分後。ちょうど二人がクッキーを食べ終わった時。


「じゃあしゃあないっス今回は特別に三百円で我慢してやるっス。ただし、次回作からは三百五十円以上は確実にさせて貰いますっス!」


「うん、いいよ。けどこれが値段のせいで売れなかったらワノの責任にするからね」


 こうして、作者ユノス・編集ワノの同人誌が配信されたのだった。


*


 さらに六日後。


 ピコリはふとユノスに尋ねる。

「あの同人誌の件って、今どうなってるの?」


「六日前に配信して、それで今ぼちぼち売れてるよ」


「へー、売れてるには売れてるんだ。けど『ぼちぼち』ってことは利益は……」


「ドーナツ二個買えるくらいだよ。これをワノとボクで八対二で分ける予定だよ」


「ワノらしいクリエイター軽視がひどすぎる配分だなぁ……」


 と、この時、ユノスのスマホからメールの着信音が鳴り、ユノスは即メールボックスをチェックする。


「あ、春祭さんからだ」


「春祭さん……ああ、あの計三回(※さっきこんな感じで参照してた計三話)お世話になった『境迅社』の編集さんか。その人が何て?」


「あの同人誌の配信をやめて欲しい……」


「!?」


*


「古本屋の適当な本を一冊買えるぐらいの稼ぎっスか……いくらユノスの漫画とは言えそう楽に稼げないもんなんスねー。

 なら数撃ちゃ当たる作戦でいくっスか。もっと人気のある作品とキャラクター探しまくって、同人誌描かせまくればいいっスか」


 と、独り言をゴチャゴチャつぶやきながらワノは階段を登り、ユノスがいる部屋へ入る。


「おーい、ユノ……」


「「しーっ……!」」

 と、ピコリと執事服を着た女性――普段はベレー帽の中にいる、ユノスの相棒の電子生命体、アザレア――はビデオ通話中のユノスを指しながら注意する。ワノは小声で「ごめんっス」と謝り、静かになる。


(一体どんな話をしてるんスか……さては出版社からのお呼びっスか?)

 ワノは期待を膨らませ、ユノスの話を盗み聞きする。


「それでは春祭さん、今日はどんな要件ですか」


『はい。当社で『景神』の公式アンソロジーコミックを発売することになりまして、ユノスさんが以前配信された同人誌をこちらにそのまま収録したいという……』


「えっ!? おいこら待てぇーっス!」


「「しーいっ!」です!」


 ピコリとアザレアがワノを全力で黙らせている間、ユノスは商談を続ける。


『……その同人誌をアンソロジーコミックに収録したいという話です。

 なのでネットで配布している同人誌は販売停止していただきたいのですが、収録含めて大丈夫ですか?』


「はい、大丈夫です。加筆修正もやります」


『ありがとうございます。では細かい話はまた後日、よろしくお願いします』


「こちらこそ、よろしくお願いします。それと、勝手に同人活動してしまい、申し訳ございません」


『いえいえ、あまり気に留めなくて大丈夫です。ここ最近は、私の会社所属の作家さんも、同人誌で商業誌の補完をしてる方が結構いますし。

 それに、アンソロジーコミック制作のため、この界隈の二次創作の作家を探していたからこそ、またユノスさんにお仕事を頼めましたから』


「ありがとうございます。ですが以後気をつけます」


 そしてユノスは春祭さんとの会議を終え、椅子を百八十度回して、


「はい終わったよ。話していいよ」


 ピコリとアザレアはワノを放し、ワノは今まで溜まっていた鬱積を話す。


「……ユノス、今のは何の商談っスか?」


「境迅社っていうボクがお世話になってる会社の、春祭パンナ編集さんとのお話だよ。

 あの同人誌を公式アンソロジーコミックに載せないか? って」


「はは、なんだそんな話スか。ならよかったっスね! ちゃんとした出版社から出た本なら、売れる冊数もデカくなるっスからね!」


 この先にある大マージンを想い、ワノは目をギンギラ輝かせる。

(この前境迅社のことディスってたクセに……)

 隣にいるピコリはこれをいかにもワノらしいと思う。


 一方、もう隣にいるアザレアは、

「『あ、もちろんその同人誌で得た収入そのものも、二人で分けまっスよ!』」

 と、四日前に録音したワノの台詞を口から流す。


「ん? 何故その音声を今流すんスか?」


「ワノ様、貴方今、不当な利益を得ようと思っていませんでしたか?

 貴方に分配されるのは先の通り、その『同人誌』で得た収入なのですのに」


「アンソロジーコミックスは『商業誌』だから、報酬を受け取るのはボクだけだよ」


「……は、はあああああ!? 何だじょその急な屁理屈はあああッ!?」


 突然消えそうになる大マージンのために絶叫するワノへ、ユノスは姉として、一作家として彼女を冷静に諭す。


「そもそも、あの台詞が無くともワノには一円も与えられないよ。

 だって漫画を作るのは出版社と編集と作家。同人誌の頃は編集の立ち位置だったけど、今のワノはそのどれにも当てはまらなくなったもん」


 アザレアはユノスの隣に移り、

「これこそ屁理屈に聞こえてしまうでしょうが、私からも一言言わせていただきます。

 この漫画はマスターが表立って描いたものですのに、貴方が八割の報酬を受ける権利はございませんよね?」


「アザレア、それは言い過ぎだよ。

 ……けど、今回の案件を勝ち取れたのはワノが話を持ちかけてくれたのがきっかけだってことは忘れないよ。だから、せめて二割ぐらいはボクから分けてあげる」


 と、ユノスは優しさを持って歩み寄りを見せる。

 これに対してワノは、チャネルバットを一体召喚し、そこから出た棒を掴み、


「嫌だじょ、従来通り八割よこすんだじょぉ!」

 巨大な刃付きローラーめいた、物騒な武器を引き抜く。


 今回三度目、ここで一つ解説を入れるとしよう。

 

 以前、異世界で好き勝手する転生者を懲らしめる集団『イルミネーターズ』だったワノは、戦闘用にチャネルバットの異空間に武器を格納している。

 ここにあるのは、物量押しで射出する用のどうでもいい質の武具と、ここぞという時に使う計二十二個の宝具。

 

 今取り出したものは後者――派遣された異世界の『オールラック』で拾った宝具。


 異世界『オールラック』は、住民全てが『幸素』という幸せを引き寄せる霊素を体内に持つ。

 この宝具は、そこへの転生者が住民から幸素をえぐり取るために開発してしまった宝具……


「名ァ付けて! 『フォーチュンごっそりとり車輪』っス!」


「本来の使い方とは裏腹にお掃除グッズみたいな名前になってない!?」


 当然ながらワノはピコリのツッコミに構わず、ワノは車輪をギュリンギュリン鳴らして回し、ユノスに突きつける。


「この痛々しい見た目の通り、普通にぶつけても痛いっスよこれ〜!

 さあ、ライフイズマネーっスよ、ユノ姐!

 今からすぐに割合を『八』に戻せば痛いことはしないっス!

 けれども答えに渋るかNOと言ったら……『二』もろとも奪うっス!」


「……鬼だね、ワノ」


「鬼……いや、アタイはその上を行く、吸血鬼っス!」


「吸血鬼って鬼の上位……なの?」


「今更なこと言うっスな、ピコ姐! 吸血鬼は鬼より二文字多いっスから上に決まって……」

 と、ワノがピコリのツッコミを拾ってしまった隙に、アザレアは人間体から虫の怪人態に変身。


 コンマ三秒後にワノの武器を蹴り上げて手放させ、コンマ三秒後にそれを部屋を傷つけないようにキャッチし、コンマ三秒後に空いたドアめがけて蹴り飛ばす。


 そしてワノは部屋の外で、サバキにキャッチされた。

「……上で何やらギュリンギュリンと不吉な音がしたと思えば、何やってるんだワノッ!」


「あ、これは……あのお掃除グッズの実演を……」


「これは大阪でマジナ相手に使っていた武器だろうが(※第94話参照)! 貴様、とりあえず下で話をしようか……」


 終いにはサバキに現行犯逮捕され、厳しい取り調べからの説教を受ける羽目になった。


「あんだけ長い解説挟んだのに、秒でやられたよあの吸血鬼……」


*


「というわけなの」


「そうですか、それはお気の毒に……」


 ネロアの同情に、ピコリは一言。

「お気の毒要素どこにあるのよ」


「うう、アタイのマージンが……アタイのマージンが」


「とにかく、この事件は母さんにも報告する。そして厳粛かつ相応な罰を受けてもらうからな……」


「う〜、ううう、あんまりだ……あァァァんまりだァァアァ!」


 と、ワノは泣きじゃくり、感情爆発の衝撃により家から出ていってしまった。


「ああ、待ってくださいワノさん!」

 それをネロアは、この場においては全くして不適切な優しさで追いかけていった。


「……今の泣き方、吸血鬼を食糧にしてる人のだったね」


 数分後。夕暮れの河川敷にて。


 随分な号泣と秋風に晒されたおかげですっかりクールダウンしたワノは、

「……今日のアタイは一体どこで間違えてたんスかね?」


 そう問いかけられ、彼女の隣で芝に座るネロアは答える。

「漫画などのクリエイターの気持ちを蔑ろにしたからではないでしょうか?」


「やっぱそうなるっスかね……はぁ、前の世界で製品開発にも携わってたから、ものづくりの気持ちは十分わかってたつもりなんスけどねぇ」


「……スーパーなどで売られている製品は、『芸術性』とか『作者の思い』よりも、『便利さ』が問われますからね。今日は残念ながら、その違いが結果に大きく響いたのでしょう」


「ははは、なら今回はアタイが至らなかったってことっスね。ありがとうっス、ネロア」

 と、反省とネロアへの感謝を済ませたところで、ワノは芝生から立ち上がる。


「もう落ち着きましたか、ワノさん」


「あったりまえっスよ。アタイは失った金にいつまでもクヨクヨしないっス。さっさと帰って、次の金策を考えるっス」


「そうですか……その諦めない姿勢、流石はワノさんです!」


 こうして、明日に昇るために今は沈んでいく夕日を背に、ワノはネロアと帰っていった。

 ワノの大金への夢は、まだ続く……


「ワノ! いくらお金が欲しいからってユノスに殺殺(コロコロ)ローラー向けるのは危ないでしょ!」

「母さんの言うとおりだ! とくと肝に銘じろこの守銭奴が!」


「ご、ごめんなさいっス〜!」


 それと説教もまだまだ続く……


【完】

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